静かな山里ににぎやかな鳥の声が朝を告げる。
京都・大原。
イギリス生まれのベニシアさんが日本に来て37年。
大原に暮らして13年。
廃屋同然だった古い農家を自分たち家族で改装して気持ちのいい毎日を手に入れた。
(ベニシア)正朝御飯出来たよ。
正コーヒー作ってくれへん?ああ。
ベニシアさんの夫正さんは山岳写真家。
昨日雪山の撮影から戻ったばかり。
英語終わったら手づくり市行こうかなと思ってる。
あっそうなの今日手づくり市があるの?うん。
今日ある。
(3人)頂きます。
ここ大原に引っ越してきた時まだ2歳だった悠仁くん。
それがこの4月から高校生。
息子の成長がうれしくもありちょっと寂しくもあるベニシアさんだ。
悠仁今日学校で英語あるの?スポーツテストだけ。
じゃあ勉強はあまりないの?授業がない。
今日もそれぞれの一日が始まる。
じゃあ頑張って下さい。
分かった。
バイバ〜イ。
Haveagoodday.バイバ〜イ。
一気に春が深まった大原。
命は急にグンと成長する。
青春時代を迎えた息子も庭の植物も。
家事を片づけたベニシアさん。
今日はお出かけ。
今から仕事行きます。
もういつも同じ靴。
いつも歩く靴。
ベニシアさんが京都に英会話学校を開いたのは31年前。
今も週に2日自分で授業を受け持ち学校のある百万遍に通っている。
ここ銭湯があります。
昔ここ住んでた時ここよく来ましたね。
大原に移るまで住んでいたなじみの町。
中に入ってちょっと分かりにくいけど中は静かになったよね。
あの…ここです。
ここはもう…ここで20年やってます。
一応名前がここに書いてあります。
路地裏の一軒家。
かつて暮らした家がベニシアさんの学校だ。
和室を改装した教室の中授業は全て英語で行われている。
(英語)授業の真っ最中お茶が運ばれてきた。
(英語)ベニシアさんが自分でハーブを育てるようになったのはこうして教室で生徒に振る舞うためだった。
生きた英語を身につけるには子どもが言葉を覚える時のようにまず耳を慣らす事。
次にリラックスした雰囲気でおしゃべりを楽しむ事。
それにはハーブティーが最高の小道具になる。
授業というよりまるで本場イギリスのティータイム。
英会話学校の近くにある…ここで月に1度開かれる手づくり市をベニシアさんとても楽しみにしている。
自分で作ったものを自分で売る。
手づくりの品を持ち寄って始めた素朴な市も今年で23年目。
およそ400軒の店が並び大盛況だ。
ああこれかわいいな。
瓶を潰して溶かしてリサイクル。
2人で作ってるんですか?そうですね。
顔が見えない。
アハハハッ。
音色がみんな違うんですよ。
あっそう。
へえ〜。
その四角いのは化粧品の瓶ですね。
これはまれな…緑はワイン。
ワインの瓶?ええ。
瓶の口をスライスして。
ほんで作ってんの?そうです。
へえ〜すごい。
あっこれ。
これがいい。
じゃあこれ下さい。
はいありがとうございます。
お包みしますね。
はい。
おしゃれが大好きなベニシアさん。
いつも着ている個性的な服はほとんどこの市で手に入れている。
ちょっと違う色で…。
これは蚊帳ですね。
あっ蚊帳。
草木染めして…。
そして昔の羽裏っていうんですかそれの文字のいいとこ取ってねパッチワークしたんですよ。
これは草木染めです。
この店の主は古い着物だけでなく蚊帳や風呂敷のれんなどもリメークして洋服に仕立てていた。
作ってる人も面白いのね。
多分自分のおばあちゃんが着たものを切っていろんな新しい形にする。
フフフッ!こんにちは。
フフフッ。
これ見るのが楽しいの。
あっこれ見てよ。
かわいい。
それがすごいな。
ええ。
フフフッ。
古いものをリメークしたり自然の素材で手づくりしたりそれはいつもベニシアさんが心掛けている事。
作っている人たちを応援したい。
それが手づくり市に通う理由。
知恩寺からの帰り道ベニシアさん古い友達を訪ねた。
こんにちは〜。
お邪魔します。
(竹下)いらっしゃい。
竹下さん久しぶり。
元気ですか?おかげさまで。
元気そうですね。
竹下さんは結構昔から知ってるね。
多分最初20年前に会いましたね。
はい。
ここのパンがホントのパンと思って。
ホントそう思ったの。
竹下さんは何でも作るすごい人。
ベニシアさんが日本一おいしいとほれ込む竹下さんのパン。
こだわりは小麦。
岩手の農家から直接取り寄せた小麦を電気仕掛けの石臼でひく。
もちろんこの機械竹下さんの手づくり。
この台を作ってそれでギヤモーターの穴開けてストンと落としただけです。
それで上にフランジつけて要するに陶芸のろくろと一緒です。
石臼を回すスピード落とす小麦の分量。
微妙な加減は手仕事が理想という。
例えば石臼の回転が速すぎると小麦が熱を持って香りが飛んでしまう。
だからこの遅さが大事。
竹下さんのパン作りはあくまで趣味。
おいしいパンを食べたい。
その一心で50年研究を重ねてきた。
本職は機械のエンジニア。
だからこの部屋厨房というよりは発明家の実験室だ。
4時間かかってひいた2kgの粉。
小麦本来の味にこだわり殻も全て入った全粒粉を使う。
ほかに加えるのは塩とイーストオリーブオイルを少しだけ。
昔ながらの素朴なパンだ。
塩とイーストだと一番シンプルなパンですよね。
みんな普通は強力で北海道産のを使いますけどね。
中力の方が味がいいように思いますね。
フワフワにするのには強力がいいんだけどあんなフワフワにしてもおいしいと思えないし。
少し重くても濃くなる方がいいっていう事で。
おいしいパンないかおいしいパンないかって思ってるうちにこんな事になっちゃった。
竹下さんをここまで夢中にさせたのは強烈な思い出だった。
幼児体験でしょうね。
幼児体験でオーストラリアのパンの味が…。
長いブランクがあってもその味だけは身についてた。
英語はすっかり忘れちゃったけど味だけは忘れないで残りましたね。
大正10年竹下さんは洋食器メーカーに勤める父親の赴任先オーストラリアのシドニーで生まれた。
6歳まで暮らしたシドニーで毎朝食べたブラウンブレッド。
その味が少年の舌に刻み込まれた。
あの味をもう一度。
大人になるほど思いは強くなった。
記憶の中の味を求める竹下さんのパン作り。
試行錯誤全て独学。
そしてたどりついた独自のスタイル。
発酵は低温で1晩かける。
パン生地に触る時は優しくなるべく回数を少なく。
その方が豊かな風味が育つ。
目方量る必要ないですからね。
大きい小さいあったっていいじゃないかっていう事で。
それだけ切ったり張ったりするとまた生地が傷みますんでね。
なるべくそのまま。
一つ一つ優しく丁寧にまとめた生地をいよいよ焼く。
石窯ももちろん竹下さんの手づくり。
外国の資料を探し自分で図面を引き何度も何度も失敗してやっと作り上げた。
この石窯竹下さんの掛けがえのない相棒。
名前がロシナンテなんですよ。
ドン・キホーテの痩せ馬って事でロシナンテって。
ここもロシナンテね。
ドン・キホーテとロシナンテのように一緒にパン作りの夢を追い続けてきた自慢の石窯。
これからちょっと…すごいですよ。
ぶわっと蒸気出しますからね。
窯の内部に水蒸気を充満させる竹下式石窯ロシナンテのスゴ業。
これね火の上にも水吹いてるんです。
ジュ〜と蒸気を噴かすために。
最初だけ蒸気を噴かすとパンがよくなるんで。
窯の温度は300度。
そこに水蒸気を送る事で外はカリッ中はシットリ。
石窯に入れておよそ20分。
竹下さんの理想のパンが焼き上がった。
非常によく膨らんでますね。
ちょっと焼きがこんなに焦げて。
まあ石窯だから焦げるのは当たり前なんだけど。
野性的なパンだから。
もともと石窯でね。
焼きたてのパン。
首を長くして待っている人がいた。
あ〜すごい。
おいしそう。
わあすごい。
子どもの時食べたものがホントにずっと…。
ずっとあるのね。
うん。
じゃあ頂いていいかな?あっどうぞ。
お客様どうぞ召し上がって。
でもこれバターか何か持ってきたいけどいい?いやいや。
別にこれでいい。
スチームがあるとないのとでは火の通り方が違うんですよ。
何かホントに…。
(信子)パンの元の味って感じするでしょ?そうそう。
パンの元の味。
御飯のお握りのようなパン。
そうそう。
おいしいよ。
パンがその中身の栄養とか味とか生きてるのね。
だからこれ食べたら栄養…元気さをもらってるって感じる。
だからちょっとだけ食べてもおなかいっぱいになるよ。
竹下さんが幼い頃食べたパン。
それは時を経て家族や友達を元気にするパンとなった。
古き良き友。
長くつきあう事で新たな発見がありよりよい関係が育つ。
それは物とのつきあいでも同じ。
ベニシアさんは思う。
古いものと長くつきあうには手入れが欠かせない。
1年に1回か2回ぐらい蜜蝋のワックスで手入れしないと古くなったり割れたりとかするからこのワックスにします。
このワックスにラベンダーも入れてますから虫よけにもなるしあと部屋の香りがラベンダーになるからすごく…。
やっぱり人間が手で作った物大事にしないとせっかく頑張ってこんなすごい立派なたんす作って…。
それがずっと…誰か使ってほしいでしょうね。
ラベンダービーズワックスの家具磨きを作りますから。
亜麻の種を搾った亜麻仁油。
これは木の防腐剤の役割を果たす。
亜麻仁油が温まったら蜜蝋を加える。
蜜蝋には木の艶を出す効果がある。
蜂が作ってるワックス。
大切にしないと。
溶けました。
次は…水入れて…ラベンダー入れて。
これを煎じますから。
これすごい香りがいい。
幸せ。
いや何かハーブの物作ったら気持ちいいし何か香りがいいから何て言うのかな。
家の掃除が楽しい。
ラベンダーを濃いめに煎じてざるでこす。
ラベンダーは防虫効果も高く家具を守る役目も果たす。
今度せっけん。
ラベンダーを煮出した液に砕いておいたせっけんを入れ再び火にかけて溶かす。
すごいグリーン。
緑。
どんな色かな?楽しみ。
亜麻仁油と蜜蝋を混ぜたものを加えより香りを出すために少し冷ましてからラベンダーのエッセンシャルオイルを落とす。
これで出来上がり。
そしたら何かカフェオレみたいな色。
これあったらもうまた磨きたくなる。
容器に移して冷やし固めれば完成。
はい出来ました。
古い家具を優しくいたわる蜜蝋とラベンダーのワックス。
これからも長いつきあいが続きますように。
春の夕暮れ。
ベニシアさんいつものようにお茶で一服。
手づくり市で買ったカップに疲労回復の効果があるセージのハーブティー。
この1杯で身も心もすっと軽くなった。
2015/05/10(日) 18:00〜18:30
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手・選「古き良き友」[字]
京都・知恩寺の手づくり市で見つける“古き良きもの”や、それを作る人々はベニシアさんにとって掛けがえの無い人生の友ともなる。感謝の心を込め、大切に暮らしに活かす。
詳細情報
番組内容
京都の山里、大原の自然と日々寄り添いながら生活するベニシアさん。朝、息子を学校へ送り出すと、いつもの一日が始まる。京都市内にあるベニシアさんの英会話学校では、30年のキャリアを持つ先生の顔に…。学校の近くの知恩寺で月1回開かれる手づくり市。古いものを大切にしながら、今の暮らしに生かす。その考え方はベニシアさんにぴったりと合う。ここで出会ったモノと仲間たちが、ベニシアさんの暮らしに彩りを添える。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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