先日、シマウマ書房へ行った。棚に並んだ本の背表紙を目で追っていると、赤い色が一際目立っていた本があり思わず手に取った。ぱらぱらめくって読んでみたら、ぐいぐいっと私の心を掴まれたので迷わず購入した。
その本がこちら。
工藤直子さんの詩。息子である松本大洋さんの挿絵。どちらも素敵だ。
ひとはみな
みえないポケットに
こどものころに みた 空の ひとひらを
ハンカチのように おりたたんで
入れているんじゃなかろうか
〜〜〜
「こどものじかん」というのは
「人間」の時間を
はるかに 超えて ひろがっているようにおもう
生まれるまえからあって
死んだあとまで つづいているようにおもう
こどもの頃にどこかで見たような懐かしい風景が詩という形態でいくつも収められている。読むと顔がほころび、気持ちが休まるようなあたたかい風が吹いてくる。添えられた挿絵は優しくどこか儚げだ。
工藤直子さん、松本大洋さん親子はどちらもその世界で名の通った人である。二人のうち、どちらかが好きだからと言う理由でこの本を手に取る人も多いのではないかと思うが、きっともう一人の魅力にも気づくはずだ。
私は幼い頃から工藤直子さんの詩に触れてきた。家の本棚に「のはらうた」が並んでいたのだ。絵本にしか興味のなかった私は、「のはらうた」の存在は知っていたけれど、手にとって読むまでにはなかなか至らなかった。ある日、ふと手に取りページをめくってみたら楽しい言葉、愉快な情景がぽんぽん飛び出してきたので驚いた。1冊ずつ読んでは「これ、面白いね」と母に報告した。母は「『詩』も面白いものなのよ」と言い、本棚から「たいようのおなら」を取り出した。 「たいようのおなら」は灰谷健次郎さんが編集しているこどもの詩集だ。自分とさして年齢の変わらない子が紡ぐ言葉に私は惹かれた。言葉で表現することの面白さを知ったのだ。
少ない言葉で相手に伝えることは難しい。
だが、場合によっては広がりのある想像力とともに心にぐいんと入りこんでくる。
工藤直子さんは幼い私にそんなことを考えるきっかけを与えてくれた。
大人であるはずの工藤さんは不思議なほどこども目線の詩を書かれる。私は今も工藤さんのような目線でモノが見たいと思っており、このブログでも表現したいと考えている。
私の記憶の中にしまってあるあの日の痛さとあの日の優しさ。
はじめて触れるものが多かった、多感なこども時代は今の私を形成する上でなくてはならないもの。
忘れたくないのだ。
挿絵を描かれた松本大洋さんの漫画も何冊か読んでいる。友達が3人でシェアしていた部屋、通称「チェリー」に出入りしていた話を以前に書いたのだが、その部屋に松本大洋さんの漫画が置いてあったのだ。終電を逃した日は友達の部屋で夜通し読んだりしていた。そのせいか松本さんの本は夜に読む漫画のイメージが私にはついてしまっている。
『こどものころにみた空は』に書かれている松本さんの作者紹介欄が興味深かった。
松本さんは幼少の頃、引っ越しを繰り返し、多くの友達と出会えたことはうれしいが、同時に別れが少し悲しかった。このころ「どこへ行っても、自分を照らす太陽は同じだな」と感じた。
大人になり、『こどものころにみた空は』の挿絵を依頼され引き受けた。
その時「自分の子ども時代を照らした太陽も、いまの子どもたちを照らす太陽も同じなのだな」と思い、不思議な気持ちになったようだ。
あなたの『こどものころにみた空は』どんな空でしたか?
喜びも悲しみも一緒に感じた空でしたか?
今のこどもたちもそんな空の下で呼吸をし、明日へ向かって進んでいる。
そんなことを感じられた本だった。
読後が気持ち良いの。
私、毛布に包まれているみたい。
鉄コン筋クリート (1) (Big spirits comics special)
- 作者: 松本大洋
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1994/03
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