趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第5回「東大寺・金剛力士像」 2015.05.05


味わい深い一品です。
重厚で厳かなたたずまい。
日本美術の粋を集めた宝。
その名は…そんな国宝を軽やかな視点で身近にしてくれる人がいます。
今注目のライター橋本麻里。
国宝ブーム立て役者の一人です。
あの徳川家ゆかりの国宝建築は「デコ」?古都の寺院は平安貴族の「テーマパーク」?黄金に輝く屏風絵で桃山時代にタイムスリップ。
橋本流の切り口で国宝を体感してみましょう。
きっと日本美術が好きになるはず。
今回から旅人は…朝ドラ「花子とアン」で校長先生役を演じ異彩を放つ一方作詞作曲も手がけるミュージシャン。
歴史や美術は全く素人というマキタさんですが国宝の旅に何を期待しますか?僕も人並みにおじさんになったんでいろいろ歴史の事とかは昔よりは…年々ですけどやっぱ気になる。
国民の宝とやらを「どの程度の宝なんだ」とかって味わってみたいですね。
(2人)こんにちは。
はじめまして。
案内人は日本美術に詳しいライターの橋本麻里さん。
今日からはマキタさんと一緒に国宝を巡る旅ご一緒するんですけれども。
こんな私でいいんですか?もちろん。
というわけで今日は東大寺に来ました。
奈良の東大寺ですね。
東大寺といえば大仏。
大仏…それぐらいは分かります。
何せ僕は30年ほど前に修学旅行で来てるんですよ。
その辺の基本はちゃんと押さえてある…はず。
で見たんです。
でもなんかこうぼんやりとした記憶なんですよね。
という事でまずは…大仏様にお参りしましょう。
見えてきたのは大仏殿として親しまれる金堂。
もちろん国宝です。
東大寺は聖武天皇が8世紀に建立した寺。
訪れたのは4月8日。
ちょうど「仏生会」が行われていました。
仏生会は釈迦の誕生を祝う行事で別名「花祭り」とも。
「花御堂」に祭られた誕生釈迦仏。
甘茶をかけて祝います。
これ飲まなくていい…。
飲まなくていいです。
お像にかけるだけで大丈夫です。
そして大仏様にご参拝。
うわ〜。
中学校以来。
お久しぶりでございます本当に。
その当時はもうなんかすいません。
高さおよそ15メートル。
国宝「盧舎那仏坐像」です。
創建から2度にわたって焼失し現在の大仏は3代目。
江戸時代のものです。
ではいよいよ今回の主役国宝「金剛力士像」が安置されている南大門へ向かいましょう。
改めて見て頂くにあたってキーワードを考えてみました。
今回の仁王像を見る時のキーワードが「リアル」です。
ほお〜。
よっこらしょっと。
よっこら。
う…うわ〜!いましたよ中学の時も。
いたんだよね!いたんだよね俺。
いた…うお〜!こ…怖い。
ハハハハ!あちらが口を開いてる阿形像ですね。
向こう側が吽形像ですね。
うわ〜…これマジ?絵を描いてあるわけじゃないよね。
違いますね。
像の高さはおよそ8メートル。
国宝「金剛力士立像」。
通称「仁王像」です。
門の正面向かって左に位置する阿形。
そして右の吽形。
「阿」と「吽」。
2体で物事の始まりと終わりを示しています。
仁王の憤怒の形相は仏法を守護するためと言われています。
ちょっとごめんなさい。
俺遠くから見たい。
あんまり近く寄り過ぎるとよく分からない。
これに出迎えられてたらちょっと…仰天だなあ。
じゃあマキタさんディテールを近くでじっくり見てみましょうか。
実はですね橋本さん僕そんな事もあろうかと思って双眼鏡を用意しました。
バッチリですね。
じゃあ行ってみましょうか。
実はね私もこっそり。
持ってきてるじゃないですか。
基本ですよ基本。
基本なんですね。
そうなんだ。
じゃあちょっと見てみます。
顔怖ぇっ!こわ〜…。
足とか爪が結構リアルに彫ってあったり。
あの爪すごいなあ。
うちの亡くなったお父さんあんな爪してたもん。
うわ〜。
爪や手のシワそして指紋まで。
まるで今にも動き出しそうなリアルな造形です。
仁王像の制作総指揮は天才仏師運慶。
運慶は仏像界に革命を起こした仏師。
人間のような肉体美や自由な動きなど新しい表現に挑戦しました。
筋肉の付き方をじっくり鑑賞していたマキタさんある事に気付きました。
でもこれ…シックスパックというわけでもなくてここがなんかすごくモコモコモコッとしてる感じとかの違い…。
あれはなぜなんだろう。
だから…多分違うと思う。
じゃあマキタさんちょっと離れてみてもらえます?ここまで離れると大体ポーズ見えますからこの吽形像のポーズをマネしてみてくれますか?僕がですか?ちょっと待って。
こうでしょ?こっち足上げて。
右足上げて。
こうですねかかと上げて。
写実的にはこう腰は張り出してますしおなかも出てますしそのポーズを人間がとろうとすると結構厳しいですよね。
結構厳しいですね。
実は…あっもういいですよ。
ありがとうございます。
ちょっと痛いですね。
腰きますよね。
という事はつまりこれは…我々がこのポジションからこう眺め上げた時に…吽形像は一旦完成した後大規模な修正が加えられています。
眉と上まぶたの下に木を足し目線を下げる。
右手は手のひらが見えるよう更にひねりを加える。
運慶は参拝者の目線を考え力強くリアルに見せるため大胆に誇張していたのです。
そういう事です。
その方が我々が見た時に「おっリアル」「すごい強そう」「格好いい」って思えるからなんですよね。
なぜ仏像にそこまで力強さが求められたのでしょう。
実は平安時代末期のある大惨事が仁王像制作のきっかけでした。
時は源平の合戦が火蓋を切って落とされた頃。
平氏と対立する東大寺と興福寺は平清盛の息子重衡を総大将とした数千の兵に攻撃され火を放たれます。
日本の仏教の中心地東大寺が焦土と化してしまったのです。
すさまじい衝撃だったと思います。
すごい事なんだそれは。
だから当時の京都にいた右大臣が…「もうこの世の終わりだ」みたいな事を書いてるんですがそれぐらい京都の貴族たちにとってもあるいはそこで暮らす人々にとってもすさまじい衝撃を受ける出来事だったんです。
政治が混乱し国家の安泰を祈る仏教さえも日本から消えてしまうのではないか。
危機的な状況に東大寺の復興を託されたのは僧侶重源。
まず鎮護国家の中心大仏を再建します。
更に仁王像には当時仏教の先進国だった中国宋の造形を取り入れるよう運慶に依頼。
こちらは宋の時代の仁王像。
ポーズや衣がそっくりです。
東大寺の歴史に詳しい横内裕人さん。
重源が中国に倣ったのは仏教に再び力を取り戻すためだったといいます。
そういう思想だったと。
うわっすごいプロジェクト。
なんか単なる箱物行政とは違いますね。
全然レベルが違いますねえ。
すごいなあ。
重源もオフィスに座ってたわけじゃなくて彼現場に出てきますもんね。
えっ現場に出てくるんですか?現場で実際に後白河法皇という…その当時の最高権力者ですけれどもその彼と一緒にもっこを担いでそれで大仏さんの復興を。
貴族たちと武士と…まあ民衆が協力してっていう。
そうしないと戦いもやまないし東大寺も復興もできないしと。
う〜ん…そういう事なのか。
仏教が再び力を取り戻し平和な世が訪れる事への真実味。
それには今までの仏像とは違う造形が必要でした。
平安時代は平等院鳳凰堂の阿弥陀如来に代表される柔和な顔だち優雅な衣文をまとった神秘的な仏像でした。
しかし仁王像は一変。
運慶は中国のスタイルを継承しながら誰もが一目で仏の力を信じられる過剰なまでに力強さを持った仏像を生み出したのです。
みんなが参拝できるこういう東大寺を造るっていう時に運慶たち仏師に任された時に頼りがいがあるというか実際に救ってくれそうなというか夢の中にいるんじゃなくて今のこの世界で苦しんでいる自分たちを助けてくれる守ってくれるような仏像みたいなものが必要とされてたのかなって思ったりするんですよね。
…というのが多分運慶たちの目指した一つのリアルだったりするんですよね。
すごいなあ。
金剛力士像が完成したのは「南都焼き討ち」から23年後の事。
運慶が次に着手した仏像に思いをはせ奈良の町を見渡します。
来ました〜。
おお〜。
ドーンと開けてますね。
あちらに見えるのが東大寺ですね。
あの大きいのが大仏殿です。
そしてその回廊があって門がありそこからずっと参道をたどっていくとあそこにあるのが南大門ですね。
そこで一つリアルが完成されるわけですけれどもそのあと復興事業まだ続いていきますがその締めくくりとして興福寺で新しい別の仏像制作に携わります。
それが興福寺の北円堂という場所なんですけれどもそこにこれから行って運慶の新しいリアルを南大門とは違うリアルの形を見たいと思います。
興福寺を一緒に旅するのは運慶を研究する第一人者山本勉さんです。
運慶のど素人のマキタスポーツです。
どうぞよろしく。
(橋本マキタスポーツ)よろしくお願いします。
東大寺から南におよそ1キロ。
平安時代栄華を誇った藤原氏の氏寺興福寺です。
この寺も「南都焼き討ち」で伽藍の大半が焼失しました。
興福寺復興の最後の仕上げとして再建されたのが…鎌倉時代復興したままの姿を今に伝えます。
今全部で5体並んでますけれどもこの中で運慶が作ったとされてるのがこの真ん中の弥勒如来ですね。
それからその左右「無著菩薩」「世親菩薩」と札が出てる2人のお坊さんの姿をした像ですね。
北円堂の本尊…その両脇を固める2体の菩薩。
弥勒の教えを広めた兄弟の僧侶。
その肖像彫刻です。
右に立つのは兄無著。
左に立つのが弟の世親。
この3体に新たなリアルが凝縮されているのです。
これはだから実在したお坊さんという事ですよね恐らく。
そうですね。
恐らくは4〜5世紀に活躍したと思われるインド人のお坊さんだったという事なんです。
えっ!?日本人じゃなくて中国人でもなくて。
インドの方なんですか?はい。
仏教の大本であるインドのお坊さんですね。
(山本)頭がゴツゴツした形もこれもインド人である事を表す記号的な表現なんですよ。
あ〜そうなんですね。
じゃあそっちから見てみましょうか。
では国宝をもっと間近で鑑賞してみましょう。
この背中がいいんですよね。
うわ〜。
背中に表情があるんですよね。
ほんと!あの肩の所とか何?背中で語ってますよね。
すごいなんかリアル。
いい後頭部してるよな〜。
(笑い声)正面で見てたのと全然…生きてるわ。
表情あるわ。
3体で目の表現が違うのお分かりですかね?目がね。
特に向かって左の世親菩薩が目が…キラキラ光ってるでしょ?そう。
3体のうち無著と世親の菩薩像には水晶の玉眼が入れられています。
世親の方はそういう何ていうかな生気みたいなものがすごく強く感じられてなんか僕ピシャリってしちゃうんですけどこちらの無著の方は慈愛に満ちたというか何だったら悲しみもたたえたようなただ単に慈愛に満ちてるだけじゃなくて奥行きがある。
この玉眼の光っていうのは人によっては「涙だ」って言う人もいますよね。
でも今のマキタさんのお話を聞くと単に形のリアルという事じゃなくて人間の内面が…。
悲しいとか慈愛とか意志の力とかそういう内面が見えてくるっていうんですか。
そういうリアルさも…という事ですよね。
そうそう…。
一方弥勒如来は玉眼を入れず木彫りで表現しています。
これもまた運慶がリアルを追求した証しです。
ああ〜…そういう演出?そういうディレクション?時間が止まってる世界の中で2体だけ動き出すみたいな。
なるほど。
その人間がいる事によって我々人間も拝んでる人間も中に入っていけるわけですよね。
何それ〜。
すごい演出じゃないですか。
この3体が完成した時「南都焼ち討ち」から32年がたっていました。
東大寺の仁王像とはまた違う内面のリアルが表現された仏像。
復興が落ち着き人々の心に余裕が生まれ始めた時代を感じ取る事ができるのです。
旅の終わり再び東大寺南大門へ。
そして何やら明かりがついております。
見えてきましたよ。
お〜っ!すごい迫力。
すご〜い!昼間より全然迫力ありますね。
すごい。
これはすごい。
ああ〜…かっこいい!これはたまらんなあ。
戦乱の時代にあったという事でそれを何とか…負の連鎖を断ち切りそこから「平和を」という願いを込めてという事だった…。
復興のシンボルという事がなんかすごく感動しましたね。
それが時代を超えて僕ら現代まで通じているわけですよね。
なんか僕は多分その当時の人たちと同じような気分に近いところの気持ちで見れたんじゃないのかなと思いますけど。
時代も価値観も何もかも違う世界なわけじゃないですか。
…にもかかわらずというところが今でも直接つながれる感じが力がある。
これが国宝の力なのかな。
なんか国宝っていうと「ハハーッ」みたいな。
神棚の上に。
はい。
といって遠ざけるものじゃなくてもっと自分の心とかに近い所で感じればいいんだなというような事を体験しましたので非常にうれしいですね。
よかった。
じゃあこれからの旅も興味を持って行けそうでしょうか。
もちろんですよ。
はい。
2015/05/05(火) 11:30〜11:55
NHKEテレ1大阪
趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第5回「東大寺・金剛力士像」[解][字]

今注目のライター橋本麻里が「国宝ワールド」へナビゲートする「橋本麻里と旅する日本美術ガイド」。今回から旅人にマキタスポーツが登場!巨大な金剛力士像に出会う。

詳細情報
番組内容
圧倒的な迫力に満ちた東大寺南大門の金剛力士像。筋骨隆々、独特の決めポーズから覇気が沸き立つ。その肉体美は、どのように生み出されたのか。天才仏師、運慶・快慶による高さ8mに及ぶ巨像には、「南都焼き討ち」からの復興への強い願いがあふれている。また興福寺北円堂の弥勒如来と無著・世親像にも出会う。東大寺・興福寺の“リアル”な仏像に込められた意味を探る“大人の修学旅行”マキタスポーツさんとぜひご一緒に!
出演者
【案内人】ライター、編集者、明治学院大学・立教大学非常勤講師…橋本麻里,【旅人】マキタスポーツ,【出演】清泉女子大学教授…山本勉,京都府立大学准教授、東大寺史研究所…横内裕人,【語り】中谷文彦

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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