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法華狼の日記

2015-05-06 上げたのは1日後

[][]Wikipedia脚本家「白井千秋」の正体が細田守監督と誤認されていた話

誤認とわかった記述は『少女革命ウテナ』項目の、第29話の脚本家「白井千秋」だ。

少女革命ウテナ - Wikipedia

その名前のリンクは脚本家「月村了衛」にリンクされているが、履歴を見ると、2010年8月21日 (土) 10:04版から2015年4月6日 (月) 08:15版まで「細田守」にリンクされていた。

「少女革命ウテナ」の版間の差分 - Wikipedia

「少女革命ウテナ」の版間の差分 - Wikipedia

どちらも特に出典は付記されていない。しかしおそらく「月村了衛」への修正は4月4日に脚本家自身のブログで明かされたためだろう。


月村了衛原案構成のTVアニメノワール』は、視覚デザインのため使われている「NOIR」表記が正式な表記であるかのように誤認されやすい。

もちろん原案者自身は正確なタイトルを表記していたのに、Wikipediaを根拠にして校正が勝手に「NOIR」表記へ変えたことがあるという。そこでWikipediaの不正確さのひとつとして、別名義を用いていたことを明かしていた。

近況、雑記 - 月村了衛の月録

ウィキペディアに間違いが多いのは今さら言うまでもありませんで、

自分の項目に関して申しますと、先に挙げた『ノワール』の表記をはじめとして、不正確な記述や抜けている作品の多いこと多いこと。

〈ネットに書かれていないものは存在しないものである〉とみなされる社会の恐ろしさよ。

ウテナ』で一本だけ執筆している「白井千秋」は私の別名義ですが、ウィキの該当項目をクリックするとまったく違う人物の項目に飛ばされて驚きました。

ただし『少女革命ウテナ』では「白井千秋」名義を使う前に「月村了衛」名義での脚本も複数ある。

アニメスタッフの偽名については、過去にも何度かエントリを書いた。さまざまな理由で途中から別名義を用いるようになったらしい例も複数あった。

『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』第51話 不死の軍団 - 法華狼の日記

偽名アニメ演出家の十文字糺と井上草二について - 法華狼の日記

今回、新しく「白井千秋」名義を用いた理由までは明かされていない。しかし細田守脚本と誤認された理由は何となく見当がつく。


実は現在でも「細田守」項目では、プロフィール欄に別名義として「橋本カツヨ 遡玉洩穂 白井千秋」の名前がならんでいる。

細田守 - Wikipedia

「白井千秋」名義と書かれる以前から、2007年8月11日 (土) 05:30版から『少女革命ウテナ』での仕事として「29話(脚本兼)」と記載されていたことまで確認した。

「細田守」の版間の差分 - Wikipedia

やはり出典は明記されていないが、細田守監督側から流れた情報がもとになっているらしいと考えられる。


もともと細田守監督は「橋本カツヨ」名義で『少女革命ウテナ』に参加していた。当時は東映所属の演出家だったため、他社の仕事をうけるために偽名を用いたことが明かされている。すでに偽名を使っていたから、新しく偽名を用いても不思議ではない。

そして問題の第29話では、物語も細田監督自身がつくったという話が昔から流れていた。Wikipediaに「29話(脚本兼)」と書かれた2007年、雑誌『フリースタイル VOL.7』が「細田守──『時をかける少女』を作った男」という特集を組んだ。そのインタビューで細田守監督自身が下記のように答えていたという。

薔薇物語 「荒行 1997」 細田守インタビュー 

――二十九話は脚本も橋本さんが担当なんですか。


細田:はっきりと元の脚本が気に入らなかったんです。これは樹璃じゃないって。樹璃はこんな感じで終わらせちゃいけないって幾原さんに言ったら、「脚本家に戻してる時間はないから、やるんだったら自分で新しいのを書きなさい。でもコンテのスケジュールは変わらないからね」って言われた。それで脚本をまったく見ずに、いきなりぶっつけでコンテを描いたんです。

放映されたら脚本家のクレジットが元の脚本家の名前ではなく、「白井千秋」って名前になってました。

単純に読めば、第29話が細田守脚本であったかのように感じてしまう。しかし、よく読めば「元の脚本」があったこと、「元の脚本家」がいたことも語られている。

しかも実際は脚本を書いたわけではなく、脚本を見ずに絵コンテを描いたというだけ。もちろん脚本への不満を先に述べているわけだから、あくまで作業時に脚本とてらしあわせなかっただけで、いわば叩き台としては使われていたことになる。


つまり「白井千秋」名義は、演出家が偽名で脚本を書いたという話ではなく、演出で内容が変えられてしまったため脚本家の名前を出さなかったという話らしい。

アニメ制作では、コンテ段階で脚本を大きく変えることがよくある。アニメスタイル編集長が、インタビューでの経験談をコラムで語っていた。

WEBアニメスタイル_COLUMN

アニメの世界では決定稿になった脚本の内容が、絵コンテの段階でガラリと変わるなんて珍しくありません。あるいは決定稿になるまでに、監督やシリーズ構成の(あるいは、プロデューサーの)の手が入る事もあるわけで、どこからどこまでが脚本家の仕事かは一線が引きづらい。

 脚本家の方に「あのシーンがよかったですよ」と言ったら、「私はそんなシーンは書いていません」なんて返された事が何度かあります。印象的なセリフの多いある作品で、メインライターの方に取材したら、僕が記憶していたのがどれも脚本にないセリフだった事もありました。

具体例としては、北久保弘之監督のツイートによると、映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の神山健治脚本を冒頭しか使わなかったという。

アニメ監督佐倉大(北久保弘之)氏の「BLOOD THE LAST VAMPIRE 解体新書」六回目 - Togetterまとめ

さらに北久保監督のツイートによると、押井守監督も伊藤和典脚本をそのまま使っているのは三割だといい、しかし三割も使える脚本は貴重ともいっていたらしい。


Wikipediaでの「白井千秋」も、詳細かつ正確に書かれていれば、脚本とコンテの関係をうかがわせる事例のひとつになれたろう。

ただの不正確な記述とされる状態になっていたことは残念だ。

NakanishiBNakanishiB 2015/05/08 07:09 一昨日特に理由もなくウテナなどのWikipediaの記事を読んでたんですが、細田守がこんな名前で参加していたんだとか、月村了衛って今は小説家なんだとか思っていたのでびっくりです。ウテナに一つも幾原監督の脚本がなくて、ピンドラやユリ熊嵐は連名であるけれどすべて脚本を書いてるのが不思議でしたが実態はどれくらい変わっているのか思いました。

 しかし、Togetterのコメントにもありますが「3割使える」というのは具体的にどういうことなのでしょうね。押井監督伊藤脚本なら大枠は最初に押井守が作っていると想像できるけど、他の場合はどうなるの気になるところです。では。

hokke-ookamihokke-ookami 2015/05/08 12:34 2、3の言葉をおぎないました。

>細田守がこんな名前で参加していたんだとか

もともと東映演出家は偽名で他社仕事をすることがけっこうあるのです。佐藤順一の甚目喜一名義とか。
その上で、細田守は演出家としては他社仕事でキャリアを重ねていたという珍しいタイプ。

>月村了衛って今は小説家なんだとか思っていたのでびっくりです。

ロボット警察アクションシリーズが好評で、その一作品で先日に日本推理作家協会賞をとりました。

>「3割使える」というのは具体的にどういうことなのでしょうね。

そこはよくわからないところですね。押井守関連ムックは複数読んでいますが、どのように脚本から変えたかという話で印象的な部分があまりない。もともと映画『パトレイバー』で帆場は存在しなかったオチだったとか読みましたが、それは他スタッフに止められた押井案だったはず。
ちなみに押井守原作脚本の映画『人狼』では、中盤のシークエンスが大きく改変されていたりします。

Sad JunoSad Juno 2015/05/08 12:43  はじめまして。宮崎駿氏は『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』で脚本家の書かれた脚本を使わなかった、と大塚康生氏が『大塚康生インタビュー』でおっしゃってます。Wikipediaの『未来少年コナン』脚本の項でも触れられています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%82%B3%E3%83%8A%E3%83%B3#.E8.84.9A.E6.9C.AC

 ご存知かとも思いますが、ご参考になりましたら。

     555     555 2015/05/08 21:42 以前に聞いた話では脚本ってジャンジャンいじくるものなので、
原型と違うのに元の脚本家と改訂稿の作家名を同時記載するケースもあります。
とある特撮サークルに話を伺ったら、
平成ウルトラマンでは長谷川圭一はたくさん弄繰り回されて、大田愛はほぼそのままだと聞いています。

ロコロコ 2015/05/09 14:12 『アニメージュ』2015年2月号の山粼みつえインタビュー(『この人に話を聞きたい』第174回)によると

>山粼:ほとんどのアニメがそうじゃないですかねえ。シナリオである程度内容が決められてて、絵コンテでいじったら、リテイクですよね。
>小黒:今は監督やシリーズ構成だけでなく、メーカーのプロデューサー、原作者サイドの人達も脚本打ち合わせに参加して、皆の合意で決定稿になっているから。
>山崎:それを各話演出レベルでは覆せないんですよね。

ということなのでWEBアニメスタイルのコラムが書かれた10年くらい前はそうだったかもしれませんが
今は「アニメ制作では、コンテ段階で脚本を大きく変えることがよくある」っていうのは違うんじゃないでしょうかね。

NakanishiBNakanishiB 2015/05/09 15:13 >東映演出家は偽名で他社仕事をすることがけっこうあるのです
>佐藤順一の甚目喜一名義とか。
この辺のことも書いてあって、へーっと、他社で監督をするために東映を止めたそうですね。「シリーズディレクター」って東映の用語なんだとか。

>押井守関連ムックは複数読んでいますが
私の記憶ではパト2のムックで後藤たちが不振な機影が映っているカラオケビデオを見ながら会話するシーンを伊藤和典が自分のお気に入りのシーンとしてあげていたと。ただ他の作品の印象が強いので勘違いしていましたがパトレイバーはこの映画をのぞいて押井守の権限はそれほど強くないのですね、だけど代表作として扱われていて。今週のTVブロスのインタビューでのもうパトレイバーは自分のものになったしそうでなかったことは忘れたという感じのはしゃぎっぷりを見ているとかつての戦争の本質を忘れるためにを忘れるためにアメリカにいってはしゃぐ安倍首相を思い起こしました。

>押井守原作脚本の映画『人狼』では、中盤のシークエンスが大きく改変されていたりします。
 私はこのシリーズに映画が公開されたころには興味を失ってしまっていたので見ていないのですが、いかにも押井守らしいシリーズなのにアニメにしたのはこれだけでしかも自分で監督をしなかったというのは興味深いですね。ですからその改変がどういう影響を作品に与えられているのか気になったんですが。ちょっと検索して調べてみたんですが


http://d.hatena.ne.jp/type-r/20050525
 アニメとしてすごいことが作品としてすごいのかアニメはきちんと見て短いせいもあって未だによくわからないのですがいろいろ詳しくて参考になります。そもそも群集コメントに「映画を観た押井監督は「俺がやりたかったシーンが丸ごと無い!」とショックを受けていた」とありますね(^_^;)、他で調べたらそりゃカットするだろというシーンですが。

http://www014.upp.so-net.ne.jp/olddog/impressions/JINROH.html
 シリーズの倒錯性はきっちりつらぬかれているというオチの評です、見てませんが。「群集」と「集団(組織)」の区別も興味深そうです。

 ネットで調べるているとどんどん他の人の作品とかにそれていくにそれていくのですが、脚本と出来上がった作品の問題にせよアニメ(映画)というのは集団の作業なので小説やマンガとかと比べると一人のものとしてはできていないし、関わったいろんな人に影響を残すんだなというのは感じましたね。もちろんそれも程度の問題でもあるわけですが。では長々すいませんでした。


 ロコさんが書いたのは山崎みつえのことでしょうか?。なんか「崎」の字が字体が違うのでしょうかね。これは面白そうなインタビューですね。書かれたたような変化が起きているのかも気になりますね。日本の映画業界も制約はずいぶん厳しいことになっているけれど作品は迷走する一方ということになっているようですし。

ロコロコ 2015/05/09 15:31 >ロコさんが書いたのは山崎みつえのことでしょうか?

『月刊少女野崎くん』の監督の「やまざきみつえ」ですね。
正しい漢字を使うと文字化けしてしまうみたいです。

hokke-ookamihokke-ookami 2015/05/09 22:45 Sad Junoさん、はじめまして。
情報ありがとうございます。まったく最近の書籍を追いかけられていない状態でして(月刊化したアニメスタイルすら全て積ん読している始末)、そちらのインタビューについても知りませんでした。


     555さんへ
>平成ウルトラマンでは長谷川圭一はたくさん弄繰り回されて、大田愛はほぼそのままだと聞いています。

ほほう。だとすると、長谷川氏は現在も特撮に多く関わっていて、太田氏は警察ドラマに軸足を移していますが、太田脚本が特撮向きではなかったというわけではないようですね。


ロコさんへ
情報ありがとうございます。現場でいじることができないから、生原監督は脚本段階から連名になるほどに内容を詰めるようになったのかもしれませんね。

>WEBアニメスタイルのコラムが書かれた10年くらい前はそうだったかもしれませんが

このコラム自体が昔の取材の思い出話みたいな面もありますし、たしかに現在とは変わっている可能性は高いでしょうね。
同じWEBアニメスタイルでも、脚本家側が書いた首藤コラムでは、やはり脚本をそのまま映像化すること、映像化の苦労を想定した脚本を書くことが、それぞれ原則だと書かれていましたし。


NakanishiBさんへ
>TVブロスのインタビューでのもうパトレイバーは自分のものになったしそうでなかったことは忘れたという感じのはしゃぎっぷりを見ているとかつての戦争の本質を忘れるためにを忘れるためにアメリカにいってはしゃぐ安倍首相を思い起こしました。

実際、他の原作メンバーとトークショーで苦言をていされたそうです……

https://akiba-souken.com/article/22562/?page=2
>出渕:僕は…実は観ていません。なぜかというと、まとめてみたいし、今回色々あったので…。いろんな人が嬉しそうな顔で「(TNGパトレイバー)どうでした?」っていうの。「観てない」って答えるのが楽ですね。
あと出来れば…(実写化にあたって)プロセスは踏んでいただきたかった。反対するわけじゃないんだけど、なんでプロセスを飛ばすのかなって。面倒な事とか、いろいろあるのはわかるけど、プロセスを踏んでほしかったです。

鵜之澤:僕も言われてるんだよ。

出渕:僕は、他の人から別ルートで聞いていたんだけど、押井さんから段取りがあるかなと思ったらなかった。それで、大変なことになるなと思った。その辺りは、お願いしたいと思います。

    555    555 2015/05/10 02:13 あと脚本との関係ですが、アニメージュのインタビューでは今春智子が「うる星やつら オンリー・ユー」で
美少年の冷凍保存に納得せず押井守との連名にしたり、會川昇が脚本で描いたものを演出で台無しにされた事もあると答えていました。

NakanishiBNakanishiB 2015/05/10 06:37 しかしネットは情報を得るのに便利ですが実は時間はかかるってどんどんもれおちることも増えて大変ですね...。

>実際、他の原作メンバーとトークショーで苦言をていされたそうです
>https://akiba-souken.com/article/22562/?pa
 こんなものがあったんですか、しかし何度絶縁してるんだかw。ツイッターなどで何も知らされていないという発言は話題になっていましたね。誰かが尻拭いのために企画したのでしょうね。実はTVブロスインタビューは2回あって昨年のイベント公開開始のときと今週のもので、今回はうらみごともなくえらくはしゃいでいたのでなんだかと思ったんですが、これで禊も済んで公開間近ということでのハイテンションだったんですかね。売ってますから立ち読みでもどうぞ(^_^;)。

>出渕:そういえば吉祥寺のデッキアップの時、おばあさんが通って、「なんで国がこんなことに税金使うのよ!」って言っていたらしい(笑)本当の警察もいたし
 この発言にあるようなイメージが当時のファンの共通して魅力を感じる部分だったのではないでしょうか。実際、映画でもテレビでもマンガでもこのような感覚でロボットがいることは基本になっていたし、個々の作品のテーマに本質的ににつながっていたもいえると思います。やはりそういう意味はあったと思います。しかしそれを自衛隊や警察の後援でやるのって...。まあ25年で何が変わったかわかってない人はやれるんですね。あとエンターテイメントしては脚本も問題になると思うんですが

>http://d.hatena.ne.jp/o-tsuka/20060205#p1
「人狼」については。監督のこだわりが予想以上のものを作ったことはいえるのでしょうが、本質的なグロテスクさ全面的に現れて作品を変えてしまうがほどではなかったということで地味な印象を超えられなかったということしょうか。



>ロコさん
 やはりそうですか。「野崎君」は楽しみに見ていましたね、「ユリ熊嵐」の9話も良かったです。字体の違いはほんとにいろんな人で混乱しますね。ウィキペディアの記事が作られるならそういうところ確認しやすくしてほしいです。
 しかし映画ならともかくアニメシリーズの一つの話で脚本をそれほどかっちりさせる必要があるのかというのもちょっと疑問でどうのような理由でそうなったのでしょうね。

 ではまた長文失礼しました。

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