トヨタの種類株は市井の投資家に妙味-安定株主形成に期待
2015/05/08 06:00 JST
(ブルームバーグ):トヨタ自動車 が発行を予定する種類株式は、短期で一獲千金を狙うよりコツコツと安定した資産を築きたいと願う一般投資家のニーズを満たす設計となっている。
三重県津市在住の中西久さん(77)もこの種類株に関心を寄せる一人だ。大手私鉄を退職し、現在は妻と2人暮らし。銀行預金のほか株式での運用もしているが「退職金と年金を補充する」程度で、「基本的には安定志向」とし、リスクはできるだけ避けたいという。
トヨタの資料によると、第1回AA型種類株式の配当年率は発行年度に0.5%、1年ごとに0.5ポイント上昇し、5年目以降は2.5%が支払われる。発行後おおむね5年経過すると普通株式への転換が可能なほか、株価が下落しても発行価格での換金機会が確保される。銀行定期預金で5年ものの金利は、比較的に高いあおぞら銀行でも年0.35%。
中西さんは、種類株が元本が保証される形になっているとし「退職者にしてみればやっぱりそれが一番大きい」と述べた。人気で抽選になる可能性があるとしながらも、「もし買えるとすれば私も多少投資してみたい」と話した。
トヨタの種類株は非上場ながら議決権があることも特徴。調達資金は燃料電池車(FCV)など次世代技術を含む研究開発投資に充てるとしている。名古屋市の主婦、築山真子さん(40)はリスクが限定されている上に配当も高く投資対象として魅力的と話す。トヨタの経営権の一部を持って「日本の経済をけん引することに一役買うこともできる」ことにもひかれるという。
ファナック、GM米投資ファンド、サード・ポイントを率いるダニエル・ローブ氏やハリー・ウィルソン氏などのアクティビスト(物言う株主)がファナックや米ゼネラル・モーターズ(GM)などに攻勢をかけて大幅な株主還元を引き出すなか、トヨタは3月に個人投資家向け説明会を開催。豊田章男社長が約4000人を前に経営方針を語るなど中長期にわたって会社を支えてくれる安定株主の形成に向けた取り組みを続けてきた。
6月の総会後に決まる1株の発行価格は、決定日の東京証券取引所での終値 の1.2倍以上となり、当初の5年間は原則的に換金ができないなどの制限がある。このため、トヨタは「機関投資家は株式の流動性を重視するため、中心は国内の個人投資家になる可能性が高い」と考えているとしている。
マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは、上場企業であれば通常は会社が株主を選ぶことはできないが、トヨタの種類株は投資家を選択する新しいアプローチだと指摘。最低5年の継続保有などの条件は機関投資家の投資対象としては不向きで、トヨタがどういう層にこの株に投資してほしいかは明らかだ、と話した。
長期なら機関投資家もSBI証券の鈴木英之投資調査部長は、トヨタが種類株の発行に伴い、普通株の希薄化を避けるために同数程度の自己株式を取得する予定であることについて、差し引きでの資金調達額は少ないようにみえるが、「会社側のニーズに合った投資家層が増える」などのメリットが考えられると話した。
鈴木氏は将来の配当収入が見えているため、個人だけでなく機関投資家でも長期資金を運用するところには十分投資の選択肢になりうると話し、トヨタの取り組みが成功すれば、他の日本企業にも同様の動きが広がる可能性があると話した。
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更新日時: 2015/05/08 06:00 JST