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2015.5.10 SUN
TEXT BY DAVEY ALBA
CHUCK NACKE/ALAMY
WIRED NEWS (US)
ゴードン・ムーア|GORDON MOORE
米インテルの共同創設者。1965年に彼が唱えた「ムーアの法則」は、コンピューター業界の発展を牽引し続けている。
1965年4月19日、当時はまだ芽が出たばかりのシリコンヴァレーの会社、フェアチャイルド・セミコンダクターの36歳のR&D所長が、『エレクトロニクス』という業界誌にある予言を寄稿した。その予言によれば、ひとつのコンピューターチップ上の素子数、つまりトランジスターの数は、毎年倍増を続けることになるという。
「集積回路の発展によって、家庭用コンピューターが自動車や個人の携帯通信機器の自動制御を行うようになるだろう」とその研究者、ゴードン・ムーアは書いている。
当初、ムーアがその予言で想定したのは10年ほどの期間であり、シリコンチップひとつに60個載っていた部品は、1975年には65,000個へと増大した。その年に彼は予測を書き改めて、2年ごとに倍増するとした。それからムーアはインテルと呼ばれる会社を共同で設立し、それはのちに、世界最大の半導体会社に成長する。予言から50年が経ち、今日「ムーアの法則」として広く知られる彼の格言は、時の試練にも耐え続けてきた。
「もともとは、技術開発の時間的な目標を示すだけのものでした」 と、現在86歳のムーアはインテルのインタヴューで語る。「それが次第に、この業界の人々にとってどうしても追いついていかなければならないもの、さもなければ技術的に脱落してしまうと思わせるものになっていったのです」
過去50年の間、ムーアの法則の予言通りに伸び続けたコンピューターの計算能力は、シリコンヴァレーのイノヴェイションの歴史をもつくってきた。その昔、コンピューターといえば部屋いっぱいに広がる大掛かりな設備だった。それがいまでは、NASAが人を月まで送るために必要だと想像した以上の処理能力をもつスマートフォンが、ポケットに入る大きさになったのだ。ムーアが最初の予言を述べたころ、トランジスター1個は鉛筆の端についた消しゴムほどの大きさだった。いまではこの記事の最後に打たれるピリオドほどの大きさに、600万個のトランジスターが収まる。
ムーアの法則に従ってよりパワフルなチップが開発されてきたという事実があったからこそ、どの会社も、ディスプレイやセンサー、メモリーに画像処理デヴァイス、ソフトウェアからインターネットに至るさまざまな技術に、躊躇なく投資を続けることができたのだ。
(関連記事)「ムーアの法則」が破られるかもしれない
しかし、ムーアの法則に対する信頼は、過剰な期待を生むことにもつながる。消費者の誰もがいま、自分のもつ機器がムーアの法則に従って、これからもより速く、より安く、より小さくなり続けると信じている。これは多くのテック企業を前進させる原動力となる一方で、この業界で生き残るために達成しなければならないスタンダードにもなっている。
さらに人々の期待はいま、それが良いか悪いかは別として、クラウドコンピューティングやインターネット、ソーシャルメディア、検索やヴィデオストリーミングといった新たな領域のイノヴェイションへと向かっている。VLSIリサーチ社で半導体チップ市場の調査を行うダン・ハッチンソンによれば、ムーアの法則の恩恵を被るテック業界の2014年の市場価値は13兆ドル──世界経済の総資産価値の5分の1に相当する金額だったという。
「その結果、多くの会社にとってムーアの法則が、自身の発展に向けた絶え間ない競争を強いるものになっています」。そう語るのは、インテルのストラテジスト、スティーヴ・ブラウンだ。ブラウンによれば、ムーアの法則は自然法則ではない。「むしろ野望や信念に近いといえます」。テック企業がさらなる発展を目指すための、企業と顧客の両方がもつ信念だと彼は言う。
コンピューティング技術自体の進化を超えて、ムーアの法則で予言された計算能力の発展は、健康医療や医薬品、遺伝子工学などの多くの産業で、ムーアの法則のような変革を起こしている。いまでは新薬の多くがコンピューターのなかで検査されている、とブラウンは言う。コンピューターはソフトウェアを用いて、ヒトゲノムをものの数分で解析できるのだ。
そしてこれからは、ブラウンが信じる最も重要な進歩がもたらされることになる。「究極的にこれは、より高性能で高速なスマートフォンをつくるという話ではありません」と彼は言う。「より多くの食糧やよりよい生活環境をつくること、そしてより多くの人々との絆を生み出すこと。ムーアの法則は、それらを可能にするための鍵となるのです」
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