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アメリカで若者の消費スタイルが、いま大きく変わってきたという。家や車、大型AV機器などを持つことには関心が薄く、無駄な出費もしない。その代り、気に入ったモノなら値段が少しくらい高くても買う。そんなお金の使い方が広がっているとのこと。ファッションへの関心と消費の仕方も、上の世代とはかなり違ってきているようだ。
この若者世代は“ミレニアルズ(Millennials)”と呼ばれているとのこと。1980年ごろから2000年代初めの生まれで、中心は20代。インターネットに慣れ親しんだ最初の世代で、働き始める頃にリーマン・ショック以後の不景気の波を受けて上の世代とは違う消費スタイルを示すようになったという。
その特徴はたとえば、買い物は店よりネット購入が中心、買うよりレンタルや共用、健康志向……。車なら「力強い走り」とか「異性へのアピール性」などには興味を感じず、燃費重視で買うよりも必要な時に借りればよい。食べ物は地場の食材を使ったヘルシーな料理が好きで、健康によくないハンバーガーなどは絶対に食べない、といった具合。
ミレニアルズはいまやアメリカの人口の約3割を占める。彼らのこのような傾向は一種の脱消費化とも言え、消費額全体の低下につながるのでモノやサービスの作り手・提供者側に深刻な影響を及ぼすことになるだろう。
しかし考えてみれば、若い世代の消費への好みがモノの作り手やサービスの提供者に大きな影響を与えたのは、これが初めてというわけではない。最初の衝撃は、若者文化が世界的に活発化した60年代から70年代にかけてのことだった。若者といえば以前はただの未熟な存在とされていた。だが第2次世界大戦で大人中心社会の基盤が揺らぎ、戦後のベビーブームの世代の若者たち(日本では団塊の世代)が社会の中での自分たちの存在や考え方を主張し始めた時だった。
その後も日本では団塊ジュニア世代、ハナコ世代など続く若い世代がそれなりに消費社会を刺激し続けてきた。その結果、消費社会は大人よりもむしろ若者の好みに重点を置くことが世界的にも一般的になった。そうした変化を最も早くから中心となって担ってきたのがファッションだった。現代のファッションは常に現在であり続けることが求められている。だからいつも若々しく新鮮に見えることが必要で、それが若者の特徴またはそのイメージとぴったり重なったからだ。
しかし、若者たちがアグレッシブで消費を刺激してきたのは、世界の資源や環境にまだ余裕があると思われていたからだ。資源・環境への根本的対策が待ったなしに迫られている今、ミレニアルズと呼ばれるアメリカの若者たちの消費スタイルの変化は、以前とは質が異なる大きな流れとなるのではないかという気がする。
日本ではミレニアルズよりも少し早く、1980年近辺に生まれた20代後半のバブル後世代と呼ばれる若者たちの“嫌消費”傾向が指摘されている。収入に見合った支出をしないのが特徴で、高価格品のブランドイメージにもただの低価格品にも興味を示さず、自分が納得のいったモノしか買わないコンパクトな消費スタイルなのだという。
先進国の中では90年代にいち早くバブル崩壊を経験して長い経済停滞に陥った日本では、アメリカや西ヨーロッパ諸国よりも早く若者たちが時代の大きな転換期の流れを敏感に受け止めたのだろう。アメリカではかつての超人気カジュアルブランド、アバクロンビー&フィッチがミレニアルズから敬遠されて経営ピンチに陥った。日本ではもっと前からラグジュアリーブランドもユニクロやH&Mなどの低価格ブランドも、若い世代からは最先端のおしゃれとはみなされなくなっている。日本独自でしかも多様性に富んだミックス感覚の装いがクールとされていて、世界の若者たちからも注目されているのだ。
1972年、東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。
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