NHKスペシャル「見えず 聞こえずとも〜夫婦ふたりの里山暮らし〜」 2015.05.06


最近大切な人の手を握っていますか?京都駅から電車と車を乗り継ぎ4時間。
ようやくたどりついた山あいの集落に一組の夫婦が暮らしています。
よろしく…。
(取材者)好彦さんも…。
僕も自己紹介する?えっと…。
皆さんこんにちは。
こら駄目。
(笑い声)よろしくお願いします。
あだ名は…終わり。
(取材者)ありがとうございます。
よろしいですか?
(取材者)大丈夫です。
あっOK?はい。
丹後半島の村々が朝を迎えました。
日本海に程近い山あいにその夫婦は暮らしています。
世帯数14の京丹後市弥栄町中津。
2人を訪ねたのは去年の夏の事でした。
おはようございます。
おはようございます。
(取材者)おはようございます。
どうもありがとうございます遠いところ。
夫の…散らかってますけど。
丹後半島に移り住んでかれこれ30年以上になります。
14年前に結婚した妻の久代さん。
目が見えず耳も聞こえません。
(取材者)じゃあよろしくお願いします。
朝はまず畑仕事に出かける夫のために弁当を作ります。
耳が聞こえなくなったのは2歳の時。
原因不明の高熱がきっかけでした。
30歳を過ぎた頃から視力も徐々に衰え50代になるとかすかな光しか感じられなくなったといいます。
久代さんは目と耳の代わりに手で触れてさまざまな事を知ります。
ソーセージの数や形。
水道の位置や家のどこに何があるかなど触って確かめた情報をつなぎ合わせる事で把握できるようになりました。
久代さんには食材が焼ける時の音もこんがりとした色も分かりません。
失敗を繰り返すうちに肌で感じる熱の強さや箸から伝わる振動で火加減を調整できるようになりました。
種類が多い調味料は容器の形を覚え見分けています。
ソースをかける時も実際に指先で触って確かめます。
20分ほどでお弁当が出来上がりました。
おそろいのマグカップを用意していよいよ朝食。
毎朝パソコンの前から離れようとしない好彦さんに声をかけます。
見えていなくても夫の行動はお見通しです。
(笑い声)好彦さんはいつもタジタジです。
ちょっとあの…テレビが始まるので。
2人には結婚以来続けている日課があります。
それは朝の「連続テレビ小説」を見る事。
「兄やん…ひょっとして連様が今どこにいるのかも知ってるんじゃない?知ってるなら教えて」。
「居場所知ってどうするだ」?
(花子)「会って話がしたいの。
連様今どこにいるの?」。
好彦さんは触手話という方法でドラマの内容を伝えます。
手話をする手に触れてもらい情報を伝える触手話。
久代さんが何より楽しみにしている時間です。
(テレビ)午前9時。
好彦さんは農作業へと向かいます。
田んぼや畑があるのは集落から更に車で20分ほど離れた山の中。
味土野という地区にあります。
畑仕事の前に立ち寄ったのは作業小屋。
結婚後もしばらく暮らしていた思い出の家です。
何用っていうか…好彦さんの田んぼや畑はあちこちに散らばっています。
どれも猫の額ほどの広さしかなく機械が入りにくいため手間がかかります。
荒れ果てた農地を地主から借り受けた好彦さん。
少しずつ手を入れながら作物が育つ田畑に戻してきました。
この辺りは野生の動物たちもたくさんいます。
(取材者)梅木さんこれは?はい。
(取材者)多いんですか?多いですね。
(取材者)手作りの仕掛けなんですか?あっやっぱりきてる。
大丈夫だ。
作物を育てるのに農薬や化学肥料は一切使いません。
そのため作物はどれも小ぶりで僅かな量しか取れませんが好彦さんはそれで満足なのだと言います。
そのころ自宅では久代さんが家の掃除をしていました。
浴槽をピカピカに洗い上げていく久代さん。
手で触った感覚を頼りに暮らしているため僅かな汚れやぬめりも気になってしまうと言います。
掃除が一段落すると久代さんはパソコンに向かいます。
昼休みに作業小屋に帰ってくる好彦さんにメールを送るためです。
久代さんのパソコンには文章が点字で表示される特別な機能がついています。
メールの中身はそのほとんどがたわいもない内容。
それでも時間さえあれば好彦さんにメッセージを送ります。
昼休み。
好彦さんは作業小屋でメールをチェックします。
離れていてもいつも互いを気遣いながら暮らしている2人。
好彦さんと久代さんが結ばれたのは共に50を過ぎてから。
それまでの人生は互いに苦労が絶えませんでした。
好彦さんは終戦の2年後大阪・堺市で生まれました。
幼い頃から内気でおとなしく時間があれば本を読んでいる少年でした。
夢中になったのが宮沢賢治とトルストイ。
土と向き合って生きる生活に強い憧れを持つようになりました。
大正7年作家武者小路実篤は宮崎県…。
高校卒業後親の反対を押し切って武者小路実篤が呼びかけた新しき村に参加。
集団生活をしながら自給自足の暮らしを目指しました。
11年後自分一人で一から農業を始めてみたいと全国を放浪します。
30歳を過ぎてようやく見つけたのが山深い丹後半島の村でした。
父が技術関係の仕事をしてたもんでねその技術の貢献…技術の進歩に貢献してまあ文明の発達をね進歩させるっていうのがまあ一番人間の幸福のためになる事だっていうような事をね。
果たしてそういう文明の進歩っていう事をね人間の幸福っていう事とつながってるんだろうかという事に疑問を感じてね。
みそやしょうゆはもちろん生活に必要なものはほとんど自分で作りました。
人から見れば不便で孤独な毎日も好彦さんには理想の暮らしでした。
しかし40歳を過ぎて気持ちに変化が現れます。
目が見えない人を支える活動に参加するようになった好彦さん。
そこで知り合ったのが久代さんでした。
久代さんの趣味は裁縫です。
若い頃手に職をつけようと和裁士の資格を取得。
以来針仕事には自信を持つようになりました。
今もその腕前を生かして裁縫の頼まれ事を引き受けています。
久代さんは大阪・岸和田で表具屋を営む家庭の次女に生まれました。
2歳で耳が聞こえなくなった娘に父親は毎日日記を書かせ懸命に言葉を教えました。
高校の先生の助言で和裁の学校に進学し資格を取得。
22歳で最初の結婚をしました。
しかし30代の頃から人生の歯車が狂い始めます。
結婚生活は長続きせず離婚。
追い打ちをかけるように視力まで衰え始めました。
周りの世界から一人取り残される恐怖。
自殺も2度試みました。
そんな苦しみの中で久代さんはその後の人生の道しるべとなる言葉と出会います。
久代さんが40代になって知ったのが触手話の存在でした。
目と耳の両方に障害があってもほかの誰かと会話ができる。
久代さんは次第に本来の明るさを取り戻していきました。
触手話ができる介助者をお願いしては積極的に外に出かける毎日。
そんなある日ボランティアを始めたばかりの好彦さんが現れたのです。
2人は何度か外出するうちに交際するようになりました。
2人は2年の交際を経て結婚。
好彦さん54歳久代さん51歳。
山深い丹後の村で久代さんも一緒に土と共に生きる暮らしが始まりました。
稲刈りを終えると農作業は一段落。
2人が一緒に散歩に出る時間も増えます。
好彦さんは季節の変化を見つけては久代さんに伝えます。
むかご。
町なかで育った久代さん。
この季節になると思い出す出来事があります。
結婚して生まれて初めて体験した稲刈りです。
久代さんは自分でも植物を育て始めました。
知人からもらったコケダマ。
いとおしむように水を与えては毎日指先で小さな変化を確かめています。
丹後半島の長く厳しい冬。
寒さが緩んだこの日。
好彦さんは山の奥にある作業小屋の様子を見るためにやって来ました。
雪と氷は建物の至る所を容赦なく壊していきます。
手入れをしないと春から使いものにならないためこまめな修理が欠かせません。
この家は14年前好彦さんと久代さんが結婚生活を始めた場所でした。
以来寄り添うように暮らしてきた2人ですが全てが順調だった訳ではありません。
好彦さんが自給自足の暮らしを求めて住み着いた山の家。
しかしそこでの生活は久代さんに大きな負担を強いる事になりました。
ひかれ合って暮らし始めたものの久代さんはいらだちを募らせます。
価値観や習慣の違いから年を追うごとにけんかが増えていきました。
やるんですよ。
妻に苦労をかけているという思いと長年追い求めてきた山の暮らしへの未練。
好彦さんは悩んだ末山を下りる決断しました。
里の集落に生活の拠点を移して以来好彦さんの暮らしは大きく変わりました。
この日やって来たのは大型スーパー。
それまで食べ物のほとんどを自分で作ってきた好彦さんですが久代さんの好みに合わせて買い物につきあうようになりました。
好彦さんにとってあふれる商品の中から目当てのものを見つけるのは至難の業です。
(取材者)買い物は楽しいですか?いまだに慣れない里の暮らし。
でも後悔はないと言います。
この日久代さんにうれしい出来事がありました。
大事にしていたコケダマから新しい芽が出てきたのです。
春がやって来ました。
2人は結婚15年目を迎えました。
(取材者)梅木さんおはようございます。
この日も久代さんは台所に立ち朝食の支度をします。
そして朝ごはん。
日課となっているドラマの時間。
最新作が始まりました。
今回のヒロインは久代さんの若い頃に似ているそうです。
この日久代さんは朝からそわそわして出かける準備をしていました。
好彦さんと久しぶりに山の家に向かいます。
2年ぶりに訪ねるかつての我が家。
2人が結婚生活をスタートさせた山の家。
ぶつかり合いながらも一つ一つ思い出を重ねてきた場所です。
ああしまった。
宝探しみたいに探さないといけないんです。
好彦さんは雪の重みでボロボロになった屋根の修理に取りかかります。
屋根の下では久代さんが引っ越しの時に持ち出せなかった大事なものはないか宝探しをしています。
さて掘り出し物はありましたか?何やったっけ?プレゼントした。
ホワイトデーにプレゼントしたらしい。
Dialogue:0,0:46:16.33,0:46:2015/05/06(水) 00:10〜01:00
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「見えず 聞こえずとも〜夫婦ふたりの里山暮らし〜」[解][字][再]

京都の山里に暮らす60代の夫婦。妻は目が見えず、耳も聞こえない。ふたりは互いの手を握り、その動きを読み取り心を通わせる。大自然に抱かれた二人の日々を見つめる。

詳細情報
番組内容
京都・丹後半島の山あいにある小さな集落に梅木好彦さん(68)と妻の久代さん(65)は暮らしている。久代さんは、目が見えず、耳も聞こえない。ふたりは互いの手を握り、その動きから手話を読み取る“触手話”により心を通わせ合っている。二人が結婚したのは、共に50代の時。厳しくも豊かな自然に抱かれた暮らしの中には、小さな幸せが満ちあふれている。人間にとっての幸せとは何なのか?ふたりの暮らしを通して見つめる。
出演者
【語り】樹木希林

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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