昔むかし山の奥深くに一人で暮らしているおじいさんがいました。
ボヒヒヒ!どうどうどうどう。
今年もまた田起こしの季節になりましたでひと働きしてきますだ。
近くに住む人はなくもう何十年もの間おじいさんが語りかけるのはこのお地蔵さんだけでした。
ハァハァハァ…。
ん?どうしただ?やれやれお前もしんどいか。
わしらもだいぶ歳とったで力仕事はこたえるな。
ハァ…。
おいらに手伝わせておくれよ。
おや?いつの間に。
おめえどっから来た?あっちじゃ。
危ねえからどいてろ。
おらもやってみたいんじゃ。
おめえみたいな小さい小僧じゃ無理だ。
邪魔すんでねえ。
大丈夫だ。
な馬っこ。
ボヒヒヒヒ!ボヒヒ!こらこら。
ボヒヒヒ!ボヒヒヒ!うわっ!うわっ!うわっ!おっとっとっと!おいおい急ぐでねえ。
はておかしいな。
この辺りにゃ人の住む家はねえはずだが…。
何か言ったか?こんな遠くまで来たら家の者が心配するぞ。
なあにでえじょうぶだ。
ほ〜れほ〜れこっちだこっちだ。
馬は子供の言うことをよく聞いて田んぼはみるみるきれいになりました。
明日また来るでほいじゃな。
ボヒヒヒ。
いったいどこの家の子なんじゃろ?まっおかげでずいぶんと助かったがな。
今は一人で暮らしているおじいさんですが昔は妻や子がありました。
けれどもあるとき突然妻も子も流行病にかかりおじいさんを残して先立ってしまったのです。
それからというものおじいさんはずっと一人で暮らしてきました。
あくる日また子供はやってきておじいさんの仕事を手伝いました。
子供は次の日もまたその次の日もやってきておじいさんはしだいにその子を頼りにするようになりました。
どこから来るのかわからんがしかしどこか見覚えのある顔のような気がするのう。
これですっかり田植えの準備も整った。
田植えおいらも手伝うよ。
そうかそれは助かる。
どうじゃ今夜は家で夕飯でも食っていったらどうだ。
おいら帰らなきゃ。
そう言うと子供は走っていってしまいました。
よしこれで終わった。
ふ〜田植えって大変なんだな。
そうじゃだが今年はおめえさんが手伝ってくれたおかげでずいぶん助かったよ。
えへへへ。
あっ!ほれ!おじいさんはまるで孫ができたようで嬉しくなりました。
明日は何をするんだい?すっかり田植えも終わったでしばらく仕事はねえ。
あとは無事米が実るようお天道様に祈るだけだ。
そうか。
お〜いお天道様!じっちゃんの田んぼを秋にはいっぱい実らせておくれ。
頼んだぞ〜。
気がつくと今までそこにいたはずの子供の姿がありません。
お…お〜いどこ行ったんだ?お〜い。
おいどこじゃ?どこ行った?ん?う〜むきっとこの先にあの子の家があるに違いない。
おじいさんが足跡をたどっていくと…。
そこにはお地蔵さんの祠があったのです。
こ…これは!それは一人暮らしのおじいさんのことを長い間見守り続けていたお地蔵さんでした。
まさかお地蔵さんがわしの手伝いをしてくれたのか。
《ありがとう》やがて秋になりおじいさんの田んぼは頭の垂れた稲穂が揺れて一面黄金色に輝きました。
今年もまた稲刈りの季節になりましたでひと働きしてきますだ。
その後あの子供が現れることはありませんでした。
おじいさんはお地蔵さんに感謝しながら毎日をすごしたということです。
昔阿波の国の田能村に久兵衛という旅役者がおりました。
たのきゅうと呼ばれるほどの人気者です。
しかし先日国もとからおっかさんが急病だという知らせがきて急いで国に帰ることにしました。
(久兵衛)雨か…。
もし旅のお方この峠を越すのかね?急ぐもんで夜になっても越すつもりです。
そりゃあよしたがよかんべ。
夜にこの峠を無事に越した者はねえだよ。
へえしかし急ぐもんで。
久兵衛は止められたのも聞かず峠を登っていきました。
すると前方に小屋が見えます。
木こりたちが休む小屋のようです。
火をおこして横になるとぐっすり寝込んでしまいました。
あっ!うぅ寒い。
あっ火が。
あれ〜なんだか生臭いぞ。
ひぃ〜!どうかご勘弁を!無断で休んでおりました。
いや別に俺の小屋じゃねえからそんなことはどうでもいい。
おめえこの麓で峠を登るのを止められやしなかったか?へえよくご存じで。
やっぱりそうか。
どうもこのごろ人間が来ねえと思ったら…。
おらあ味を忘れかけていたところだ。
えっ何の味でございます?ムフフフ人間の味よ。
いったいあなたは…。
俺か?俺はこの山に古くから住んでいるうわばみだ。
えっ!?うわばみ!?大蛇!そうともさあさあ潔く俺にのまれちまいな。
冗談言っちゃいけませんお助けを!たったひとりの母親が病気で寝ております。
どうかお助けを〜!黙れ!ようよう人間にありついたというのに。
ところでおめえはどこの何もんだ?私はあ阿波のあわあわ…。
しっかり言え。
ひぃ〜!たのきゅうと申します。
なんだタヌキだと?うんそうか。
俺も人間だと思ったからのもうとしたんだがおめえほんとにタヌキか?へへえタヌキでございます。
どうか命ばかりは…。
ああわかったよのんでくれったってタヌキなんざ俺のほうでごめんをこうむらぁ。
そうだ埋め合わせにおめえひとつ化けてみせろ。
タヌキだろ。
ははぁ…。
久兵衛はしかたなく荷物から芝居で使うカツラを取り出しまして…。
いかが?なるほどうめえもんだ。
もうひとつ何か化けてみろ。
へえ。
なんまいだなんまいだ。
こりゃおもしれえ。
じゃもうひとつ。
おのれ妖怪!変なもんに化けるなよもういい。
へえ。
いやぁ実に恐れ入った。
俺なんざ老人に化けるのが精一杯だ。
ひとつその化け方を教えてくれ。
どうだ?2〜3日俺の穴に泊まっていかねえか?この小屋の底なんだが…。
いえもうそのおふくろが病気でございますんで…。
そうだったなじゃ帰って親ダヌキの病気が治ったら訪ねて来てくんな。
(久兵衛)へえ…。
でなこれから仲よくつきあうにゃ隠し事はいけねえ。
お互いいちばん恐ろしいと思うものを打ち明け合おうじゃねえかおめえは何が恐ろしい?へえまあなんと申しましても恐ろしいのはカネかと。
カネ?
(鐘の音)寺でつく鐘か?いいえ。
人間が使う銭でございます。
へ〜え。
何しろカネが敵の世の中です。
カネのために命をとったりとられたり。
これほど怖いものはあるまいと。
そんなもんかねえ。
あなたは何がいちばん怖いのでございますか?俺はなタバコのヤニだな。
へえタバコのヤニが?あいつが体につくと肉から骨まで染み込んでついには死んじまうからな。
次は渋柿の渋だ。
あいつがつくと自由が利かなくなっちまう。
へ〜え。
いいかこうやって打ち明けた以上は決して人間に言っちゃあならねえぞ。
へえ決してしゃべりゃいたしゃせん。
もしもおめえがしゃべったりしたらタダじゃ済まねえからそう思えよ。
へえ決して他言はいたしません。
よしおふくろが治りしでえ訪ねて来いよ。
へえ必ず。
ホッとひと息ついた久兵衛は一目散に逃げ出しました。
もし旅のお人どうなすった?久兵衛はゆうべ出会ったうわばみのことを残らず話しました。
うわばみなんか出たら俺たちもおちおち仕事ができねえ。
みんなで退治しようじゃねえか。
よかんべえ。
木こりたちは若い衆を集めるとタバコのヤニと渋柿を樽に詰め小屋に投げつけました。
うわぁ…。
俺のいちばん苦手なものをぶっかけやがって!なんで知られたんだ?タヌキだ!あのおしゃべりダヌキめ!無事家へ帰った久兵衛。
おっかさんの病気もたいしたことはなくひと安心しました。
その夜のことです。
開けろおい開けろ。
(戸を叩く音)開けないとぶち壊すぞ!
(戸を叩く音)はいはい。
早く開けろ!やい開けねえか!はいただいま。
うわうわばみ!やいタヌキよくも俺のきれえなものを村のやつらにしゃべったな。
いえそんなことは…。
ウソをつくな!しゃべりやがって。
貴様にも怖いものあげる!恐々箱のフタを開けてみると中には小判がギッシリ入っておりました。
はぁ〜。
(久兵衛)ギャー!カネだ!怖いよ!助けてくれ!く苦しい…。
ヌハハハハ思い知ったか。
うわぁやめてくれ〜。
息ができねえもうダメだ…。
久兵衛一世一代の大芝居でした。
その後この大金を元手にたのきゅう一座を立ち上げ日本中を周って大成功を収めたということです。
昔大きな入り江に七つの浦があった。
沖には鯨が泳ぎ魚の群れを入り江へと追い込む。
鯨が来た知らせが浜を駆け巡るや漁師たちは魚を追って小舟を操った。
こうして七つの浦の漁師たちは鯨とともに暮らしてきた。
小さな鯨を獲ろうとして命を落とす者もいた。
ある日七つの浦の一つ二ノ浦に魚を求めて小舟が沖に漕ぎ出した。
収獲がないまま日が暮れかけた頃波間に見えたのは子供を連れた母鯨だった。
親子鯨を獲ることは禁じられていた。
子連れの鯨を傷つけてはならん!黙っていればわからん。
離せ!えい!別の漁師が投げたモリが母鯨を傷つけた。
そのとき親子鯨を守って大鯨が襲った。
小舟はひとたまりもなく波間に消えた。
一人だけ奇跡的に助かった漁師は大鯨に襲われたこと以外は口を閉ざした。
数年後二ノ浦に漁師となった若い兄弟がいた。
亡くなった漁師の息子だった。
あの出来事以来七つの浦は不漁が続き獲れる魚もわずかだった。
海藻や貝を獲って細々と暮らす者も多い。
見切りをつけて村を去る者もいる。
漁師の間にいさかいだけが増えた。
不漁が続くのはお前の親父の舟が大鯨に襲われて沈んでからだ。
何が言いたい?お前の親父ご法度の親子鯨を獲ろうとしたんじゃねえか?魚が獲れんのは鯨のたたりじゃねえかと思ってよ。
野郎もう一度言ってみろ!おっとうを悪く言われて兄貴は平気なのか?おっとうは誰よりも海の恵みを大事にしてきた。
わしはおっとうを信じる。
かつて七つの浦の人々をつないだ橋は壊れたまま直す者もいない。
海の恵みを願うんじゃ。
魚が獲れればいさかいなどなくなる。
どうぞ七浦を豊漁にしてくだせえ。
そしてある晩のこと。
2人の枕元に恵比寿様が現れた。
(恵比寿様)7日目の日の出の刻七浦に揃って舟で入り江を囲めば豊漁となろう。
兄弟は小舟で七つの浦を回り漁師たちに舟を出してくれるよう頼むが…。
恵比寿様のお告げなど信じられるか!魚が獲れんのはお前らの親父のせいじゃとみんなが言っとるぞ。
そんなのはウソじゃ。
頼む舟を出してくれ。
網もこのザマだ。
舟なんて出せるか!けれども2人は諦めなかった。
2人が訪れたのは父親と漁に出て一人だけ助かった漁師のじい様だった。
じい様が出ればみんなも舟を出す。
七浦のみんなが喜ぶ顔を見たいんじゃ。
子供の頃のように。
じい様は潮を見る名人といわれ幼い兄弟に潮の流れを教えてくれた。
沖で七浦の舟をすべて動かすにはじい様の力がいる。
それに…。
おっとうのせいで魚が獲れないなんぞもう誰にも言わせぬ。
わしのせいじゃ…。
あの時欲にかられ母鯨を獲ろうとした。
それを止めたのはお前たちの親父だった。
村の衆に知れるのが恐ろしゅうて黙っていた。
不漁はわしのせいじゃ。
ゆ…許してくれ〜。
じい様わしらの舟に乗ってくれ。
7日目の夜が明けた。
あっ。
七つの浦の小舟が結集してあとに続いた。
兄弟の思いが漁師たちに届いたのだった。
潮が変わるぞ。
入り江の口を開けろ。
鯨が来るぞ。
青黒い塊が入り江に向かってくる。
イワシの大群を何頭もの鯨が追い立てていた。
おおあの時の大鯨だ。
魚の塊の一方を仲間の群れへ押しやると大鯨はもう一方を入り江に追い込んだ。
結集した小舟が浅瀬へと追い詰める。
大鯨はもはや沖に戻ろうとはしなかった。
力尽きた大鯨に辺りは静まり返りやがて浜は喜びに湧いた。
鯨一頭獲れば七つの浦が潤うといわれる。
それはまた助け合うことの大切さを教えてくれるものでもあった。
七つの浦の漁師たちは恵みのしるしとして大鯨の骨を祀り恵比寿様に感謝した。
そして壊れかけた橋も七つの浦の若者たちの手でただちに修復された。
新しい橋は鯨橋と呼ばれ七つの浦の人々の暮らしを見守ったという。
2015/05/10(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「鼻とりの地蔵さん」
「たのきゅう」
「鯨橋」
の3本です。みんな見てね!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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