3月春場所12日目。
・「雨雨ふれふれもっとふれ」勝負を終えた白鵬は静かに歌を口ずさんでいた。
今年1月。
(実況)「白鵬が頭をつけた。
そして出ていく寄り切り!全勝優勝白鵬!誰もなしえなかった33回目の幕内最高優勝見事」。
大鵬が持つ最多優勝記録を更新。
だが場所後ある判定への発言が波紋を呼んだ。
開けて下さい。
審判に向けた苦言は批判の的となった。
以来白鵬は取材陣に無言を貫いた。
その渦中にカメラは密着した。
見えてきたのは誰も歩んだ事のない道を進む孤独な姿だった。
(笑い声)大相撲第69代横綱白鵬。
優勝回数歴代最多。
誰よりも相撲を愛すると自負する男。
(主題歌)来日した時もやしのような体に誰からも声はかからなかった。
(実況)「上手出し投げ〜!白鵬敗れました!」。
敗北を喫する度頭をよぎる言葉がある。
荒れる大阪春場所。
誰にも言えない葛藤があった。
最強と呼ばれる男はその果てに何を見ているのか。
真実の記録。
春場所の初日を2週間後に控えたこの日。
大阪・堺で宮城野部屋の稽古が始まった。
若手が1時間ほど汗を流したところで横綱白鵬が現れた。
身長1メートル92センチ体重160キロ。
白鵬は毎日寸分たがえず基本の稽古を行う事にこだわる。
股割りからゆっくりとした四股。
更に鉄砲からすり足。
たっぷり1時間かけて基本の動作を確認する。
白鵬は横綱に昇進して以来勝率実に9割。
圧倒的な安定感を誇ってきた。
はっけよいのこったのこった!白鵬の得意は左上手をとる右四つ。
そこからの寄りや上手投げが盤石の流れだ。
だが白鵬の真の強さは得意の体勢になれなかった時の変幻自在ぶりにある。
相手の出方に合わせ多彩な技を瞬時に繰り出す。
追い求める境地がある。
型にこだわらず勝ち切る。
それを可能にしている稽古がある。
立ち合いからの動きを身振りで指示し対応のしかたを日々磨く。
対戦相手一人一人をビデオで研究し対処の方法を練る。
白鵬は来日した時体重僅か62キロだった。
3月春場所に向けての稽古が佳境に入った。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
白鵬は他の部屋への出稽古に出始める。
横綱として胸を貸しつつ本場所で対戦する相手の調子を確かめる。
この日は去年一気に番付を上げた前頭筆頭逸ノ城。
そして今最も力をつけていると警戒する関脇照ノ富士とは3番こなした。
白鵬は相手の番付がどんなに下でも初めて対戦する力士とは必ず胸を合わせておく。
今場所対戦が予想される佐田の海を自ら指名した。
そして最後に期待する若手とぶつかり稽古を行う。
(白鵬)早くしろほら。
はい!それ!そう〜!そうそう!あぁ〜何だよ。
・サインお願いします。
・お願いします。
順番だよ順番で。
ほら順番だよ。
・頑張って下さいね。
圧倒的な強さでファンを魅了する白鵬関。
絶対に負けられない土俵で最高の力を発揮するために大切にしている事がある。
場所前あえて体をつくり上げず不安を残して場所に臨むのだという。
白鵬関は自らを心の強い人間だとは思っていない。
気負いや緊張に負けて何度も苦杯をなめてきたという。
春場所初日まで残り1週間。
体を休めるために必ず昼寝をする。
(白鵬)こんな大きいの見た事ある?アメリカのお土産。
食べきれないよこれ。
子供の頃大好きだったな。
CMとかまねして2つ持って…。
取り付けるのは呼吸しやすくする器具。
気道を確保し安眠に努めるためだ。
これも本場所に備えるための大切な稽古だ。
・「ハッピーバースデーディア横綱〜ハッピーバースデートゥーユー」
(拍手)
(拍手)おめでとうございます!春場所に臨む前白鵬関は母国モンゴルに戻った。
日本での功績を認められ国家最高の栄誉である労働英雄賞を与えられたのだ。
父はモンゴル相撲の大横綱。
オリンピックのレスリングでも銀メダルを獲得した国民的英雄だ。
親子2代での栄誉となった。
そして迎えたモンゴルの旧正月。
(雄たけび)風習に倣い日の出を拝んで幸運を祈った。
(歌声)白鵬関は昭和60年生まれ。
5人きょうだいの末っ子で大の甘えん坊だったという。
当時日本の相撲は大人気。
モンゴル人力士の活躍は少年たちの憧れだった。
15歳の時知り合いに誘われ日本に行くツアーに参加した。
実際に相撲を体験し関係者の目に留まれば相撲部屋に入門できる事になっていた。
しかし来日当時体重僅か62キロ。
滞在期限が残り1日に迫っても白鵬関には誰からも声がかからなかった。
世話係をしていた浅野さんが彼を帰国させようとするとどうしても残りたいとせがんだという。
浅野さんの働きかけでやむなく白鵬関を引き取ったのが今の宮城野部屋だった。
せめて若い弟子の話し相手になればいい。
それだけの理由だったという。
平成13年初土俵。
はっけよいのこったのこったのこったのこったのこった。
しかしここからにわかに頭角を現していく。
「寝る度に強くなる」と周りが驚く速さでめきめき力をつけた。
6年目で大関として初優勝。
22歳で一気に角界の最高位横綱に推された。
横綱に昇進する前夜たっての希望で訪ねた人がいる。
歴代最多の優勝記録を打ち立てた大横綱大鵬。
横綱の心構えを尋ねた白鵬関に納谷さんはこう答えた。
選ばれし者だけがつける横綱の座。
その地位に堪えられなくなれば自ら引き際を決めねばならない。
納谷さんは横綱になった瞬間からいつも引退を考え続けたと明かした。
日本大相撲の頂点。
その重圧は想像を超えたものだった。
横綱として初めて臨んだ場所。
(実況)「琴光喜がいい体勢を作っています。
上手出し投げ〜!琴光喜勝って全勝!白鵬敗れました!」。
白鵬関は終盤よもやの3連敗を喫した。
「負けてはいけない」。
そう思うほど体が動かなくなった。
だがそれは苦しみのほんの始まりにすぎなかった。
大変申し訳ありませんでした。
横綱になって4年目相撲界は不祥事の発覚に揺れた。
号外で〜す。
号外で〜す。
本場所も中止が決定。
この時横綱は白鵬関ただ一人しかいなかった。
信頼回復のために何をすべきか。
全ての力士を代表する行動が求められた時白鵬関が誓った事。
それは全身全霊を傾けて相撲を取り続ける事だった。
時を同じくして東日本大震災が発生。
白鵬関は力士たちを率い被災地を回った。
(拍手)
(ファンたち)白鵬!白鵬!横綱とは選ばれし者が背負う宿命。
納谷さんから受け継いだ言葉が心の中に刻まれている。
3月。
いよいよ春場所が目前に迫っていた。
大きな目標だった最多優勝を達成してから初めて臨む場所。
それは未知の苦悩の始まりとなった。
3月8日春場所初日。
(拍手と声援)ここから15日間1つも負けられない戦いが始まる。
初日の対戦は小結の妙義龍。
2年前に土をつけられた事がある相手。
はっけよい!
(実況)「押し倒し白鵬の勝ち」。
持ち前の安定感が影を潜めていた。
この時白鵬は自身に起きているある異変を感じ取っていた。
取組後その事実を明かした。
本場所が始まったにもかかわらず気持ちが高まらないという。
異変の原因は一体何なのか。
相手は前頭二枚目の佐田の海。
はっけよい!のこったのこった。
(歓声)あぁ〜。
白鵬は自身に起きた変化に戸惑っていた。
ここから終盤に向けて気持ちと体を高めていかねばならない。
それがどこまでできるか。
(歓声)
(実況)「万全の4連勝」。
(実況)「白鵬右入った。
左の…上手から下手すくい投げ。
今日も圧勝です。
初日から5つ白星を並べました」。
白鵬はひたすら土俵に集中しようとしていた。
勝つほどに対戦相手がいかに白鵬を倒すか期待する空気は高まる。
その中で自分を支え続ける。
はっけよいのこったのこった!
(歓声)はっけよい!のこったのこった。
(拍手と歓声)12日目を終えて白鵬はただ一人全勝。
その晩。
翌13日目。
全勝の白鵬は優勝に王手をかけていた。
この日優勝を争う関脇照ノ富士との直接対決。
(実況)「張って差しにいった照ノ富士。
突っ張って対応する横綱。
差し込む!まきかえた!照ノ富士上手だ。
照ノ富士攻めどころ。
白鵬の下手投げ。
照ノ富士上手!白鵬は上手をとれていません。
白鵬の下手投げ。
照ノ富士こらえて寄り切り!照ノ富士が勝ちました!白鵬を止めたのは照ノ富士!」。
敗北を喫した。
この日白鵬は我々の取材に一切応じなかった。
心に空いた穴。
予期せぬ敗北。
試練を経てなお横綱白鵬は生きる。
(拍手)そしてただ一人1敗を守り白鵬は千秋楽を迎えた。
この戦いを制すれば優勝記録は34回にのびる。
(拍手と声援)
(歓声)
(拍手)
(声援)
(歓声)
(拍手と声援)
(歓声)
(声援)
(歓声)白鵬は勝った。
(拍手)
(主題歌)15日間の戦いが終わりつかの間の休みが来る。
ふぅ〜!型を持って型にこだわらない人間がプロフェッショナルだと思います。
(拍手)2015/05/09(土) 01:10〜02:00
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「最強の地平、その先へ〜横綱・白鵬翔〜」[解][字][再]
大相撲の最多優勝記録を塗り替えた横綱・白鵬。初場所の騒動以降、沈黙を貫いた3月春場所に独占密着した!!本場所中に漏らした衝撃の告白とは!!横綱・白鵬の素顔!
詳細情報
番組内容
大相撲の最多優勝記録を塗り替えた横綱・白鵬。初場所の騒動以降、沈黙を貫いた3月春場所に独占密着した!!15歳でモンゴルから来日、当初どの部屋からも声がかからなかったやせっぽちの少年が急成長した秘密。横綱として勝率9割という驚異の成績を残す裏にある、心と体を整える意外な流儀。そして本場所中、白鵬が漏らした思いがけない告白とは?史上最強へ、前人未到の道を歩む横綱・白鵬の知られざる葛藤に迫った。
出演者
【出演】大相撲横綱…白鵬翔,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 相撲・格闘技
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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