【第4回】 採択率を上げる秘策~採択数と配分額の関係性-最新データで読み解く!科研費申請の傾向と対策
[ インタビュー・ライティング, 森 旭彦 ]
この連載では、科研費を申請する際のバイブルともなっている『科研費獲得の方法とコツ』(羊土社)の著者である児島将康氏が、最新版の科研費申請のコツを紹介します。申請書で、ついつい筆が止まってしまう箇所の対処法や、採択されるための秘訣、「なんとしても獲りたい!」の願いを叶えるための具体的な方法論を、研究者の目線に立って伝えていきます。
第4回も 平成26年度までの科研費最新資料を用いて傾向の分析を行います。
< 第3回はこちら >
科研費の配分で私立大学が躍進
◆研究者が所属する研究機関種別 配分状況表(平成26年度 新規採択分)
続いて研究者が所属する研究機関種別の配分状況表を見て行きましょう。タイトルの通り、研究者の所属している機関ごとに見た、科研費の配分状況がまとめられています。国立、公立、私立大学における配分状況がここ10年ほどの間に大きく変化してきました。
平成26年度の新規採択分を見てゆくと、私立大学の応募件数と採択件数が微増しています。私立大学における応募件数は前年度から1,024件増加の29,344件、全体に占める割合は30.2%から30.4%へ成長しています。採択件数も前年度から274件増加の6,637件です。
これに対し、国立大学の応募件数は前年度から1,216件増加の48,194件、採択件数はほとんど前年と変わりませんが、応募件数の全体に占める割合は50.0%から49.9%へ0.1%減少しています。小さな減少ではありますが、これがここ10年ほどの、私立大学の応募件数や採択率の増加を示していると考えられます。
たとえば応募件数全体の中で国公立大学の割合は、10年前は57.7%で、実に6割程度を占めていたのです。それが今は50%へと減少している。採択件数全体で見ても今は55.8%ですが、10年前は61.9%程度を推移していました。やはり私立大学の影響力はどんどん顕著になってきています。
私立大学の応募件数全体に占める割合は、10年ほど前は25%程度でしたが、今は3割近くなってきています。それに配分額についても、かつて国立大学の「配分額(直接経費)」が、全体の7割以上を占めていたのに対し、今は5%近く減少し、64.3%になっています。一方で私立大学の配分額は18.2%で、10年ほど前の13.2%を大きく上回っています。
このように、現在は私立大学がずっと成長曲線を描いています。もちろん国立大学も危機感から盛り返し、かなり応募件数を増やしてきています。それに対し、私立大学は平成25年度に比べ、約1,000件も応募件数を伸ばしているのです。
国立大学と私立大学の攻防戦はこれからも継続されるでしょう。
配分額の減少傾向:採択件数が増加すると配分額が減少する
◆科研費(補助金分・基金分)配分状況一覧(平成26年度 新規採択分)
また、近年は1課題あたりの配分額が減少傾向にあるのも気をつけておくべき特徴です。
科研費の中でも最高額の「特別推進研究」を見ても、平成25年度から6,000千円減少し、174,800千円となっています。最もメインとなる基盤研究(C)は100千円減少の3,600千円へ、挑戦的萌芽研究も100千円減少の3,100千円へ、若手研究(B)も300千円減少の3,000千円へと減少しています。研究期間の変更などを経ているため、単純比較はできませんが、過去を振り返っても徐々に配分額は減少傾向にあります。
どうして減少しているかというと、限られた予算内で採択件数が増加しているのがひとつの理由です。先述したように基盤研究の制度変更によって研究の最短期間が3年に延長されたことも影響し、採択件数が伸び、配分額が減少しているというのが最近のトレンドなのです。
出典:日本学術振興会 科研費データより
配分状況一覧(平成24年度 新規採択分)
配分状況一覧(平成26年度 新規採択分)
近年の新規採択率を見てゆくと、24年度が27.9%と近年でもっとも高く、25年以降は減少し、26年度は26.6%です。23年度に科研費が増額されたため、ベーシックな3種目の採択率が上昇し、同時に配分額は減少傾向にあります。そしてこの傾向は今後も継続すると考えられます。
しかし仮に配分額が減少傾向にあるとしても、基金化や繰越などの制度があるため、年度末の無駄な使い方などがなくなり、私は大きな問題にはならないと考えています。
採択率を上げたければ、分科の応募件数を増やすべき
◆分科別 採択件数・配分額 上位10分科(平成25年度 新規採択分)
分科別に見てゆくと、応募件数の首位は内科系臨床医学で、7,745件です。それと関連して、採択件数は2,095件、配分額(直接経費)は4,204,800千円で、ともに首位です。
このデータを見ても分かる通り、内科系臨床医学、外科系臨床医学、歯学の医学系が圧倒的に強く、この3分科が近年でも常にトップ3です。理由としては、医学系は病院や臨床の先生など、ポジションが多岐にわたることが挙げられるでしょう。
ここからさらに分科は細分化されます。採択件数は応募件数と連動しているわけですから、自身が出そうとしている分科の採択数を上げたければ、応募件数が増えればいいのです。たとえば学会で科研費に申請することを奨励し、応募件件数を増加させることで、採択率を上昇させることも理論的には可能でしょう。
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淡路島生まれ。1988年宮崎医科大学大学院博士課程修了(医学博士)。
日本学術振興会特別研究員を経て、1993年国立循環器病センター研究所生化学部室員、1995年より同室長。2001年より久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門教授。
研究テーマは未知の生理活性ペプチドの探索と機能解明。グレリンを中心とした摂食・代謝調節の研究。趣味は山登り、クラシック音楽、読書、映画鑑賞など。山は槍ヶ岳が一番好き。「研究は山登りであり、研究者は山に登らなければならない」と、思いませんか?クラシック音楽はもっぱら聴くだけ。CD購入枚数は年間500枚以上で、最近は完全に飽和状態。活字中毒。出張で時間があれば映画館へ。著書:「科研費獲得の方法とコツ」(羊土社)
科研費獲得の方法とコツ 改訂第3版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略
単行本: 221ページ
出版社: 羊土社; 改訂第3版 (2013/8/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4758120439
ISBN-13: 978-4758120432
発売日: 2013/8/9
商品パッケージの寸法: 25.7 x 2 x 18.2 cm
森 旭彦(もり・あきひこ)
サイエンスとの様々な接点を描写してゆくライター。
理系ライターチーム『パスカル』のメンバーであり、研究者インタビューや、大学のメディア制作などに関わっている。
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最新データで読み解く!科研費申請の傾向と対策 バックナンバー
- 【第1回】最新データで読み解く!科研費申請の傾向と対策
- 【第2回】科研費申請の傾向と対策-若手研究者は、受給資格さえ合えば、若手研究へ
- 【第3回】科研費申請の傾向と対策-挑戦心を武器に、重複公募も可能な挑戦的萌芽研究の魅力
- 【第4回】採択率を上げる秘策~採択数と配分額の関係性