本田雅和
2015年5月11日10時46分
福島県警相馬署は、妻にけがをさせたとして相馬市新沼の無職斎藤敏明容疑者(72)を傷害の疑いで9日深夜、緊急逮捕し、10日発表した。妻は搬送先の病院で死亡が確認されたため、県警は11日に遺体を司法解剖して死因を特定し、容疑を傷害致死に切り替えることを検討している。
同署によると、斎藤容疑者は2日から8日にかけて複数回、妻の悦子さん(66)の顔を殴って踏みつけたり、腹部を蹴ったりしてけがを負わせた疑いがある。
斎藤容疑者は9日午後7時半すぎ、「自宅で妻が意識をなくしている」などと119番通報。駆け付けた救急隊員が、心肺停止状態で倒れていた悦子さんの顔や腹に外傷や皮下出血を見つけ、警察に連絡した。
斎藤容疑者は当時酒に酔っており、妻に暴行を加えたことを認めているという。
■「あのとき止めていれば」
夫婦間の暴力(DV)があった直後とみられる斎藤夫妻の様子を8日夕、近所の人が目撃していた。周囲への取材から、斎藤容疑者が東京電力福島第一原発事故の避難によるストレスで心身に不調をきたし、近隣でのトラブルをへて暴行に及んだ可能性が浮かんだ。
近所の30代の夫婦によると、悦子さんは8日午後6時すぎ、自宅前の路上に倒れていた。「どうしたんですか。こんな所で寝ていたら車にひかれるから」と声をかけると「大丈夫。私なんか……」とふらふらと立ち上がった。直後に斎藤容疑者が現れ、「構うな」と悦子さんを自宅に連れ帰ったという。
悦子さんを助けようとした夫婦は「あのとき強く助けを求めてくれたら、こんなことにならなかったかも」と残念そうに話す。
親族らの話では、斎藤夫妻は南相馬市小高区大富で和牛を飼う畜産農家だった。自宅が原発事故の旧警戒区域に入って避難を強いられ、2013年1月から現在の相馬市内の避難者用借り上げアパートに住む。
斎藤容疑者はその頃から心身の状態が悪化、ふさぎ込んで家にこもりがちな日々が続いた。が、今春からは酒を飲んで出歩く姿も見られるようになった。
5月初めには、同郷の避難者が稲作を再開する相馬市内の水田に行って「俺が教えるやり方でやれ」などと酒の臭いをさせながら言い、知人に連れ戻されたことも。市内の居酒屋では他の客から「避難者は賠償金がいっぱいもらえていい」などと言われて殴り合いとなり、ビール瓶で額と手の甲にけがを負ったという。
その話を本人から聞いた同郷の40代女性は「ふだんはおとなしい人。狭いアパートで農業もできなくなった。その鬱屈(うっくつ)が、交通事故で足が不自由になった悦子さんに向かったのでは」と推測する。
相馬市の診療所で原発事故避難者らの心のケアに携わってきた精神科医の蟻塚亮二医師は「DVやアルコール問題は故郷を奪われ、長期間避難生活を強いられている人たちが抱える典型的なストレス反応だ。避難先での新たな人間関係の確立こそが急務だ」という。(本田雅和)
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