にっぽん紀行「“人生の制服”届けます〜服の街 岐阜から〜」 2015.05.03


こんばんは。
岸部一徳です。
私は今岐阜駅前にある服の問屋街に来ています。
かつては1,500軒の店があり日本有数の繊維問屋街といわれた通りですがシャッターも目立つようになりました。
それでも服作りの技術を生かして道を切り開こうとする人が今もたくさんいらっしゃるんです。
こちらの工房もその一つです。
ここには全国から注文が入ってくるそうです。
ああ服はこういうところで作られているんですね。
これが出来上がった服です。
あれ?小さい?これじゃ着られないですね。
なぜ人々はこの小さい服を注文するのでしょうか。
私たちが本当に3年間着てきた思い出に残っている制服であります。
制服や!すご〜い!ありがとう。
高いビルの麓に背の低い古い建物が並んでいます。
服の町岐阜を象徴する通りです。
年に4回季節ごとに開かれる「せんい祭」。
久しぶり。
元気?誰でも問屋の価格で服を買えるためこの日ばかりはにぎわいが戻ります。
岐阜産にこだわったブラウス屋さん。
カラオケ愛好家が詰めかけるこんな店も。
よく売れます。
小さいけれどきらりと光る店が生き続けています。
町の片隅にあるこの店もその一つ。
ちょっとさ絵型…。
林克己さんと妻の真寿美さんです。
夫婦2人で小さな服を作る工房を営んでいます。
2人は全国から届く服を3分の1のサイズに仕立て直しています。
その数は年間700着に上ります。
以前は婦人服を仕立てる会社を経営していた林さん。
仕事が減る中で15年前に始めたのが学校の制服のミニチュア作りでした。
有名校の制服を記念に飾りたいと考える人が大勢いると見込んだのです。
ところが次第に林さんのもとには大人が着る普段着や作業着なども届くようになりました。
例えば新婚旅行で夫が着た服を思い出に残したいという妻からの依頼。
この看護学校の実習服は50代の看護師から。
初心を忘れないように手元に置きたいというものでした。
この日も新たな服が届きました。
結構古そうだし…。
うん古いのあるよ本当に。
だってこの細いウエスト。
細いじゃん!婦人物みたいな…。
男性用の古びた細身のジャケットとズボンでした。
滋賀県の保育園で園長を務める児玉恵子さん61歳です。
あの細身のジャケットを注文しました。
(犬の鳴き声)はいただいま〜。
恵子さんは今この家で一人で暮らしています。
ええもん頂きました。
夫の好弘さんです。
小学校の教師を務めていましたが2年前59歳で亡くなりました。
幼い頃から病弱だった好弘さん。
結婚後持病が悪化し人工透析に通うようになりました。
それでも好弘さんは障害がある子どもたちの教育に情熱を注ぎました。
丈夫とはいえない体で特別支援学級の担任などを20年間続けました。
夫としても仕事の同志としても尊敬できるパートナーでした。
好弘さんが亡くなって2年。
恵子さんは好弘さんの服を処分できずにいました。
(恵子)捨てられないんですよ。
どこかで区切りをつけたいと考えた恵子さんは好弘さんが最も気に入っていたジャケットをミニチュアにしてもらう事にしたのです。
こういうふうだから…。
ジャケットの制作が始まっていました。
小さな服は全て元の服の生地で作ります。
着ていた時の手触りをそのまま残すためです。
腕や襟ポケットなど細かいパーツも忠実に再現していきます。
こんちは。
どうぞ。
お願いしま〜す。
出来たパーツはこの家に持ち込みます。
タックなし?パンツねタックなし。
ここに暮らすのは…ミシン縫いの専門家で60年間この道を究めてきました。
パーツを巧みに縫い合わせる事で服の立体感を生み出してくれます。
縫い子さんから上がってきたジャケット。
これを細く見えるように仕上げていきます。
向かったのはすぐ裏に住む穴カガリさん…?どんな生地でもその服に合ったボタンの穴を開けてくれます。
林さん穴の位置を5ミリだけ内側に入れてほしいと注文しました。
児玉恵子さんのお宅でしょうか?
(恵子)はい。
児玉さんのもとに完成したジャケットが届きました。
お帰り。
よう似合うてるわ。
脚のスラ〜ッとしたとこそのまま。
はいて立ってるみたいやね。
ありがとうな。
新たな一歩へ背中を押してくれる夫の小さなジャケットです。
これは喜ばれる。
喜んでくれればいいんだけども。
間違いないほら。
何か見えるもんねこう頭が入ってるのが。
アハハハ。
いやいや本当よ。
ずっと言えなかった自分の気持ちを伝えるために小さな服を注文した人がいます。
岡山市に暮らすまみさんです。
(取材者)開けないんですか?注文したのは娘あやさんの高校時代の制服です。
あやさんがこの高校の制服を着るようになるまで親子には忘れられない出来事がありました。
ちっちゃい時は結構男の子みたいな感じで活発な…。
小さい頃から明るく頑張り屋さんだったあやさん。
中学受験にも挑戦し第1希望だった中高一貫の進学校に合格しました。
しかし程なくあやさんは友達との関係に悩み学校に行きたくないと言い始めました。
それでも母まみさんはせっかく入った学校だからと励まし登校させ続けました。
やがてあやさんは体調を崩しまみさんは初めて事の深刻さに気付きました。
結局あやさんは別の高校に入り直し少しずつ元気を取り戻していきました。
娘の苦しみに気付けなかった事を謝りたいと思いながらまみさんはそれができずにいたのです。
娘が二十歳になった今年あのころは言えなかった気持ちを小さな制服に託し届けようと考えました。
久しぶり。
お帰り。
ただいま。
今は大阪の大学に通うあやさんです。
同じ大阪に赴任中の父親と一緒に暮らしています。
うわ〜すごい。
制服や。
すごい。
え〜。
(まみ)すごいやん。
すごいなあ。
着てみる?
(あや)破れてまうって。
(まみ)着れんよね。
(あや)すごい。
何でお母さん…「何で?」って思うでしょ?確かに確かに。
確かに「何で?」って。
制服に添えて手紙を渡しました。
ありがとう。
ありがとう。
いろんな事が詰まってる制服だからずっと持っててほしかったんよ。
うん。
で大きいままじゃなくってこんなふうにしてこれをずっと大事にしてほしいなって思って。
ありがと。
何かもっと本当はお母さんがねいろいろ成長して分かってあげなきゃいけなかったのに…分かってあげられんかった事がごめんな。
ごめんね。
いろいろ考えながら何かまたいじめられたりするんかなとか思ってたけど何か友達には本当に恵まれて先生もいい先生方ばっかりでしたしもうここの学校はもう「ありがとう」というもうそれだけですね。
一晩中あのころの事を語り合った親子です。
小さな制服が母と娘の心をつないでくれました。
4月下旬。
細身のジャケットを受け取った児玉さんから手紙が届きました。
「小さなジャケットを見ながら孫と一緒に夫の思い出話をしました」とつづられていました。
よかったなと思いますよね。
喜んでもらえて。
ご主人とダブらせてもらえたというか。
あの本当にそういう気持ちになってもらえたというのは本当にうれしいですよね。
林さんのもとには今日も服が送られてきます。
大切な記憶が刻まれた人生の制服です。
2015/05/03(日) 08:00〜08:25
NHK総合1・神戸
にっぽん紀行「“人生の制服”届けます〜服の街 岐阜から〜」[字]

青春を刻んだ学生服、亡き夫の仕事着など、さまざまな思いが詰まった服をミニチュアにリメイクする職人の工房。服の街で紡がれる“人生の制服”の物語を岸部一徳が伝える。

詳細情報
番組内容
日本有数の衣料品産地だった岐阜市。街の一角に、洋服をミニチュアにリメイクする職人の工房がある。人生の転機となった学校のセーラー服、亡き夫の仕事用のジャケットなど、さまざまな思いが詰まった服が、ミシン縫い専門の“縫い子さん”やボタン穴あけ専門の“穴かがりさん”など、服の街の職人たちの手で仕立て直されていく。青春や仕事、子育てなど人生の記憶が刻まれた小さな服をめぐる物語。案内人は俳優の岸部一徳さん。
出演者
【出演】岸部一徳

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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