夜間中学は、暮らしに欠かせない読み書きから学び直す場である。いわば、学びの駆け込み寺ともいうべき存在だ。

 それを増やそうという動きが相次いでいる。国会の超党派の議員連盟も、支援のための法案を今国会に出そうとしている。

 この流れを加速させたい。今は8都府県に31校しかないが、1県に1校は必要だ。政府は地域の実情に応じて自治体と協力し、設置を進めてほしい。

 昨夏、夜間中学の関係者と国会議員らが東京で開いたシンポジウムで、夜間中学の意義が改めて確認された。

 ひきこもりだった若者が仲間に見守られ、声を出して教科書を読めた体験を発表した。在日韓国人のおばあさんも、字を学ぶことで自分の思いや考えを伝えられる喜びを語った。

 夜間中学が始まったのは戦後の混乱期、仕事や家の手伝いで中学校に通えない子どものための「二部授業」としてだった。

 生徒の層は時代を映す。

 元不登校の若者、障害者、在日韓国朝鮮人や中国残留孤児に加え、今では、新たに日本に来た外国人が増えている。

 外国籍の人々は、文科省の調査によると、全生徒約1800人のうち8割を占める。

 義務教育を受ける権利はすべての人にあることを国際人権規約は定めている。言葉を学び地域に溶け込んでもらうことは日本社会にとっても有益だろう。

 実際に設置を進めるには、どのくらいの人に必要かという数字の裏付けが欠かせない。

 ところが、政府は中学校を終えていない人の数をつかんでいない。国勢調査の設問は「小中卒業」となっている。「小学校卒」「中学校卒」と分けなければわからない。次回の調査で改めてもらいたい。

 元不登校生にとって壁となっているのが、中学の卒業証書だ。実際に出席していなくても、学校の配慮でいったん卒業すると、夜間中学への入学が認められない。文科省はハードルをなくすことを考えてほしい。

 忘れてはならないのは、長年、手弁当で続いてきた各地の「自主夜間中学」だ。自治体の果たすべき役割を担ってきた場である。それだけに、場所を提供したり運営費を補助したりすることが求められる。

 夜間中学は現在、北海道、東北、中部、四国、九州では、ゼロだ。埼玉から2時間近くかけて東京まで通う生徒もいる。

 夜間中学を必要としているのは、自ら声を上げられない人たちであることが多い。学びの灯を確実に広げたい。