日本サッカーのために

厳しい環境の中で「適応力」を磨け サッカー元日本代表・井原正巳さん

  • 2015年3月27日

  

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 日本代表として歴代2位となる122試合の国際Aマッチに出場し、「ドーハの悲劇」「ジョホールバルの歓喜」を経験。その鉄壁の守備から『アジアの壁』と呼ばれ、1998年フランス大会には主将としてフル出場した井原正巳さん(47)。現役引退後はコーチ、そして監督として、世界を相手に戦える選手育成に取り組むレジェンドに、日本サッカーの今とこれからについて聞いた。

――日本代表として戦ってきた井原さんから見て、日本のサッカーが優れている点は

 スピードや持久力など、「走る」ことに関しては世界でも高いレベルに位置していると感じます。テクニック面でも、細かな技術やパスワークが日本のストロングポイントと言えるのではないでしょうか。さらに、組織力。日本の選手はチームがやろうとしている戦術の中で、自分の役割をきちんと果たせる力を持っています。「コレクティブに戦える」という表現がピッタリでしょうね。最近の日本代表は、非常にクレバーな攻撃も見せてくれますし、私が現役だった20年ほど前と比較すると、レベルが数段上がっています。

 技術面ばかりでなくメンタル面においても、近年の日本は強いですね。今、日本代表に招集される選手の多くは海外でプレーしていますから、日本とは異なる環境で培った精神力の強さが、チーム全体に好影響を与えているのだと思います。我々の時代の代表にはそういった選手がほとんどいなかったので、大きなアドバンテージの一つだと感じています。

 ただ、世界のぎりぎりのトップで、生きるか死ぬかで争っている選手となると、まだまだ少ない。ここが増えてくるともっと強くなるでしょう。

――やはり、若い選手たちは積極的に海外に出ていくべきなのでしょうか

 いや、やみくもに海外を目指せば良いというわけではないですね。海外でチャンスを生かせる選手もいれば、生かし切れない選手もいます。海外でも試合に出ないと話にならない。試合に出て厳しい環境の中で成長するのが大事です。一方、Jリーグで活躍して、代表に選ばれるケースももちろんあります。選手たちが、国外と国内とで切磋琢磨(せっさたくま)することで、日本のサッカーが進歩していくのがベストではないでしょうか。

 国内のリーグが盛り上がり、そこで戦う選手たちがレベルアップしないと、代表チームも強くなれません。例えば、前回のワールドカップ・ブラジル大会で優勝したドイツ代表は、ほとんどの選手が国内でプレーしている選手でした。一方で、ほとんどの選手が海外で活躍しているブラジル代表は近年、優勝から遠ざかっていますから。

 だからサポーターの皆さんには、代表チームだけでなく地域のチームにも熱い声援をお願いしたいですね。それぞれのチームの選手たちがサポーターからの大歓声を背に受け、「期待に応えよう!」と全力で戦えば、当然ながらJリーグ全体が盛り上がることになります。もちろん私たちも、皆さんに応援してもらえるような魅力あるチームを作る努力をしていきたいと思っています。

――日本のサッカーが、さらに強くなるために必要な要素を一つ挙げるとすれば

 うーん、「適応力」でしょうか。どんな環境で、どんなシチュエーションで、どんなチームと戦うのか……。そういった、試合ごとの環境の違いに対する「適応力」は、非常に重要です。

 ワールドカップのアジア予選などでは、対戦チームは日本代表を「アジアでトップレベルのチーム」として認識し、対策を練ってきます。日本代表のストロングポイントを消すためだけの戦術、日本に勝つためだけのサッカーを、相手が実践してきた時に、自分たちはどう対応するのか。そういった、試合で勝利するための適応力が、今後ますます重要になるでしょう。

 また、ヨーロッパや南米のチームとの試合となれば、相手はしっかりと自分たちのサッカーをすることが多いですし、予選なのか本選なのか、大会の日程などによっても、戦い方を変える必要が生じてきます。ですから、「勝負勘」と言いますか、それぞれの試合で自分に求められるものが変わったとしても、その中で自分のベストを出せる能力が非常に大切だと思います。試合中に自分たちで判断をし、サッカーを変えていく力を身につけるために、我々指導者も、普段からそういった要求をしていかねばなりませんね。

 それとセンターフォワードとセンターバック。岡崎らがコンスタントに実績を出していますが、まだ多いとは言えない。世界のトップで活躍するストライカーを育てることが日本にとって大事なテーマです。その裏返しがセンターバック。対峙(たいじ)するポジションなので、良いフォワードがいれば良いセンターバックも出てきてレベルが上がる。日本が強くなるためには、この真ん中の人材が出てくる必要があります。

――日本のサッカーがレベルアップするのに伴って、指導者が指示すべき練習内容も変化するということですね

 私の現役時代は、単純な反復練習の時間が長かったのですが、現在は選手たちの技術レベルが格段に上がっていますから、トレーニングの内容も当然ながら変えていかねばなりません。

 私は現在、それぞれの選手が状況に応じて必要なことを整理しながらプレーできるようなトレーニングを増やしています。元日本代表監督のオシムさんが導入した、複数色のビブスを使った練習を多くの指導者が参考にしたように、私も、優れた練習方法は積極的に採り入れていきたいと考えています。

――日本サッカー界の将来を担う、小学生や中学生選手たちへメッセージを

 現役の頃から指導者という現在の立場になるまで、数多くの選手を見てきましたが、やはり、常にポジティブで前向きな選手は伸びますね。それに加え、監督やコーチの話をしっかりと聞くことが大事です。

 最近は、育成年代でも海外で試合をする機会が増えていますが、若い時から色々な経験を積むことは素晴らしいことだと思います。どんな時も、「うまくなるんだ!」という強い気持ちを持って、練習に取り組んで欲しいですね。

(聞き手・堀辰也 撮影・駄道賢剛)

井原正巳(いはら・まさみ) 1967年9月18日、滋賀県生まれ。1990年に筑波大学から日産F.C(現:横浜F・マリノス)に入団。天皇杯優勝、アジアカップウィナーズカップ優勝などのチームタイトルを獲得。生涯出場試合数は600試合以上。日本を代表するプレーヤーとしてJリーグベストイレブンやオールスターに幾度も選出され、1995年にはアジア最優秀選手にも選ばれた。ジュビロ磐田、浦和レッズを経て2002年に現役引退。その間、日本代表のメンバーとして国際Aマッチ122試合出場。1998年開催のワールドカップ・フランス大会では主将を務めた。引退後は2006年に公認S級指導者ライセンスを取得。日本サッカー協会“JFAアンバサダー”、U-23北京五輪日本代表コーチ、柏レイソルヘッドコーチなどを経て、2015シーズンよりアビスパ福岡監督に就任。

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