住宅街に立ち並ぶアパート。
今、新たに建てられるアパートなどの数は年間30万戸以上。
3年連続で増加しています。
その多くを占めているのが大家が建てた物件を業者が一括借り上げするサブリースという形式のアパートです。
業者から長期間、家賃収入を保証すると持ちかけられ建築する人が相次いでいるのです。
結果として供給の過剰につながり空き部屋が急増。
当初想定していた家賃収入が得られずトラブルとなるケースも起きています。
さらに、空き部屋が急増した地域では町が空洞化。
治安の悪化も懸念され自治体が対応に追われています。
人口が減少する中で進むアパートの建築。
その実態に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
土地をさら地で置いておくよりアパートなどを建てたほうが固定資産税や相続税を節約できまた副収入も得られるとして賃貸住宅を建てる動きが活発です。
賃貸住宅の着工件数は去年、36万戸余り。
リーマンショック後一時、落ち込みましたが3年連続で増えています。
交通の便など立地がよかったり賃貸住宅の需要が高い場所ではねらいどおり賢い資産運用の手段となりますが今、日本各地で賃貸住宅の空き部屋が増えています。
都道府県別の空き部屋率です。
緑色が空き部屋率が15%未満黄色は15%以上そして赤は20%以上。
半数近くの都道府県が赤です。
空き部屋数はご覧のように年々増加しいまや429万戸余り。
およそ5戸に1戸が空き部屋という供給過剰の状態です。
にもかかわらず、なぜ賃貸住宅は増え続けているのでしょうか。
NHKの取材で建てられる賃貸住宅のおよそ半数を占めているのがサブリースのアパートだということが分かりました。
素人でも簡単に経営できるアパートです。
その仕組みです。
住宅メーカーや不動産会社が空いた土地の持ち主にアパートの建築を持ちかけます。
土地の持ち主は建築したアパートを一括して会社に借り上げてもらい入居者の募集などアパートの管理を会社に任せます。
そして空き部屋が出ても会社が長期間家賃収入を大家に保証することになっています。
需要が少ない場所でも借金で次々と建てられることがあるサブリースのアパート。
こうした中、当初想定していた家賃が保証されないなどトラブルがたびたび起きています。
なぜアパートの建築が止まらないのか。
構造的な問題が浮かび上がってきました。
群馬県高崎市中心部から徒歩30分。
もともと田畑が広がっていた地域に、今、サブリースのアパートが立ち並んでいます。
10年前にサブリースのアパートを建てた小出銀二郎さん87歳です。
農業を営んできた小出さん夫妻。
高齢になって、2人で耕すには畑が広すぎると考えたといいます。
作付けをやめると土地にかかる税金が大幅に上がるうえ相続税についても頭を痛めていた小出さん。
大手不動産会社から税金対策になるとある資料を提示されました。
資料には一般のアパートの家賃は年々下がる一方この会社でサブリースのアパートを建てれば30年後も家賃収入は下がらないとする図が書かれていました。
小出さんは建築費1億円余りを会社に支払いました。
すべて借金で賄いました。
ところが周りにもサブリースのアパートが次々と建てられ、入居者の数は徐々に減っていきました。
今では18部屋のうち3分の1が空き部屋です。
ことし3月、小出さんは突然会社から家賃保証の金額を下げたいと告げられました。
金額が下がるという説明を受けた記憶はないという小出さん。
思いも寄らぬことでした。
なぜ家賃収入は下げられてしまうのか。
小出さんの契約書です。
契約期間は確かに30年間と書かれています。
しかし、保証するとしていた家賃収入は10年を経過したあとは2年ごとに改定するとなっていたのです。
サブリースを巡るトラブルを取材すると、ほとんどが家賃収入が減額されるリスクについて十分な説明を受けていないという訴えでした。
マンションや戸建てなどを売買する場合、法律によって重要事項説明が不動産会社に義務づけられています。
会社はさまざまなリスクについて口頭と書面で説明しなければなりません。
しかしサブリースの場合一括借り上げという貸し借りの契約のためこの法律の対象外となり売買のときのような厳格な説明は義務づけられていないのです。
営業ではどんな説明が行われているのか。
取材を進めると、中には家賃収入は下がらないと言い切るケースもありました。
勧誘を受けた人が録音した音声です。
家賃を減額されサブリースの契約を解除せざるをえなくなった人もいます。
関東地方に住む男性です。
8000万円を借金してサブリースのアパートを建築しました。
男性は契約書に家賃改定の可能性があると書かれていることは認識していましたが安定した収入になるという営業担当者のことばを信用しました。
しかし、2度にわたって家賃を減額されさらにローンの返済額を下回る金額を提示されたため去年、やむなく解約しました。
残されたのは3000万円近くの借金と半数が空き部屋のアパートです。
この男性とサブリースの契約をしていた会社に見解を聞きました。
会社側は、賃料の増減変更が可能なことは説明し契約書にも定めていると回答。
その上で誤解を生じることがないよう丁寧な説明を心がけ改善に努めておりますと答えています。
NHKが国民生活センターに情報公開請求したところサブリースを巡るトラブルの相談はこの4年間で少なくとも245件に上っていました。
国民生活センターはサブリース問題について特集記事を作成。
家賃を減額することが可能なこの仕組みはリスクを会社から家主に転嫁するものだという専門家の意見を掲載しています。
今回、私たちはサブリースを扱う4つの会社の社員や元社員から話を聞きました。
このうちの一人現役の社員が、匿名を条件にインタビューに応じ需要が見込めそうにない所でもアパート建築を持ちかけたことがあると証言しました。
今夜のゲストは、不動産コンサルタントで、空き家問題について、国交省の委員を務められた経験をお持ちの長嶋修さんです。
今の現役の社員の発言の中には、その需要が見込めない所でも、アパートを建てるよう、営業をしたことがあるということをおっしゃってたんですけれども、会社側として、その長期保証するのに、長期的な需要が見込めない中で、どうやってこのもうかる仕組みになっているんですか、ビジネスモデルは成り立ってるものなんですか?これは。
売る側、事業者側としては、建ててもらったとき、売ったときに、その売り上げ、利益っていうのは一定確保しているんですよね。
このあとは、サブリース契約になると。
このサブリース契約っていうのは、本来は、大家さんの利益を最大限に持っていくことを、使命として、家賃保証はしてあげて、どれだけ入居とか、あるいは家賃を高めるんだということをやるのが本来の仕事で、このサブリース自体は、別によくも悪くもないというか、本来、いい仕組みなんですね。
ただ、それを半ば、乱用する形で、家賃がずーっと今の家賃で続くんだと思わせるような、あるいは大家さんが思ってしまったという状況の中で、今のこうしたトラブルが起こっているということだと思うんですよね。
そうすると、会社としてはその建築してもらった時点で、ある程度の利益を確保し、そして得られる家賃の一定の額を手数料としてもらえると、そういうビジネスとして成り立つわけですけども、実際にこの発生している多くのトラブルが、長期的に家賃が保証されてると思ったのに減額される。
この減額が、ありうるってことを十分に説明していなかったっていうところから発生してるわけですよね。
これは、規制する法律が簡単に言うとないんですよね。
不動産などを売り買いすることについては、宅建業法というのがあって、ここは厳しくなってます。
もう一つ、賃貸管理ですね、サブリースを含む賃貸管理については、登録義務というのはあるんですけれども、これはあくまでも任意規定でしかなくて、かつ罰則もないんですよね。
業者に対する?
そうなんです。
もう一つ問題なのは、その大家さんというのは、アパート経営をしている事業者という扱いになりますので、消費者庁が管轄する意味での消費者という認定でもないということで、その周囲を取り巻く法律のあたかもエアポケットにはまったような、そういう状況の中で、今、こういうことが起きているということですね。
だから重要事項説明の厳格な義務づけがないまま、なんとなくそういうアパート経営に乗り出してしまって、そして減額っていうことに直面するケースが出ているんでしょうけど、そういう場合、どうすればいいんですか?今。
サブリースを含む、この賃貸管理業、今は任意登録で罰則規定もありませんけども、この登録はもう、義務化をすると、ここに登録されている事業者というのは、これだけの説明をすることが必要で、これを怠ったらこれだけの罰則が必要だと、そういったそのゲームのルールをもう少し基準を上げて義務化してということが今、必要なんだと思うんです。
国交省で議論進んでますか?
今のところはそういう話はおそらく出ていないんだと思うんですけど、きょう、こういった番組を通じて、社会的な一つの問題意識として、醸成されていけばいいなというふうに思ってます。
そしてこの家賃の水準ですけれども、今、賃貸物件の5戸に1戸が空き部屋になっているという状況ですと、今、賃貸の価格っていうのは、水準というのは、どうなっているんでしょうか?
簡単にいいますと、日本全体の不動産価格、賃料というのは、今後20年、30年かけて、だんだんだんだん落ちていくんですね。
これはもうしかたがないです。
需要が減っていくんですから、人口世帯数が減っていくわけですからね。
そうすると、一部の地域、都心、超一等立地、あるいは地方であっても、ここだけ、ここだけというふうに、人が密集する形で、こういったところは賃料、不動産価格が維持されて、それ以外の所はなだらかに下がっていくというのが、これからの大きなトレンドです。
さあ、今やお伝えしていますように、新築賃貸住宅の半数を占めているサブリースのアパート。
それが賃貸住宅全体の空き部屋の増加につながっていまして、町全体に悪影響を及ぼしている地域も出てきました。
埼玉県北部人口5万の羽生市です。
国の規制緩和を受けて市では、人口の減少を食い止めようと平成15年、住宅の建築を促す施策を打ち出しました。
市の都市計画ではもともと新しく住宅を建てられるのは市の中心部だけ。
その他の地域では原則新規建築ができませんでした。
そこで規制を緩和し市のほぼ全域で、住宅を建築できるようにしたのです。
規制緩和の目的は定住につながる戸建て住宅の建築を促すことでした。
ところが建築されたのは150棟のアパート。
その9割以上がサブリースでした。
市の思惑は大きく外れたのです。
空き部屋率は倍増し35.8%に達しました。
羽生市はサブリースのアパートが需要を超えて建設されたことが町の空洞化につながったと見ています。
サブリース以外のアパートでも空き部屋が急増し家賃相場が下落。
部屋が悪用される事態も起きています。
羽生市内にあるこのアパート。
3年前、警察がこの部屋を捜索したところ大量の乾燥大麻が見つかりました。
押収された大麻は末端の密売価格にしておよそ3億1000万円分。
アパートの一室が大麻の保管場所になっていたと見られています。
さらに羽生市は財政にも悪影響を及ぼすのではないかと懸念しています。
アパートの建築に伴い造られた道路や下水施設などの維持管理費は自治体の負担となるからです。
結局、羽生市は方針を見直すことを決めました。
ことし7月からアパートを建築できる範囲を再び、市の中心部だけに戻すことにしています。
空き部屋の問題は今後どこまで深刻になっていくのか。
住宅の動向を研究している専門家に分析を依頼しました。
それによると、今のペースのまま賃貸住宅の建築が続けば2030年以降全国の空き部屋率は40%を超えるといいます。
そして空き部屋率をこれ以上上げないためには賃貸住宅の今後の着工数を現在の3分の1に減らさなければならないという結果になりました。
今の羽生市で、サブリースのアパートを建築している会社の一つは、取材に対しまして、空き部屋が増えているのはサブリースとは関係ないと考えている。
当社は周辺の需要などをもとに、アパートの供給計画を策定しているとしています。
長嶋さん、いずれにしましてもこの羽生市、規制を緩和して、中心部以外でも建てられるようにしたところ、空き部屋率というのが、35.8%になった。
このケース、どうご覧になりました?
一つの町の中で、たくさんの、もし雇用が生まれて、それに基づく人口の動態予測があってと、それでアパートが増えるということだったら、これはいいんですけども、まずその計画があって、そのあとにアパートを建ててしまって、人が入ってくださいっていっても、それはなかなかやっぱり無理なんですよね。
なので、もう少し市区町村の各地域の保守的な人口動態予測、あるいはその世帯が今後、どうなっていくのかっていう、全体計画を練り上げたうえで、そのうえで地域の計画、どの場所にどのくらいの住宅をいつごろ、いつ、どのように建てるのかという、こういった計画が本来は必要なんですね。
このまま、無尽蔵に新築の賃貸物件が作られていくと、ますますその空き部屋率というのが高まっていくおそれがあるという試算も出てましたけれども、この問題の根本的な原因はどこにあるとお考えですか?
これはもう平たく言いますと、住宅の量の管理を国も含めて誰もやってないということです。
世帯数が今、このぐらいあると、住宅数が今このぐらいあります。
5年後、10年後にはどういうふうになりそうですねという予測はもう容易につくんですね。
なので、この状況を踏まえて、今後5年間、あるいは10年間に、どのくらいの住宅を取り壊し、どのくらいの新築をどこの場所に作ろうかといった、その全体の計画、住宅の量の管理ですね、これをやるべきで、これをやってないのは、普通の国というか、先進国ではもう日本だけですから、この住宅量の管理というのは今すぐにでもやるべきだと思います。
ほかにありますか?
もう一つは、新築を作る場所がやっぱり大事で、どこにでもやっぱり作っていいわけじゃないんですよね。
これから上下水道のインフラの整備、管理するのに大変です。
あるいはごみの収集サービスとか、北国いけば除雪とか、こういったことも効率よくしなくちゃいけないと、そうすると、これから人口減少していく中で、どこに集まって住むんだと、いわゆるコンパクトシティーという政策なんですけれども、だだっ広く住んでいるわけに、私たち、いきませんから、ここに集まって住むということを、みんなで各地域で話し合って決めていくということが、どうしても必要になると思います。
2015/05/11(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「アパート建築が止まらない〜人口減少社会でなぜ〜」[字]
全国で深刻化する空き家問題。アパートなどの賃貸住宅では5戸に1戸が空き部屋だ。一方で新規の建築は増え続け、地域の空洞化につながるケースも出ている。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】不動産コンサルタント…長嶋修,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】不動産コンサルタント…長嶋修,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:33648(0x8370)