社説:ロシア戦勝70年 秩序の破壊者になるな

毎日新聞 2015年05月11日 02時30分

 歴史の節目で和解と結束を進めるはずだった式典が、世界の新たな亀裂を見せつけたのは残念だ。

 ロシアが開いた第二次世界大戦の対ドイツ戦勝利70周年を記念する式典に参加した首脳は、中国やインド、キューバなど20カ国にとどまった。欧米主要国は参加せず、日本の安倍晋三首相も出席を見送った。

 10年前の60周年式典では、ブッシュ米大統領や日本の小泉純一郎首相(いずれも当時)ら約50カ国の首脳が、戦後の和解と国際社会の結束を誓い合った。

 今年それが再現できなかったのはロシアが昨年3月、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入し、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力を支援しているからだ。

 不在の日米欧に代わって今年の式典を特徴づけたのは、ロシアと中国の接近だった。

 プーチン大統領は式典に先立って習近平国家主席と会談し、中国も旧ソ連も「最大の戦争被害国」だとして共通性を強調した。習主席は旧ソ連軍による対日参戦と中国への支援を評価した。式典の軍事パレード観覧席では2人が並んで立ち、中国人民解放軍もパレードに参加した。ロシアが世界で孤立しているのではないことをアピールしたのだろう。

 だが国際社会は、接近している中露こそが国際秩序を力で変更しようとしているのではないかと懸念を深めている。ロシアはクリミア編入によって他国の主権を侵害した。中国は他国と領有権を争う南シナ海の島々で埋め立てを強行している。

 両国は、自分たちの行動こそが世界の不安定要因になっていることを自覚すべきだろう。独善的な政治アピールは許されない。

 プーチン大統領は式典の演説で、「軍事同盟の思考」を批判し、「すべての国のための平等な安全保障システム策定」を訴えた。ロシアと対立する米国やその同盟国による対露制裁措置などを念頭に置いた発言だろう。武力で威嚇しているのはロシアではなく欧米の方だとして、政権の強硬姿勢を正当化する論理だ。

 旧ソ連は第二次大戦で2000万人以上の犠牲者を出しながら連合国を勝利に導いた。大戦の戦勝国であることは、ロシアの尊厳を支える大きなよりどころになっている。しかし、そうした国民の愛国心を利用して欧米との対決姿勢を強めるやり方は受け入れられない。

 国際秩序の平和と安定のためには、中露の強硬姿勢を放置することは得策ではない。日米欧には、国際ルール違反に対して厳しい姿勢を維持するとともに、中露が国際社会で責任ある役割を果たすよう働きかける外交努力も求められる。

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