経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の教え

貧しくなった日本と政策

2015年05月10日 | 経済
 一昔前までは、エンゲル係数なんて、大して注目される指標ではなかった。年々、経済成長によって豊かになることが当たり前であり、家計調査で見るそれは、単調に低下していくだけの面白味のない数字に過ぎなかった。ところが、1997年以降は変わった。日本は、かつてより豊かになれなくなり、貧しさが募るようになったのである。

………
 エンゲル係数とは、消費支出に占める食料費の割合である。1990年以降の動向を、家計調査(2人以上世帯)で示すと、下図のとおりである。異変が起こったのは、消費増税が行われた1997年だった。1974年のオイルショック以来、23年ぶりの明確な上昇を記録し、翌年も続けて悪化した。その後、景気の回復に伴い、いったんは低下を見せたものの、2005年を境として、上昇傾向へと転じた。

 エンゲル係数の上昇は、食べるために、より多くのお金を割かねばならなくなったことを表し、要するに、国民の生活が貧しくなったことを意味する。特に、8%の消費増税が行われた2014年には、大きく跳ね上がり、いまや、その水準は、20年前と同じ程度まで後退している。アベノミクスでは、2年続きでの悪化なのだから、景気回復が実感できないと言われるのも、仕方ないところがある。

 皮肉なのは、かつて悪化がぶり返した2006年にも、安倍政権であったということだ。当時は、まだリーマンショック前であり、緩やかな景気回復が続いていたのに、国民からは強い格差批判を浴び、2007年夏の参院選に惨敗してしまう。損な巡り合わせにも見えたが、実は、この時、家計は苦しくなり始めていた。国民が抱いた不満は、それなりに正しいものだったのである。

(図)



………
 さて、国民が貧しくなれば、再分配政策の重要性が増してくる。諮問会議は財政再建策の企画立案にばかりに熱心だが、世の中が必要としているのは、別の方向だろう。そう考えるのは、筆者だけではないようで、5/7のダイヤモンドO.L.に、出口治明さんが『資産・雇用・教育の三大格差をどう減らすか』を書いておられた。

 そこで提言されている内容は、資産の再分配について、相続税を100%にすること、雇用に関しては、パートへの社会保険の適用拡大を行うこと、教育では、子どもの貧困に対する給付を増やすことなどである。三つの分野で再分配の強化が必要なことは、筆者も賛同するところで、我が意を得たりという思いだ。

 本コラムでも、いくつか具体策を提言している。ヌルいかもしれないが、資産については、利子配当課税の税率の5%アップを『金融資産課税と国債利払いの均衡管理』で書き、パートの適用拡大は、『ニッポンの理想・2兆円でできる社会』で、企業負担が増さない方策を示し、子どもへの給付は、『日本よ、雪白の翼を再び』で、増税なしで大規模なものが可能であることを明らかにしてある。(「基本内容」を参照)

………
 第一次安倍政権では、補正と本予算で6兆円の国債減額を誇りつつ、失業率は低下させていたにもかかわらず、生活が苦しくなった国民から、厳しい審判を受けた。今また、消費増税と自然増収によって財政再建は進捗し、失業率も低下局面にはあるものの、国民の生活は、第一次のとき以上に、大幅に悪化し、水準も低くなっている。

 来年の参院選までは1年以上あるが、新たな政策を生み出すのに、それほど時間があるわけではない。今後、アベノミクスが再失速する一方、税収上ブレが1.9兆円も出ることになる。こうした状況で、貧困や格差の問題に目が注がれ、従来型の公共事業や地方振興商品券とは異なる、豊かな発想に基づく再分配政策が数多く企画立案されるようになることを願ってやまない。


(昨日の日経)
 トヨタ・マツダ包提携。NY原油が3月比5割高。米雇用22.3万人増。

(今日の日経)
 上場企業は今期も最高益で1割増。18年度に財政の中間目標。諮問会議・薄れる存在感。

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