西村京太郎サスペンス・鉄道捜査官 2015.05.04


(花村乃里子)
1日の発着列車数約4000本
乗降客90万人以上
面積は東京ドームの3.6倍
この巨大なターミナル駅の片隅に私たち鉄道捜査隊の東京駅分駐所がある

(三崎真弓)ちょっと課長!どこ行くんですか?
(野川一郎)どこって分駐所に帰るところですが。
それでしたらこちらです。
ああ!なんせまだこの職場に慣れてないものですから。
え?
そしてこの人が新しく分駐所の課長として赴任してきた野川警部なのである
(立花広太郎)いくら慣れてないからってそんなにしょっちゅう間違えるか?
(望月春樹)もう赴任して半月以上も経つのにね。
ああいうのを脱力系って言うのよ。
(西岡早紀)あら。
もうお帰りですか?はい。
別に仕事もなさそうですし今日は定時に帰らせて頂きます。
「今日は」じゃないだろ?「今日も」だろう。
毎日毎日定時出勤定時帰宅。
やる気全くなし。
結構なご身分よね〜。
すいません!あの…。
ちょっとこれそこで拾ったんですけど。
(早紀)絵馬の落し物ですか?ほう…変わった形をした絵馬ですね。
「魔除天狗北畠神社」どこにある神社かな…。
どなたか知りませんか?落し物ならもう少し行ったところにお忘れ物保管所がありますからそちらの方へ。
なんなら僕がご案内しましょうか?私急いでるんです。
こちらで預かってください。
そう言われましても…。
まあいいじゃありませんか。
忘れ物係には僕が届けておきますから。
それでは皆さんお疲れさまでした。
(早紀)お疲れさまでーす…。
(望月)お疲れさまでした…。
あっすいません。
こちらにお名前の方を。
名前ですか?それと住所と電話番号もお願いします。
それじゃあよろしくお願いします。
随分焦ってるなあ。
デートの約束でもあるんじゃないですか?なんだかオドオドしてたわね。
「新宿区弥生町」…?新宿にこんな町名ないわよ。
それじゃあ偽の住所を?ちょっと心配ね。
そう東京駅の忘れ物保管所に。
じゃあまたあとで。
(佐伯弘輝)やっと見つけたぜ。
例のものを渡してもらおうか。
例のものってなんですか?
(原口悠)とぼけるな!出せ!嫌!嫌!あっ!コラッお前ら!キャーッ!追って!はい!もしもし?大丈夫ですか!?もしもし?こちら鉄道捜査隊。
至急救急車を。
場所は…。
被害者は意識不明のまま救急病院に搬送され私たちはとりあえず被害者の身元を洗う事にした
住所だけではなく電話番号もいい加減だった?はい。
2人組にバッグは奪われていますし今のところ身元が明らかになるようなものは何もありません。
意識が戻るのを待って事情を聞くつもりです。
救急病院に行った立花君から連絡が。
あの女性がいなくなったそうです。
え?夜中の間に自分で脱走したかあるいはあの2人組に誘拐されたのか…。
この奇妙な出来事がのちに起こる連続殺人事件の幕開けだったのである
一体何者なんですか?村田みゆきという女性は。
その名前も偽名の可能性が。
この事件裏に複雑な事情が隠されているような気がします。
単なる強盗傷害事件じゃないのは確かですね。
あっ。
立花君は犯人の2人を追いかけたんですよね。
顔の方は?それがあっという間に人ごみの中に逃げ込まれてしまって…。
(ため息)頼りないわね…。
わかりましたよ被害者の足取りが。
彼女東海道新幹線で上京してきたようです。
のぞみ124号。
東京に着いたのは16時53分です。
ここに来たのが17時ちょっと過ぎでしたから着いてからすぐに絵馬を拾ったって事になりますね。
その事だけど俺どうも引っかかるんだよね。
引っかかるって何が?絵馬っていうのは願い事を書いて奉納するものだろ。
それがどうして東京駅の構内に落ちていたのか…。
私もそれが気になってたの。
ひょっとしてあの絵馬は事件と関係があるのかも。
ですよね。
俺急いであの絵馬を調べてみますね。
え?もうここにはないの?はいありません。
野川課長が届けられて間もなく落とし主が現れまして…。
こちらでしょうか?
(橋本慎二)これです。
間違いありません。
身元確かめたでしょうね?はい。
運転免許証を提示してもらいましたから。
えっと名前が橋本慎二さん。
住所が目黒区鷹番9丁目…。
橋本さんなら半年前までここに住んでましたよ。
引っ越したんですか?あなた刑事さんでしょ。
ご存じないんですか?何をですか?あの人警察に捕まったんですよ。
会社のお金使い込んで。
本庁の二課に問い合わせたところこの橋本慎二という奴確かに業務上横領の罪で起訴されて先週まで東京拘置所に勾留されていたそうです。
刑務所には行かなかったんですか。
はい。
裁判の判決は1年6か月でしたが執行猶予がついたとかで。
拘置所を出たあとの居住場所は?それが届け出た住所はデタラメでした。
執行猶予を取り消されてもいい…。
一体何者なんですか?この人は。
例のものを渡してもらおうか。
(橋本)なんの事ですか?
(原口)イテッ!何やってるんですか?
(原口)なんでもねえよ。
(佐伯)なんでもありませんよ。
おっおい!泥棒!泥棒!泥棒!どうですか?課長。
このお店。
最高です。
料理はうまいしママは美人。
言う事なしですよ。
(手塚真理絵)まあお口がお上手。
よろしかったらお一人でもお気楽にどうぞ。
言われるまでもなく毎日来させて頂きます。
まあ…。
(大沢次郎)さあどうぞ。
課長さんはずっと本庁で捜査畑だったそうですね。
ええ。
それがなぜ鉄道捜査隊に配属なったのか聞きたいんですね?いや別にそういうわけでは…。
ドジ踏んじゃったんですよある事件で。
それで上司ににらまれちゃって…。
まあ今さら出世を狙う年でもないし気楽にやらせて頂きますよ。
(携帯電話)はい花村。
ええ…。
ええ。
わかりました。
私もすぐ行きます。
何かありましたか?新宿のビジネスホテルで暴力事件が。
どうも襲われた泊まり客が橋本慎二らしいと。
ほう…ビジネスホテルに隠れていたと。
それじゃあ私はこれで。
ママごちそうさま。
はい。
お気をつけて!ママさん。
はい?もう1本つけてください。
はいはい。
(望月)襲われたのはこの男でしたか?はい間違いありません。
襲った男たちの顔は見ました?いやあっという間の出来事だったんで…。
橋本慎二はいつからこのホテルに?もう1週間になりますね。
どうぞ。
仕事を探してるとかで時々出歩いてましたね。
それ以外の時はあちらの部屋に。
すいません。
失礼します。
(望月)あの時の絵馬です。
間違いない?ええ。
ん?なんだ?えっどうなってるの?これ2枚の絵馬を貼り合わせて何か隠してあったんだわ。
わざわざこんな細工をするんですからよっぽど大事なものが隠してあったんでしょうねきっと。
(望月)くぼみの薄さから見てかなり薄っぺらいものですね。
村田みゆきと名乗った女性はこの絵馬を拾ったのではなくてはじめから持っていたのではないでしょうか。
はじめから…。
東京駅に着いた彼女はこの絵馬を狙っている人物がいる事に気づいた。
それでとっさにこの分駐所に駆け込んで…。
すいません!あの…。
ちょっとこれそこで拾ったんですけど。
そしてここを出たあと絵馬を拾ったと偽って届けた事を橋本に連絡したんだと思います。
ええ!?それじゃあ2人は知り合い?そういう事になるわね。
なるほど。
そこで橋本は忘れ物保管所に行き自分が落とし主だと名乗って絵馬を手に入れたわけか。
これです。
間違いありません。
それにしてもおかしな行動です。
2人で何を企んでるんでしょうか。
これも橋本が宿泊していた部屋にあったものですが…。
なんだ?これ。
ひどいな。
よく見る顔ですね。
(真弓)貴島慶介。
貴島ホールディングスの社長です。
橋本は半年前まで貴島ホールディングスの社員でした。
橋本を横領罪で告訴したのが他ならぬこの貴島社長なんです。
貴島ホールディングスは日本各地に郊外型のショッピングモールを展開して近年急成長した企業である
(貴島慶介)ふ〜んあの橋本がね。
彼はなぜこんな事をしたんでしょう?
(貴島)それはこっちが聞きたいぐらいですよ。
刑事さんはどう思います?もしかすると復讐するつもりかも。
復讐?私にですか?
(真弓)橋本は取り調べの段階から無実を主張していたそうです。
それで裁判も長引きました。
有罪の判決を受けた現在も濡れ衣を着せられたと考えているのではないでしょうか。
それはおかしい。
あの男が会社の金を着服したのは間違いないんですから。
何人も証人がいますよ。
それを復讐だなんて…逆恨みもはなはだしい。
私にしてみれば迷惑な話です。
社長そろそろお時間です。
ああわかった。
すいません。
実はこれから出掛けるところがあるんで。
他にご質問がなければこれぐらいで。
ありがとうございました。
涼子さんじゃない!
(貴島涼子)あ…花村先輩!やっぱり涼子さん!懐かしい…。
本当にお久しぶりです。
何年ぶりでしたっけ?お知り合いですか?ああ…。
大学の後輩の小池涼子さん。
すいません。
私今小池じゃなくて…貴島。
貴島涼子になったんです。
じゃあこちらの社長さんと?ええそうなんです。
(貴島)涼子!何やってるんだ。
あっ!ねえあなた。
前に話したじゃない?大学の先輩で警視庁に就職した方がいるって。
ああ。
じゃあこちらの刑事さんが。
不思議なご縁ですね。
涼子そろそろ急がないと。
あ…。
あの先輩もっとゆっくりお話ししていたいんですけど私たち新幹線の時間があって。
お2人でご旅行に?ええ。
主人の仕事の関係で三重の方に。
松阪市の郊外に新店舗をオープンする事になりましてその地鎮祭に。
ほら。
じゃあ。
帰ってきたらお電話しますから。
見るからにセレブのご夫婦って感じ。
素敵ですね。
(携帯電話)はい。
本当ですか?わかりました。
橋本を襲った2人組の1人が割れたんですって。
主任。
ビジネスホテルの防犯カメラに映っていたそうです。
この2人あの時の…。
女性を襲ったのと同じ2人組です。
分析してもらったところ犯罪者ファイルの中に似たような人物が。
この男です。
何者なの?佐伯弘輝40歳。
職業は不動産ブローカー。
恐喝罪の前科あり。
現住所には?もちろん行ってみましたが留守でした。
愛人らしいのがいたので質問してみたら…。
(益美)今朝早く出掛けちゃったんだよね。
(望月)行き先とかわかります?
(益美)なんか仕事頼まれて名古屋の方に行くとか。
名古屋?いや…違うな。
名古屋で乗り換えて…。
三重県?三重県ですか?
(益美)そうそう。
三重県ですって?
(真弓)貴島社長の出張先も三重県の松阪でしたよね?ええそう言ってたわ。
(早紀)あの魔除天狗の絵馬も三重県にある神社のものだそうですよ。
それともう1つ。
橋本の持ち物の中に新しい三重県の地図が。
近いうちに三重県に行く予定だったんでしょう。
集まった手掛かりが全て三重県に集中している。
これ単なる偶然とは思えませんね。
いずれにしても強盗傷害の容疑者2人は逮捕しなければ。
そのためにも病院から消えた女性と橋本慎二の行方を追う必要があるわ。
課長。
私たちも三重に行っていいですか?はい。
ここのやり方はまだよくわかりませんので花村さんお任せ致します。
はい…。
翌日私は立花刑事と西岡刑事を伴い東海道新幹線と近鉄名古屋線を乗り継いで三重県へ向かった
最初に訪れたのは古い城下町として有名な松阪市
橋本慎二は貴島ホールディングスの社員だった頃社長のお供で何度もこの土地に来た事があり知人も大勢いるらしい
私たちは手分けして橋本に関する情報を集めようとしたのだが…
ダメですね。
誰も橋本を見かけた人はいません。
こっちへ来てるとにらんだのは間違いだったのかしら…。
(早紀)遅れてすいません!どうだった?橋本にはこっちで知り合った恋人がいる事がわかりました。
恋人?ええ。
名前は三田村加奈さん。
ここから20キロぐらい西へ行った津市美杉町というところに住んでいるそうです。
ちなみにあの魔除天狗の絵馬の北畠神社があるのも美杉町です。
行ってみましょう。
松阪市と隣接する津市美杉町は江戸時代伊勢神宮にお参りする人々でにぎわった伊勢本街道の宿場町である
この町のシンボルである北畠神社は由緒あるお社で境内にある庭園は国の名勝史跡に指定されている
(早紀)主任!ここに同じ絵馬が…。
おっ!
(宮司)絵馬をお求めですかな?いえそういうわけでは…。
あの三田村さんというお宅を訪ねる途中なんです。
この神社の近所と聞いたんですけどご存じですか?はい。
三田村さんのお宅は昔から当神社の氏子でしてな。
いやでも…今は空き家になっておりますよ。
え?空き家!?
(宮司)三田村さんのご当主は重雄さんといいましてな高等学校で歴史を教える傍ら民間の考古学者としても活躍しておられました。
この辺りは数多く遺跡が発掘されておりますが三田村さんのご研究によるものも少なくないという事です。
加奈さんというお嬢さんがいらっしゃるはずですが…。
(宮司)はい。
今は勤め先のある松阪市内で一人住まいをしてると聞いてます。
え?一人住まい?
(宮司)母親が早くに亡くなられ父親の重雄さんも1年ほど前に不慮の事故で。
この先にあるダムに落ちて亡くなられたんですよ。
ダムに落ちて…ですか?ええ。
遺跡を探していて足を滑らせたんです。
ありがとうございました。
(三田村加奈)取り分けさせて頂きます。
失礼致します。
加奈ちゃん。
あんたに会いたいという人が来てるよ。
やっぱりあなたが三田村加奈さんだったのね。
どうやら俺たちの顔を覚えていたみたいだね。
どうして病院から逃げたんですか?この絵馬の事で嘘をついたからですか?これそこで拾ったんですけど。
(早紀)絵馬の落し物ですか?ん?2枚の絵馬を貼り合わせて何か隠してあったんだわ。
その事はもういいわ。
橋本慎二さんは今どこにいるの?知りませんそんな事。
あんた橋本の恋人なんだろ?知らないわけないじゃないか。
知らないものは知りません。
わかりました。
では…あなたを襲ったのはこの男佐伯弘輝ね?佐伯とはどういう関係なの?彼らはなぜあの絵馬に隠されているものを欲しがってるの?絵馬は私が東京駅で拾っただけです。
私は何も知りません。
そんないい加減な…。
いい加減なのはあなたたち警察でしょ!?仕事の邪魔をするのはやめてください。
なんだよあのツンツンした態度!ほんっと頭きた!頭きた。
加奈さん警察に不信感を…。
何か事情があるみたい。
事情といいますと?お父さんの事故死と関係があるような気がするわ。
お待たせ致しました。
わっきたきた!うわっうまそう!
(早紀)美味しそう。
あっ私で〜す。
お待たせ致しました。
(早紀)うわっ美味しそう!おなか空いた〜!いただきまーす!いただきまーす!すっげえうまそう。
その夜私たちは松阪に泊まる事にした
なるほど父親の事故死がね。
詳しいウラを知りたいのなら三重県警に知り合いがいますから協力を依頼してもいいですよ。
ありがとうございます。
では明日の午前中県警本部を訪ねます。
それじゃ気をつけて。
今日は会えないのか。
その昔伊勢藤堂家の城下町として栄えた津市は近代になってからも県庁所在地として発展した
私たちが訪ねた三重県警本部もこの町の官庁街にある
(加東警部)野川警部とはもう古〜い付き合いでしてね。
お忙しいところすいません。
早速なんですが三田村加奈さんのお父さんはダムで亡くなったそうですが死因はダムからの転落死ですよね?ええ…それがですねえ当時は他殺の疑いもあったようです。
まあその辺の事情はですね当時捜査の指揮に当たった渡部という男がいますのでその男に聞いてみてください。
今部下が連絡を取っているところです。
恐れ入ります。
ええ。
ところで皆さんは不動産ブローカーの佐伯弘輝を追っているそうですね。
ええ。
ご存じなんですか?佐伯を。
ええ。
以前当地でも事件を…。
(加東)原口という相棒と2人で土地の売り渡しを拒んだ地主を傷つけたんです。
手が早い奴らなんですね。
(加東)最も彼らは金で雇われただけで。
黒幕は地元の建設会社の社長だったようです。
(ノック)はい!
(中田刑事)失礼します。
どうだった?はいっ。
失礼します…。
渡部さんですが明日の午後まで帰らないそうです。
松阪郊外にショッピングモールを造る貴島ホールディングスという会社が関係者を招待してゴルフコンペとパーティーを開くとかで…。
渡部さんって刑事じゃないんですか?半年前に退職して今は防犯警備のコンサルタントをやってます。
そのショッピングモールの警備の仕事を取りたいそうで営業を兼ねて出席されるそうです。
明日の午後まで待つわけにはいかない
私たちは津駅から近鉄名古屋線列車に乗ってゴルフ場があるというリゾート地に向かった…
途中伊勢中川駅で近鉄大阪線の列車に乗り換えて…

下車したのは榊原温泉口駅

タクシーに乗って山道を行く事30分あまり
赤目青山国定公園の山々に囲まれた広大なリゾート地が私たちの目の前に現れた
はあ〜人里離れた山奥にこんな施設が…!まさにシークレットリゾートですね。

(合田信之)じゃあ奥さんまたあんたがオナーだ。
(合田の笑い声)
(涼子)それじゃお先に。
(2人)ナイスショット!
(合田)ドライバーもいいしアイアンもいいしたまらんね。
若くて美しくて…貴島さんうらやましいよ。
(渡部達郎)さあさあ次は合田社長ですから。
よーし…俺だっていっちょいってやるぞ。
ナイスショット!何がナイスショットだ…。
いい加減な事言うな!すいません…。
(合田)いやあ参った参った。
私はねこれでもうきっぱりとゴルフはやめます。
(涼子)そんな事おっしゃらないでくださいよ〜。
(合田)いやいやいやもうやめやめやめ…。
花村さん…!どうしてここへ?まさかまた私に質問が?いいえ。
今日は渡部達郎さんにお話がありまして。
失礼ですがあなた方は?申し遅れました。
東京の鉄道捜査隊の者です。
警察かね…。
何もこんなところで聞き込みなんかしなくても。
無粋な奴らだ。
貴島さん行こう。
はい。
ねえあの方は?ああ…合田さんって言って建設会社の社長さんです。
感じ悪い奴!建設会社の社長?じゃあ…。
それで…お話は?
(渡部)三田村重雄さんが事故に遭われたのは美杉町のダムです。
たまたま見回りをしていた管理事務所の職員が湖の岸に横たわる男性を見つけて110番に通報したんです。
すぐに病院に搬送したんですがすでに心肺停止の状態でした。
直接の死因は溺死。
外傷も見当たりませんでしたので本人の過失による事故として…。
多分考古学の調査をしていて足を滑らせて水中に転落したんでしょう。
県警の加東警部のお話では他殺の疑いもあったと…。
どういう理由からでしょうか?三田村さんのご遺族が強く主張されたんです。
事故ではなく殺人事件だと…。
ご遺族というと…お嬢さんの加奈さんですか?そうです。
その方が署に乗りこんできましてねえ…。
(加奈)絶対に事故なんかじゃありません。
父は誰かに殺されたんです。
お気持ちはわかります。
ですが我々としてもいろいろと調べた上でご本人の過失と断定したんです。
失礼します。
だからそれが間違ってるって言ってるんじゃないですか!安易な結論を出すのはやめてください。
殺しだという根拠はどこに?最近父の身辺でおかしな事が何度も起きてたんです。
駅でホームから突き落とされそうになったり遺跡を掘っていたら土砂が崩れてきたり急に車が飛び出してきてひかれそうになった事もあったんです。
わかったわかった…。
あんたの言い分はよくわかったから今日のとこは帰りなさい。
俺たちも忙しいんだから!正直私もつらかったんですよ。
警察組織に所属している以上一度出た結論は変えられませんからねえ。
加奈さんが警察不信になるのも無理ありませんね。
三田村さんが誰かに恨まれていたというような事は?少なくとも地元にはいませんね。
誰もが認める人格者でしたから。
ただ…。
ただ…なんですか?不正な行いに出会うと絶対に許さなかったそうです。
まるで人が変わったように激しく追及したとか…。
すいません他にご質問がなければこれくらいで。
私このあとパーティーなもんで。
そうでしたね…。
どうもありがとうございました。
じゃ…。
困ります。
こちらで。
ああ…公務員ですからね。
じゃあ…。
いや〜こんなゴージャスなホテルでパーティーか…。
紛れ込んじゃおっかな〜。
じゃあ私も〜。
行く?はい。
何言ってるの…行くわよ。
(真理絵)ちょっと待って!花村さん。
あれぇ!?ママ!もしかして貴島ホールディングスのパーティーに?そうなの。
貴島社長は私が新橋のお座敷に出ていた頃のおなじみさんでね。
今日はパーティーのお手伝いを頼まれたの。
(涼子)あっ!ここにいらっしゃったんですね。
花村さん今夜はここのホテルにお泊まりになりません?それはちょっと…。
いいじゃないですか。
それでパーティーにも出て頂いて久しぶりにゆっくりお話ししましょうよ。
ごめんなさい涼子さん。
まだ仕事が残っているので。
ああ…もうすぐ来る頃ですよね。
ああ来ました。
あれ?彼女…。
三田村加奈さん!あっ橋本だ…橋本慎二ですよ。
一体何が目的で…。
よーし締め上げてやる!ちょっと待って。
それよりしばらく2人の様子を見ましょう。
立花君は…戻って荷物を。
早紀ちゃんは2人の尾行を。
はい!私はパーティー会場に。

(合田)ようやく着工です。
いやあ苦労しました。
どうもありがとうございました!これも全部畠山先生のおかげでございます。
(貴島)これは先生ようこそおいでくださいました。
のちほど祝辞を頂戴致しますので。
どうぞよろしくお願い致します。
こちら家内の涼子です。
初めまして。
主人がいつもお世話になっております。
今後ともどうぞよろしくお引き立てくださいますように。
(真理絵)お似合いのご夫婦ねえ。
本当素敵。
ちょっとあなた…。
ああ社長!こりゃあどうも…。
涼子です。
(真理絵)ぼーっとしてないで…お料理をあちらのテーブルからお持ちして!
(渡部)花村さんでしたよね?いかがですか?せっかくですけどアルコールは…。
一応は勤務中ですので。
何か事件が起きる予兆でも?いえ別にそういうわけでは…。
渡部さんは?実を言うと私飲めないんですよ。
だからもっぱらこれで。
まるで子供ですね。
また…。
主任!行ってきました。
ご苦労さま。
うわ〜すごいですねえ!立花君召し上がったら?いいんですかぁ?黒っぽいお色をお入れして深みを出すんですけどもオレンジをまぜて少し黄味を出していきますね。
お客様には少し黄味があった方がお似合いになるかと…。
(涼子)花村先輩。
今日はお忙しいところをどうもありがとうございました。
それにしても意外だったわ。
ん?涼子さんは一生キャリアウーマンを通すんだと思ってたから。
私が結婚した事ですか?私もそのつもりでした。
でも仕事で貴島と知り合って…その日のうちにプロポーズをされて。
そうだったの!強引なんですよ何事にも。
事業が成功したのもそれが武器になったんですよきっと。
(貴島)涼子!はいっ。
合田社長見なかったか?いいえ私は…。
ちょっと会わせたい人がいるんだ。
一緒に捜してくれ。
はい!ねっ強引でしょう。
すいません…。
主任…!申し訳ありません!あの2人に逃げられました。
はぁ!?見失ったの?はい。

(合田)ああ来たか。
なんだ?大事な話っていうのは。
(刺す音)
(合田)あぁ!ぐっ…!!貴様…!「今後とも貴島ホールディングスをよろしくお願い致します」
(拍手)
その知らせが私たちのもとに届いたのはパーティーが終わりを告げようとしている頃だった
(携帯電話)おうどうした?…何?そんなバカな…。
どうしたの?合田社長が…殺されたらしい。
え?それで…!?
合田社長の殺害は私たちの任務と無関係ではないように思われた
私は県警の加東警部に頼んで現場を見せてもらう事にした
(パトカーのサイレン)ご苦労さまです。
ああ私ここで待ってますから。
(加東)各班よろしくお願いします。
加東警部。
ああ早かったですね。
渡部さんが車で送ってくださったので。
ああそうですか。
さあどうぞ!死因は?
(加東)胸を刺された事によるショック死です。
凶器はまだ発見されていません。
抵抗した跡はなく顔見知りの犯行でしょう。
被害者は自分で車を運転してここに来ています。
犯人に呼び出されたと考えていいでしょう。
犯行時刻はわかりますか?その辺の事は地取りと聞き込みの結果を総合して…。
まああとは我々に任せてください。
では。
ありがとうございました。
まさかあの2人が…。
念のためホテルに戻ってるかどうか確認しましょう。
しかし人を殺したあとホテルに帰りますかね?とにかく行ってみましょう。
あった!あの2人戻ってますよ。
立花君。
花村です。
先ほどは…。
実は私たちが東京から追ってきた被害者三田村加奈橋本慎二が合田社長が殺される直前に姿を消しました。
事件になんらか関わってるとも思われます。
県警立ち会いのもと私たちも話を聞いてもいいでしょうか?具体的な証拠が出るまでもう少し待ってください。
わかりました。
では私たちは2人を見張ります。
まあきれい…。
まるで夢の世界みたい。
(涼子)そうですねえ…。

(渡部)おはようございます。
(早紀)…おはようございます。
昨日の事件について刑事時代の仲間から情報をもらいました。
合田社長が現場に車を入れたのが午後4時30分。
通行人によって死体を発見されたのが4時45分だそうです。
犯行時刻はその15分間に絞られるわけですね。
ええ。
しかもその時間帯にもう1台別の車が現場付近で目撃されています。
グリーンの小型自動車だったそうです。
…え?
(パトカーのサイレン)
(ノック)
(鍵が開く音)
(中田)橋本慎二さんですね?そうですけど。
警察の者ですがちょっとお話を聞かせてください。
三田村加奈さんもいらっしゃいますよね?
(加東)では合田建設の社長が殺された事は知ってるんですね?ええテレビのニュースで見ましたから。
それだけですか?現場の駐車場に被害者を呼び出したのはあなたたちじゃないんですか?何バカな事を…そんな事してませんよ。
私たちは無関係です!もう帰らせてください。
まあまあまあまあ…!もう少しだけ。
このホテルにはどうして宿泊なさったんです?どうして?俺たち半年ぶりに再会したんです。
水入らずの夜を過ごすためですよ。
昨日チェックインしたあと午後3時半頃に車で出掛けましたね。
ホテルに戻ってきたのは5時半頃。
どこに行ってたんですか?別に。
ただのドライブですよ。
本当かなぁ!?榊原温泉口の駅の方に行ったんじゃないのか!?だから!!俺たち事件に無関係だって言ってるでしょう!?これ任意の取り調べですよね?もう帰らせてもらいます。
いいから…!行かせてやれ。
橋本慎二さんですね?…そうですけど。
この人たちも警察よ。
相手にならないで。
待って。
1つだけ聞きたい事が…。
あなたたちの目的は何?目的?あなたは横領罪は無実だと主張している。
加奈さんあなたはお父さんは事故死ではなく殺されたんだと…。
あなたたち共通の敵に復讐しようとしているんじゃない?俺たち…そんな大それた考え持ってませんよ。
もういいでしょう。
早く行こう。
失礼します。
おぉ〜!ここが話題のショッピングモール予定地ですか。
(早紀)すっごく広いですねえ。
(渡部)元々は公用地だったんですよ。
貴島ホールディングスが所有するには地元の政財界に対する合田さんの裏工作が物を言ったようですねえ。
(早紀)裏工作ってなんですか?接待攻勢買収時には脅迫…。
まあこれはあくまで内輪の話ですけど。
その脅迫ですけど実行したのは佐伯と原口という不動産ブローカーの2人組じゃありませんか?そうですけどそれをどうして…?その2人は現在もこの近くに来ているらしいんです。
もしかして合田社長と接触していたんじゃないでしょうか?それは考えられますねえ。
わかりました。
少し時間をください。
昔のコネを使って情報を集めてみます。
(早紀)あっ来た。
お待たせしました。
どうぞ。
花村さんのおっしゃるとおりでした。
佐伯と原口は確かにこっちに来てます。
合田社長と会った様子は?それがどうやらうまくいってなかったようです。
(渡部)報酬の面でもめていたようで。
それが原因で合田社長を殺害したのかも。
主任一度当たってみる必要がありますね。
現在の居所はわかりますか?ええ。
おとといから松阪市内の観光ホテルに。
あ…これがその住所です。
どうもお手数をおかけしてありがとうございました。
それにしてもよく短時間で調べられましたね。
いや実を言うとあなたたちとご一緒してるうちに忘れていたデカ根性みたいなものが…。
「三つ子の魂百まで」って言いますけど本当ですね。
あっすいません!ああ主任…!おうおうおう…てめえ何割り込んでんだ…!うわっ!あっイタッ…。
何すんだよ!なんだお前やるのか!イテテテテッ…。
乱暴はやめなさい。
(早紀)私たちこういう者です。
なんだ警察の方ですか。
それならそうと言ってくれりゃいいのに。
ちょっとお話を伺いたいのですがいいですか?嫌だと言ったらどうします?その時は公務執行妨害で逮捕するしかないね。
あなたたち昨日の4時半頃どこにいましたか?
(原口)アリバイ調べか。
一体どんな疑いがかかってるのかな?
(佐伯)多分合田建設の社長が殺された事件ですよね?
(早紀)わかってるところを見るとやっぱりあなたたちが犯人なのね。
冗談じゃねえ。
だったら昨日の4時半頃どこ行ってたか言ってみろ。
四日市ですよ。
四日市…?
(佐伯)ええ。
なかなかいい町らしいのでね。
3時過ぎに松阪駅から電車に乗って3時40分頃津駅で伊勢鉄道に乗り換えました。
(早紀)四日市に着いたのは?4時20分頃だったかな。
そのあとは町をフラフラして夜はキャバクラでにぎやかにやりましたよ。
四日市から殺人現場の榊原温泉口までどんな交通手段を使っても1時間半はかかります。
こいつらの言うとおりならアリバイ成立って事に…。
私たちは彼らの主張するアリバイを確かめてみる事にした
伊勢鉄道は四日市駅と津駅の間を約40分で走行する第三セクターの路線である
(早紀)この人たちなんですけど。
(駅員)ええええええ。
この人たちなら15時43分発の四日市行きに乗車なさいました。
間違いありませんか?
(駅員)はい。
発車前にちょっとしたトラブルがあったのでよく覚えてるんです。
(佐伯)おいどこ見てんだよ!
(駅員)どうしたんですか?
(佐伯)いやこの人がいきなりぶつかってきたんですよ。
危うくホームから落ちるとこでしたよ。
いえいえ私は別にそんな覚えは。
(原口)とぼけるのかオラ!
(駅員)まあまあまあお客さんお客さん!ここはひとつ穏便に…。
そろそろ発車時刻ですから。
次から気をつけなよ。
タコ!
(駅員)失礼しました。
どうぞ。
いえ…。
という事で佐伯と原口が津…15時43分発の伊勢鉄道の列車に乗車した事は確認出来ました。
その2人は四日市には?16時19分に到着。
僕が四日市の駅に行って駅員に確かめました。
駅員の記憶は確かなんですね?2人のうちの若い方原口という奴が切符を紛失したと騒いだそうでそれで顔を覚えていたそうです。
結局2人のアリバイは成立したわけだ。
でも乗る時も降りる時もトラブルを起こすなんてちょっと出来すぎてるんじゃありません?ええ私もそれが気になってるの。
皆さんが留守の間に三崎君と望月君が面白い話を仕込んでくれました。
こちらへどうぞ。
(真弓)この貴島社長の会社貴島ホールディングスですが10年足らずの間に急成長した過程で佐伯や原口たち不動産ブローカーグループを利用した事が何度もあったそうです。
じゃあこの貴島と佐伯は以前から面識があったという事?そう。
殺された合田社長に佐伯や原口を紹介したのも恐らく貴島だった。
この貴島社長っていうのは表向きは健全な事業家だけど目的を果たすためには非合法な手段も辞さない裏の顔を持ってるんです。
もしかして三田村さんは貴島社長に殺されたんじゃないでしょうか。
えっ!?主任急にちょっと何を言い出すんですか?もちろん直接手を下したとは言わないけど…。
ほら渡部さんがおっしゃってたじゃない?三田村さんは不正を許さなかったって。
不正な行いに出会うと絶対に許さなかったそうです。
まるで人が変わったように激しく追及したとか…。
もし貴島社長が松阪で進めている事業で不正な事をやっていてそれに気づいた三田村さんが非を暴こうとしたら…。
貴島はどんな事をしても三田村さんの口を塞ごうとする。
うん筋は通ってますね。
その不正ってのはあれですか…。
建設用地を手に入れるために地元の政治家を買収したって話ですか?それは合田社長がやった事です。
いざとなれば合田社長を切り捨てて身の安全を守る事が出来たはず。
じゃあ他に何かがないと…。
そこをハッキリさせない限り花村さんの意見はただの憶測になってしまいます。
課長も課長ですよね。
自分では何も考えられないくせに主任の推理にケチつけるんですから。
でも言っている事は間違ってないわ。
不正の実態がわからない限り前には進めない。
(真弓)貴島社長の奥さんに聞いてみたらどうです?主任の後輩なんでしょう?出来れば事件に巻き込みたくないの。
(携帯電話)はい。
ああ渡部さん。
そちらではいろいろとお世話になりまして。
えっ?文化財センター…?
(渡部)そうです。
松阪市文化財センター。
考古学的に価値のあるものを保存しているところです。
ここで仕入れた情報ですが三田村重雄さんは貴島ホールディングスに払い下げられた土地で考古学のフィールドワークをしていたんだそうです。
ショッピングモールの建設予定地でですか?まだ造成される前の荒れ地だった頃だそうですがそこで何か重要な発見をしたらしいのです。
重要な発見といいますと?ここではそれ以上の事は…。
ですが東京に先輩の考古学者がいるそうですからその人に聞けばわかるかもしれません。
ちょっと待ってください。
(日下部洋三)民間研究者の中でも特に優秀な男だったよ三田村君は。
(日下部)彼の書いた論文を多くの考古学者が参考資料に挙げていたからな。
ハハ…わしも含めてな。
その三田村君がちょっと詳しく見てほしいといって送ってきたのがねえーとこの辺に置いといたんだけど…。
よいしょ…。
おおこれこれ。
これだよ。
ちょっとちょっと。
こういうのあんまり見た事ないんじゃないかなぁ。
ええ…。
いいよ手に取って。
縄文時代後期後半に作られた土器でねそうだね今から約3500年ぐらい前かな。
へぇ〜。
(日下部)これがね…。
見つけた場所はどこかご存じですか?詳しい事は知らんがねその土地の下には広大な遺構が眠ってるとにらんでたらしいね三田村君は。
残念な事に不幸な事故に遭ってそれを証明するには至らなかったがね…。
証明出来ていたらどうなっていたでしょう?無論発掘調査をしただろう。
まあ土地の開発業者は悲鳴を上げただろうがな。
悲鳴を…?どうしてですか?埋蔵文化財の発掘ってのはね文化財保護法に基づく行政指導によって原則的には土地の開発業者が発掘費用を負担するという事になってるんだ。
原因者負担といってね面積が広ければ広いほど負担金額は莫大になる。
へぇ〜そんな重要な遺跡があの予定地に…。
発掘の費用は何億円もかかるらしいわ。
その上作業が続く1年も2年もの間土地の利用は出来ないんですって。
まさに泣き面に蜂ですね貴島社長は。
その局面を打開する方法はただ1つ。
三田村さんに手を引かせる事だった。
そうか。
だから何度も危ない目に遭ったりしたんですね。
ところが正義感の強い三田村さんは一歩も譲らなかった。
そこで貴島は最後の手段を行使したんだ。
その一方で二度と問題が起きないように手を打ったはず…。
合田社長に用地の造成を急がせたんです。
課長これでハッキリしましたね貴島社長の不正が。
納得です。
花村さんよくやりましたね。
いえ。
渡部さんがいろいろ調べてくださったので。
さすが元敏腕刑事。
いいところに目をつけますよね。
本当。
どこかの課長さんとはデキが違います。
しかし敏腕刑事なのになんで退職しちゃったんでしょうね。
(携帯電話)はい野川です。
あっ先日はありがとうございました。
そうですか。
わざわざありがとうございます。
三重県警から緊急連絡です。
三田村加奈が今朝の電車で東京へ向かいました。
加奈さんが…。
加奈さんちょっとお話が…。
殺人予備の容疑で身柄を拘束出来るんですよ。
え…?やっぱりあなたは復讐しようとしているんでしょ?お父さんの恨みを晴らすために。
お父さんが亡くなったのは他殺によるものだった。
犯行を指示したのは貴島社長。
あなたは橋本さんの協力を得てその事実をつかんだ。
違う?お父さんの無念を考えると復讐を思い立ったのも無理はないわ。
やめてください!わかったような事を言うのは。
突然大事な人を奪われた苦しみはあなたなんかにわかるはずないわ。
私も同じような体験を…。
結婚したばかりの夫を殺されたの。
え…。
あの時の気持ちは今のあなたと同じ。
犯人を心底憎んだ。
この手で殺してやりたいとさえ思ったわ。
でもね加奈さん。
それはやってはいけない事なの。
大勢の犯罪者を見てきた私にはわかる。
人を殺す事は自分の心を殺す事。
残るのは罪の意識と空しさだけなのよ。
それより橋本さんと2人で新しい人生を踏み出す方が…。
お願い加奈さん私の言う事を聞いて。
(メール着信音)失礼します。
早紀ちゃん。
早く!あの車を追って。
警察よ。
(運転手)赤信号ですよ。
いいんですか?シートベルトをお願いします。
(早紀)もう…。
(ため息)
(チャイム)
(涼子)どうぞ。
突然ごめんなさい。
(涼子)いいえ。
ご主人いらっしゃる?えっと主人でしたら会社の方にいるはずですけど。
会社の方では急に予定をキャンセルしてご自宅に戻ったと伺ったけど。
えっ…?涼子さん急いでご主人の携帯に電話してくれる?それは構いませんけどあの…どうしたんですか?訳はあとで…。
お願い。
(呼び出し音)
(アナウンス)「留守番電話サービス…」変だわ。
何度かけても出ない。
課長貴島社長の行方がわかりません。
至急捜索及び身辺保護の手配を。
それと三田村加奈橋本慎二両名の身柄確保も。
お願いします。
(電話を切る音)主人の身に何かあったんでしょうか?身辺保護ってどういう事ですか?教えてください。
(涼子)では主人はこの人たちに狙われているんですね?ええ。
あの人の犯した罪は免れない…。
実は私思い当たる事があるんです。
1年くらい前の事でした。
主人が松阪の建設用地を視察しに行くというので私も同行したんです。
いつものホテルに泊まってエステを楽しんでから部屋に戻ってみたら…。
(三田村重雄)あんたには良心というものがないのか!
(三田村)あの土地には我々の祖先が残した宝物が埋まっているんだ!あんたはそれを永遠に葬り去ろうとしているんだぞ!それはあなた一人の思い込みでしょう?もし本当にそうならとっくに国や県が乗り出してるはずですよ。
(三田村)だからもう少し時間をくれと言ってるんだ!私の主張が正しい事は必ず証明してみせる。
いい加減にしてください。
あの土地には莫大な投資をしてるんだ。
もうこれ以上金と時間を無駄にするわけにはいかないんですよ。
これだけ頼んでもわかってくれないのか。
そうかそれじゃあこっちにも覚悟がある。
ほうどんな…?あの用地を手に入れるために随分とあくどい真似をしたそうじゃないか。
それを明らかにすればあんたは社会的な地位を失う。
下手すれば法の裁きを受ける事になるぞ。
それから1週間くらい経ってその三田村っていう人が事故で亡くなったってニュースで流れてたんです。
まさか殺されたなんて…。
今でも信じられません。
主人はビジネスでは厳しい人ですが私には優しい夫なんです。
どうか無事でいてほしい…。
だが涼子さんの願いは届かなかった
翌朝多摩川の河川敷で貴島社長の死体が発見されたのである
(鑑識官)死因は窒息死。
首を絞められたものと思われます。
地面に争った痕跡はありませんからどこか別の場所で殺害したあと車でここに運んで遺棄したのでしょう。
(真弓)死亡時刻はわかりますか?正確にはまだですが硬直の程度から判断して昨日の昼過ぎから夕方にかけてといったところでしょうね。
携帯電話を所持していたはずですが…。
ええズボンのポケットに。
電源は切ってました。
状況から見て犯行は三田村加奈橋本慎二両名によるものとの疑いが強まった
2人は緊急手配され身柄を拘束された
とぼけてもダメだよ。
貴島を殺したのは自分たちだと素直に認めたらどうなの?私たちは何もしてません。
何度言ったらわかるんですか?それじゃ昨日の昼過ぎから夕方にかけてどこにいたのか言ってみてください。
ずっとホテルの部屋に…彼と話をしてました。
外へは一歩も出ていません。
またまた見え透いた言い逃れを…。
言い逃れなんかじゃありません。
本当の事です。
だけどあんたがお父さんの恨みを晴らそうとしていたのは確かなんだから。
それはやめる事にしたんです。
花村さんに説得されて気が変わったんです。
(早紀)主任の説得で…?彼と長い間話し合って貴島を殺すのは諦めようって…。
それより貴島を告発して罪を認めさせた方がいいんじゃないかって。
それが出来れば父も満足してくれるだろうって。
彼女が復讐を諦めると言えば俺には反対する理由がありません。
元々乗り気じゃなかったんです。
人を殺すなんて事…。
彼女に喜んでもらいたくて協力しようと思っただけですから。
その事が貴島社長にバレてやってもいない横領の罪を着せられたってわけ?そうです。
貴島にしてみれば見せしめのつもりだったんでしょう。
自分の息のかかった人間を証人に仕立てて俺に無実の罪を…。
本当に悔しい思いをしましたよ。
それでは先週近鉄線榊原温泉口で発生した事件についてはどうですか?合田建設の社長が殺された事件の事ですか?そう。
現場近くであなたたちの車が目撃されているんです。
(望月)無関係とは言えませんよね。
ええ。
あの時はまだ復讐する気持ちがありました。
貴島と合田が顔を合わせると聞いたのでチャンスをうかがっていたんです。
そしたら合田が車に乗って出掛けたので…。
(橋本の声)俺たちも車であとを追ったんですが…。

(橋本の声)榊原温泉口の近くまで来て見失ってしまったんです。
あっ…あそこ!どこ行ったんだよ…!あっ!あっ…。
(橋本)誰かに見られたらまずいので慌ててその場を離れてすぐにホテルに戻りました。
ですから俺たちは事件に無関係です。
どうですか?取り調べを終えた感想は。
正直疲れました。
そうではなくて2人の心証ですよ。
私は嘘をついているようには思えませんでした。
供述内容は完全に一致しています。
口裏を合わせた場合はそうはいきません。
細かいところで必ずボロが出ます。
僕も信じてやりたいですね。
少なくとも合田社長の殺害に関してはシロだと思います。
そうですか。
ところで橋本の所持品からこんなものが見つかったそうです。
なんですか?貴島ホールディングス宛ての領収書。
金額は2000万円。
ここに佐伯弘輝のサインがあります。
もしかしてそれ三田村さん殺しの報酬じゃ…?名目は建設用地斡旋手数料となっていますが日付から見て間違いなさそうです。
ちょっと貸してください。

(早紀)あっ…ピッタリ!絵馬の中身はこれだったんですね。
恐らく橋本が会社から盗み出して加奈さんが絵馬に隠しておいたのよ。
犯人につながる大事な証拠ですものね。
それでわかりましたよ。
佐伯と原口が必死になって回収しようとした理由が。
(早紀)やっぱり加奈さんのお父さんを殺したのはあいつらだったんですね。
それに合田社長の殺害も恐らくは彼らの犯行ね。
しかし合田社長が殺された時連中は四日市にいたのでは…?そのとおりです!僕がわざわざ途中下車して確認したんだから間違いありません!でも2人は本当に一緒だったのかしら?もしかして駅員さんが見たのは原口だけだったんじゃない?もしそうだとしたら佐伯のアリバイは成立しないわね!どうなんですか?立花君。
そこのところは確認したんですか?
(電話)ああこの間の刑事さん。
え…?いやそれはですねえちょっと違います。
そうですかわかりました。
ありがとうございます。
主任の言ったとおりでした。
原口の連れ…つまり佐伯の姿は見てないそうです。
やっぱり…。
佐伯は途中で引き返して殺人現場の榊原温泉口駅へ行ったんですよ。
いやそれは無理だと思うよ。
どうしてですか?伊勢鉄道は単線で本数も限られてるんだ。
だから途中で引き返しても犯行時刻には絶対間に合いません!これかな…?何かわかりましたか?それはまだ…。
現地に行って確かめてみます。

佐伯と原口は15時43分発四日市行きの伊勢鉄道列車に乗車したという
私たちも同じ列車に乗ってみる事にした
意外と混んでますね。
あ主任ここ空いてますよ。
3分後には降りるわよ。
3分後?次の東一身田駅で。

ここは高田本山専修寺がある事で有名な津市一身田町
この町には専修寺の前を通る一本道の上に異なる路線の駅が3つもある
JR紀勢本線の一身田駅
伊勢鉄道の東一身田駅
そして近鉄名古屋線の高田本山駅である
ちょっと待ってくださいよ主任。
何もそんなに急がなくたって…。
一体どこを目指してるんですか?あそこ。
東一身田駅と高田本山駅の間はわずか500メートル
急いで歩けば5分とかからない
近鉄高田本山駅…そうか!
(早紀)え…?何?いや〜さすがの俺も知りませんでしたよ。
徒歩5分のところに別の路線の駅があったなんて。
(早紀)佐伯はそれを利用して犯行を…?それをこれから確かめるの。
来たわよ。
次郎ちゃん帰ったわよ。
(大沢)はい。
あおかえりなさい。
どうぞ。
どうも。
どうでした?貴島社長のお葬式。
会場は広いし祭壇も豪華だったんだけど意外と会葬に来た人が少なかったの…。
あれだけの会社の社長さんなのに。
ええ…。
(真理絵)貴島社長あんまり人望がなかったのかしらね…。
貴島ホールディングス奥さんが後を継ぐらしいですよ。
涼子さんが?次郎ちゃん…!そういう噂が飛び交ってるの。
まああの人なら出来なかないと思うけど…。
貴島社長ご家族は?それがね…前の奥さんには子供が出来なかったし他に親族もいないそうだから涼子さん遺産を残らず相続する事になるんじゃないかしら。
すると貴島社長殺害の背後には奥さんが…?ええ今お話ししたように動機は十分ですから。
社長の椅子と莫大な財産…確かに魅力的ですね。
何をバカな事を言ってるんですか!あの奥さんが夫を殺すなんて…!主任あなたはあの人の先輩なんでしょう。
よくそんな事が平気で言えますね。
平気だと思ってるの?え…?平気なわけないじゃない。
すいません言いすぎました。
私だって疑いたくはなかった。
でも念のために彼女の行動をマークしてみたら…。

(ノック)
(真弓)ええっ!?あの奥さんがホテルで男の人と…?あの様子から見るとかなり長い付き合いみたい。
それじゃあずっと不倫を?人は見かけによらないって本当なんですね。
その奥さんは合田社長の一件には絡んでるんですか?私今回の2つの事件は関連があると思うの。
つまり合田社長殺しと貴島社長殺しは同一犯人による連続殺人…?もちろん実行犯は佐伯と原口。
そして彼らを操っていたのは貴島涼子と不倫をしていた男。
約束どおり1億入ってるわ。
今日限り俺たちとは無関係だぞ。
わかってますよ。
街で見かけても知らん顔すればいいんでしょう。
あなたたちやっぱりグルだったのね。
(涼子)花村さん…。
どうしてここに…?ずっとあなたをつけてたの。
渡部さんとの関係も確認済みよ。
佐伯さん。
合田社長を殺したのはあなただったのね。
ご冗談を。
俺たちは四日市に行ってたんですよ。
駅員に聞いてくれればわかります。
四日市に着いたのはそっちの1人だけ。
あなたは15時46分に東一身田駅で下車。
徒歩で近鉄高田本山駅に行き…。
15時53分発の電車で津の方に引き返したの。
あなたの乗った近鉄名古屋線は16時1分津駅に到着。
乗車したまま…。
16時16分伊勢中川駅に到着。
そこで5分後に伊勢方面から来た近鉄大阪線快速急行列車に乗り換えた。
榊原温泉口駅へ到着したのが16時31分。
その数分後には駐車場へ行きあらかじめ呼び出してあった合田社長を殺害した。
来たか。
なんだ?大事な話というのは。
(刺す音)
(合田)あぁ!ぐっ…!!犯行時刻は16時30分から45分の15分間。
ピッタリ一致するわね。
この連中がご主人を殺害した時あなたも現場にいたんでしょう?そんな…私は無関係です。
主人の死亡時刻私は家に…。
花村さんあなたも一緒にいたじゃありませんか。
だから現場はあなたの家。
貴島社長は自宅で殺害されたのよ。
なんだお前…。
どうしてここへ入れたんだ?奥さんに入れてもらったんですよ。
涼子が?私が訪ねた時ご主人の亡きがらはまだ家の中にあったのね?変だわ。
何度かけても出ない。
渡部さんあなたは最初から気づいてたんでしょう?三田村さんがこの連中に殺された事を。
その事実を隠蔽して貴島社長に恩を売り口止め料を要求した。
まあそんなところですよ。
安月給の刑事を辞めて独立するのが夢でしたからね。
合田社長を殺したのはその事実を知ってたから。
それと俺と涼子の関係を。
俺の事はともかく涼子の人生を守るためにはあいつは生かしておくわけにはいかなかった。
これはまたきれい事を。
元々悪徳警官だったくせによく言いますね。
あなたの過去を洗わせてもらいました。
犯罪組織と癒着して随分甘い汁をすったようですね。
ところがそれがバレそうになったので退職する機会をうかがっていたんでしょう。
しかも今度は被害者の遺族を犯人に仕立てて自分の欲望を満たそうとした。
私はねそういう悪い奴を見ると我慢が出来ないんですよ。
やれ!涼子さんどうしてあんな男と?やっと結婚出来たと思った…。
でも貴島は冷たい男だった。
その上仕事が忙しくなると私の事などかまってくれなくなって…。
寂しかったんです。
そんな時あの男と知り合って…。
気づいたら深い仲に。
それはますますあなたを不幸に…。
あの男も貴島と同じ。
目的のためには手段を選ばない冷酷な男。
彼の言うとおりにしてたらとうとうこんな事に…。
私がバカだったんですね…。
確かにあなたは人生を間違えたわ。
でも罪を償ったら今度こそ自分の足で人生を歩いてね。
結婚する事にしたの!?はい!とりあえず仕事を探して結婚式はそれからなんですけどね。
よかったわ…いつまでもお幸せにね。
ありがとうございます。
あ…あのこれお礼の印にみなさんでどうぞ。
ケーキ!あらら…。
わざわざすいません。
じゃあ私たちはこれで。
あの…課長さんにどうぞよろしくお伝えください。
はい。
じゃあ失礼します。
ありがとうございました。
(早紀)ありがとうございました。
(真弓)お幸せに!ありがとうございました。
課長といえば…意外な実力の持ち主でしたね。
うん!柔道四段でしょ。
逮捕術三段。
それと射撃は一級の腕前だってさ。
おまけに配転になったのは捜査方針で上層部に逆らったからだってよ!え!?そうなの?まさに能ある鷹は爪を隠すよね!見直しちゃった。
いや〜また迷って行きすぎちゃいました。
慣れなくて困ったもんです。
なんですか?それは。
(早紀)ケーキ頂いちゃったんです。
へぇ〜。
(電話)
(一同)あーっ!!はい鉄道捜査隊です。
ケーキが…!2015/05/04(月) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
西村京太郎サスペンス・鉄道捜査官[再][解][字]

伊勢鉄道、引き返せない単線列車からの脱出トリック!!2000万円の絵馬が連続殺人の謎を解く!

詳細情報
◇番組内容
大好評!鉄道捜査官シリーズ第12弾!落し物を届けに来た女性が、何者かに襲われた上、行方不明に…!謎を追ううち、連続殺人事件が発生!! 真相を求めて乃里子たちは三重県へ…!ローカル鉄道・伊勢鉄道に隠された衝撃の罠とは…!?
◇出演者
沢口靖子、筧利夫、金子昇、今村恵子、長谷川朝晴、山村紅葉、伊藤裕子、河相我聞、中原果南、大鶴義丹

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
福祉 – 音声解説

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0x0818)
EventID:27023(0x698F)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: