平和への呼びかけと裏腹に、ロシアと米欧との対立ばかりが際立った。

 モスクワであった第2次世界大戦での対ドイツ戦勝70周年記念式典だ。プーチン大統領が各国首脳を招き、赤の広場で壮大な軍事パレードを繰り広げた。

 だが、オバマ米大統領や安倍首相ら主要7カ国(G7)の首脳はそろって欠席した。欧州を中心に多くの国の首脳も同調して出席を見送った。

 10年前の60周年式典はまったく違った。米仏中ロなどの戦勝国に加え、敗戦国からも当時の小泉純一郎首相やドイツのシュレーダー首相が出席し、和解と平和への協力を誓い合った。

 この変わりようは、ロシアが昨年、ウクライナのクリミア半島を併合して以後続けている強硬な政策の結果である。

 「戦後秩序への挑戦」として米欧や日本などが制裁を科してからも、ウクライナ東部の内戦で、親ロシア派武装勢力への支援を続けている。

 そんな中で、ロシアとの結束強化に熱心なのが、中国の習近平(シーチンピン)国家主席だ。プーチン氏との会談では、大戦勝利への中ロの貢献のほか、ナチズムや軍国主義の復活、歴史の見直しを許さないとの立場を強調した。

 しかし、いまの世界を見渡せば、秩序の安定を脅かしているとみられているのは、そのロシアと中国であるのは明らかだ。隣国の領土を侵したロシアと並んで、中国も領有権の論争がある南シナ海で一方的に埋め立てなどを進めている。

 中ロ両国は、国内の反政府勢力を強権で締めつける権威主義も共通する。このまま周辺国に対し力まかせの行動を取り続けるなら、法による支配と民主主義からなる戦後秩序を壊そうとする勢力とみるほかない。国際社会はますます警戒心を強める方向に傾くだろう。

 ロシアの前身のソ連は、2千万人以上の犠牲者を出しつつ、ナチス・ドイツの打倒に大きく貢献した。

 だが、戦後は一党独裁の社会主義を東欧諸国などに押しつけて政治や経済を停滞させ、東西冷戦も招いた。冷戦後、ロシアは一時、米欧との協調に動いたが、プーチン氏のもとでソ連型政策への後退が進んでいる。

 対照的なのが、敗戦後70年のドイツの歩みだ。ナチズムと完全に決別し、民主主義と市場経済の先導役に生まれ変わった。各地で平和と安定のために努める姿勢は高く評価されている。

 プーチン氏にいま必要なのは、歴史を直視し、ドイツに学ぶことである。