喝采〜蜷川幸雄と老年俳優たち 2015.05.06


私たちは皆母の胎内に宿る。
この世に生まれ出で年を重ねやがて老いてゆく。
パンツ一枚の破廉恥な姿で。
枯れゆく肉体を武器に演劇界に殴り込みをかけるユニークな劇団があります。
若返っていくような気がすんだよ。
世界にも類をみない高齢者演劇集団。
芸術の都パリの名門劇場で一世一代の公演を行う事になりました。
(一同)エイエイオー!これは第2の人生を演劇に懸ける老人たちの物語。
劇団の看板女優のお出ましです。
およそ1年ぶりに招集がかかったのです。
・あらまおはようございます。
(重本)おはようございます。
劇団結成以来苦楽を共にしてきた仲間たち。
またよろしくお願いします。
・よろしくね。
さいたまゴールド・シアターの団員は63歳から88歳までの39人。
さまざまな人生経験を積んだあと初めて演劇の世界に飛び込んだという人がほとんどです。
劇団のムードメーカー西さんの以前の職業は自衛隊。
誰からも頼りにされる遠山さんは45年間コツコツと電気部品を作り続けました。
おはようございます。
物腰やわらかな滝澤さんは元化粧品会社のビューティーアドバイザー。
病気で休んでる人もね見に来てくれて。
ひげがトレードマークの宇畑さんは鉄道員。
長年国鉄で車掌を務めていました。
劇団の主宰者はあの世界のニナガワ蜷川幸雄さん。
(蜷川)何だよ気持ち悪いな。
(一同)おはようございます。
豊かな人生の歴史を背負った人々と共に新しい演劇を生み出したいと9年前メンバーを公募したのです。
座ってよ。
後ろ…下がって座ってよ。
よろしくお願いします。
大丈夫ですか?目は見えないし耳は聞こえないし悲しいけど絶対今年は頑張ります!正直言ってね総決算ですよ人生の。
それがすごかったら俺は自分の仕事を否定していくわけだから。
演劇の力をさそうじゃないもう一つの…見た事のない演劇の力でそれを壊しちゃおうと思ってるわけだから。
ホント自分の終末がかかってるわけだからさ。
せりふ大丈夫?やってみた?昨日自分ちで。
入ってるの?・はい。
重本さんには通訳してあげて。
忘れちゃいました。
(笑い)まあやってみよう!黒く染まった鴉なんだよ!1か月半後のパリ公演に向けてまずは本読みからスタートです。
・虎婆!ところが…。
私たちは食っちまった孫たちを食っちまった。
いとしいいとしい孫たちを…。
あこれ違ったんだ。
ごめん。
重本さん人のせりふを食っちまったようです。
・私たちは食っちまった孫たちを食っちまった!誠実な私一人が…。
まだ本読みですよ西さん。
思ってはいたけどやっぱり大変ですね。
手伝ってって言ってよ。
立ち稽古が始まりました。
劇のオープニング象徴的な意味が込められた重要なシーン。
でもこれがお年寄りには大変なんです。
足思ったより短いんだから。
下に着くまで上手に支えるんだよ。
残り10センチでガタンっていっちゃうから。
水槽に入るって事に関していえば腰が曲がんない足またぐの大変だとかそういう何ていうのかな老いという問題を受け入れながらやってんだから少々の舞台上の齟齬が出てくるのは当然なんだと。
さあ仰天させるぞ。

(銃声)・今の銃声で指が動き始めます。
もっと明るくなるかな。
・もうちょっと動いていいですか。
手や首。
・ナンセンス!パリ公演の演目は…1971年30代の蜷川さんが劇作家清水邦夫さんと作り上げた伝説的作品です。
当時世界中で既成秩序にあらがう若者たちの反乱が吹き荒れていました。
作品ではなぜか数十人の老婆たちが法廷を占拠。
裁判官や検事などを人質に取って次々と死刑判決を下していきます。
当時若い俳優がふんした老婆たちの役を実年齢に近い本物の老人が演じるというのが今回の趣向です。
日本の女性たちが昔から現在に至るまでさまざまな思いで屈辱的な不正を強いられていたと。
その事に耐えれなくなって爆発してくわけで日本のいろんな女性たちの虐げられた思いってものがそこで出せないかなっていうふうに思ってそれを見てほしいっていうふうに思ってますね。
蜷川さんは今回新たな演出を加えました。
一人一人が亡くなった大切な人の遺影を用意しそれを背負って演技する事にしたのです。
私の愛する旦那のお父さんだから。
うちの旦那っていうのは10人きょうだいの10番目で末っ子なんですよ。
それでしんごろうさんっていうんですけどねしんごろうさんにかわいがられて…。
(宮田)えっとねツナ。
父方の祖母です。
明治になる前に生まれてた人だと思うんですよ。
「好きな事をしなさい。
好きなように生きなさい」と教えてくれた人。
人として私にはすごく大事な人なんですよ。
私のね弟なんです。
この弟は6年生で死んだの。
でもまさか遺影を背負ってねお芝居をしようなんて夢にも思わなかったの。
これを全員がしょってきたら舞台の上はすごいよな。
ヨーロッパの習慣に全然ないから俳優はそういう自分を触発してくれるものが背中にありながら演ずると演技も変わってくんじゃないんですかね。
オープニングに続く法廷シーン。
(ガベルをたたく音)静粛に!静粛に!検事続けなさい。
検事と弁護士の掛け合いが始まります。
「堪忍して!おばあちゃん」と被告が叫んだところから推測致しますと…。
殊に女性の場合単なる拒否のようにつまりおよしになってやめて…。
(遠山)というような…。
せりふをど忘れ?ごめんなさいごめんなさい。
・もう一回。
良かったです。
同じところ。
およしになって。
こんなオーバーアクションいいんですか?・大丈夫です。
・駄目だったら止めてるから大丈夫。
突如法廷に遺影を背負った老婆たちがなだれ込み無言のまま料理や掃除を始めてしまいます。
じゃいこう。
・こうなりました。
大串さんどうぞ。
そして老婆たちの怒りが爆発。
(宮田)ほらこれが人生ってもんよ!これが文明の進歩にも属さない人間の姿ってもんよ!そうだろ〜?・ざまあみやがれ!
(宮田)ざまあみやがれ!ここでもせりふ忘れが問題でした。
・もう一回いきますよ。
大串さんからいきます。
あんなちんけな若造に私たちの…使い慣らされた子宮…このちんけな若造に…。
寄ってって。
(大串)それがとっさにね出てこない時があんだよね。
私ね昔っからなんだけど本番の方がいいの。
(大串)黙れ坊や!ねえ抱くなら私を抱いて。
男は久しぶりなのよ。
ねえったら!この男の…私にこの男の罪を言わせておくれ。
何といってもこの男の最大の罪はこの私の肉体を拒絶した罪だわさ。
(田村)狂うといえばあたしゃとうから狂ってるのさ。
とうから憎悪の炎に切なく身を焦がしてきたんだよ。
自分の暗記するのと同じですね。
こうやって。
反響してくるからどうにかなまりもはっきり分かってくるような気するんです。
これを本当はトイレでやるんです。
(田村)狂うといえば…ってこうやってやるんです。
(遠山)堪忍して!という言葉であります。
堪忍しておばあちゃん…。
堪忍して堪忍して…。
これは許してくれという言葉と同義語で堪忍して…堪忍して…という言葉であります。
堪忍して…。
(西)ハハハッ…失礼しました。
分かってるんですか?弁護士という身分を。
分かってるんですか?こい君よ。
分かってるんですか?弁護士という身分を。
皆さんの味方ですよ。
皆さんの…これこれこい君こい君。
高齢者劇団の設立を思い立ったのは自分自身も70歳を越えた2006年の事でした。
原則55歳以上。
これからプロの俳優を目指す人を求めるという呼びかけに世界中から1,266人の応募がありました。
風よ吹け〜!吹き破るまで吹きまくれ!蜷川さん自らがオーディションを行い48人を選出。
こうして世界でも類をみない高齢者演劇集団さいたまゴールド・シアターが誕生したのです。
劇団はその後地道に公演を重ね独特の存在感で高く評価されるようになりました。
設立から9年。
劇団員の平均年齢は75歳になりました。
・じゃいきますよ。
これでえっと…重本さんが入ってくるところからいきます。
いくよ!・はい支度してます。
いろいろ生活始めて下さい。
よ〜いドン!劇団最高齢看板女優の重本さんです。
・あ〜虎婆こっちこっち。
声が若いよ。
以前と違ってつえなしでは歩けません。
・こっちだよ。
・看守!・看守!見えない兵士!・何をしてる!ただの脅かしだ!・重本さん何なら試してみなよ。
重本さん何なら試してみなよ。
自分の番になっても時々せりふが出てきません。
重本さんの番だって誰かつっつけっかな。
・徳納さん合図出せますか?そばにくっついてていいから。
じゃあ大丈夫ね。
ただせりふを忘れるとか耳が遠くなるとか相手の声が聞こえないから自分のせりふを言えないっていう場合があると思うんですけどそばにいた人がつつきゃいいんですよ。
いよいよ駄目だったら出てっちゃう。
最終的な覚悟ね。
(佐藤)おばあちゃん説明してくれよ。
何だいこれは…。
(2人)何だいってそりゃお前。
お前の言う日常の亀裂としての…。
(重本)これはお決まり文句だね。
(重本)はいスリッパ履いて…。
おしゃれが大好きな重本さん。
稽古の合間の楽しみといえば…。
なじみの美容院でのこの時間。
(大谷)今だからねお友達の…動けなくなった人のお弁当買いに…。
何で私にこの役がきたんだろう。
ホントに不思議でたまらなかったの。
才女のお化け。
これだけねもうバタバタ皆さんささよならしてるのに90歳になるんですもんね。
重本さんは…女学生のころ映画館で見た「風と共に去りぬ」が重本さんの憧れに火をつけました。
ヴィヴィアン・リーのやった役なんかをね教室でみんなの前でやってみせるの。
スカーレット・オハラこうだったのよ!とか言って。
女優を夢みて28歳の時に北九州から上京。
新劇の研究生となります。
しかし劇団は解散してしまい女優への道を断念。
ロシア文学を学ぼうと猛勉強し35歳で早稲田大学に入学します。
翌年13歳下の学生と結婚。
2人の子供をもうけました。
ところが夫の浮気が発覚して離婚。
重本さんは自宅で塾を開き女手一つで子供を育て上げました。
人間が背負わなきゃいけないような業は一とおり経験してきました。
デーンと私は動かなかったね。
それが女ってもんよ!
(一同)そうだ!そんな事を経験してからこそ今の私があるんだろう。
それを今の私が演じるんだからまあ何かのあれにはなってんのかもしれませんけどね。
子育てを終え仕事も引退した80歳の時ゴールド・シアターとの出会いでようやく夢をかなえたのです。
そして少女役から老け役まで抜群の演技力で劇団の看板女優と呼ばれるようになりました。
すごい色気を発揮しなきゃいけないところ大得意ですよ。
股ぐらにキスの雨を降らせておくれ!
(重本)男の子にキスをして自分の股ぐらにキスをさせようと。
あんなすっごい色気があるというのかわいせつだっていうか…あれも私ん中あると思います。
自分でやってて楽しいもの。
オホホホ…。
劇団きっての個性派男優といえば…。
自前の衣装もなかなかユニーク。
ホントに女性になるのに苦労します。
(西)だからこれだけは持ってきてるんです。
これは汗拭き拭きだ。
それからこれは…ちょっとねこれは浅くてねちょっと…。
(西)これもちょっとね薄すぎてね。
これもちょっとホントに…1,080円でした。
高かった。
そりゃ変に見られますよ。
変に見られますよ。
それを買う事によってねあ俺は役者やってるんだというようなね自覚が出てくるんです。
自分のこんな姿に憧れていましたよ。
パンツ一枚の破廉恥な姿でプライドもエゴも捨てて…ひどく純粋な気持ちでこの法廷に立ちたいと…!
(宇畑)始めはねしゃくに障ったけどね何だ一人ばかり目立ちやがってとかさそんなパンツ一丁だけはやめてくれという気持ちだったけど今はすっきりしちゃってやってくれと思いっきり。
すごい存在感があるんですよ。
もってっちゃうのね。
ふわっと。
散歩が日課の西さん。
途中必ず近くの神社を訪れます。
はらいたまえ清めたまえ守りたまい幸えたまえ…。
ここは江戸時代の名優ゆかりの神社です。
はらいたまえ清めたまえ守りたまい幸えたまえはらいたまえ清めたまえ守りたまい幸えたまえ!これで芸事は芸はね神さんにお任せして。
大空に憧れていた西さんは自衛隊に入隊。
パイロットになりました。
指導教官時代は鬼教官と恐れられる存在だったとか。
それまで全く演技経験のなかった西さんが突然思い立ってゴールド・シアターに応募したのは74歳の時。
初公演では恐怖におびえるバレエダンサーという難しい役に挑戦。
これですっかり病みつきになったといいます。
(西)飛び立つ時の気持ちですよ。
ジェット機で。
もう何というかねもうただ飛びたいって上がるんだ飛び上がるんだというだけで。
人生っていうのはああいうこういう人生もあるんだ。
それでね考え方が幅広くはなりましたね。
自分で体験できない人生を役をする事によって実体験のように感じてねありがたいです。
パリ公演まで1か月。
事件が起こりました。
稽古場に蜷川さんが姿を見せないのです。
・えっとちょっとね演出家入院してるんですよ今。
何となく情報ポロポロ…ちょこちょこ聞いてる人もいるのかもしんないですけど一応黙ってはいたんですけどおとといの朝に入院して左水を抜いて3リットルぐらい水を抜いて。
(一同)うわ〜…。
・原因はねちょっとまだ分からないんですけど。
肺に水がたまって緊急入院。
そして緊急手術。
蜷川さんもまた老いと向き合い闘っていたのです。
3日後また事件が起こりました。
(佐藤)重本さんの入りが遅れて…。
あ聞いた聞いた。
重本さんが現れません。
何かあったのか…。
世話係の佐藤さんが急きょ代役を務める事になりました。
途中ちょっと苦しそうだったから。
・苦しそうだったんですか?
(林田)夜電話したんだ。
「大丈夫よ大丈夫よ」って言ってたから大丈夫かって思ったんだけど。
(ガベルをたたく音)・はいどうぞ。
(佐藤)判決死刑。
刑の執行は撲殺。
(一同)や〜…。
1時間ほど遅れて重本さんが姿を見せました。
微熱があったのですが無理をして来たのです。
・誓います!・これ誰に向かって言うの?・誰に?・こりゃ…。
(重本)滝澤さんいつもすいません。
田村さん先に乗って。
(田村)先乗るね。
メンバーの誰もが重本さんの体調を気にかけていました。
(滝澤)そうですね。
ずっとなかったしね。
おうち帰ってゆっくりね。
うんそうね。
(滝澤)はい着きました。
(重本)ありがとうございました。
(田村)大丈夫?はい階段。
何か母にしてあげられる事が何もなくなったっていう事が代わりにさせてもらってるって感じ。
重本さんを送るという事は何か親孝行させてもらってるみたいな勝手な…勝手にそう思って…。
滝澤さんには稽古の合間を縫って通っている場所があります。
元気だった?しばらく来なかったね。
おおき…。
またね。
認知症のお母さんは娘の滝澤さんの事も分かりません。
また来るね。
一緒にやって…。
ん?アハハ…。
滝澤さんは化粧品メーカーで働き仕事と家庭を両立させてきました。
定年を迎えるころお母さんが発病。
介護が始まりました。
その事がかえってゴールド・シアターに応募する引き金になったといいます。

(滝澤)私今まで60年間何してきたのかな。
これから何ができるのかなみたいなのが一瞬思っちゃったんですね母たち見てて。
その先自分は何がとか思ったり母たちもきっとキラキラ光ってた時期もあったり何がしたかったんだろうなとか思ってた時でじゃあ私はこの先母の年になるまでどう過ごすのかなみたいなのを思ったら何か何か…したい事できたらいいなみたいなのを思った。
そうですねあんまり自分から先に表に出るっていう積極的にねそういうあんまりタイプじゃないように思ってたもんですからだからちょっとびっくりしましたよ。
ええ。
変わったと思いますね。
あの…まず強くなりましたね。
起き上がれ弁士!あんまり強くなってもらうと困るんだけど…。
それはね間違いなく思います。
ここにももう一人演劇で人生を変えたいと思った人がいます。
(神尾)新聞で出てたの。
あこれ私の今の気持ちだと思って…。
だからはさみ持ってくる間もなく手でちぎっちゃって…。
年はもうホントに誰にも平等にとっていくけれども枯れる枯れないはねその人の考えしだいだもんね。
そう思いません?ねえ。
別に若くいたいとかってそういうんじゃないんですよ。
科学なんぞくそ食らえ!神尾さんは24歳で結婚。
常に家庭が第一。
自分の事は後回しの人生でした。
70歳になりそんな自分から脱皮したいとゴールド・シアターの門をたたいたのです。
私は時間が欲しい。
うん…。
だから時間があればまだまだ私変わりたい。
変わりたいっていうのは変われるかどうか分かんないけれども深くみんなと一緒にやってみたい。
おはようございます。
蜷川さんが病院から戻ってきました。
おはよう。
顔色は心配したほど悪くはなさそうです。
いいよそのままで。
言いに来なくたって。
さあいこうか。
今日からステージを使った最終段階の稽古。
つまり良心があるならば!けっ!良心だって!良心とは私の事よ〜!「良心とは私の事よ〜!」って何でそうなっちゃうの?「良心ってのは私の事よ」って言えばいいんだよ。
こう演技に対する色気がバレバレなんだよ。
玄人みたいな職業俳優みたいな演技をしたがってるっていうふうに見えちゃう。
そういうような色をつけると…。
はい。
素直に昔のとおりやりゃいいんだから。
はい。
いくよ。
・金さんの終わり「つまり良心があるならば」。
金さん少し体半分は前の方にかけないと全部せりふが後ろで分からないよ。
はい分かりました。
もうベテランなんだから。
はい。
ほら背中ばっかりになんないで。
下手にかけ上手にかけた時。
場所はそこじゃないでしょ。
はい。
よ〜いドン!仕上げの段階蜷川さんの要求水準が格段に上がっていきました。
良心があるならば…。
・けっ!良心だって。
良心とは私の事よ!違うよ。
「良心とは私の事よ!」じゃなくて「良心とは私の事よ」ゆっくりやりゃいいんだ歌舞伎みたいに。
蜷川さんの厳しい駄目出しが続きます。
ちょっと待って待って…。
そのカツラが駄目だなやっぱり。
孫悟空だな。
・地毛なんですごめんなさい。
地毛?じゃもうしょうがない!手拭いかぶれ手拭い!あんなもん許せないよ!日本を代表する婆になんねえだろう。
蜷川さんどうして怒っているのか。
はるか昔から日本の女たちは屈辱的な思いをして抑圧の中に生きてきたと。
そういう歴史の堆積物が今ある女性たちの老婆っていう姿なんだって思うんですね。
日本の全歴史を背負った女たちが行くぞっていう事だと思うんですね。
で老婆は日本の老婆の典型的な印象をやってくれなくちゃ駄目で髪の毛が段だらだとかえっと…紫色だとかそういうふだんある自分を愛してて変えたくない人は降りていいや。
いらない。
ロコさんさ一度真っ白になったじゃない。
あれどうやったの?今ごろ聞くのかい?遅いかな。
黄色でしょ?その色を落とすためにブルーをかける。
それからあの…銀のメタル色のねクリームとあのあれで…。
困り果てた小渕さんは演出部に相談。
部分的にカツラを着けて地毛を隠す事にしました。
稽古が仕上げの段階に入ったころ…。
こんにちは。
・おはようございます。
重本さんはタクシーをやめて駅まで歩くと言い出しました。
少しでも体力をつけたいというのです。
あと20分しかない。
ここからちょっと急がなきゃね。

(典子)はいいってらっしゃい。
いってきま〜す。
(典子)気をつけてね。
舞台で死ぬって言ってますからね。
舞台の上で私は死ぬって言ってるんで…。
そこまでいくと思います。
稽古も残すところあと僅かとなりました。
判決死刑!・え?刑の執行は撲殺!
(一同)や〜…!限界はあると思うんです。
それは昔は片足でゆっくりできたのがヨロヨロするから何かに…机につかまるとかそういうところが鮮やかではなくなってくるだろうと思うんですね。
でそういうゴツゴツはかえって盆栽の松みたいで面白いかなと思っててそういう老いていく時のある種の何ていうかな不自由さはねあの…盆栽を見てるように違う芸術として見るほどうまくやりゃいいんだっていうふうに今は考えてますけど。
うつむく!100年の悲しみ!誰だよ下手の方でちょろちょろ動いてるバカは!100年の沈黙と悲しみ!
(無線)「第8法廷占拠の諸君に告ぐ。
当裁判所長が人質を手にする諸君と話し合いを求めている。
これより…」。
(無線からの呼びかけ)・はい一回止めます。
パリ公演に向けた稽古がようやく終わりました。
お疲れさまでした。
(一同)お疲れさまでした。
ちゃんとやるといいね感動的だね。
芝居はいいですよやっぱり。
見ながら70年にやった事を思い出すんだけど雑だったね…。
アングラはああいうとこが駄目なんだな。
よく分かった。
ホントのお年寄りがやるとこんなにも作品が違っちゃうんだってよく分かりました。
で頑張って下さい。
(一同)はい。
褒めたんだから頑張ってよ。
(一同)はい。
髪の毛良くなった。
それからあの…しょうゆで煮しめたような手拭いもね。
良くなった。
あれ良くなった。
ホッとしました。
あ〜良かったおかげさまで。
アハハ!だってドキドキした。
・すごい写真を…。
・いいねいい写真。
これは驚いた!世界中の注目作が上演される事で名高い名門…
(遠山)これは許してくれという言葉と同義語。
蜷川さんは再び体調を崩して入院。
パリに来る事はできませんでした。
その事をかみしめながら最終チェックに臨む団員たち。
法廷なんぞくそ食らえ!
(一同)わ〜!・劇団の看板女優である重本惠津子さんお誕生日を迎えられました。
(拍手)・「ハッピーバースデートゥーユー」
(拍手)89歳になりました。
(一同)イエーイ!皆さんも同じように長生きして頑張ってね!
(拍手)もう花を咲かせないと。
一世一代の…。
午後8時半。
いよいよ一世一代の舞台の幕が開きます。
頑張って下さいね。
よろしくお願いします。
(西)よいしょ!さらしというのはホント気持ちまでが締まってホントにうれしいです。
やるぞ〜って。
・鴉よ。
おお俺たちの死。
・鴉よ。
おお俺たちの日々。
(一同)鴉よ。
鴉よ。
(ガベルをたたく音)静粛に!「堪忍して!おばあちゃん」と被告が叫んだところから推測致しますと…。
おばあちゃんではなくてお母さんの間違いではないですか?良心だって。
良心とは私の事よ。
これが婆よ。
婆道の筋ってもんよ。
この気持ち分かるか六法野郎!
(西)気取りようがないからね。
しかし私はどこかで自分のこんな姿に憧れていましたよ。
パンツ一枚の破廉恥な姿でプライドもエゴも捨ててひどく純粋な気持ちでこの法廷に立ちたいと…!
(笑い)何をぶうたれてんだい!死ぬんじゃない!くたばってたまるか!生きるんだ!若者の血をよみがえらせて生きるんだ!日本の1万年前にあった真の闇よ。
私たちの憎悪を育んでくれた真の闇よ!私たちによみがえる力を与えておくれ〜!
(銃声)・鴉よ!恥で黒く身を染めた鴉よ!俺たちの日々の鴉よ!・鴉よ!・鴉よ!おれたちは弾丸をこめる…!
(銃声)
(拍手)・お疲れさまでした。
・お疲れさまでした。
お疲れさま。
・お疲れさまでした。
ありがとう。
大成功でしたね。
皆さんの温かいカーテンコールが…うれしかった…。
(田村)ありがとう。
良かったよ。
つい5〜6年前までは普通の人生を送るだろうと思ってたらこんなパリまで来て芝居をやってしかもその最中に自分の89歳の誕生日を迎えるなんて…。
ちょっと全く想像できない人生でした。
ホント皆さんたちの人生だってそうよ。
何が起こるか分からない。
だからやっぱりその日その日を精いっぱい生きてくしかないですね。
・お疲れ〜。
・お疲れさまでした。
お疲れさまでした…。
(拍手)良かったよ!
(一同)ありがとうございます。
2〜3直したかったけど。
お疲れさまでした。
良かったです。
はいうれしいです。
じゃあもうちょっと長生きしなきゃね。
お互いにみんな長生きしましょう!じゃ頑張ろうね!
(一同)はい。
子どもたちの目「天使のアングル」で世の中をのぞいてみると…2015/05/06(水) 15:05〜15:55
NHK総合1・神戸
喝采〜蜷川幸雄と老年俳優たち[字]

蜷川幸雄が率いる、平均年齢75歳の高齢者演劇集団「さいたまゴールドシアター」が、パリ公演に挑むまでの3か月に密着。「老い」と戦う老俳優たちを追う。

詳細情報
番組内容
「さいたまゴールドシアター」。蜷川幸雄が率いる、平均年齢75歳の高齢者演劇集団だ。劇団員のほとんどは、自衛官、教師など様々な職業を体験してきた演劇の素人。今回パリの名門劇場からオファーがあり、公演が決定。番組は、パリ公演までの3か月に密着した。劇団員の最大の敵は「老い」。持病を抱えた俳優も多い。パリ公演の夢に向かってひた走る老俳優たち。果たして、彼らの演劇はパリの観客の心をつかむことができるのか。
出演者
【出演】蜷川幸雄,さいたまゴールドシアター,【語り】寺島しのぶ

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
劇場/公演 – その他
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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