インタビュー ここから「ダンサー・田中泯」 2015.05.06


能登は果てじゃなしに海に向こうて開けとるげ。
祭りをやらんけ!
連続テレビ小説「まれ」に登場する塩づくり職人桶作元治
演じているのは…
2002年の映画「たそがれ清兵衛」で強い存在感を示し一躍脚光を浴びました。
しかし田中さん俳優ではありません。
世界を舞台に活躍する前衛的ダンサー。
圧倒的存在感はダンサーとしての半世紀にわたる活動で培われてきました
「ダンスとは何か」を突き詰めるため30年前に山梨に移り住みました。
田中泯にとってのダンスとは

山梨県北西部にある山あいの集落
ほらもう見えますよ。
あそこに。
だいぶ上は隠れていますけれども。
裾野が見えてて。
思ったより大きく見えますよね。
大きいですよね。
ちょうど山の稜線の間なんで多分絵のようですけれども本当に。
富士山を望むこの場所が田中さんの活動の拠点です
田中さんは70年代から日本やパリニューヨークなど世界各地で公演を重ねてきました
時や場所を選ばないおのが感性のままの踊りは国際的に高く評価されています
昭和20年東京に生まれた田中さん。
踊りの原点は子供時代にあります
そもそもなんでダンスを始めた…。
それは子供の時に踊っちゃってたからですね。
僕は盆踊り小僧でしたから。
八王子という所で育ったんですけどやっぱり盆踊りとかお祭りにすごい影響を受けてでお神楽の一種ですけど山車みんなが引っ張ってこうやるその上でお神楽が演じられるわけですね。
でおかめだとかひょっとこだとかキツネとかそういうのをやるわけですよ。
もう子供の頃それ見てて自分もやりたいとは思ったんですけどそれ見ててすごい感動しちゃうわけですよ。
裏が楽屋のようになっていて今までやってた人…おかめのお面かぶってた人がそのお面外したり着物をバッと脱いだりなんかしている。
おじいさんなんですよ!もう真っ黒な手で顔も真っ黒で「うわ〜!」と思ったんですよね。
でもそれを幸せな事に僕はいいなと思っちゃったんです。
そのお面を取った姿の方もいいなと。
こんな人にあれができるんだっていう。
もう神秘とすら思いましたね。
田舎のお年寄り見て美しいと思うのはやっぱり存在感というか…。
存在感だと思います。
それでねやっぱり僕は「芸術」なんて言う必要ないと思っている一番大きな理由というのはもちろん自分自身にもそういう事はあるんだけれども日本にはね1年に1回のお祭りを1年に1回の踊りをしっかりと待ってる人たちが山ほどいるんです。
そうですね。
芸術家でも何でもないですよ。
アーティストでももとよりないです。
でも彼らは正真正銘のダンサーですよ。
別にそれを仕事にしているのがダンサーって事じゃないんですよね。
違います。
違います。
踊りっていうのは誰にも所有できるものじゃなくてあの人はこの季節になると絶対踊るよっていうそれこそダンスなんですよ。
それは本当に踊る動機っていうかそういうものが非常にはっきりしてる。
そうなんです。
だから踊りっていうのは私の中に持っているものではなくて…
田中さんの踊りは決まったステップや動きはありません
大自然や街の雑踏…。
あらゆる場所で湧き起こる感情などカラダの中から生まれたものがそのまま動きとなって表れるのが踊りだと考えています
田中さんに大きな影響を与えた一人…
これまでの形式にとらわれない土方の革新的な踊りは70年代から世界中で評価され「舞踏」と呼ばれるようになりました
19歳でバレエやモダンダンスを始めた田中さんは土方の踊りに衝撃を受けます
ああいう踊り方を僕が習っても多分土方さんにはならないだろうなと。
あのようにはならないだろうなと。
要するにあのすごさっていうのは踊り方にあるんだろうかって疑問があって。
ああなるほどね。
模索する中裸になったりカラダを大地に投げ出したりもしながら田中さんは答えを探し続けます
田中泯さんの「ここから」。
それは30年前の大きな決断です。
東京から山梨へと移住し農業を始めたのです。
踊りの本質を求める中で生まれた疑問「人はなぜ踊るのか」。
田中さんはその答えを農村での暮らしに見いだせるのではないかと考えたのです
やっぱり東京の暮らしはこういうところがきつかったなとかですね何か限界があったなと分かる事ってありましたか?踊りをスタジオで練習してるそれはいいんですけども踊る気になるっていうのは一体どういう事なのかなっていう。
踊る根拠っていうんですか「踊りたい」と思う。
でみんな一生懸命頭で考えて次秋にはこういう作品をつくりますとかっていうそれが「芸術」だと思ってやってるわけですよね。
でもそれは実は暮らしをしている中からほんとにそうやって生まれてきたものなんだろうかというのがあって暮らしを…普通に暮らしている中で踊りたいって思う事っていうのはどうなんだろうな。
それと踊りが本来は農村地帯っていうか今でいう…昔から言われている第1次産業。
山や海や農村地帯から生まれてそれが都に運ばれていってそして見せているっていうそういう歴史をたどってきてるわけですね芸能の歴史っていうのは。
それの大本である農村地帯に行ってみようっていうのはありましたね。
それはそこに身を置く事で何か踊りたいとかそういう気持ちが出てくるだろうと…。
だから僕はその当時は「踊りのタネ」を探すんだみたいな事言ってましたけど。
気が付いてみたら要するに他の生き物植物も昆虫もそういった自分以外の生き物生きてるものともう毎日刻々とふれあえるわけじゃないですか。
そういう中に結構な驚きがあったりするわけですよね。
草1個抜くとそこに小さな生き物がゴチャーッと居たりとか。
「あっいけねいけね。
君たちの世界を壊した」みたいなね。
そんなような事とか。
こういう所で踊る場合もあると…。
ありますよ。
踊るっていうか…そうねだから俳句を一ひねりっていうかあんな気分でチョチョチョッとこうやってみたりする事はありますよ。
踊りのタネっていうのがどうやって踊りになっていくんですか?踊りって多分まず人に見せなくてもカラダの中に生まれるもんだろうと思うんですね。
だから動いた時に初めて踊りになるという事ではなくて中でまだ見えてないものがあってそれが徐々に大きく変わっていく。
遠くから人がやって来るその人に気が付くっていう事はもう中で始まってますよね。
近づいてきてこうすると分かるかなとかっていうと動きが生まれます。
そうですね。
どんどん来ると「ああ知ってるぞこいつ」ってまた動きが大きくなります。
もっと近づいてくるとドンと正確な動きがそこで生まれますね。
そんなようなもんだと思います踊りって。
きっと中にまず小さな見えないものが生まれるんだと思う。
それは喜びでも怒りでもねあるいは不安でも何でもかんでもそういった意味では踊りのちょっとした動機になるようなものは中で動くんですね。
もちろん何かをきっかけにして中が動くわけです。
それがタネだと思うんです。
やはりこういう生活をされているとタネはいっぱい出来てきてる。
もうタネだらけ。
アハハハハ。
自然の中での暮らしを通して目指す踊りへと近づいていた田中さんに13年前新たな転機が訪れました。
映画に出演。
俳優というダンスとは違う表現方法に興味を抱きチャレンジします。
俳優がダンスの糧になると感じた田中さんはこれ以降数々の映画やドラマに出演します。
今放送中の「まれ」では塩づくり職人桶作元治を演じます。
田中さんは頑固一徹に伝統を守る役柄に強い共感を持ったのです
桶作元治さん今ほんと拝見しても元治さんと話してるんだか田中さんと話してるんだかみたいな私も気になっちゃうんですけれどもいざ撮影に入ってカメラ回りますという時にどういう事を考えてそこに存在していらっしゃるのかなと思って。
必死ですよとにかく。
海水をね桶にくんで担いで歩くもう一歩一歩が必死ですから。
やっぱり重いんですか?慣れてくるといろんな事考えられるでしょうけどもやっぱり何ていったらいいかなその時のカラダの方がもう事件が起きてると言っていいんでしょうかね。
だから海水を…「潮まき」って言うんですけどあれだってまいた潮がどのくらいの粒になって落ちていくかとかねいちいち「失敗だ…」なんていうがっかりはできないもんですからそのままやってはいますけどもうドキドキですよ。
相当本気で作業しないと駄目という。
そういう事ですね。
ですから結構長い時間カメラ回しててその中でそれでもやっぱり自分で見ると下手だなと思いますけど。
それ演技としてですか?それとも…。
演技できる事じゃないですから。
じゃあ作業を塩づくりをあの場でしてるという事?そうですね。
「…のような事」をしてるんじゃなくてもうそれそのものをやってるという事です。
それはうれしいですよ。
撮影前田中さんは実際に能登にいる塩づくりの職人角花豊さんのもとで学びました。
江戸時代から続く能登の塩づくりに脈々と息づく職人かたぎや受け継がれた技がダンサーとしての自分のためになると考えたのです
塩づくりの職人の役という事で引き受けられたという事も伺ったんですが。
そうですね。
なんかねやっぱり僕は俳優を目指して生きてきたわけじゃないしダンスが本業っていうのもおかしいんだけどダンスが好きで好きで生きてきた人間がね何でもできるわけがないしでお仕事引き受ける一番の根拠っていうんですか僕に分かる人。
この人なら俺は分かるしそれからその人の…何ていうのかな軌跡をたどるっていうかあるいは日常を空想するとかそういう事の楽しみのある役だったらやれる事ならやりたいと。
でも塩づくりの職人というのはとても特殊な仕事ですよね。
そうですよね。
僕もだからかなり撮影に入る前から塩づくりを教わったんですよ。
毎日朝から晩まで一緒になって。
いわゆる言葉で教えてくれるわけじゃなくてもう見よう見まねで時々ぽそっぽそっとね「もうちょっと飛び出すようにまくんだよ」とか言うんだけどこうやればこうなるという事は一切教えてくれないんです。
だからほんとにあちらもインスタントな教え方なんかしたところでうそっぱちになるからばれるからというんでとにかくあとをついてずっと一緒にやって。
そういう職人の仕事をまず何ていうんでしょう勉強する身につけるというか覚えるというそういうところをなさったという事なんですか?そうですね。
それはもう間違いなく僕の利益になる。
利益になる?うん。
僕はダンサー踊る人ですからこのカラダの利益になるものはほんとに喜んで引き受けます。
俳優の仕事も演技というより踊りだと考える田中さん。
海水をくむ手やふんばる足などカラダの隅々の動きにまでこだわっています
なかなかお顔が映らないで後ろ姿で歩いていたり…こう桶を持ってですね。
それがすごく面白くてですねまさに作業をしているドキュメンタリーを見てるようだったんですがそういう事っていうのもカラダの存在っていう事なんですかね?そうですね。
顔は演技の中心みたいにどんどんなってきちゃうんだけどもうまい人は顔は何とでもなりますからね。
多分僕の場合はもうダンスの世界では「顔は肉体の一部である」という。
言ってみれば一番上にくっついてるものですから。
この手とそんなに変わらないものとしてあるわけですよね。
我々は人を見る時にとにかく顔ばっかりまず見てしまうんですけれども逆にカラダの方が顔並みだっていう事ですかね。
発想として。
そうですね。
そういうふうに全身が見られてるという意識はあるんですか?もちろん。
だから重たいものを持ってグッグッと歩いている時にもしですよ足を撮ったら撮られたらそれでも僕は十分にいいんです。
間違いなくうそ偽りなくそこに僕の足があってしっかりとふんばっているわけですからどこ写されても大丈夫な状態なんです。
ダンサーとしてのカラダと経験の全てを使って躍動する田中さん。
これからも農業や俳優などさまざまなチャレンジを通してダンスとは何かを追い求めていきたいと考えています
存在感があるってよく評されますよね。
田中さんご自身はその存在感というのはどういうもんだというふうにお考えなんですか?まずどういう意味だろうねって思いますけどね。
「存在」という言葉と「存在感」という言葉は全く違うもんですから。
何もかも存在しているわけですよね。
それに「感」があるという事はきっと僕サイドから言えばそこにしっかりといようとしているという事だろうと思うんですよね。
しっかりといよう。
しっかりとその…まあ仮に映像であってもそこで生きているっていう実感を持っていたいという。
それを演技というのかどうなのか分かりませんけども踊りはまさにそうです。
お客さんの目の前でしっかりと生きているっていうか…見る人から見て存在感があるっていうのは言ってみれば何かを感じるわけですよね。
それに存在がつくという事は「あっ!あの人あそこにしっかりといる」という事なんじゃないかなと思うんですよ。
塩職人だったり農業もされていたりどれが田中さん本来のって言いましょうかね。
いいんじゃないですかね。
何ていったらいいのかな人間同士って実は刻々と変わっていってるじゃないですか。
人と会話をすれば影響される。
本を読めば影響される。
それからある何かを経験するとまたそこで変わっていく。
人の変化っていうものを僕たちは感じ取る事もできるしあるいはそれを無視してね人を「あの人はこういうやつだ」っていうふうに顔の印象なんてまさにそうですよね。
顔の印象で人の性格まで見抜いたかのようにして。
そう思っちゃいますね。
そしてつきあいますよね。
これは多分僕たちの人間の持ってる本能に近いのかもしれませんけど人を分類しようとするわけですよ。
僕はやっぱり分類っていうのは人間同士の間では間違いだと思うんですね。
こっちも刻々と動いているあなたも刻々と動いている。
そういう中でのつきあいなわけですね。
でこれは世界中動いてますよ人間って。
それを決めつけるとどうしても齟齬が生まれるしそれから決めつける事によってチャンスを失ってる可能性もあるんですよね。
そういう対象には俺はならないぞっていうふうにかなり前から決めてまして「田中泯ってこういうやつだ」って言われるとムカムカムカってきて「田中泯はこう踊るぞ」なんて言われると次の踊りは全然違うやり方でやったりとかするんです。
だからそういうあり方そのものが多分僕の夢だと思っているダンスそのものなんじゃないかっていう。
これこういう言葉でしゃべっていいですかね…そしたらね「私はダンスだった」。
例えば死ぬ瞬間にね「俺はダンスだった」って言って死んでいけたらかっこいいなって。
「俺はダンサーというより俺がダンスだったんだ」。
2015/05/06(水) 06:30〜06:53
NHK総合1・神戸
インタビュー ここから「ダンサー・田中泯」[字]

映画やドラマで強い存在感を放つ、田中泯さん。その肩書は、世界で高く評価される“ダンサー”だ。踊りの本質を求めて移住した山梨の山村で、田中さんの理想の踊りに迫る。

詳細情報
番組内容
連続テレビ小説『まれ』の塩職人・桶作元治役など、映画やドラマで強い存在感を放つ、田中泯さん。その肩書は、“俳優”ではなく、世界的に高い評価を受ける“ダンサー”だ。踊りは、生きることそのものだと考える田中さん。30年前、「踊りの原点に近づきたい」と山梨の山村に移住し、農業を中心とした暮らしを始めた。自然の中に身を置くことで、田中さんの踊りにも大きな変化が生まれたという。追い求める、理想の踊りとは—。
出演者
【出演】ダンサー…田中泯,【アナウンサー】杉原満

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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