[PR]

 東京・池袋の西武池袋本店内にある書店「リブロ池袋本店」が6月末をめどに閉店する。1980年代には最先端の流行を発信した「セゾン文化」を体現し、良書を届ける書店として個性を放った。独立してから30年という節目での閉店となり、常連客から惜しむ声が上がる。

■ニューアカデミズムの聖地

 「何時間でもいられる密林でした」。編集者の小林浩さん(46)はリブロの思い出をそう振り返る。

 大学生の頃、毎日通っていた。ある日、めったにみかけない旅行記が平台に積まれているのを見つけた。迷ったが買わずに店を出ると、翌日には1冊もない。数日後再び発見して購入。のちに書店員がわざと一度引っ込めたと知った。「見事にだまされた。棚を眺めるのが楽しい本屋でした」

 「毎週のように戦略的に棚を動かした」と明かすのは、仕入れ担当だった中村文孝さん(65)。1975年にブックセンターリブロ西武として開店し、85年にリブロとして独立。棚作りで本好きを魅了するのが書店の方針だった。

 作者を50音順に並べるのではなく、ある作家を中心に同時代の作家や影響を与えた作品などをまとめて陳列し、人物関係図がわかるようにした。人文書担当だった今泉正光さんの手がけた棚が「今泉棚」とも呼ばれたように、棚に個性が表れた。

 人気作家の新刊をタワーのように積むのも先駆けだった。黒柳徹子「窓ぎわのトットちゃん」が空前のベストセラーとなった81年、「在庫を置く場所がなく、並べてもすぐに売れてしまい補充が面倒だった」(中村さん)のがきっかけだ。

 ポスト構造主義を紹介した浅田彰「構造と力」が83年に刊行され、「ニューアカデミズム」が話題になると、リブロはブームの中心になった。4500円のフランスの思想家ドゥルーズとガタリの共著「アンチ・オイディプス」が発売初日に300冊近く売れるなど、難解で高価な本が次々と売れた。出版社の社長が驚いて飛んできたこともあったという。