山村美紗サスペンス 京都花見小路殺人事件 2015.05.11


(白川貴絵)和美さんもどないです?お着物着てみはりませんか?
(狩矢和美)えっ?私がですか?
(藤乃)そらええわぁ。
和美さんやったらおきれいやしお似合いどすえ。
そうですか?藤乃さんありがとう。
でも仕事中だし…。
着付けの取材やったら着てみはったほうがええんと違います?やっぱりそうですよね?じゃあお願いします!和美さんそれ帯が裏返しやわ。
えっ!?あっそうなんですか?やだ恥ずかしい…。
これ着て今日のお座敷の取材行っちゃおうかな。
お座敷ってお茶屋さんの取材も行かはるんですか?ええ。
京南医大の飛鳥井先生が学部長に就任されることになって今日はそのお祝いの席を取材させていただくことになってるんです。
いやぁほなよし乃のおかあさんとこですか?はいそうです。
そら縁起がええわ和美さん。
縁起がいい?そのお座敷に舞妓の豆香ちゃんが襟替えのご挨拶に伺うことになってはるんです。
襟替えって舞妓さんから芸妓さんになる?ええ。
今度はいち香さんいう名前にならはるんですけど私もお手伝いさせていただくことになってるんです。
うちもお座敷に呼ばれてます。
そうなんですか?じゃあよろしくお願いします。
似合うてますえ。
ホントですか?うん。
あれ…?夏目君!
(夏目利彦)えっ?和美!?和奴どす。
よろしゅうおたの申します。
和奴って…。
どうしたんだよ?その格好。
どうしてそういう言い方しかできないの?きれいだねとか美しいねとか言えないの?ああ…きれいだね。
遅いわよ!大体どうして夏目君がここにいるの?いや…襟替えのお披露目があるから見に来ないかって貴絵さんが…ねえ?誘ってくれたんだよ。
飛鳥井先生と女将も快う了承してくれはったんで。
ふ〜ん。
そういうのだとすぐ駆けつけてくるんだ。
私の時にはデートもできないなんて言ってるくせに。
いやだってこれも新聞記者の仕事のうちだし。
よく言うわよ!いつも仕事仕事って言ってたのはそういうことだったのね!?いやだからさもう…。
ケンカは後にして行きましょうか?はい。
(貴絵)ごめんください。
(三上陽子)お越しやす。
おかあさんご無沙汰してます。
貴絵ちゃん元気そうで何よりやわ。
お陰さまです。
こちらが…。
(三上悟)ただいま。
いや先生…お早いお着きどすこと。
(飛鳥井誠司)今そこで悟君と一緒になってね。
先生学部長就任おめでとうございます。
ああ貴絵さんどうもありがとう。
こちら先程お電話差し上げたカメラマンの狩矢和美さんと新聞記者の夏目利彦さんです。
飛鳥井です。
今日はありがとうございます。
ありがとうございます!息子の悟どす。
あら女将さんの息子さんなんですか?京南医大病院の研修医です。
飛鳥井先生の教えを受けてます。
まあ!お医者様なんですか?すごーい!
(咳払い)
(猫の鳴き声)うわっ!猫お嫌いなんですか?肌が弱くて触るとアレルギーが出てしまうんです。
招き猫は大丈夫なんどすけどねぇ。
(猫の鳴き声)
(三味線)どうぞ。
前学部長の遠山元治さん。
飛鳥井先生の義理の父親だ。
あとは助教授とか前途洋々の若い研修医さん…。
(増田幸男)いずれもこれから京南医大病院を背負っていく優秀な人たちですよ。
1人を除けばね…。
1人を除けば?ええ。

(お座敷小唄)夏目さんも遊んでみはりまへんか?えっ?僕がですか?とらとらどうどすやろ?いやぁ…。
貴絵ちゃん久しぶりにどうえ?はい。
貴絵ちゃんって昔は踊りももてなしも祇園芸妓ナンバー1のうえにとらとらも強かったんどすえ。
貴絵さんやっぱりナンバー1の芸妓さんだったんですね。
そんなことありませんけど…。
辞めるなんて言われた時には必死で止めたんどすけどこの人ほんま強情やさかい。
おかあさんもう昔の話はやめ。
ふふ…はいはい。
ほな夏目さんどうぞ。
あっはい。
じゃあ頑張ります。
何ようれしそうににやけちゃって…。
「とらとーらとーらとらとらとーらとーらとら」「千里もあるよな藪の中皆さんのぞいてごろうじませ」「金の鉢巻たすきに和藤内がえんやらやっと捕らえしけだものは」「とらとーらとーらとらとらとーらとーらとら」まったくもう…。
(藤乃)いち香あんた何言うてんの?
(いち香)そやさかいあのことバラしたらあの人らどうなるやろかて言うてるんや。
絶対に許さへんえ。
そんなことうちの勝手や!あんたここにおられへんようになるえ?かまへんわ。
行くとこあるし。
あんた…。

(陽子)皆さんもうご存じや思いますけど舞妓の豆香が今日から芸妓のいち香になりますよって皆さんにご挨拶にまいっております。
ほな…。
今日から芸妓になりましたいち香どす。
よろしゅうおたの申します。
おめでとう。
おおきに。
おめでとう。
おめでとう。
おめでとう。
おおきに。
(遠山元治)おめでとう。
おめでとう。
(いち香)おおきに。

(長唄)あの踊り『黒髪』?ああ。
舞妓の時には舞うことのないままならぬ恋の舞だ。
ままならぬ恋…。
痛っ!いち香ちゃん?きゃあ…!いち香!いち香!先生!どうですか?亡くなってる…。
そんな…!いち香ちゃん…。

(パトカーのサイレン)
(橋口刑事)狩矢警部ご苦労さまです。
やばい!お父さん…。
ちょっと…。
そこそこ…。
芸妓のいち香。
襟替えの挨拶に来ていた席だったそうです。
(狩矢警部)襟替えか…。
せっかくのめでたい席で気の毒にな…。
和美…!お前…何でこんなとこにいるんだ?えっ!?何だその格好は。
仕事。
仕事!?そんなアルバイトしてんのか?えっ!?アルバイトで芸妓さんなんかできるわけないでしょ!?だったら何でそんな格好して…。
夏目君…。
あっどうもお世話になってます。
いや僕も仕事で…。
仕事!?君たちはどうしていつも仕事とデートが一緒なんだ?他にもっといい場所があるだろう!自分こそ仕事仕事でお母さんを食事にすら連れてったことないくせに!うるさい!今そんな話しなくたって。
夏目君は黙っててよ!ああ君たち…。
殺人現場で痴話ゲンカはよしなさい。
もう…。
じゃあやっぱり殺人事件なの?えっ…?ああ…。
医者の皆さんが病死じゃないって言ってるんだからだったら…。
血痕だ。
お父さん着物の中じゃない?これだ…。
この針に毒物が塗ってあったのかもしれん。
そんな細い針で…。
附子だな…。
はあ!?何よ急に!私にケンカ売るつもり!?違うんだよ。
狂言にある附子っていう毒じゃないかと思ってさ。
附子っていう毒?ああ。
トリカブトの根から作る毒物さ…。
ええ。
昔は矢じりに塗って熊を殺したりしたらしいですよ。
わかってる。
あっ…すいません。
(山野美野里)狩矢ようやった!着物特集にお座敷の取材で殺人事件やなんてもう何ちゅうグッドタイミングや!
(柴田健治)そうですよねぇ!でも何でこう私の周りには事件ばっかり…。
狩矢それも運命や!祇園殺人事件白塗りの下に隠された殺意!華々しいですよね!そや。
チャンスや。
この調子でスクープモノにするんや!
(中山清志)これでやでひょっとして和美ちゃんが犯人やったら真犯人に独占インタビューとかいうてそれこそ大スクープやねんけどな。
それええわ!さっすが清志さん!頭ええわぁ。
そやさかい大好きなんやけどな。
2人で何言ってるんですか失礼な。
清志さんこんなとこで油売ってないでそろそろ家に戻って社長のお弁当作る時間なんじゃないんですか?あっ…そや言うの忘れてた。
ダーリンに今日からここで働いてもらうし。
うちらやっぱり1秒たりとも別々には生きていかれへんし。
ほんまやなぁ。
けどやで社長秘書兼ボディーガード清志ってこれちょっとええ響きやし。
う〜ん!ちっとも。
ほな社長ちょっと時間早いですけどそろそろお昼のお弁当にしましょうか。
ふふふ…。
あんたの分ないねや。
悪しからず。
もともと結構ですから。
じゃあ私白塗りの下の殺意を暴いてきますから。
頑張ってスクープ取ってくるんやで!いってらっしゃーい!もう…。
頑張ってー!頑張ってねー。
いってらっしゃい。
(橋口)昨夜の殺人事件の被害者はお茶屋よし乃の芸妓いち香。
本名青木かおり二十歳。
死因はアコニチンという毒物による急性中毒。
これはトリカブトの根から作ることができます。
やはり附子か…。
その附子を塗った針がいち香の着物の袖に仕込まれていました。
それから司法解剖の結果いち香は妊娠3か月であることが判明しました。
何?妊娠!?ああ。
いち香さんの遺体を調べた監察医から聞いたんだけど妊娠3か月だったそうだ。
舞妓さんが妊娠だなんて大事件ね。
相手は誰だろう?まあ名乗り出ないところをみるとわかっては困る人だろうな。
でもその相手を突き止めるのって大変。
祇園は口が堅いし。
うん…。
それで警察は何を調べてるの?まずはいち香さんの怨恨関係だ。
祇園のお茶屋さんや周辺のスナックやクラブの聞き込みを始めたらしい。
いち香さんの赤ちゃんの父親を突き止めるのが捜査の第一歩かもね。
祇園芸妓殺人事件の現場お茶屋よし乃の前に来ております。
事件は昨夜7時半頃こちらのお茶屋よし乃で…。
あっ狩矢警部!
(ざわめき)妊娠やなんて…。
お相手に誰か心当たりはありませんか?うちもさっき聞いてびっくりしたくらいどすさかい見当もつきまへん…。
いち香さんをひいきにしているお客さんは?いち香は器量よしの子どしたさかいにごひいきにしてくれはるお客さんはぎょうさんいはりましたけど…。
例えば…。
それは刑事さんここは祇園どすさかい…。
祇園の掟で話せない?聞こえへんのどす。
(ため息)えっ?嘘…!?そうなの?へえ〜。
よう!昼間っから両手に花でおめでたいわね!なに妬いてるんだよ。
仕事だよ。
あっそう。
お仕事ご苦労さまです。
(美寿々)何やおにいさん彼女いはったん?えっ?いや彼女とかそういうんじゃないんだけどね…。
そうです。
ただの知り合いです。
イテッ…!はは…。
あのこちら美寿々さんと豆菊さん。
おきれいね。
(美寿々・豆菊)おおきに。
ここだけの話いち香さんのことなんだけどね。
はい。
いやぁエステの優待券どすか?うれしいわぁおおきに。
ああいいえ。
いち香さんて舞妓の時から口が軽かったんどすえ。
口が軽い?例えば?どこぞの社長さんと部長さんがこの間お見えにならはってとかライバルのお客さんに言うてかわいがってもらおうとしはるようなとこがあったいう噂どす。
それでいっぺんよし乃のおかあさんからきつうしかられてはりました。
この間は藤乃ねえさんがあるお客さんに言い寄られたはるさかい2人はできてはるっていち香さんあちこちで言いふらしてはったみたいどす。
藤乃さんのことを?いち香あんた何言うてんの?ここにおられへんようになるえ?かまへんわ。
その藤乃さんのお相手って…。
それは言えまへんわぁ。
祇園どすさかい。
へえ。
でもそんなこと言いふらすなんて藤乃さんといち香さんって仲が悪かったのかなぁ?さあよう知りまへん。
なあ?ええ。
全然知りまへん。
あのこれ上賀茂のおやきです。
よかったら3時のおやつにどうぞ。
いやぁ…おおきに。
いやぁ…。
そや思い出した。
でしょう?あの2人男の人を取り合うて仲悪いいう噂を聞いたことがありますけど…。
男の人って…?男の人って悟さんのこと?よし乃の息子さんの。
さあそれは言えまへんわ。
祇園どすさかい。
もう何かないの?えっ?いやないよ…。
もう!いち香さんと藤乃さんが女将さんの息子の悟さんを取り合ってたとはね…。
ってことは三角関係のもつれか?じゃあいち香さんのお腹の赤ちゃんって父親は悟さん!?…かもしれないな。
悟さんって真面目そうに見えたけど二股だったのかなぁ?だとすると藤乃さんがいち香さんを…?確かにいち香さんとは言い争ってたけどでもいい人よ藤乃さんって。
いやでも人間思いつめると何をするかわからないぞ。
そうかもしれないけど…。
和美…藤乃さんといち香さんが言い合ってたことお父さんに報告しとけよ。
どうしてよ?いや…父と娘ほらいつもケンカばっかりしてるからたまには親子のコミュニケーションとったほうがいいと思うからさ。
それに和美にはあんまり事件に首を突っ込んでほしくないし。
私事件に足を踏み入れたからには事件の真相を知るまで絶対に引き下がらないの知ってるでしょ?えっ?まあね…。
この事件のカギを握るのは藤乃さんと悟さんね。
うん…まあそこが突破口かもしれないな。
あっお呼びだてして申し訳ありません。
いいえ…。
実は藤乃さんといち香さんが三上悟さんと三角関係にあったと聞き込みがありましてね。
それはまったくありまへん。
ああそうですか。
それじゃあ藤乃さんと三上悟さんとは…?それもありまへん。
悟さんはおかあさんの息子さんどす。
そんな大それたことうち…。
(陽子)刑事さん!あかあさん…。
この子といち香は姉妹のように育った仲どす。
犯人なんかやおへん。
行きましょう藤乃ちゃん。
(ため息)藤乃ちゃん。
今日のお座敷は休みにしといたわ。
あかあさんおおきに…。
助けに来てくれはってうれしかった。
当たり前や。
あんたはうちの娘や。
ほな悟さんのことも…?それはあかん。
悟とはきっぱり別れて。
何でどすか!?あんたには悪いけどあの子は花街とは何の関係もない世界で生きてもらいたいんや。
つらいやろけどわかって。
あの子とは別れてちょうだい。
そやけどおかあさんそれだけはできひん…。
堪忍しとくれやす…。
妊娠やて!?ええ3か月ですって。
そらまたえらいスクープやないか!祇園の夜に咲く禁断の愛の結晶!どや?そらええがな。
さすが美野里ちゃんやな。
お見事!ふふふ…。
ほな父親は誰や?そらその三上悟っちゅう女将の息子やろ。
お茶屋の女将の息子が妹筋の2人の芸妓とただれた関係!そらまたこれセンセーショナルやなぁ!でも社長もし悟さんの子供だとしたらおしゃべりないち香さんのことだから自分のお腹には悟さんの子供がいるってみんなに自慢してまわるような気もするけど…。
それもそやな…。
じゃあその女将に訊いてみたらどうですか?うん?お宅の息子さん芸妓さん妊娠させはったんちゃいまっかー?ってか?そんなこと話してくれるわけないじゃないですか。
自分の子の悟さんだって誰が父親なのか本人以外誰も知らないっていうのに。
そやな…。
祇園やさかい口は堅いわなぁ。
うん…しかしその悟ちゅう男もさっぱりわからんな。
ほんまに好いて好かれる相手っちゅうのは1人おったら十分幸せやと思うんやけどな。
うちも今同じこと考えてたんや。
祇園ではそう単純にはいかないんですよ。
接客業だもん。
単純で悪おしたな。
単純やさかい今日も社長の分しかお弁当作ってきてまへんの。
あんさんの分はなし。
悪しからず〜。
だから結構です!これからもずーっと結構ですから。
社長一筋でどうぞ!何カリカリしてんの?あっ最近夏目君とうまいこといってへんのや?ははは…。
ゆっくりデートしたかったらさっさと着付け教室のパンフレットの写真撮ってきよし!わかってます!いってらっしゃーい!頑張ってねー!これでよろしいか?そやね。
今日は藤乃さんいらしてないんですね。
ええ。
急に用事ができて来られへんようになったってさっき藤乃ちゃん本人から連絡があって。
急用ですか…。
売れっ子の藤乃ちゃんがいいひんとパンフレットお願いするにも今ひとつ華が足りひんし残念やわ。
そうだ!貴絵さんがモデルになってくださいよ。
私なんかあきません。
よし乃のおかあさん言ってたじゃないですか。
貴絵さんみたいに素敵な芸妓さんはいなかった。
なのに急に辞めてしまって残念だって。
それはおかあさんの買いかぶり。
私は気も利かへんし働きも満足にできひん。
芸妓にはちっとも向いてなかったわ。
そやけど今はこうして好きな着物の仕事に携われるのを心から楽しんでるの。
そうなんですか。
でも潔くていいですよね。
(悟)母さん!どうしたんだよ?藤乃ちゃんのこと…うちは許さへんえ。
どうしてだよ?いいじゃないか芸妓だって。
絶対にあかん。
どうして!?女将さん…。
狩矢さん何か?ちょっと悟さんにお話があって。
こちらにいるって病院の方に聞いたので。
悟に…?どんなご用どすか?いいよ母さん僕が疑われるのは仕方ないんだ。
悟…。
じゃああちらで…。
はい。
申し訳ありません。
三角関係ですか?それは真実ではありませんね。
藤乃さんのこともいち香さんのお腹の赤ちゃんのことも?ええ。
いち香さんは亡くなってしまいましたが藤乃さんはまだ祇園の芸妓です。
そんな噂を広めてほしくありません。
悟さんもしかしていち香さんを殺した犯人に心当たりでも…。
あなた…藤乃さんが犯人だというんですか?彼女のことを随分前から知ってますがそんなことするような人じゃありません!ごめんごめん!ごめんで済んだら警察はいらない!あっじゃあお父さんいらないって言うの?えっお父さんは…大切な人だよ。
うん。
いや…和美がいつも俺に言うことをあえて言ってやったんだよ。
よく言うわよ!いっつも夏目君のほうが遅れて来るくせに。
えっそうだっけ?何でこう取材や事件絡みじゃないとデートできないの?えっ?いや…事件を呼ぶデートっていうのもそれもいいんじゃない?いいかどうか知らないけど…ねえ何かわかった?やっぱり附子だったよ…。
何ですって!?いや違う…!だから毒だよ毒。
いち香さんを殺した毒。
ああ附子。
さっき警察発表があったんだ。
トリカブトの毒だって。
そうかそれでここで待ち合わせなんだ。
そういうこと。
トリカブトは草全体に毒があるんですが中でも根の部分に強い毒があって口に入れてしまうとしびれや嘔吐知覚麻痺から心臓リズムを破壊し死に至るんです。
へえ…。
きれいな花なのに怖い植物なんですね。
あのどのあたりに自生してるんですか?北海道から九州まで日本全土の山地などの日当たりの良い少し湿った場所に自生してますが…。
あの…何かあったんですか?どうしてですか?いえ…1週間ほど前にもトリカブトのことを詳しく聞きに来た女の人がいたんですが…。
女の人!?あの…その女の人この中にいませんか?この人!?それともこの人!?いや和美。
さすがにこういう格好じゃここへは来ないって。
ああそっか。
そうよね。
じゃあ…この中にはいませんか?ああこの女の人です。
藤乃さん!?ほらやっぱり…。
でも…また別の日には男の人も来たんですよ。
男の人!?ええ。
その男の人この写真の中にいませんか?えっと…この人です。
藤乃さんと悟さんが別々にトリカブトのことを調べていたなんて…。
ここから先はお父さんに任せたほうがいいかもしれないな。
どうしてよ?せっかく事件の核心に迫りつつあるのに…。
これ以上事件に首を突っ込んだら危ない!お父さんみたいなこと言わないで。
和美…。
とにかく。
もう一度藤乃さんに会ってみようよ。

(狩矢澄江)和美ご飯よ。
はぁい。
何だお父さん帰ってたの?ああ…。
やっぱりあの毒トリカブトだったのね。
犯人の目星はついた?お前には関係ない。
そんなことに首を突っ込んでないで夏目君ともっと建設的な話でもしたらどうだ?いつまでもちゃらちゃらと…。
ちゃらちゃらって何よ。
またやってる。
もう…。
今日はちょっと重要なことつかんだけど教えてあげなーい。
重要なことって何だ。
知らなーい。
言いなさい。
いーや!はいはい。
お待ちどおさま。
うわぁかに鍋!わあ〜うまそうだな。
いただきまぁす。
あちっ。
うう…。
ははは…。
何だよ。
かに鍋で正解ね。
何で?たまには静か〜な食卓もいいなっと思って。
あっここだな。
うん。
ここだわ。
ああ。
(チャイム)
(チャイム)まだ寝てるのかな?うーん…。
ちょっと裏に回ってみようか。
うん。
(ノック)夏目君!えっ?ええっ!?おいっちょっと…。
ちょっと離れて。
藤乃さん!どう?
(カメラのシャッター音)夏目君。
えっ?「私はいち香ちゃんが憎かった」「悟さんの子供ができたと聞かされてどうしてもいち香ちゃんのことが許せませんでした」
(藤乃の声)「自分で自分のしたことが恐ろしい」「もうこれ以上生きていくのに耐えられません」「ごめんなさい」「どうか許してください」「藤乃」遺書?ああ…。
やっぱり藤乃さんがいち香さんを殺した犯人だったんだ。

(パトカーのサイレン)
(カメラのシャッター音)
(橋口)ご苦労さまです。
お前たちまたか!?第一発見者ですからきちんと対応してください。
何を言って…あきれてものも言えん。
そんなことよりお父さん。
この部屋は密室よ。
密室…?ええ。
どこも鍵がかかっていて外から侵入した形跡はありませんでした。
そういうことは警察が調べる。
すいません…。
だってそうなんだもん。
ねえ?橋口さん。
ええ。
大家さんの話によると藤乃は用心のために合鍵の作れない特殊な鍵に付け替えていたらしく大家さんと藤乃しか鍵は持っていなかったようです。
ふうん…。
それからそれ。
(橋口)遺書のようです。
自殺とみて間違いないでしょうね。
(橋口)毒物ですかね?ああ…。
カップや鍵が散乱してる。
よっぽど苦しかったんだろう。
でもお父さんこれ…。
自殺する人がわざわざ携帯充電するかしら?それに…何かあるはずのものがないような変な感じ。
こんなところにいるはずのないお前たちがいることのほうがよっぽど変な感じだ!ほらもういいから出ていきなさい!
(ため息)まったく…。
検視の結果藤乃の死因はアコニチンの中毒。
トリカブトの根から作られたもののようです。
いち香が殺害された毒物と同じだな。
死亡推定時刻は?昨夜の午後11時から午前1時の間だそうです。
玄関の鍵も窓もすべて閉まってましたし自殺以外考えられませんね。
うーん…。
藤乃さんが自殺するなんてやっぱり引っ掛かるのよね。
確かに遺書がパソコンで書かれてあったっていうのも気になるしな。
飛鳥井先生だ…。
藤乃さんのお悔やみに来たんだろう。
(猫の鳴き声)先生そんなに逃げなくても大丈夫ですよ。
あっいや…猫に触ると湿疹ができるんでね。
おかあさん。
おかあさんお客さんどすえ。
和美さん…。
藤乃さんのことご愁傷さまです。
ご丁寧に…。
まさか藤乃さんまでこんなことになるなんて…。
あの…悟さんは?悟に何か?悟が今度のことに何か関係してるとでもおっしゃりたいんですか?おかあさん…。
悟さんとお付き合いがあったと噂されているいち香さんと藤乃さんが亡くなられたので…。
夏目君。
お帰りください。
もうこれ以上祇園にかかわらんといてください!せっかく来てくれはったのにごめんなさい。
おかあさんまいってしもてはるの。
そうですよね。
かわいがっていた2人の芸妓さんが立て続けにあんなことになるなんて…。
何でこんなことになってしもうたんやろ…。
あの…悟さんは大学病院のほうですか?ええ。
今日はどうしても休めへんとかで…。
そうですか。
恋人だった藤乃さんが亡くなられたばかりだっていうのに…。
おつらいでしょうね。
和美さん…おかあさんも言うてましたけどもう祇園にはかかわらんといてもらえますか?でも…。
それでなくても芸妓が2人こんなことになって祇園は大打撃やし…。
これ以上騒ぎを大きしたないんです。
お願いします。
藤乃さんの遺書拝見させていただきました。
悟さんやっぱりいち香さんと…。
この間は嘘を言って申し訳ありませんでした。
いち香とは3か月ほど前にたった一度だけ。
そういう関係になってしまったんですね?酒のせいにするのは卑怯ですがいち香にも藤乃にも申し訳ないことをしたと思ってます。
そのことを藤乃さんは?いち香の性格を考えると藤乃に直接話していたのかもしれません。
赤ちゃんのこと悟さんご存じだったんですか?いち香から聞きました。
でもいち香は他の男性と関係を持っていたという噂もありましたし…。
他の男性?噂です。
先日薬用植物研究所へ行かれましたよね?トリカブトのことを調べに行ったそうですね。
それは作成中の論文で薬物の成分について研究しているのでその一環です。
実は藤乃さんも植物研究所へ行ってトリカブトのことを聞いていたそうです。
藤乃が!?トリカブトのことをですか?ええ。
ご存じありませんでしたか?あいつ何て言ってましたか?女を2人も死なせといてこれからも医者だって名乗るつもりだって言ってましたか?
(ため息)図々しい奴だな。
飛鳥井先生がえこひいきするからいい気になってるんじゃないかなあいつ。
えこひいき?ええ。
僕らの間では公然の事実ですよ。
三上悟は不正入学じゃないかってね。
不正入学!?あんた記者さんでしょ?高校時代のあいつの成績調べてみてよ。
うちの大学なんか普通に受けてたら絶対に入れるはずないんだから。
何でそんな奴にいち香は…。
えっ!?いち香!いち香!あなたもしかしていち香さんの…。
そうだったんですか…。
和美遅いな。
まだ8時ですよ。
まったく嫁入り前の娘が。
あなた。
家で文句ばっかりおっしゃってないでもう一度きちんと夏目さんとお話ししたらどうなの?きちんと話って…?ですから和美のこといつどうするおつもりですか?って。
前にも訊いたよ。
それでいつプロポーズしてくださるって?いつかそのうちって。
それじゃあ…ダメじゃないですか。
はっきりしていただかないと。
わかったよ。
もう一度きちんと訊くよ。
はいあ〜ん。
ただいまー。
おかえりなさーい!和美お前今日病院にいただろう?えっ?あらどこか悪いの?お父さんも病院行ってたの?あらあなたもどこか悪いの?お前は黙ってなさい。
そうそうこの間夏目君と植物研究所に行ったの。
植物研究所?また妙なところでデートするのね。
そこはトリカブトがあるのよ。
トリカブト!?職員の人に訊いたら以前悟さんと藤乃さんが別々にトリカブトの毒のことを聞きに来たんだって。
お前どうしてそんな大事なことを今まで黙ってたんだ!だって…。
あの後藤乃さんが急に亡くなっちゃって慌ただしかったんだもん。
ああわかったもういいからな。
あとは警察に任せなさい。
わかった。
じゃお味噌汁温めるわね。
そんなことは自分でやらせなさい!はいはい。
まったく手のかかる娘だな。
早く結婚して苦労を味わえ。
お父さんのほうこそ手がかかるんじゃない?えっ?甘栗ぐらい自分でむいたら?ふふふ…。
夏目君!
(ため息)また遅刻!あのね好きな人を待ってる時って普通幸せなんだって。
どう?えっ?ああ幸せだよ。
よろしい。
それで?その増田って研修医の話当たりだな。
高校時代のあいつの成績調べてみてよ。
これ三上悟の高校時代の模擬試験の成績なんだけど京南医大に入れるレベルじゃないぞ。
そうなんだ…。
いち香さんが舞妓だった時お座敷での秘密をもらしてたって舞妓の…ほら美寿々ちゃんが言ってたろ。
その秘密の1つにこの不正入学のことがあったとしたら…。
そうか…あの時の言い争い…。
そやさかいあのことバラしたらあの人らどうなるやろかて言うてるんや。
絶対に許さへんえ。
男女関係の話かと思ったけど不正入学の話だったのかもしれないわね。
ああ。
で何?いち香さんがあの人たちって?うん。
悟さんを不正入学させた人たちのことよね。
誰なんだろう…。
研修医の増田さん飛鳥井教授が悟さんをえこひいきしてるって言ってたんだろ?えっ?じゃあ飛鳥井先生が不正入学を…!?うーん…学部長に就任したばかりの飛鳥井教授にとって不正入学の事実が暴露されたとしたら…。
取り返しのつかないスキャンダルになる。
ねえ…不正入学って普通親がお金を積んで頼むものよね。
うん何親ってよし乃の女将か?そんなことするような人には見えないわよね。
祇園の女としてすっごく厳格って感じだし。
でも祇園には秘密がいっぱいあるぞ。
秘密?うん。
お茶屋に行く客だって祇園の女は口が堅いという前提で密談をするんだ。
例えばそこに芸妓や女将が同席していてもね。
ちょっと待って夏目君!じゃあ女将が何かその密談を聞いてそれで飛鳥井先生を脅して悟さんの不正入学を頼んだって言いたいの?いや可能性の1つとしてだよ。
嫌だなそんなの…。
まあいずれにしてもよし乃の女将と飛鳥井教授の間に信頼し合った関係がなきゃ成立しないけどな。
女将と飛鳥井先生か…。
(貴絵)うーん。
素敵な写真やね。
これやったら着付け教室にぎょうさん来てくれはりそう。
貴絵さん。
うん?怒らないで聞いてくれます?何やろ。
あの…実はある人から京南医大には不正入学の噂があるって聞いたんですけど…。
不正入学?その疑惑がある人の中に悟さんの名前が…。
悟さん!?ごめんなさい噂なんです。
それで?もしそれが本当だとしたら…。
あの…とっても言いづらいんですけどよし乃のおかあさんと飛鳥井先生がやったっていうことになりますよね?和美さん!それはいくらなんでもひどすぎます!よし乃のおかあさんも飛鳥井先生もそんな人と違います!貴絵さん…。
よし乃のおかあさんは私の命の恩人のような方やし飛鳥井先生は私が芸妓の頃からの大事な大事な方です。
あのそういうつもりじゃ…。
帰ってください。
そんな話聞きとうありません。
すいません。
和美!これ。
当時の飛鳥井先生が世話になってたっていう医大の教授だよ。
西勝彦…。
ああ。
この人が祇園好きで教え子だった飛鳥井先生をよくお茶屋さんへ連れて行ったそうなんだ。
その頃女将さんは?芸妓さんだよ。
じゃこの人に訊けば何かわかるかもね。
ああ。
(犬の鳴き声)何や情けないなぁ狩矢も。
だってすごく怖そうな犬だったんですもの。
その京南医大の西先生やったらうち知ってるで。
えっ?そうなんですか?さすが社長!誰かさんとは月とスッポンや。
比べるのもおこがましいわ。
あはは…。
まったくもう。
それでその西先生ってどういう人なんですか?随分前やけどな京南医大の出世争いから外れて患者第一を貫くお医者さんなんやって。
けどなすーっごい頑固でいらんことは一切しゃべらへん人なんやって。
じゃあよし乃の女将と飛鳥井先生のこと聞きに行っても教えてくれないかな。
そら和美ちゃんまともに行ってもあかんわ。
『北風と太陽』って話あるやろ?あの太陽になって聞き出していかんとな。
はいどうぞ!うわぁ!いつものことやけどおいしそうやわぁ。
おおきに清志ちゃん。
太陽になるってどういうことですか?狩矢に太陽は無理無理。
どういう意味かもわかってへんやろ。
まあ美野里ちゃんくらい色気ないとなぁ。
だからどういう意味なんですか!?太陽と色気と一体どう関係があるんですか!?そんなに知りたい?そんなにって…そっちから言い出したんじゃないですか!?ダーリン教えてあげよし。
まあ何と社員思いなこと。
しゃあないほんなら教えよか。
あのにゃあ…。
はあ?
(ママ)いらっしゃいませー。
(西勝彦)どうも。
ここいい?
(ママ)どうぞ。
いつものね。
かしこまりました。
失礼だけど…お待ち合わせ?いいえ。
振られたんどす。
ええっ!!こんな美人を振るなんて…ひどい男やなぁ。
ほんま。
お1人どすか?ああ。
じゃ一緒に飲みませんか?えっ!?いっ…いいの?ええ。
ああ…よかった。
寂しくって困ってたんどす。
あら?もしかして京南医大の?んっ?西先生と違いますか?ああそうだが。
やっぱり!私の診察でも受けたことがあったかな?いいえ。
母が以前先生の診察を受けた時に付き添って行ったんですけど…。
お母さん?じゃなくてお姉さんどす!うふふ…。
はははっそうか!じゃまんざら他人というわけでもないわけだ。
ええ!そういえば私…京南医大の飛鳥井先生のお座敷にも出たことがあるんどす。
ええっ!?飛鳥井君を知ってるのか?彼をね初めてお茶屋に連れてったのは僕だ。
あらそうどすか?すご〜い!ほな…よし乃さんどすか?おお!よし乃の女将がまだうら若き芸妓の頃だった。
美人だったんでしょう?おかあさん。
ああ。
ひと目で飛鳥井君ぞっこんになっちゃってね。
そうなんですか!?あのお2人ならお似合いどすねぇ。
ああよし乃のほうもその気になってはいたんだが…。
だが?その時はもう飛鳥井君は遠山学部長の娘さんと婚約をしてたんだ。
婚約!?そうやったんですか…。
ほな…道ならぬ恋だったんですね?そういうことだな。
あの時飛鳥井君も遠山さんの娘をやめてよし乃と添い遂げていたならば私は拍手喝采だったんだがなぁ。
そうどすなぁ…。
まあ実際はそうもいかんだろうがねぇ。
お越しやす。
嘘!?
(ママ)お越しやす。
なっ何よ…何でよ!?どうした?いいえ…。
(ママ)どうぞ。
はいありがとう。
あっ…あの僕ビールビール。
あっぼっ…僕も。
(ママ)かしこまりました。
何?でっ…。
(咳払い)ではその…お父さん。
正式にプップロッ…プロポーズさせていただきます。
はあ?あっ…いやいや私にしても仕方ないんだよ?あっ。
そうですよね…。
はっはは…。
(ママ)どうぞ。
ありがとうございます。
あっお父さんどうぞ。
ああ…。
(グラスに当たる音)あっ大丈夫かい?だっ…大丈夫です!先生。
ほな私これで。
何だい?今飲み始めたばっかりじゃないか。
ちょっと急用思い出して。
今度またゆっくり。
うーん…。
ほな失礼します。
ああ。
はいおかわり。
うわーっ!!君…!?あらら…大丈夫ですか?いえ大丈夫ですから。
ひざなんか打って…。
あれ?和美!?和美…?ああっ!!へへこんばんは。
(狩矢・夏目)和美!?はっはは…。
どうするんだよお父さん。
あの様子だとしばらく噴火したままだぞ。
ああ…いいのいいの。
いつものことだから。
それにしても随分大胆なことしてくれたよな。
そのお陰ですごい情報仕入れられたんだから。
よし乃の女将と飛鳥井教授の道ならぬ恋か…。
それでね思い出したの私。
何を?猫よ猫。
猫?ほら飛鳥井先生のお祝いでよし乃へ行った時…。
(猫の鳴き声)うわっ!猫お嫌いなんですか?肌が弱くて触るとアレルギーが出てしまうんです。
それから藤乃さんが亡くなった日…。
先生そんなに逃げなくても大丈夫ですよ。
あっいや…猫に触ると湿疹ができるんでね。
飛鳥井先生も悟さんも猫アレルギー…。
ってことは…。
親子かも。
だから飛鳥井教授は悟さんを不正入学させた。
息子だから…。
そしてその秘密をいち香さんが知ってしまい殺された。
誰に?その秘密を一番守りたい人だ。
おかあさん。
お気を落とさはらへんよう。
おおきに…。
ほなおかあさん私もこれで。
おおきにえ。
じゃ。
貴絵ちゃん。
はい。
午後から嵐山の茶室で一服付き合うてくれへん?ちょっとあんたと一緒にゆっくりしたいの。
はいわかりました。
伺います。
ほなね。
はい。
こんにちは。
先日は申し訳ありませんでした。
こちらこそごめんなさい。
おかあさんのことを言われるとどうしてもあかんの。
命の恩人というだけやなくてほんまのお母さん以上の人やから。
命の恩人?私の両親私が小さい頃からずっと仲が悪うていつもケンカばっかり見て育ったん…。
この豆これ昨日も出てたな?俺はハトか?何言ってんのよ!あんたの稼ぎが悪いからでしょう!?おお。
その少ない稼ぎで何とかすんのが…。
(貴絵)そのためかどうか私は誰とも話をしいひんいつも何かに怯えているような子でな。
学校でもいじめの標的にされてた…。

(貴絵)相談する相手もいいひん孤独で地獄のような毎日。
こんなことやったらいっそ死んだほうが楽や思て…。
そこへよし乃のおかあさんが…。
もう嫌や!死にたいの!やめよし!死なさへん!あんたがいらんのやったらその命うちにくれたらええ!死なさへんえ…死なさへん!
(貴絵)おかあさんはそう言うと私を祇園に連れて行ってくれはった。
(陽子)ここはみんなが1人で頑張るとこや。
そやけどその1人の向こうにぎょうさんの人の助けがあって…。
やっぱり1人で生きてるのと違うってわかるとこなんや。
見とうみ?きれいやろ?キラキラ輝いてはるやろ?
(貴絵)その時私も舞妓さんになりたいここで暮らしたい思た。

(長唄)
(貴絵)おかあさんのお陰で私は命を救われた。
そして自分の居場所を見つけられた。
和美さんはおかあさんを疑うてるようやけどそれは違う…絶対に違う。
ましてや娘同様のいち香ちゃんや藤乃ちゃんを…。
そんなこと決してありえへん。
おかあさんにお茶室に呼ばれてるさかい今から会うて慰めてこよ思てます。
何だか私…とっても嫌なことしちゃったみたいで嫌になっちゃった…。
でも和美。
誰かがいち香さんと藤乃さんを殺したんだ。
その可能性が一番高いのがよし乃の女将だろ?うん…。
貴絵さんはそのことに気づいてるんじゃないかな。
だからつらいんじゃないか?でもさそもそも藤乃さんはまだ自殺か他殺かわからないんでしょ?あの部屋密室だったんだし…。
それなんだよな。
密室なら自殺だし殺人事件じゃないってことだからな。
そうよ…。
よし。
もう一度あの部屋を調べてみようか?うん。
用事が済んだらまた声をかけてくださいね。
はいすいません。
やっぱり玄関に鍵をかけてしまえば人が出入りするのは不可能だよなぁ。
玄関の鍵は藤乃さんの遺体のそばに転がっていたし…。
部屋には鍵を投げ込む隙間すら見当たらない。
う〜ん…完璧な密室状態だなぁ。
和美?きゃっ!ちょっと…。
何するのよ!?ちょっとちょっと…。
これ猫の毛じゃないのか?ホントだ。
そうか何か足りないと思ったら猫よ!ほら!藤乃さん猫抱いてる!いやそうだけど…猫なんかいたっけ?いないわ。
(猫の鳴き声)嘘…!?どこにいたんだ?この猫。
あんたどこから入ってきたの?この部屋鍵かかっててどこからも入れないのに。
ねっどこよ?ええ…?ないぞ。
猫ちゃん?あれ?猫ちゃん!ねえ夏目君猫どこ行った?どこって…おかしいな。
おーい!消えた…。
何で…どういうことだよ?どこかに猫の出入り口があるのよ!出入り口…外に出たのかな?
(佐藤明子)藤乃さんのお友達ですか?えっ…ええ。
あなたは…?隣に住んでます佐藤です。
その猫藤乃さんの?そうです。
藤乃さんのヒメっていいます。
この子人懐っこくてうちにもよく遊びに来てくれるんでかわいがってるんです。
(ヒメの鳴き声)あれ?これ何だろう?えっ?発信機みたいだな。
発信機…。
そうか!ちょっと失礼。
夏目君ちょっとドア閉めて。
おう。
あっ…。
これよ。
猫の出入り口!ああ。
センサーか?うん。
よしよし…。
これだ…。
これで密室の謎がとけたわね。
ああ。
まず犯人は…。
藤乃さんにアコニチンを混入した飲み物を飲ませ…。
うっ…!絶命したのを確かめると…。
それから犯人は藤乃さんになりすましパソコンに遺書を打ち込んだ。
そして部屋の戸締りをすべて終えると鍵が最初からここにあったように偽装するためにテーブルの上のものを床に散乱させた。
そして玄関の鍵を閉めて…。
やったぁ!猫をお願いします。
はい。
おいでヒメちゃん。
見事だ和美…。
これでこの部屋が密室じゃなかったってことが証明できたぞ。
藤乃さんは自殺じゃなかったのね。
ああ。
ということは犯人は藤乃さんが家に上げるほど親しい人物…。
悟さん女将の陽子さんそして飛鳥井学部長…。
いやでも待てよ和美。
猫といえば飛鳥井学部長も悟さんも猫アレルギーだ。
猫のトリックは使えないぞ…。
ということは残るは女将の陽子さん…。
(携帯電話)はいもしもし?あっキャップ?はい。
今取材中なんですが…。
はいわかりました。
すぐ戻ります。
仕事?ああ。
すぐ戻らなきゃいけないけど俺の仕事が終わるまで勝手なことするなよ?うんわかってる。
絶対だぞ。
いいな?うん。
おかあさんやったら今さっき出かけはりましたえ。
そうですか…。
おかあさんにお茶室に呼ばれてるさかい今から会うて慰めてこよ思てます。
呼ばれてる…!?貴絵さんはそのことに気づいてるんじゃないかな。
痛っ!きゃあ…!もうこれ以上祇園にかかわらんといてください!まさか…。
お手前ちょうだいいたします。
貴絵さんダメ!和美さん?そのお茶はダメ!何でダメなんどす?それは…。
一体何しに来はったんですか?おかあさんは犯人やない言うたやないですか。
でも貴絵さん…いくら女将さんに恩義があるからって自分の命を女将さんに差し出すつもりだったんですか?女将さんが悟さんを不正入学で京南医大に入れたこともいち香さんが藤乃さんと悟さんの将来を邪魔していることも…。
貴絵さん知っていたんでしょう?おかあさんが悟君のためにいち香ちゃんや藤乃ちゃんを殺したいうの?そやけど藤乃ちゃんの部屋は密室やったんでしょう?そしたら自殺やないですか。
あの部屋は密室なんかではありませんでした。
何て?
(携帯電話の振動音)「もしもしもしもし」先生!?もしもし?もしもし?もしもし!?君は…あちこち調べ回っていたようだね。
悟の高校の成績や私と女将の関係を…。
あなたが悟さんを不正入学させたんですね?悟を立派な医者にする手助けをするのは親の役割私の責任だ。
その秘密を守るためにあなたがいち香さんや藤乃さんを…。
これからも守り続ける。
そのためには…。
先生?お父さん夏目です。
はい和美さんが…。
ええ…。
何!?場所は?…茶室!?ああわかった。
橋口緊急配備だ!はい。
もしもし捜一橋口です。
緊急配備をお願いします。

(パトカーのサイレン)先生やめてください…。
飛鳥井さん。
あなた私も貴絵さんも殺すつもりですか?貴絵さん逃げて!貴絵さん?まさか…。
貴絵さん…。
先生…そんなことしないで。
帰ってください。
貴絵…。
先生はここにいはらへんほうがええんです。
事件とは何の関係もないんです。
貴絵さん…。
ここは私に任せてください。
言うたはずえ。
もう祇園のことに口出さんといてって。
じゃあ貴絵さんが!?言うたやろ?よし乃のおかあさんは私の命の恩人ですって。
女将のために貴絵さんがいち香さんと藤乃さんを!?今度は私がおかあさんを助ける番。
貴絵さん!?和美さん…そこから飛び降りて死んでちょうだい。
貴絵よせ。
先生は人を殺したりしたらあかん。
そしておかあさんも…。
だからって貴絵さんが…。
あんたには祇園のことはわからへん。
華やかな裏で泣いてる人間のことはあんたにはわからへん。
貴絵…もういい。
まさか…!?そうや。
私が何で芸妓を辞めたかわかった?飛鳥井先生と…?ええ。
おかあさんの大事な人やとわかっていながら…。
悟君の父親やってわかっていながら好きになってしもうた先生を…。
おかあさんに申し訳なくて…。
つろうて苦しいて…。
でもそれでも先生が好きやった。
どうぞ。
先生…。
(貴絵)そしてある夜私は…。
たった一度だけ先生と…。
(貴絵)おかあさんを裏切ってしもうた私は祇園を去ることにした。
でもその罪は消せへんかったんです。
(いち香)素敵なとこどすなぁ。
ここには飛鳥井教授も来はるんどすか?つきましてはおねえさんにお願いがあるんどす。
(貴絵)いち香は舞妓やった時私と飛鳥井先生の過ちを知ったそうや。
それに飛鳥井先生が悟君を不正入学させたことも。
けどこの秘密は誰にも言うてません。
そやから貴絵さん。
おかあさんを説得してうちと悟さんを一緒にさせてくれるよう言うてもらえませんか?うちから言うよりも貴絵さんからのほうが耳貸してくれはるさかい。
他にもいろいろありますし…。
悟さんの子を妊娠してるって…?そう。
それで私がおかあさんを説得しいひんのならおかあさんを脅迫してお金をせびってやるって言うの。
あの子…。
おまけに飛鳥井先生の昇進の席ですべてをぶちまけると言い出したんですね。
もう私がいち香の口をふさぐしかないて思た…。
女将。
貴絵さんはどこに行きましたか?女将…。
あなたはすべて知ってるんですね。
知っていてかばってるんですね?貴絵さんはどこに行きました?そんな時藤乃ちゃんが植物研究所に入っていくのを偶然見かけた。
(貴絵)藤乃ちゃんはトリカブトのことを聞いてた。
私はピンときた。
いち香は藤乃ちゃんにも同じことを言うて悟君から身引けと脅迫してるんやないかて…。
その時思たんや。
いち香が自分の思いを遂げるために祇園の掟を破ってみんなを困らせてる…。
あの子さえいいひんかったらって…。
おかあさんや先生を助けるのは私。
今こそ恩返しするのは私…。
そう思た。
そして…。
きれいやなぁ。
おおきに。
ちょっと待って?痛っ!
(貴絵)誰にも気づかれずにいち香を殺すことができた。
けど藤乃ちゃんはおかあさんを怪しんだ。
悟さんと一緒になれへんのやったら不正入学のことみんなにバラしてもかまへんのどすえ。
何どすって?いやぁうれしいわぁ。
ほんまにおいしそうどすなぁ。
角のケーキ屋さんで買うてきてん。
そこのおいしいえ。
いただきます。
いただきます。
(貴絵)私は藤乃ちゃんの家を訪ねトリカブトから取ったアコニチンを仕込んだ飲み物を飲ませた。
うっ…!
(貴絵)藤乃ちゃんの家には何度か遊びに行ったことがあったさかい猫だけの出入り口のことを知っていた。
そして密室を作り上げて自殺の偽装をした。
それですべては済んだはずなんや。
あんたさえ現れへんかったら。
貴絵さん…。
貴絵…やめろ。
先生は下がってて。
私が…。
和美!夏目君!!何するんだ!おかあさん!?何でえ?貴絵ちゃん…。
言うたやろあんたに。
あんたがいらんのやったらその命うちにくれたらええって…。
それはうちのために命を奪ったり捨てたりすることやない!大切にしよいうことや。
大事にせいいうことや。
何を勘違いしてるんや!おかあさん…。
うちはあんたを犠牲になんかしとうなかった…。
うちがしたことはうちが償う。
あんたにはただ幸せになってほしかっただけや…。
それがうちの望みやった…。
貴絵さん。
女将はもうすべて知っていたんですよ。
知っていた?はい。
いち香さんのことも藤乃さんのことも…。
それから飛鳥井先生とのこともね。
えっ!?それで今日茶室であなたと最後に話をしてよし乃をたたんで祇園を去ろうと考えていたんです。
おかあさん…。
恩返しの仕方を間違えましたね。
申し訳ありません…。
おかあさんごめんなさい…。
私…ごめんなさい。
貴絵ちゃん…。
死なさへんえ…死なさへん!先生。
あなたは父親として息子さんの愛し方を間違ったと私は思います。
申し訳ありません。
これから医師として父親としてどれだけのことを悟さんに残せるか。
それがあなたのやるべきことでしょう。
おっしゃるとおりです…。
ありがとう。
うん?まあな。
偉そうに。
へへへ…。
和美。
お前お父さんに何か言うことはないか?あるわ。
大ありよ!この間お父さん私の部屋に勝手に入ったでしょ!えっ?ああいやあれはな…セロハンテープを借りにな。
やっぱり!それってねプライバシーの侵害だよ!いやプライバシー…そんなことを言ってるんじゃないんだよお父さんが言ってるのはな事件に首を突っ込んで何か言うことはないかって言ってるんだ!なぁんだそんなこと?そんなこととは何だ!いいか?もう金輪際事件に首を突っ込むな。
ほらほら2人とも。
それはわかりません。
わからん?お前なもうすぐ夏目君のとこ行け!早く結婚しろ!いいの?私が結婚しても。
私がいなくなったらこの家の明かりが消えちゃうんだよ。
お前何逆ギレしてるんだ。
お父さんを脅かしてるのか!?ええっ?ははは…。
だってそうでしょ?お母さん。
そうねぇ夫婦2人だとちょっと…かもね。
ほほほ…。
ちょっととは何だちょっととは!ええ?えっ?どう?どう?って…。
それ1人で着れたの?まさか!でも夏目君が着物を買ってくれたらじゃんじゃん練習しちゃうかも。
ははは…。
それは無理無理。
そんなお給料もらってません。
もう…。
はははっ。
じゃんじゃん着たいんだ。
うん。
じゃあさあの…デート費用を少しずつ浮かせてそれをコツコツためればいつの日かきれいな西陣織の着物を買ってあげられるかもね。
本当?夏目君。
へへへ…。
それでも我慢できるの?うん。
2015/05/11(月) 14:00〜15:51
ABCテレビ1
山村美紗サスペンス 京都花見小路殺人事件[再][字]

華やかな祇園の舞妓と芸妓の裏の顔…密室に三匹の猫トリック!

詳細情報
◇出演者
藤谷美紀、田村亮、原田龍二、山村紅葉、中野良子、酒井和歌子、中原果南、中原丈雄、渋谷天外、今村恵子

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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