英国の総選挙(下院定数650)で、与党の保守党が半数を超える331議席を獲得した。キャメロン首相は今後5年間、引き続き、政権を担う。

 過半数を得る政党はないだろう、との大方の予想が覆った背景には、落ち込みかけた景気を回復させた現政権の手腕への評価があったといわれる。

 それでも今回の選挙は、英国の世論がいかに多様かを示した。スコットランドの独立を掲げる地域政党が躍進し、第3党となったのが一例だ。

 国民の意識や立場が細分化されたなかで、経済運営で強みを持つ保守党が、当面の中道層の支持を得て、相対的な優位に立ったといえそうだ。

 だが、保守党の得票率は30%台後半に過ぎず、全権委任を意味するわけではない。政権は、そこを誤解してはなるまい。むしろ、異なる立場の対話や合意形成がこれまで以上に重要だ。

 キャメロン氏は党首としてではなく、国民統合の推進役として、そして欧州の責任ある大国のリーダーとして、重い責務を果たすことが求められる。

 スコットランド独立の是非を問うた昨年の住民投票をめぐっては、英国という国家の将来像の揺らぎがあらわになった。首相は、欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票を2017年末までに実施する公約を掲げており、欧州の中での英国のあり方が問われることになる。

 多様化する英国内の意見をいかに広く、大きくまとめるか。政党政治の新たなモデルの構築を政権はめざしてほしい。

 EUをめぐる国民投票は、英国だけでなく、欧州全体の行く末を左右する出来事となる。この公約は、EUに懐疑的な人々の支持を引きつける選挙向け戦略の側面も強かったが、今後、英国最大の政治課題として論戦が続くことになる。

 投票結果がどうなるか、予想はつかない。仮に離脱となれば、欧州全体への影響が計り知れない。何より英国自身も大きく傷つくだろう。

 反EU意識は、英国民の間に確かに根強いものの、国内の経済的不平等など不満のはけ口となっている面も拭えない。政治が問題の核心にきちんと向き合わず、国民感情を外に向けさせるようでは、ポピュリズムのそしりを免れまい。

 実際には、英国抜きのEUも、EU抜きの英国もあり得ない。この現実を、キャメロン政権はしっかりと見つめるべきである。EUの将来像は、英国の未来図と大きく重なることを忘れてはならない。