富士山:「京都」と同時に見たい…タイ観光客に人気の場所
毎日新聞 2015年05月09日 10時21分(最終更新 05月09日 15時54分)
訪日外国人数が右肩上がりの中、富士山周辺でタイからの観光客が急速に増えている。とりわけ、富士山を背景に五重塔を望める山梨県富士吉田市内の公園が、「『京都』と富士が同時に見られる」と人気だ。日本人の間では、あまり知られていないビューポイントだが、県のPRをきっかけにタイで広まったといい、近隣の宿泊施設は更なる集客アップに余念がない。
◇山梨・富士吉田市内の公園
同市の新倉山浅間公園は4月中旬、約500本の満開の桜であふれていた。タイから家族4人で訪れたキント・ナチャラさん(37)は「ネットで『京都』があると知って、数年前から気になっていた。季節を感じる桜にすごく感動している」とカメラのシャッターを盛んに切った。
ナチャラさんが「京都」と表現したのは、「忠霊塔」と地元で呼ばれ、明治以降の戦没者を慰霊する五重塔のこと。高台から南側を見渡すと、塔と雄大な富士山が相まって一幅の絵のようだ。
近くの神社にはタイ語で願い事が書かれた絵馬が数多く掛けられ、タイ人をはじめ外国人観光客の方が日本人より目立つ。オクラ・ユーチュルさん(40)は「昨年ツアーで日本に来たが、この公園はコースに入っていなかった。ここに来るために個人旅行を組んだ」と話していた。
山梨県によると、2011年に「富士山を満喫できるビューポイント」とタイの旅行会社などにPRしたところ、ガイドブックや影響力あるブログに写真が掲載されるようになった。今は「こんな景色がどこで撮れるんだ」と問い合わせが後を絶たないという。
日本政府観光局(JNTO)によると、14年に訪日したタイ人は約66万人で、3年前の約4.5倍に。日本への観光客が多い主要36カ国で、最も高い伸び率となった。
観光庁によると、都道府県別の訪日タイ人数(13年)で、山梨県は東京、大阪、京都に次ぐ。富士吉田市に隣接する富士河口湖町では、タイ人の宿泊数が13年に外国人としてはトップになり、14年も中国人に次ぐ2位。県国際交流課は「京都を連想させる風景や富士山、季節によっては桜や雪と、日本が一度に味わえることがタイの方の心に触れたと思う」と手応えを感じている。
河口湖周辺で四つの宿泊施設を運営する「山岸グループ」(富士河口湖町)の天野隆支配人は「『海なし県』だが、タイ人が好むカニ食べ放題コースを設けるなど工夫している」と話す。近隣ホテルでも特別メニューを設けるケースが増えており、富士のふもとからタイ人へのラブコールはしばらく続きそうだ。【松本光樹】