なんで、この人は
人の気持ちを知っているんだろう
2015年2月23日 東京新聞「筆洗」
「なんで、この人は人の気持ちを知っているんだろう」。
脚本家の岡田惠和(よしかず)さんが書いている。
この人とはテレビドラマの「想(おも)い出づくり」「ふぞろいの林檎(りんご)たち」などの山田太一さん
▼山田作品の大半の主人公は「普通の人」である。
社会でうまく立ち回れないで傷ついている人の気持ちをじんわりと描く。
共感し、救われたという方も、大勢いらっしゃるだろう
▼二〇一一年の小説『空也上人がいた』。
主人公は認知症の高齢者に「キレて」、暴力をふるった特別養護老人ホームの介護者である。
青年は後悔し、苦しむ。
「お前(まえ)それでいいのか」。
物言えぬ認知症の老人の目が忘れられない
▼介護施設の職員による認知症患者ら高齢者への暴力暴言などの虐待が急増している。
前年比で四割増。数字が悲しい
▼小説で山田さんは青年を一方的に責めていない。
救いのある結末さえ、優しく用意する。
事前の取材で介護という大変な仕事をしている人が「キレても不思議はない」と感じたともいう
▼虐待は許せぬが、「なぜ」を理解し「なぜ」をひとつずつ消していかねば、解決は遠いだろう。
認知症の母親にキレて暴言を吐いた人を知っている。
母親は亡くなったが、その場面を夢で見る。
泣きじゃくって目を覚ます。
虐待は受けた方は無論、した方もおそらく傷ついている。
なじるだけではなく、そういう人の心にも近づきたい。
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