相棒 season7 #19 2015.05.09


(小池晋平)どうした血相変えて!?
(山口毅一)あぁ〜…!落ち着け!きいちゃんきいちゃん…。
なっわかるだろ?俺だほら晋平さんだ。
帰ろう!なっ?晋平さんがよ送ってってやっから。
乗れ。

(山口直弓)ごめんなさい。
迷惑かけてしまって。
(晋平)あ〜迷惑なんて事ねえけどさ。
パニック起こしてたから…。
(直弓)森で何か怖い事でもあったのかしら?毎晩森に行かせるのは考えもんじゃねえか?森の神様にお供えに行くのが日課だから。
そりゃあわかってっけど…。
だったら直ちゃん一緒についてってやるとかさ。
きいちゃん…普通じゃねえんだから。
一緒に行こうとすると嫌がるんだもの。
きいちゃんややこしいからなぁ。
お茶も淹れないで…。
あ〜いいいい!俺もう帰っから!なっ。
きいちゃん!晋平さん帰るからよ?じゃあな。
ありがとうございました!
(晋平)おう!あぁ春夫さん…来てくれてたか!ありがとう!事情は電話で説明したとおりだ。
力貸してくれ!
(法春)きいちゃんに見られたって?はっきりとはわからねえが多分…。
なんでこんなバカな真似しやがったんだ!お前はよ!よさんか晋平!今さらなじったってしょうがねえだろ!
(小池源一)晋平!俺も…殺してくれ。
バカー!!まだそんな事言うか!やめろよ。
(源一)貞子…。
病死にしなきゃならんのだな…。
(晋平)事故死だと警察が出てくっから困る。
突然死かなんかで丸く収めて?突然死だってお前…駐在呼ばなきゃならんぞ?えっ…?そりゃあそうだろう。
病院で先生にみとられて死んだわけじゃない。
つまり…変死になる。
駐在呼ぶのかい?まあひと通りの段取り踏まなきゃいくら俺だって弔い出来んからな。
(すすり泣き)心配すんな!うまくやる。
とにかく貞子さんを家まで運ばにゃ。
(念仏を唱える声)
(真鍋哲朗)こんばんは!真鍋です!あっここ置いときます。
(杉下右京)どうもありがとう。

(鈴木審議官)まずは感想を聞こうか。
(神戸)率直に申し上げて驚きました。
噂に聞いていた特命係とはかなり実態がかけ離れています。
君が警視庁にいたのは10年前だからね〜。
特命係は警視庁の陸の孤島だと聞いていました。
不必要な人材の捨て場所だと…。
(横田参事官)今現在も特命係は陸の孤島呼ばわりされてはいるが君が驚いたように実はその活躍には目覚しいものがある。
(鈴木)まあいずれにしても特命係はもはや無視出来ない存在である事は確かなんだ。
そこで君に見極めてほしい。
見極める?特命係が今後我が警察にとって有益な存在として発展出来るかどうか…杉下右京にその可能性があるかどうかをだ。
だが逆に危険な存在と判断されたならば今度こそ杉下右京を警察から駆除する。
(小野田公顕)駆除…。
それを私に判断しろと?
(鈴木)まあ半年もあれば十分だと思うがどうかな?つまり…私に特命係へ行けと?
(佐藤)君には16日付で異動してもらう。
まっ場所が場所だから表向きは左遷島流しという事になるが。
ちょ…ちょっと待ってください。
どうしてその役目が私なんですか?
(横田)君がその任務にふさわしいと判断したからだよ。
どういう基準で判断なさったんですか?
(鈴木)任務を下すのにいちいち選抜基準を開示しなければならんのかね?君が優秀だからですよ。
えっ?理由がそれじゃあご不満?あっ…はは…。

(角田六郎)おはよう。
おはようございます。
机はそれを使えばいい。
はい。
本日付で…。
あぁ…勘違いするな。
俺はここの人間じゃない。
向こうだ。
神戸尊と申します。
角田だ。
で…何しでかした?はい?なんかやらかさなきゃここへは送られて来ねえだろ。
一生懸命仕事をしていただけです。
自覚なしかよ…。
上司に盾突くタイプだろ?お前。
はは…。
盾は突きませんがしっかり意見は申し上げます。
あ〜そういうね「俺は正論吐いてるぞ」っぽいのがね組織じゃ一番嫌われるんだよな。
杉下警部は?見てのとおりだ。
どちらへ?さあ知らん。
今日は来てない。
昨日もだ。
(内村完爾)それはわざわざご苦労だな。
(内村)だが我々に挨拶は無用だ。
特命なんか眼中にないし特命に送られてくる人間にも興味がない。
(中園照生)挨拶回りしてる暇があれば求職活動でもしたらどうだ?はは…活動したくてもこの大不況ですから。
そんな事は知らん!我々は忙しいんだ。
とっとと帰れ。
はい!哀れなもんだな。
はい?「推薦組」だったんだろ?奴は。
(中園)ああそのようですね。
平成11年に抜擢を受けて警察庁に採用されています。
本来なら出世して古巣に戻る事だってあったんだろうが…。
まさか降格のうえ特命送りとはな。
《杉下右京は行方不明。
大いに肩透かしを喰らう》《角田課長より聞いた携帯番号に電話するも留守電状態》《メッセージを残すもいまだ連絡なし》《暇つぶしに関係各位に挨拶して回ったが想像以上に皆冷ややかな態度》《何故これほど嫌われているのか?》《杉下右京の優秀さに対するやっかみか?》《それとも杉下右京の人間性に重大な欠陥が…》《いずれにしても杉下右京今何処?》
(パトカーのサイレン)あっ…!?ふぅ〜。
あちょっと…。
(芹沢慶二)はい?杉下警部はいらっしゃいませんか?
(芹沢)は?おたくどなた?特命係の神戸と申します。
先輩…。
(伊丹憲一)杉下警部いらっしゃるんですか?いいえ。
いらっしゃいませんか?
(三浦信輔)いやここにはいらっしゃいませんけどね。
事件現場にちょくちょく顔を出すって聞いてたもんですから…今捜してるんです。
捜してる?ええ行方不明なもんで。
いらっしゃいますかね?いらっしゃったらご連絡差し上げましょうか?あっそれはどうも…。
ではお言葉に甘えて。
ではこちらの方にお願いします。
あっこりゃどうも。
捜査一課の伊丹です。
神戸です。
三浦です。
神戸です。
芹沢です。
神戸です。
よろしくどうぞ。
失礼…。
えーと…「警視庁特命係」。
「警部補神戸」…なんて読むんだ?これ。
(伊丹・芹沢)「そん」…。
「たける」じゃねえか?あぁ…。
(米沢守)あの〜もし…杉下警部をお捜しですか?ええ。
居場所ご存じですか?確証はありませんが「馬頭刈村」ではないかと…。
まずかりむら…?ご存じありませんか?西多摩郡の山村の…。
実は杉下警部に昨日呼ばれまして馬頭刈村まで参りまして軽〜く鑑識作業をして参りました。
なんか事件ですか?いやまだ事件化はされていないようでした。
むしろこれから杉下警部が事件化しようとなさってる…。
はい?《自分で事件作ったりすんのかよ》ちょっと…。
おいっどうした?大丈夫か?おい!
(小池福助)ダメ…。
ダメ…?もう飲めません…。
起きろ。
こんなところで寝る奴があるか。
あと10分…。
いいから…早く起きろほら。
…すいませんね。
いいか俺はもう行くからな。
二度と道の真ん中で寝ない事。
ここはお前のベッドじゃない。
起きろ。
乗れよ。
家どこだよ?送ってってやるから。
う〜んあと5分…。
いいからつべこべ言わずに乗れ!あ〜…!
(源一)本当になんとお礼を言ってよいやら…。
お礼なんか結構ですよ。
福助!お前もちゃんとお礼をせんか!バカたれが!
(福助)お世話様でした!君さいい大人なんだからもう少し分別ある行動しなよ。
ねっ?
(福助)…努力します。
なんの言い訳にもなりませんがせがれの母親が一週間前に他界しまして…。
(福助)なんで死んじゃったんだよ母ちゃん…。
めそめそしたって始まらねえだろ!急に亡くなったもんですからショックを受けて…。
(携帯電話)失礼。
(携帯電話)もしもし。
「神戸君ですか?」杉下警部ですね?連絡が遅くなって申し訳ない。

(ノック)入ります。
君がこの村にいるとは思いませんでした。
今日中にお目にかかれてよかったです。
何か急用でも?はい?僕に何か急用ですか?配属初日ですからきちんとご挨拶したくて。
なるほど。
杉下です。
神戸です。
本日付をもって特命係に配属になりました。
よろしくお願いします。
どうも。
何してらっしゃるんですか?こんなところで。
少しはご存じなのではありませんか?えっ?君が当てずっぽうでこの村へやって来たとは思えません。
米沢さんから聞いたのではありませんか?おっしゃるとおり。
米沢さんは「頼まれて現場検証した」とおっしゃってませんでしたか?あっ「軽〜く鑑識作業をした」と。
そこまで聞いているのであれば僕がここで何をしているのかわかりそうなものですがね。
あはは…。
質問を訂正します。
どんな事件を調べてらっしゃるんですか?杉下警部。
これは?この村の賢人が描いたものです。
「賢い人」と書いて賢人?「イディオ・サヴァン」。
サヴァン?あっ…「知的障害を持ちながら奇跡的な天才能力を発揮する人物」。
えっそういう人物がこの村にいるんですか?山口毅一君といいます。
みんなは「きいちゃん」と呼んでいます。
あれ?これ似てるなぁ。
この人に今お目にかかってきましたよ。
えーと小池さんでしょ?この人。
ええ。
小池源一さん。
この地区の区長さんですが…。
どうしてお目にかかったんですか?いやそれが村へ来る途中息子さんの…。
福助君?あっそう。
福助君。
道端に寝っ転がってるのを拾って家まで送り届けたんですよ。
そうでしたか。
しかし福助君はなぜ道端で?さあ…。
酔って寝込んだみたいですけどね。
母親の急死でショックを受けてるとか…。
この方お母さんですよね?ええ貞子さんです。
つまり源一さんの奥様。
なるほど。
どういう状況で亡くなられたんですか?どういう状況で亡くなったように見えますか?まあ…殺人現場のように見えますけど?しかし死因は病死です。
突然死…急性心不全でしょうか。
えっ…。
あの…これ血だまりですよね?ええ。
いやどう見ても病死には見えないな。
同感です。
はい?これを見てください。
はい。
麻縄です。
なぜこんなところにぶら下がっているのでしょうね?これは元からこの小屋にあったものでしょうかね?それとも持ち込まれたものでしょうか?いや…この縄が何か?気になるんですよ。
どうしてこんなところに麻縄がぶら下がってるのかが。
なんのために一体…。
昔から細かい事が気になってしまう。
僕の悪い癖。
うふふ…。
でこの包丁持った人物は?この方は小池晋平さん。
源一さんの弟さんです。
(晋平)えっ?警察!?
(源一)ああ。
確かなのか?はっきり聞いた。
もしもし…。
杉下警部ですね?
(源一の声)杉下警部って言ってた。
杉下けいぶ…?警部って言ったら警察だべ。
いや〜名前かもしれん。
「杉下」が苗字で「けいぶ」が名前だ。
「けいぶ」なんて名前…。
(法春)ないとは言い切れんだろ。
いや…楽観は禁物だよ?春夫さん。
ここは最悪の事態を想定しないと。
でその杉下警部ってのがどうも柊荘に泊まってるようなんだよ。
あの柊荘ってここからどのくらいですか?ああすぐですよ。
車で行けば10分で着きます。
あっあの…今夜は柊荘にお泊まりですか?ええまあ。
ちょっと連れがいるもんですから。
柊荘っていったらあいつが投宿してるとこだろ?そうだ。
あぁ…3日前ひょっこり現れたあの妙な男…。
(法春)だがあれは聖書を売ってる男って聞いたが…。
(晋平)俺もそう聞いた。
(源一)そう聞いたが実際に聖書を売られた奴はいんのか?きっと杉下警部だ。
どうする!?
(ため息)とにかく本当に警察かどうか…。
だとしたら何しにここにやってきたかまずそれを確かめよう。
それは大賛成だけどどうやって確かめる?ん…?ここは本職に頼もう。
蛇の道は蛇だ。
そもそもこれをどうやって入手したんですか?3日前に郵送されてきました。
郵送されてきた?警部のところへ?特命係にです。
差出人は?ずいぶんこの件に興味があるようですねえ。
いえ別に…この件には興味はありませんけど…。
はい?杉下警部あなたには興味があります。
人材の墓場と噂されている伝説の刑事ですから。
なるほど。
ですから帰れと言われても帰りません。
僕は特に指図したりしませんよ。
好きにしてもらって構いません。
ただしくれぐれも僕の邪魔だけはしないでください。
承知しました。
でも1人より2人。
実際長らく特命係はコンビでいたんでしょ?君は亀山君の代わりにはなれません。
なるほど…。
差出人は…山口直弓さん。
毅一君のお姉さんです。
どうぞ。
毅一君には郵便は出せませんから。
ああつまりお姉さんが特命係の事を知ってたって事ですか?いいえ知っていたのはこの村の駐在所にいる真鍋巡査のようですね。
なんだって!?いやそれがあまりにしつこかったものですから…。
(直弓)いたずらなんかじゃありません。
あの子はいたずらで絵なんて描きませんから。
見たものをそのまま描くんです。
いやあでもこれは…。
調べてもらえませんか?一度…。
何か怖い事が起こってる気がして…。
必要ないよ直弓ちゃん。
自分はあの夜区長さんのお宅にお邪魔してんだから。
こんな事はありえないって。
ありえない事をあの子は描いたりしないんです!困っちゃうなあ…。
お願いします!警視庁本部のこういったものの専門部署を教えるからそこで相談してみたら?専門部署?たしか特命係っていったかな。
(真鍋の声)しまいにはうっとうしくなってしまって。
うっとうしくなったからってよなにも本部の専門部署紹介する事ねえだろ!いえいえ専門部署なんかじゃありません。
特命係っていうのは窓際の窓際。
無能な警察官の送られる場所なんです。
警察学校の同期から…。
そいつ本部にいるんですけどねそう聞いてます。
そんなところへ相談したってどうにもなんないだろうと思ったんです。
ところが一昨日突然来ちゃって。
(法春)それは柊荘に泊まってる奇妙な男か?
(真鍋)はい。
わざわざ調べに来たのかよ?いや〜所詮窓際のクズ刑事ですから。
暇つぶしに来たんだと思いますよ。
暇つぶし?やる事ないんだと思います。
その証拠に…。
聖書?特に観光スポットがあるわけでもない小さな村ですからうろうろ歩いていると怪しまれると思います。
おそらく村人から通報が入ったりするでしょうからその際は…。
聖書を商っていらっしゃる方だと…?ええ。
了解しました。
しかし…。
はい?どうして聖書なんですか?なんとなく近寄りがたくありませんか?
(真鍋の声)しばらくは身分を隠して自由に歩きたいなんて体のいい事言って要するにのんびり過ごそうって魂胆ですよ。
デマを広めたのはあんただったのか。
とにかくよとっとと帰ってもらえよ。
自分が帰すんですか?そりゃそうだろ。
あんたが呼んだようなもんじゃないか。
鑑識作業っていうのは当然ここをやったわけでしょ?ここどこなんですか?ここから東へ3キロほど歩いた国道脇の森の奥の休憩小屋です。
休憩小屋。
伐採作業の途中一服する山小屋です。
この村は昔林業が盛んだったそうでその名残。
で鑑識の結果はどうだったんですか?もしこの絵と同じだとしたら血液反応が出たはずですよね?血液反応はありませんでした。
(米沢)やはりどこにも反応はありませんなあ。
ええ…。
少なくともここで血が流れたという証拠はありません。
ご足労いただいてすみませんでしたね。
いえいえ。
どうかしましたか?ああ…穴が開いてますねえ。
ネズミ穴ですかね。
ネズミ穴がありました。
え?ネズミ穴がなんなんですか?気づきませんか?はい?えっ?何がですか?…なら結構。
まあ絵のとおりの血液反応が出なかったとしたらこの絵の信憑性が疑われますよね。
血液反応が出なかった理由は簡単ですよ。
床を張り替えたんです。
張り替えなければ血液反応が出てしまいますからね。
じゃあ張り替えた痕跡があったんですか?ありました。
なるほど…。
確かにこれ木目模様が違いますね。
それに…あっ上がり框がこれありません。
床板が全面的に張り替えられています。
しかし物証となるべきものを隠滅されたとなるといささか弱りましたね。
この絵一枚では心もとない。
米沢さんの言うとおりこの絵だけじゃ証拠にならない。
確かに証拠にはなりません。
しかし僕は床板が張り替えられていた事でむしろ自信を持ちましたがね。
自信?もしもこの絵のような事がなかったとしたらわざわざ床板を張り替える必要などありません。
何しろ今は使われていない小屋なのですから。
つまりわざわざ床板が張り替えられていた事こそここで犯行があった事を如実に物語っているじゃありませんか。
負け惜しみの屁理屈に聞こえます。
どう聞こうと君の勝手ですよ。
どうしてあんなとこで寝てたの?わかんないよ。
寝心地よかったのかな…?あっきいちゃん今度さディズニーランド連れてってやろうか?わかりません。
家からすぐなんだよ。
ミッキーマウスとかいて楽しいよ。
わかりません。
直ちゃんさおじちゃんとおばちゃんが亡くなってもう何年だっけか…?10年。
もうそんなか…ホントなら直ちゃんも今ごろ都心でバリバリ働いてたはずなのにね。
…ああれどうした?あれって?あの就職するっていうんでさかっこいいスーツ買ったじゃん。
着てみせてくれたじゃん。
あん時の直ちゃんきらきら輝いて眩しかった…。
あんなものとっくに捨てたわよ。
流行遅れで着られないもの…。
あっきいちゃん。
きいちゃんミッキーマウスってのはねネズミだぞ。
(毅一)ネズミ大好き。
だから今度行こうよ。
(毅一)わかりません。
(時計の鐘の音)
(毅一)10時。
おやすみなさい。
おやすみ。
おやすみ。
きいちゃんはいいないつも規則正しくてさフフ…。
ねえ。
ん?会社順調なの?その話題は…つらいな。
また潰れた。
え?俺って実業家に向いてないのかな。
やだ…ちょっとまた死のうとかしないでよ?ねえ道で寝てたのって…。
違うよ全然違う違う。
でも潰れちゃったならまた借金とかあるんでしょ?前も借金で大変だったじゃない。
おふくろが金残してくれた。
お母さん?うん…。
生命保険かけてたんだって。
受取人を俺にして。
そうなんだ…。
そうですか素性が割れてしまいましたか。
すみやかにお引き取りください。
お仲間まで呼んで何しようっていうんですか?それってさ区長たちから圧力かかったって事?俺たちを追い返せって言われてきたわけだろ?圧力なんて…人聞きの悪い。
そもそもきいちゃんの絵を真に受けるなんてどうかしてますよ。
そうでしょうか?きいちゃんの事ご存じですか?ええ。
一度お目にかかりました。
あ〜…。
あ〜…。
すいません。
いえ。
(時計の鐘の音)いただきます。
(直弓)食事の時間になっちゃいました。
ねえきいちゃん今日行くのやめない?
(ぐずる声)わかった。
じゃあこれ持って。
いってきます!
(直弓)気をつけてね。
それにしても見事なものですね。
(杉下の声)たしかに彼は健常者ではありません。
しかし一種の天才です。
写真的記憶とそれを再現する事に突出した能力を持っている。
それは被写体を一瞬にして正確にとらえるカメラのごとき能力。
彼は一瞬見たものを見たままに脳に焼きつけそれを絵として再現する事が出来るんですからね。
つまり僕はこの絵を現場写真だと思ってるんですよ。
困っちゃったな…。
まあさ俺たちの事は気にするなって区長たちに言えよな?わかりました。
どうも失礼しました。
はい。
張り替えられた床板の一件と合わせてますます怪しくなりましたかね杉下警部としては。
フッそれにしても聖書って…。
あのカバンの中本当に聖書を詰められてるんですか?さっき僕の邪魔をしないでくれとお願いしましたがやはり遅かったようですね。
は?君のおかげで僕の素性がばれてしまいました。
え?俺の…?君はここへ来る前区長のお宅にいたと言いましたね。
僕が電話をした時もまだ区長のお宅でしたか?ええ。
その時君は電話口で「杉下警部ですね」と言いました。
杉下警部ですね。
それを区長が聞いていれば…。
他に僕の素性が割れる理由はありません。
いや…だとしても不可抗力ですよ。
ですからお願いするのが遅かったと申し上げています。
もっとも僕がここで捜査をしている事を君はある程度わかってらっしゃったわけですからもう少し慎重であってほしかったですね。
ましてや呼ばれもしないのに押しかけてきたわけですから細心の注意を払ってしかるべきだったと思いますよ。
そりゃ難癖でしょう。
俺は区長が捜査対象だなんて知らなかった。
ましてや警部がまさかこんなところで聖書の商いだなんてねえ…。
全然思いもしませんでした。
想像力の問題ですね。
まあいいでしょう。
おかげで区長たちがわかりやすい行動を起こしてくれました。
僕はますます疑いを濃くしましたよ。
夜も更けてきました。
部屋とってきます。
あぁっ!!
(福助の声)就職するっていうんでさかっこいいスーツ買ったじゃん。
着てみせてくれたじゃん。
あん時の直ちゃんきらきら輝いて眩しかった。
入ります。
あれ?
(ため息)2日目は置いてきぼりかよ。
…上等じゃないか。
保険金?
(直弓)お母さんが福助さんのためにかけてたそうです。
なるほど。
ちなみに保険金はどのぐらいおりるのでしょうねえ。
ご存じですか?3億って言ってました。
それはまた大きな額ですね。
心配だったんだと思いますお母さん。
福助さんの事がですか?いくつも事業に失敗しててそのたびに借金抱えて。
でもいい人なんですよとっても。
優しいし愛すべき人…。
ただ…運がないだけで…。
(福助)俺母ちゃんに孝行の一つも出来なかったな。
(舟木医師)「様子がおかしい」と源一から連絡もらってねかけつけた。
午後8時を回ってたかなあ。
残念ながら駆けつけた時貞子ちゃんの息はもうなかった。
貞子さんはどこかに倒れてらっしゃったのでしょうか?いや布団の中。
なんでも夕方気分が悪いといって床を敷いて横になったそうだ。
ところが夜になっても一向に起きてこない。
心配して様子を見たら息がなかった。
まあ貞子ちゃんも体が丈夫じゃなかったからねえ。
心臓に持病抱えてたから。
心臓に…となると死因は?急性心不全だな。
先生が駆けつけた時区長さんのお宅にはどなたがいらっしゃました?源一と晋平…晋平は弟だ。
それから…春夫がいたな。
春夫さんというのは和尚さんですね。
法春さん。
そうそう。
おのれがなまぐさなくせして僕の事をヤブ呼ばわりする。
先生より先に坊さんがいらっしゃったとはなんとも手回しのいい話ですね。
ハハハ…まったくだ。
たまたま来てたそうだよ。
源一と晋平と春夫は幼なじみで昔っから仲良しだ。
貞子さんのご遺体ですが首筋に傷はありませんでしたか?傷?たとえば刃物で切ったり…。
さあね…首筋は見えなかった。
終始源一がね貞子ちゃんの首ったまにすがりついて泣いてたから。
(号泣)源一。
ちょっとのいててくれないかな。
兄貴の気持ち察してやってくれよ先生!気持ちは重々わかるけどね見づらいでしょう。
はい。
(法春)脈あるか?ああ…。
ない。
死んでるか。
ああ死んでる。
(号泣)死因はなんだ?心臓麻痺か?
(舟木)おそらくな。
心臓麻痺なら変死だろ?駐在呼んだほうがいいか?そう先先行くな。
おお先生が生き返らせてくれるっていうんならいくらでも待つぞ。
無茶を言うな!それじゃ駐在呼ぶぞ。
そういう事でしたか。
仲のいい夫婦だったからなあ源一んとこは。
傷って何?あいえなんでもありません。
(法春)まったく余計な事を。
どうして警察なんか呼んだんだ?柊荘に泊まっている男あれはお前が呼んだ刑事だそうじゃないか。
だって和尚さん取り合ってくれないから…。
言ったろう?きいちゃんのあの絵はいたずらだ。
想像の産物だって。
どうして毅一があんな怖い絵想像で描くの?そんな事はわからんよ。
テレビかなんかの見すぎじゃないか?お前何か?源一ちゃんや晋平ちゃんに恨みでもあんのか?そんなのない!子供のころからずっと面倒みてもらってきたじゃないか。
両親を亡くした後も…。
それはとっても感謝してます。
この村は平和なんだ。
駐在1人でたくさんだ。
おい場所を見て商売しろ。
これはどうも。
ここは寺だ。
聖書はいらん。
実は私…。
わかってるよ。
刑事さんだってねあんた。
杉下と申します。
この愚僧は多忙じゃ。
貞子さんが亡くなったのはたしかにご自宅でしょうか?いいかね?きいちゃんの絵はいたずらなんだ。
想像の産物。
想像で絵を描いた事はこれまで一度もないと聞いています。
今まで描かなかったからといって絶対に描かないという事はない。
いいかねサヴァンというのはイマジネーションや遊び心はないとされているがそうでもないらしい。
実際芸術性を発揮するサヴァンも存在するそうだ。
なるほど。
そもそもきいちゃんは動物の絵しか描かんのだよ。
知ってるかな?ええ見せてもらいましたが動物以外の絵はありませんでした。
(法春)だろ?それが証拠だよ。
フフッきいちゃんの今回の絵は想像だ。
イマジネーションで描いた…おお記念すべき最初の絵だよ。
ハハハハ…。
まあとんだ代物だったがね。
(携帯電話)失礼。
(携帯電話)もしもし。
神戸です。
どちらにいらっしゃるかわかりませんがちょっと来てもらえますか?休憩小屋があったのはここで間違いないですよね?ええ少なくとも昨日の夕刻まではたしかにありました。
下の立て札は…?ありませんでした。
バカバカしいマネをする連中だな。
ま証拠となる恐れのあるものを一切合切隠滅したいと思う気持ちはわからないではありませんがね。
隠滅ったって山小屋一軒ですよ?たった一晩で。
元々掘っ建て小屋のようなものでしたから解体も意外に容易だったんじゃありませんかね。
(晋平)下の看板さ見えなかった?ここ私有地立ち入り禁止!どなたの所有地でしょうか?坊主の。
法春さんですか?よく知ってんね。
では和尚さんに許可を頂きます。
無駄だよ許可しねえもん。
どうして?何が?どうして許可しないの?そんなの坊主の勝手でしょ。
こちらのお仲間だからですよ。
ああ一味か。
一味って…。
あんた方さ警察なんだってね。
こういうの不法侵入みたいにならないの?なりますね。
通報するぞ。
もう退散します。
じゃあ今回だけは大目に見てやっからとっとと帰んなな。
では。
何?何よ…。
せっかくですから少しだけでもお話をお聞かせ願いませんかね。
やだよ。
話す事なんかなんにもねえよ。
何が「せっかく」だよ。
ここでお目にかかったのも何かのご縁ですし。
しつこいよあんた。
よく言われます。
聞くところによると貞子さんが亡くなった夜あなたは毅一君を家まで送り届けたそうですね。
うん…。
森で何をなさってたんですか?俺は森でなんか何にもなさっちゃいねえよ。
国道でさ森の入り口んとこあそこで小便してたんだよ。
仕事帰りにもよおしちゃってさ。
なるほど。
(晋平の声)そしたらきいちゃんが森から血相変えて出てきたもんだから。
パニック状態だったそうですね。
…だったな。
お姉さんの話によると毅一君は森で怖い目に遭ったのではないかと。
さあその辺はわかんねえ。
怖い目に遭ったんじゃなくて怖いものを見たんじゃないですかね?黙っててもらえますか?僕には僕の段取りがありますから。
きいちゃんが森で怖いもん見てそれを絵に描いたって言いたいわけね。
どんな絵描いたの?俺現物見てないんだよね。
あいにく現物ではなくコピーですが。
写真?いえ細密画です。
ああ…。
あなたに似てますね?何言ってんだよ。
こんな場面を見たもんだからきいちゃんパニクったって言いたいわけだねぇ。
いいえ僕の見解は違います。
違う…?毅一君はお姉さんのおっしゃるとおりで森で怖い目に遭ったんですよ。
あの夜毅一君は山小屋を覗きました。
たまたまではなくおそらく毎晩森の神様にお供えをしたあと覗いていたのだと思います。
ネズミを見るために。
ネズミ…。
ええあの小屋に出入りしていたネズミがいたんですよ。
そのネズミを見るためにあの夜も小屋を覗いたんです。
そしていつものとおり帰路についた。
ところがあの夜は違った。
何者かがつけて来る気配がした。
猪かね…。
気をつけな野生は怖えから。
僕の想像では猪などではなく人間です。
毅一君が小屋を覗いた時中にいた人物。
おそらく何か物音に気付いて外を確かめたのでしょう。
その人物が毅一君を追いかけたんですよ。
俺だって言いたいわけねきいちゃんを追いかけたのが。
ええ。
そしてあなたは先回りをして森の入り口で毅一君を待っていたんです。
そう考えないと辻褄が合わないんですよ。
この絵のとおり毅一君が小屋を覗いた時あなたは中にいらっしゃったはずなのに毅一君が森を出た時既に森の入り口にいらっしゃってあなたは毅一君を捕まえたわけですから。
つまり毅一君がパニックを起こしていたのはあなたのせいですよ。
怖いものを見てパニックになっていたわけではありません。
発言しても?どうぞ。
どうしてそんなふうに断言出来るんですか?この絵に描かれてる場面これかなり怖いですよ。
女が血を流して倒れてて傍らには包丁を持った男が。
あんたね。
それがパニックの原因だって考えるのが自然でしょ。
ですから言ったじゃありませんか。
毅一君はネズミを見るために小屋を覗いたんです。
うんそれはわかりました。
そして見たままそのままを記憶してネズミの絵を描いたんです。
ネズミの絵?よく見てください。
これですよ。
これ…ネズミ!?少なくともネコには見えませんね。
いや言われてみれば確かにネズミですけど…。
そもそもこの絵はネズミの絵なんですよ。
え?ネズミ以外は背景にすぎないんです毅一君にとっては。
背景って…これ全部背景ですか?毅一君の関心はもっぱらネズミにしかありませんでした。
背景についてはその状況すら認識していなかったと思います。
機械的に記憶した背景をただ忠実に絵に再現しただけの事。
もっとも偉そうに言ってますがね僕も最初はネズミを見落としてましていささか困惑しました。
動物以外の絵は?描いた事ありません一度も。
初めてあんな絵を描いたんです。
もしもあの絵が唯一の例外であるとなるとあるいは想像の産物だという考え方が出来なくもありませんからね。
ですから休憩小屋の中でネズミ穴を発見してひょっとしてと確かめて絵の中にネズミを見つけた時にはホッとしました。
これまでの絵となんら変わりのない絵である事がわかりましたからね。
つまり想像の産物などではない。
ああ…言うまでもありませんが毅一君にとってはネズミの絵でも僕が問題にしているのは背景の方ですよ。
さてあの夜休憩小屋の中がどんな状況だったのかお話し願えませんかね。
おっちょっ…ちょっと待てよ。
冗談じゃねえよ!そんなくっだらねえ話お前付き合ってられっかよ!帰れもう!危ねえ。
歩いていらっしゃったんですか?日頃の運動不足解消です。
乗りますか?はい?
(ロックを解除する音)どうぞ。
ではお言葉に甘えて。
で行き先は?とりあえずUターンして戻ってください。
この時の状況を詳しくお聞かせ願えませんか?小池さん。
想像の産物だって聞いてますがね。
身に覚えがない?ええ。
これを見ると弟さんが奥さんを殺したようにも見えるよね。
何?だってほら包丁握ってるもん。
ふざけた事言わないでもらいたい!ええ…殺人とは限りませんからね。
え?確かにこの絵は殺人の場面に見えます。
実際彼もそういう印象を持ったようです。
かくいう僕も。
しかし見方によっては自殺の場面に見えなくもない。
奥様が自殺を図りそこにあなたと弟さんの2人が駆けつけた。
そんな場面です。
弟さんが握ってる包丁は奥さんが自殺するために使った凶器って事ですか?現場へ入ってとっさに凶器を拾い上げるというのはよくある事ですよ。
それにこの区長さんの様子は変わり果てた奥様を前にして唖然としているように見えませんか?いかがでしょう?妻は病死です。
残念ながら病死だけは納得出来ませんね。
病死なんです。
そうですか。
お引き取りください。
これ以上何も話す事はありませんよ!仮に自殺だとするとどうして病死に偽装するんですかね?殺人なら事実を隠蔽するために偽装するのもわかります。
でも自殺をわざわざ…。
あっそうか世間体かねぇ。
自殺ともなるといろいろやかましいから。
小さい村ですしね。
ん?それとも宗教上の理由か…。
自殺はダメとか。
あっでもお寺さんが弔ったんですもんね。
関係ないか…ねぇ。
質問ですか?それとも独り言ですか?あ…両方です。
いずれにしても黙っててください。
僕は考え事をしています。
(伊丹)お帰りなさいませ特命係のご両人。
(三浦)どうも。
勝手にお邪魔してました。
予期せぬお客様ですね。
その節はどうも。
(伊丹・三浦)どうも。
(三浦)警部殿が見つかってよかったですな。
どうも。
どういうご用件かお伺いした方がいいですかね。
(芹沢)苦情が来てますよ。
苦情?
(芹沢)西多摩署の方から。
特命係の刑事が2名捜査と偽って遊び呆けてるって。
なるほど。
真鍋巡査が言いつけたようですね。
で連れ戻しに来たんですか?連れ戻そうったって警部殿は戻りませんよ。
じゃあ何しに?どういう捜査をなさってるのか探りに。
(三浦)間違っても警部殿が遊び呆けてるはずありませんもんね。
(芹沢)どんな事件っすか?
(携帯電話)失礼。
(携帯電話)もしもし。
ああ俺だ。
「どうも」ご要望どおり超特急で調べてやったぞ。
恐縮です。
えーっとあおい生命保険だ。
被保険者は小池貞子だな…。
受取人が息子の福助。
保障金は3億だ。
一昨年の6月5日に加入してる。
一昨年の6月?まだ加入して2年弱しか経過してませんね。
「だな」で免責期間は?ええ…3年だ。
「どうもありがとうございました」詳細は神戸君から聞いてください。
僕はちょっと出掛けます。
(伊丹)ちょっちょっと…。
(三浦)警部殿警部…!
(芹沢)はぁ!?写真ですか?絵です。
絵!?なんっすかこれ?なんだと思いますか?殺人の場面でしょうか?それとも自殺の場面でしょうか?はぁ?
(叩く音)
(福助)杉下さんですか?壊れているようですねこれ。
ずっと前からです。
滅多に人なんか来ないですし。
あっ…杉下です。
あっ小池です。
直ちゃんから「ここで杉下さんが待ってるから行って」って言われて。
お忙しいところ申し訳ない。
ちょっとお話がしたかったものですからね。
直弓さんに連絡をとって頂きました。
あの…本当に刑事さんですか?福助さんは実業家だそうですね。
あ…はいそうです。
しかし事業の方はあまり順調ではない。
あはは…あの実は失敗したばっかりです。
もう5つ目です。
商才ないんですかね俺。
さああなたの商才について僕は判断出来ませんが直弓さんは「運がないんだ」とおっしゃってました。
そう!俺も思ってたんですよ。
運がないだけだって。
けど立て続けに5つも失敗するとなるともう運だけの問題じゃないような気もするし…。
同感です。
え?やっぱり…。
そうなのかなぁ…。
っていうかこれって尋問ですか?いえいえ世間話と思ってください。
世間話って…。
失敗の度に負債を抱える事になるんですか?あ…それは半端ないです。
返済の方は滞りなく?お陰様でこれまでの分はなんとか。
そうですかきちんと返済なさってるというのはご立派ですね。
そこつかれると痛いです。
はい?だってみんな親がかりだから。
ご両親が肩代わりを?迷惑かけとおしです。
では今回また失敗なさったと聞いた時にはご両親はさぞかし気をもまれたでしょうね。
俺が母ちゃんを殺したんです。
はい?
(小池貞子)「そんな大金…?」いやいいのわかってる。
今度は助けてもらおうなんて思ってないから。
(貞子)もううち…なんも残ってないのよ。
売れるもの全部売っちゃったから。
わかってるってば。
自分でなんとかするから。
なんとかするって…どうするの?今度こそ死ぬっきゃないかな…。
福ちゃん!うそだようそ。
冗談だよ。
バカ!そんな冗談言う時じゃないでしょ今は。
ごめん…。
ほんとごめんね。
(嗚咽)
(福助の声)たぶん心労でポックリ…。
だから俺が母ちゃん殺したも同然なんです。
あるいはそうかもしれませんね。
え?非常に残酷な事を申し上げるようですが確かにお母様を殺したのはあなたかもしれません。
(毅一)ああーっ!ああーっ!あっああーっ!
(直弓)きいちゃんどうしたの?落ち着いてきいちゃん。
どうしたの?あっあっ…!あっこれねわかったやるから。
落ち着いて。
ね動かないで静かにしてね。
あっうっうっ…!出来たよ。
きいちゃん…。
きいちゃんこっち向いて。
直ちゃんの方見て。
ああーっ!きいちゃん!ねえきいちゃんお願い。
大丈夫だから。
こっち見て直ちゃんの方見てねえ。
(福助)あの…俺どうすればいいですか?どうって…。
直接あんたに責任があるわけじゃないからな。
そうあちらが言ったのは要するに比喩だから。
でも根本の原因は俺です。
杉下警部の想像どおりならそうだけど…。
でも現段階ではあくまでも想像だから。
でも筋が通ってます。
生命保険には免責期間があるんです。
加入して3年ぐらいは免責期間です。
その間は自殺じゃ保険金は下りません。
俺よく知ってます。
死んで負債をなんとかしようと思って…。
こう見えても一度自殺した事ありますから。
(一同)ん?
(福助)あっいや…。
死んだつもりがこうして無事だったんですけど。
お医者さんには「君は体力が取り柄だね」って言われました。
なまじ体が丈夫だったばっかりに死にきれなかったんです。
自殺を企てたのはいつ頃ですか?一昨年の5月です。
忘れもしない端午の節句。
なるほど。
それでお母様は先々の事が不安になり翌月あなたを受取人にした保険に加入なさったのですねおそらく。
そういう事か…。
じゃあこれ…絶対自殺の場面ですよ。
でもまだ免責期間で自殺じゃ保険金が下りないから父たちが結託して病死にしたんです。
俺のために母ちゃん死んで俺のために父ちゃんたちは犯罪に手を染めたんです。
こうして息子の方は俺たちの話をわかってくれましたけど当人たちは完全否定ですからね。
ええ。
あくまで病死だと言い張ってる。
病死なわけないじゃないですか!これのどこが病死ですか?
(三浦)まあまあ落ち着けよ。
君が興奮してどうする?俺はきいちゃんをよく知ってます。
きいちゃん確かに見たんですこの場面を。
自殺ですよ間違いなく!いや単なる自殺であればまだマシかもしれません。
(三浦)どういう事ですか?事態はもっと深刻かもしれないという事です。
(伊丹)深刻ってどう?殺人かもしれません。
(一同)えっ!?いや自殺だっておっしゃったのは警部殿でしょ。
ですから自殺でもあり殺人でもあるという事ですよ。
(読経)弱気になるな兄貴大丈夫だ。
福助の事を考えろ。
全ては奴のため。
今兄貴が崩れちまったらおじゃんだぞ。
それこそ義姉さんだって浮かばれねえよ。
(携帯電話)誰からだ?福助だ。
もしもし。
父ちゃんか?俺だ。
どうした?「父ちゃんが母ちゃん殺したって本当か?」どうなんだ?父ちゃん。
誰がそんな事を?杉下さんだよ刑事さんだ。
デタラメだ!そんな奴の言う事なんか信用するな!けど筋が通ってるよ。
父ちゃんたちの言ってる事より100万倍。
杉下警部とどこで会ったんだ?今一緒だよ。
本当の事言ってくれよ父ちゃん。
父ちゃん俺…もうおかしくなりそうだよ。
福助杉下に会ったのか?俺のためにしてくれたんだろ。
だけど俺に父ちゃんの事非難する資格ないけどさ…。
そんなつもりもないけどさ…。
けどさけど…俺…これからどうすりゃいいんだよ…。
なんとか言えよ父ちゃん!杉下警部と代わってくれ。
うぅ…代わってくれって。
もしもしお電話代わりました杉下です。
福助につまらん事を吹き込むな!あなたは奥様を殺害しました。
デタラメだ!そしてあなたも死のうとなさった。
つまり無理心中ですよ。
違いますか?もちろん負債を抱えて二進も三進もいかなくなっている福助さんのために。
「これまでも度々福助さんを救ってらっしゃったあなた方でしたが既に財産は底をつき今回ばかりは助けようにも助ける手立てがなかった」それでもなお助けようとするならば文字どおり命と引き替えにお金を作る以外手立てがなかったんです。
生命保険?ええ。
当然のごとく生命保険によってお金をこしらえるためには死ななければなりませんが人間そう都合よく死ねるものではありませんからね。
その上まだ免責期間中。
つまり自殺は御法度です。
「そこでやむなくお二人は決意なさったんです」ある方法によって保険金を手に入れようと。
その方法が無理心中です。
私は元々体が丈夫じゃないしいつ死んだっておかしくありません。
死にます。
だから自殺じゃないように取り繕ってください。
簡単に言うな!そんな偽装はすぐバレる。
でも他に方法が…。
今度はタチの悪いところからの借金もあるみたいですから…。
殺されてしまうかも…。
福助がどうなってもいいんですか!わかってる。
でも自殺はダメだ。
あなた!もっと確かな方法がある。
「最初は僕も奥様の自殺を単なる病死だと偽っただけかと思いましたが…」果たして息子のためとはいえこんな残酷なマネが夫のあなたに出来るだろうかと考えを改めました。
そこでふとずっと引っかかっていた麻縄の意味に気が付いたんですよ。
なるほど!これも一種の凶器だ。
人の命を奪う道具になると。
やはりこれは元からここにあったものではない。
持ち込まれた物だと。
あなたが首をつるために…。
そもそもこの計画は無理心中だという事が明確にわからなければ失敗です。
万が一にも単なる心中だと思われたらアウト。
一銭にもなりません。
明らかに奥様が殺されたという事をわからせないといけない。
そこであえて凶器を2つ用意しました。
奥様の方は包丁で首を切られその包丁にあなたの指紋が付いている。
そのあなたは梁に引っ掛けた麻縄に首をつっていればもうこれは誰も無理心中だという事を疑いませんからね。
そしてあの夜あなた方は計画を実行に移した。
おそらく奥様には苦痛を与えないよう何かで眠らせていたのではありませんかね…。
そうして順調に運んでいた計画でしたが途中で予期せぬ邪魔が入った。
…晋平さんです。
何やってんだー!!なんでもねえって!か帰れ…。
(晋平)何を…考えてんだよ!義姉さん…ひぃっ!いいから…いいからお前は帰れって!119番…119番…。
もう遅いんだよ!死んでるんだ!うるせー!バカたれー!頼む!晋平…見逃してくれ!福助のためなんだよぉ…。
福助の…。
福助…。
(号泣)事情を知った晋平さんはとにかくあなたに死ぬ事を思いとどまらせ計画が破綻しないように画策するため法春さんを呼んだ。
(晋平)なんて事しちまったんだよ…。
兄貴!おそらくちょうどその頃でしょうね。
毅一君が小屋を覗いたのは…。
きいちゃんだ!見られたかもしんねえ!ちょっと行ってくる!春夫さんすぐ来るからな。
待ってろ!変な気起こすな!やがて法春さんがやってきて奥様の遺体はご自宅へ運ばれ舟木先生と真鍋巡査が呼ばれ無事病死として弔う事に成功した。
僕が毅一君の絵から読み取った結論は以上ですがいかがでしょうね?あんたの想像だ!しかしこの毅一君の絵は想像ではない。
証拠でもあんのか!私が無理心中を企てたという証拠が!妻を殺したという証拠が!いいえ。
残念ながら。
妻は病死だ!そうですか。
しかし福助君はそれを信じていませんよ。
彼は我々の方が筋が通っているとおっしゃっています。
福助を返せ!返すも何もこの電話が終わればお帰りになりますよ。
ただし…最愛の息子さんはあなたを疑いのまなざしで見つめるでしょうがそれは覚悟なさってくださいね。
いいですか?お父さん。
もはや進むも地獄戻るも地獄。
ですが唯一彼の心を救えるのは真実しかないんですよ。
たとえそれがどんなに残酷なものであろうと真実ならば人はそれを受け入れそこから先に進む事が出来るんです。
しかし…偽りは人の心を硬直させやがて殺すだけですよ。
汚いぞ杉下!あんたは…。
息子の心を人質に…!あなたは…息子さんの心まで殺す気ですか?ううう…。
なんて言ってんだ?杉下は。
源一ちゃんおい!源一ちゃん!おい!
(号泣)おい!
(号泣)
(源一)福助!父ちゃん…。
ごめんなさい…。
(すすり泣き)ごめんな…。
(福助)ごめんなさい…。
ごめんなさい…。
(嗚咽)
(法春)また3人増えてるぞ…。
よっぽど暇なんじゃないか警察は。
(嗚咽)敵のウイークポイントを容赦なく突く。
ストリートファイトみたいなもんですね。
で最後は金玉握りつぶすみたいな…。
勉強になりました。
しかしこれでよかったんですかね?保険金は下りない。
福助君は借金苦のまま。
おまけに父親は殺人犯。
犯罪を見過ごせとおっしゃるんですか?元々見過ごされてるはずの犯罪ですよ。
たまたま杉下警部の目に留まってしまっただけで…。
見過ごされてる犯罪なんてこの世にごまんとあります。
そのうちのたった1つたまたま警部の目に留まってしまっただけの事…。
それがなんですか?いえ別に。
ただなんとなく不公平かなって。
運が悪かったのかなと。
フッ…おやすみなさい。
三丁目は北の方で残りは東で。
じゃあ行くぞ!
(一同)はい。
(一同)おーい!おーい!おーい!返事しなー!いるなら返事しろー!どこだー!《杉下右京じつに愉快な人物だ》《が付き合うのは相当骨が折れるだろう》《それにしても杉下右京と長年コンビを組んでいたという亀山薫巡査部長はどういう神経をしているのだろうか》《一度亀山巡査部長にも会ってみたい気がする》おーい!おーいどこだー!おーい!返事しろー!おーい!応えてくれよー!…あー!
(ため息)
(真鍋)あ刑事さんです。
(真鍋)おはようございます!どうも。
おはようございます。
連絡をどうも。
先日は大変失礼しました。
その件はもう。
それより…。
あこちらです。
(真鍋)ここから500メートルぐらい先の沢なんです。
(真鍋)足元気をつけてください。
(真鍋)ここです。
ああ…。
どうしました?ゴホッ…いえ死体は苦手で…。
そうでしたね君は警備畑出身ですからね。
大丈夫です。
(カメラのシャッター音)
(真鍋)あのですね…。
そこから足を滑らせて転落したようです。
事故?
(真鍋)はい足を骨折して動けなくなったようで。
どうしてこんなところから?道に迷って森をさ迷い歩いたみたいですね。
迷った?区長さんたちのせいですよ。
(真鍋)森の入り口に立て札立てたり休憩小屋を壊したりしたでしょう。
そのせいです。
(真鍋)きいちゃんみたいな子はちょっとした変化にも上手く対応出来ないんです。
なるほどあるはずのない立て札が突然出現した事でパニックになったわけですね。
(真鍋)それでも日課のお供えはしなくちゃいけないと思ったんでしょう。
無理やり森に入って…。
そしたら今度はあるはずの小屋が消えていた。
はい。
(真鍋)多分もうわけがわからなくなって…。
(真鍋)昨夜直弓さんからきいちゃんが戻らないって連絡があって…。
みんなで森を捜索したんですけど見つからなくて…。
ゆうべ発見出来たら助かってたねきっとね。
はい…。
なぜ発見出来なかったのでしょう?
(真鍋)急に雨が降りましたでしょ?土砂降り。
きいちゃん雨をしのぐためにその岩穴に必死で入っちゃったんだと思います。
それで体が隠れちゃって…。
(真鍋)ここら辺りもちゃんと捜索してたんですけどね。
もう行きましょうか。
大丈夫ですか?これは?きいちゃんの絵です。
最後の…。
これを胸に…抱いて死んでたそうです。
拝見しても?雨の中薄れゆく意識の中で描いた最後の絵ですか…。
毅一君は想像で絵を描かない。
つまりこれこそ初めての想像の産物って事でしょ。
最初で最後の。
…神戸君。
はい?君がどう言おうと僕は見過ごせないんですよ。
この絵をご覧になってどう思われました?4枚全てあなたの顔です。
構図も一緒。
しかしそれぞれ異なります。
多分これは…。
こういう順番になると思いますよ。
「ご」。
「め」。
「ん」。
「ね」。
これは想像の絵ではない。
見たものを記憶し描いたんです。
あなたの最後の言葉を絵にしたものではありませんかね?だから同じ構図が4枚必要だったんです。
「ご」「め」「ん」「ね」。
(毅一)あー!あー!んー!んー!んんー!んー!
(直弓)あっ!きいちゃん!大丈夫!?直ちゃん動きません。
えっ…?
(毅一)動きません。
あーあー。
動きませんあー。
(毅一)動きません。
きいちゃん。
ごめんね。
たとえあなたが放置したとしても他の人に発見される可能性はありました。
ですからあなたに明確な殺意があったとは申しません。
しかしそれに準じるお気持ちであった事はおそらく間違いないでしょう。
(嗚咽)
(号泣)あなたの行為は保護責任者遺棄罪…。
立派な犯罪です。
きいちゃん…!
(直弓)きいちゃん!きいちゃん!きいちゃん!きいちゃん!きいちゃん!きいちゃん!いや…!きいちゃん!きいちゃーん!きいちゃん…。
きいちゃん…!
(直弓の嗚咽)これは想像の産物ではありませんが毅一君が初めて描いた動物以外の絵ですよ。
最初で最後の…。
この4枚の絵だけで彼女の犯罪を立証出来ますか?たとえ立証出来なくとも彼女には後悔というつらい罰が与えられます。
(直弓の嗚咽)善人なればこそ鬼の餌食になりやすい。
はい?善き人の心にふとした瞬間ほんの些細なきっかけで鬼が忍び込むのです。
今回のこの村で起きた一連の出来事はその鬼のなせる業…ですか。
せめて…そう思いたいですね。
送りますよ。
いや結構。

(宮部たまき)いらっしゃい。
あ…お珍しい。
ちょっと近くまで来たもんだから。
こんばんは。
こんばんは。
何飲まれますか?そうですね…。
じゃ杉下と同じものを。
はい。
何かご用ですか?用って?言ったでしょ近くに来たから顔出しただけ。
そうですか。
みんないつもお前に興味持ってると思ったら大間違いですよ。
あ…思い出した。
そういえば特命係に新しい人入ったんだよね?ええ。
どんな感じ?頭はよさそうですが端々に官僚臭さが漂いますね。
警察庁にいたからかそれとも持って生まれた性質かはわかりませんが亀山君とは違って腹の内は読みづらいタイプです。
自信過剰のきらいもありますね。
ああそれから運転が乱暴です。
そうやって来る人来る人分析して…。
訊かれたから答えただけですよ。
仲良くなれそう?僕は諍いを好みません。
お前は常にそういう心構えでいるつもりなんだろうけどね。
僕もお代わりを。
はい。
まあ困った事があったら言ってよ。
相談に乗るし。
おはようございます。
おはようございます。
2015/05/09(土) 14:55〜16:55
ABCテレビ1
相棒 season7 #19[再][字]

「特命」

詳細情報
◇出演者
水谷豊・及川光博・益戸育江・岸部一徳
前田吟・苅谷俊介・日野陽仁・宮本真希・伊嵜充則・やべきょうすけ
川原和久・大谷亮介・山中崇史・六角精児・山西惇
片桐竜次・小野了・志水正義・久保田龍吉

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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