日本サッカーのために

たたかれ追い込まれて培う「個の力」 ジュビロ磐田・松井大輔さん

  • 2015年4月21日

  

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 ひとまわりも体の大きな外国人選手の間を巧みに抜けていくドリブルと、トリッキーなボールさばきで見る者にサッカー本来の楽しさを教えてくれる日本屈指の技巧派、松井大輔。日本代表として世界で戦い、フランスをはじめヨーロッパのクラブを長く渡り歩いた彼に、これからの日本サッカーに必要なもの、若い世代に期待することを聞いた。

――長く世界で戦ってきた松井さんから見て、サッカーというのは国によって明確に違うものですか。

 そうですね。たとえばフランスでは連携より個人で勝負するのが基本だとか、オランダはピッチをワイドに使って中からもサイドからも攻めるとか、ファンならすぐに思い浮かべる国ごとの特徴があると思います。フランスやオランダのリーグに所属するクラブも、基本はそのサッカーをベースにしながらそれぞれの個性を付け加えているという感じです。

――では、外から見ることで気付いた日本サッカーの「らしさ」とはどんなことですか。

 Jリーグ発足から20年で日本のサッカーはどんどん進化してきましたが、これが日本のサッカーだ、という絶対的なものはまだないですよね。ただサッカーに限らず、日本は他の国の良い部分をまねして磨きをかけていくことが得意なので、いろんな国の良いところを吸収しながら自分たちのサッカーをつくっていけばいい。そうするなかで、時間をかけて自然に生まれてくるものが日本「らしさ」なんだと思います。

 日本代表に対しては、ディフェンスが弱いとか、フォワードの人材がいないと言われることもあります。でも一方で、日本は世界的に見てもすぐれたミッドフィールダー(MF)の宝庫だから、せっかく良いMFが育つ土壌があるなら得意な部分をしっかり伸ばしたほうがいい。それは一人ひとりの選手についても同じで、スピードなら誰にも負けないとか、ドリブルだけならワールドクラスとか、飛び抜けた個性を持つ選手がもっと出てきてほしいですね。何でもそこそこできるより、その極端な部分が世界では武器になることも多いので。特に最近の若い選手たちはみんな平均的に能力が高いけど、同じようなタイプばかりが育っているようでちょっと心配です。

――ヨーロッパでは若手の育成に対する考え方も日本とは違いますか。

 たとえばフランスでは、最近の育成の結果どのクラブから何人がビッグクラブに移籍したかといったことが、ランキングではっきりわかるようになっています。目先の勝利のためにチームの戦術にはまる選手だけを育てるより、才能ある選手を大きく伸ばして世界に売り込んでやる、というのも、クラブの方針として僕はアリだと思います。そうしたシステムの中からドログバのような成功例も生まれているし、選手にとってもステップアップは大きな目標ですから。

――松井さんは15歳の時に1カ月間、パリ・サンジェルマンのトレーニングに参加しています。なるべく若いうちに海外を経験することは大切ですか。

 やっぱりスピードや当たりの強さは、日本の選手とヨーロッパやアフリカ系の選手では格段に違うので、その差を肌で知ることは後々役に立ちます。そこで受けたカルチャーショックがもっと成長したいというモチベーションにもなるだろうし。

 ただ小学生、中学生のうちから外国に住んで、そこのクラブでずっとやっていくのがいいかと聞かれれば、僕はそうは思いません。さっき日本のサッカーは世界の良いところをどんどん吸収するべきだと言いましたが、それには自分なりの「軸」が必要ですよね。何かひとつ吸収するたびにそれに振り回されて、自分がなくなってしまうのでは意味がないから。同じように、選手としても人間としてもまだ成熟していないうちに焦って海外に出るよりも、本人なりの軸がきちんと定まった時点でチャンスを与えてやることがベストだと思います。

 日本人の技術力はとても高いので、ジュニアやユース年代ぐらいまでは日本代表の実力は世界でもトップクラスです。でもその後は、どうしてもフィジカルの差が出てきてなかなか勝てなくなる。その時期に海外の選手と競い合う経験をすれば、相手と自分の差も、その差の埋め方も具体的に見えてくるだろうと思います。

――松井選手が海外で長く戦ってきたなかで得たものは何ですか。

 個の強さ、でしょうね。サッカーの面だけでなく、ひとりの人間としても。特にフランスは個人主義の国なので、どんな時も自分のことは自分で責任を持つという覚悟がなければ、普通に暮らしていくのも大変です。

 試合で負けても、日本なら「チームの敗戦だ」といって全員が反省したりしますが、フランスでは試合後に監督がビデオを見せながら「失点の原因はお前のプレーだ」とはっきり言います。だから選手同士は、普段からお互いはっきり要求するし、批判もする。殴り合いになることもあります。ただ日本人はみんな空手が強いと思われているので、僕の場合はそれっぽく構えてみせるだけで「あいつはやめておけ」ということになって、やられることはありませんでしたけど(笑)。

 もちろん殴り合いが良いわけではないですが、日本の選手がメンタルの弱さを指摘されることがあるのは、そんなふうに追い込まれた経験がないことも一因かもしれません。負ければサポーターからの風当たりもすごいですが、期待やチームへの愛が選手にとってプレッシャーになるのは健全なことですし、そのプレッシャーがあることで選手も強くなれるんだと思います。

――日本のサッカーがもっと飛躍するために、メディアやサポーターに望むことは何ですか。

 もっとサッカーを知ってほしいです。ヨーロッパでは、スタジアムでやじを飛ばしているおじさんから子どものファンまで、みんな自分なりのサッカーの楽しみ方を持っています。たとえばボールだけを追っている人、反対にボールがない時のプレーに注目する人、好きな選手だけを90分間見ている人、キーパーだけを見ている人、というように。いろんな目を意識することで選手も緊張感を持てるし、一つひとつのプレーをおろそかにしないようになります。

――最後に、未来を担う子どもたちにアドバイスをお願いします。

 とにかくボールにさわること。そして、相手に当たられながらでも「しっかり止める」「しっかり蹴る」という基本をきちんと身につけてほしいと思います。個人的にサッカーの最大の面白さは1対1にあると思うので、パスもできるけど勝負もできる、見ていて楽しい選手がたくさん出てきてほしいですね。

(聞き手・野田朋広 撮影・伊吹徹)

    ◇

松井大輔(まつい・だいすけ) 1981年5月11日、京都府生まれ。鹿児島実業高校3年の時に全国高校サッカー選手権で準優勝。卒業後に京都パープルサンガに入団、1年目から主力として活躍する。翌2001年は背番号10を背負ってチームのJ1昇格を達成、02年には天皇杯に優勝しクラブに初のタイトルをもたらす。03年にA代表デビュー。翌年フランスリーグのル・マンに移籍、華々しい活躍で「ル・マンの太陽」と称賛された。10年W杯南アフリカ大会では初戦で本田圭佑選手のゴールをアシストするなど決勝トーナメント進出に大きく貢献。以後もロシア、ブルガリア、ポーランドなどヨーロッパでプレーを続けた後、14年ジュビロ磐田に加入。10年ぶりのJリーグ復帰を果たした。

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