安保法制:「他国軍支援は戦争加担」元在沖米軍基地従業員
毎日新聞 2015年05月11日 22時28分(最終更新 05月11日 23時12分)
◇戦場はすぐそこにあった…半世紀後の悔恨
自民、公明両党が新たな安全保障法制を整える法案に合意した。自衛隊が米軍との一体化を強め、海外展開の範囲が広がることで日本はどう変わるのか。「とんでもないことが起こりかねない」。1960〜70年代のベトナム戦争当時、沖縄の米軍基地で働いていた日本人男性は不安げな表情で言った。【佐藤敬一】
今も全国の在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄。本島中部の沖縄市に住む水島満久さん(67)は、高校を出て浦添市の米軍牧港補給地区(キャンプ・キンザー)で溶接工として働き始めた。沖縄は当時まだ米国統治下にあった。ベトナム戦争の真っ最中で、戦場で壊れ送り返されてくる米軍用車両の修理が仕事だった。
次から次に車両が運ばれてくる。車体や窓ガラスに機銃弾を受け穴が開いたトラック。地雷を踏んで大破した装甲車。シートに大量の血痕のついた車両もあり、「乗っていた米兵は殺されたな」とすぐに分かる。はるか海の向こうの戦場を、すぐそばにあると感じていたという。
「沖縄はいつ攻撃されてもおかしくない」と先輩の修理工に言われた。キンザーには戦争に必要な物資が全て集まる。敵の攻撃対象となりかねないことは容易に想像がついた。「自衛隊と米軍が一体化すれば、米軍基地の集中する沖縄が真っ先に狙われる。フェンス1枚隔てた住民の暮らしも無事では済まない」と水島さんは言う。
一方で「僕らが修理した車両を使って現地で戦争が行われ、ベトナムの人を傷つけていた」と語り、間接的に戦争に参加したという苦い思いは消えない。
新しい安保法制により、自衛隊は世界中で他国軍の支援が可能となる。国民的な議論を経ずに結論を急ぐ政府与党の手法は、「国民を納得させる自信がないから数の力で押し切ろうとしている」と映る。「法制整備は戦争への加担そのもの。自衛隊員は戦場にはめ込まれ、国民にも罪の意識が生まれる」。一つ間違えば加害者の側に回りかねない危うさを感じながら、水島さんは安保法制の議論の行方を見守っている。