上手に悩むとラクになる
2015年5月 8日
今回も引き続き、大人のADHDの方が困っている「時間管理」についてです。今回は、大人のADHDの人が「目の前の快楽を優先させてしまい、長期的な視点を持つことが苦手」ということについてとりあげていきます。
最新の脳研究の結果によると、ADHDの方の脳には報酬系の障害が認められており、「報酬遅延勾配」が急であることが知られています。
報酬遅延の勾配とは『報酬の得られるタイミングが遅くなればなるほど、その報酬の価値を低く見積もる』という現象をいいます。
例を挙げて説明します。報酬のもらい方として、以下の2つが用意されていたとします。
計算すればわかりますが、腹筋1回あたりの報酬は前者は100円で、後者は200円です。後者を選んだ方が倍の報酬がもらえることになります。
しかし人間は、時間的に遠い報酬については、実際の価値よりも値引いてとらえる傾向があるそうです。これが報酬遅延の勾配です。
ADHDの方では、この値引く割合が他の人に比べて急だというのです。つまり「1週間も腹筋を続けてそのあとにしかもらえない14000円よりも、すぐにもらえる1000円の方がいい!」と思いやすいのです。
そのため、ADHDの方は、長期的な課題に地道に取り組むのが苦手です。たとえば、
などにはあまり魅力を感じません。そのため、こういった目標がなかなか達成しにくいのです。
反対に、ぱっと結果の出るものに関しては、報酬に魅力を感じるため、大きな成果を残すことができます。
ですから、ADHDの方が、長期的な努力を要する課題に取り組むときには、最後に大きなご褒美を設定するのではなく、こまめにごほうびを設定してモチベーションを保つ工夫をすることが必要です。
合言葉は 「遠くの大きなご褒美より、少しでいいからすぐご褒美を!」 です。
たとえば、ある資格試験に半年がかりで挑戦したADHDの方は、資格試験の参考書の1ページの学習が終わるごとに、高級チョコレートをごほうびにしました。そのおかげで、長く単調で退屈に見えた試験勉強を途中で放り出さずに、合格という最大の報酬を受け取ることができました。
また、「毎日の家事ができない」と悩んでいたあるADHDの方は、
といった具合に家事を細分化し、表にしました。そして、1つ達成するごとにシールを貼っていきました。シールが1枚でおいしいコーヒーを淹れ、5枚そろった時点でコーヒーに合うお菓子を買いました。10枚そろった時点で新しい口紅を買いました。15枚そろった時点で新しい服を買いました。
こうして、彼女の日常は楽しいものになりました。中でも口紅や洋服など、視覚的にわかりやすいご褒美はやる気をアップさせていたようです。
いかがでしょうか。自分のやる気を高め、長期的な課題に挑戦するためのヒントになりましたか?
特に日本では「地道にコツコツ取り組む」ことが尊いとされる風潮にあるため、そうできない自分を責めがちな方が多いようにみえます。
「私は“アリとキリギリス”でいうと、その日暮らしのキリギリスの生き方しかできない。だめな人間だ」
そんなふうに自己卑下して相談にみえるADHDの方も少なくありません。
しかしこれは本人の努力不足なのではなく、「すぐに結果が出ないものに対して魅力を感じにくい」という脳の特徴が原因なのです。「こまめにご褒美を設定すれば、やる気を出すこともできる!」ということです。
自己嫌悪に陥るより、自分の脳のはたらきに合った取り組み方、生活の仕組みを整えて生きていく方が、自分もまわりも幸せだと思いませんか?
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