NPCの頭の上に黄色の「!」が浮かんでいて、そのNPCに話しかけてクエストを受け、目的を達成する。MMORPGで当たり前のこのシステムに疑問を抱いたことがある人はどれだけいるだろうか。
海外サイトWolfshead Onlineの「Why It’s Time to Get Rid of Quests in MMORPGs」(MMORPGからクエストを取り除く時が来た理由)という記事は数年前に書かれたものだが、ここでは2015年の新しいMMORPGすら解決できていない様々な問題が指摘されている。
近年のMMORPGのクエストシステムに通じるゲームプレイは、World of Warcraftのヒットによって一躍全世界の他のMMORPGにも伝播することになる。- World of Warcraftの内部アルファテストが2003年~2004年に行われた際、テスターが「クエストがなくなってしまう」と不満を訴えた。
- World of Warcraftは初めからクエスト中心のMMORPGとしては設計されていなかった
- Blizzardはフィードバックを反映し、ゾーンのあらゆる場所にクエストを配置した
- WoWは大成功し、そこに実装されているもののほとんどがMMORPGのお手本になった
- 完璧なほど深くは考えられていなかったクエスト中心のゲームプレイはテスターが求めたから実装されたものだった
- これが他のMMORPGに取り入れられていくにつれ、その問題が浮き彫りになっていった
記事の編集者は、EverQuestで一緒だったギルドメンバーとWoWに移ったが、EQでかつてグループ志向でフレンドリーだったその知り合いは、今や自分の利益を中心に考えるようになってしまったという。
しかしそれは彼が悪いのではなく、WoWのゲームデザインの通りに遊んでいるだけだった・・・。クエスト中心のゲームプレイがMMORPGにもたらす悪影響1. クエストはプレイヤーの自主性と自由を奪う
プレイヤーはMMORPGの中でクエストが出てきたら、それを全て完了させなければならないような義務感を感じる。
ほとんどのテレビゲームがクエストを受けたらクリアしなさいとプレイヤーに教えてきたからだ。そしてその多くでは、実際に必ずクリアしなければならない。「(クエストをクリアしていないのなら)ここは断じて通さぬ」RPGにおけるクエストの仕組みとクエストの報酬は、開発者が作り上げた世界やストーリーを正確にプレイヤーに見せていくための道を作り、プレイヤーにその道を歩ませるという意図がある。
シングルプレイRPGで成功したこの仕組をMMORPGに取り入れようと思うのは当然で、否定しがたいことであるが、次のように問題点が指摘されている。プレイヤーが何を欲しいのかわかっている、プレイヤーにとって最高なものはわかっていると言い張る全体主義的な考え方に、近年のほとんどのMMOのプレイヤーたちは自由を奪われてる。
自分たちのことを偉大な作家か詩人か芸術家だと思い込んでいるゲーム開発者のイマジネーションと気まぐれにプレイヤーは束縛されているのだ。
クエストのおかげで、ストーリーの進行段階がどうなっていようが、プレイヤーがどこにいようが、仮想世界でのあなたの運命はゲームデザイナーがずっと前に立てた計画によって最初から決められている。
目的地が決まっている電車に乗って、その目的地に到着しても誰も驚かない
クエストに束縛されていなければ、プレイヤーにはどこに行き、どうやってキャラクターを強くするのかを自分で決めることができる自由が与えられる。そしてその動機も自発的なものに起因される。2. クエストはゲームの社会性とコミュニティを弱める
クエストはMMOを、プレイヤーがゲームを進めるために他のプレイヤーの助けを必要としないシングルプレイゲームのように変えてしまった。
かつては共有体験が魅力だったMMOをクエスト自動配信機に変形させてしまった。
頭の上にエクスクラメーションマーク(!)がついたNPCを探して慌ただしく走り回ることだけが重要。
クエストはプレイヤーの心の中に利己的で報酬目当ての考え方を生み出す。
クエストはプレイヤーの視線を外ではなく内側に向けさせる。
人々が互いを必要としなくなったとき、結果として生じるのはあなたが大手のMMOで見てきたような不親切で分裂したコミュニティだ。
今やソロクエストは典型的に序盤、中盤、そしてレベルキャップに到達するまでの大部分を占めている。
基本的にこのタイプのコンテンツはプレイヤーたちの気質を形成し、雰囲気を決めることになるので、ソロクエストが大部分を占めるのは不幸なことだ。プレイヤーが本格的にパーティやレイドで他のプレイヤーと関わり、協力するようになる頃にはもう手遅れになっている。
このことの証明として、我々はWorld of Warcraftのコミュニティの残念な状態に目を向けなければならない。3. クエストがルーチンワークと化し、MMO体験をつまらなくさせる
クエストはありふれたものとなり、もはや特別なものとは考えられなくなった。
そのほとんどは本当の「クエスト(探究、探索)」ですらなく、むしろ単純な作業だ。
多くの人たちが、クエストログに書かれている文をほとんど読んでいないと認めている。
「デイリークエスト」と呼ばれる発明品によって、単調さと面倒臭さが加わり、事態はさらに悪化した。毎日プレイヤーは「モンスターを10匹殺せ」というような思慮のないクエストを同じように繰り返すことになる。
クエストコンテンツは有限で、プレイヤーを混乱させ、次に何をすべきか疑問に思わせたままクエストがなくなることが問題だ。その後では、プレイヤーは別のクエストをくれるNPCが他にいないかを期待せずにはいられなくなる。
もはやクエストは他のほぼ全てを差し置いて、MMOのデファクトスタンダードと言えるほど一般的なものになった。本来なら新しい機能に使うべき開発時間のほとんどをクエストが占めている。
この特異な焦点は不均衡かつ不自然で、現在のMMOコミュニティが退屈で活気がない理由になっている。
どれだけたくさんのレアアイテムを実装しても、この病は癒えない。4. クエストはプレイヤーを怠惰で間抜けにさせる
クエストはMMOの歴史の中でも最悪のプレイヤーを生み出した可能性がある
プレイヤーは怠惰で愚かになってしまったが、それは彼らのせいではない
開発者たちはプレイヤーが何も考えなくても、盲目的にクエストを与えてくれるNPCの指示に従っていればいいだけのMMOを作ってしまった。
クエストは怠け者の夢だ。プレイヤーはクエストを開始して完了させるためにそれらしい努力も、知性も勇気も、度胸もめったに必要としない。ほとんどのNPCは24時間営業のコンビニエンスストアのよう。それでいて大量のゴールドやアイテムをくれる。
プレイヤーはNPCから情報を得るために労力を使うべきだが、昨今のMMOでは何も要求されない。開発者はプレイヤーに退屈なことをさせるのを飛ばして、すぐにモンスターを倒しに行かせたいと思っている。
クエストはプレイヤーが自分自身のために考えて行動するのを嫌にさせ、次のクエストを追いかけるだけにさせる。
まるで現実世界の福祉のように、クエストは平均的なMMOプレイヤーの中に依存性や期待感を設けた。
MMO体験を作るためにお互いが向き合うのではなく、プレイヤーはまるで小さな子供が食べ物のために親を見つめるかのように開発者を見るようになった。
MMOのプレイヤーが怠惰で間抜けになっているかどうかなんて誰が気にする?
あなたがまだMMOをプレイしていて、MMOのことを心配しているなら、気にするべきだ。
MMOの要素で最も重要なのに最も軽視されるのがプレイヤーたち自身だ。
最近のひどく品位の欠けたプレイヤーは、他のMMOプレイヤーたちの楽しさも蝕む影響がある。実際、良いプレイヤーがいないMMOは大したゲームではない
ほとんどの良いプレイヤーたちは既にMMORPGのジャンルを離れてしまい、MMORPGのジャンルは開発者のリップサービスによってもたらされたソーシャルとコミュニティの明らかな侵食に関連した転換点に到達した5. クエストの報酬が寛大すぎる
クエストで得られる報酬は多すぎる。
その報酬にはモンスターからドロップする装備やプレイヤーの手で製作される装備など、MMORPGの他の要素の重要性を低下させるという副作用が存在する。
クエストは気前が良いため、プレイヤーは本当に装備を心配する必要がなくなる。
実際、ゲームデザイナーのJeffrey Keplanはインタビューの中でWoWにおけるクエストはゲームを進行するために好ましい方法だと認めている。
プレイヤーが本当にクエストをこなすのが好きかどうかを調べたいなら、クエストの報酬を全部削除すればよい。馬鹿げているほどに膨れ上がっている報酬がなければ、ほとんどの人はクエストをやらなくなるだろう。
不自然なインセンティブがないとプレイヤーは本当にクエストを楽しめないのであれば、クエストには何の意味があるのだろうか?
プレイヤーが報酬重視のゲームデザインに洗脳されてしまい、成長や利益が得られないものはやりたくなくなってしまった不幸な事実についての議論はまたの機会に。究極のクエストは「サバイバル」
ここ最近、「生き残れ」というたったひとつのシンプルなミッションだけで100万本以上売り上げるようなサバイバルMMOが台頭してきている。(DayZ, H1Z1, Rust, Reign of Kings, etc...)
これはある意味原点回帰だと言うことができる。
戦闘があるほぼ全てのMMORPGの第一のミッションは「死ぬな」ということなのかもしれないが、モンスターあるいはプレイヤーにいつ殺されるかもしれない未知で過酷な環境の中に放り出された大昔のMMORPGや昨今のサバイバルMMOと比べれば、WoWをはじめとする近年のMMORPGは親切だが大分ぬるい。
同サイトはWoW以降のMMOとそれ以前のMMOを比較し、「ヨガ教室」と「海軍特殊部隊の訓練」くらいの差があると例えている。
古いMMORPGのそういった環境は時にプレイヤーに負担を強いたが、わくわくし感嘆するような、オンラインの仮想世界の特権だった。
ゲームの世界で生き残るための術(すべ)を手に入れるという基本的な目的が、パーティを組むことや強い装備を手に入れること、自分の腕を磨くこと、レベルを上げること、情報を手に入れること、ギルドを作ることに繋がっていく。
クエストの動線に沿って進んで行くMMORPGには緊張感もスリルも感動も少ない。クエスト中心のMMOは大抵、レベルごとに敵の分布が決められているので、クエストによって敷かれたレールから外れなければ、敵の強さはプレイヤーが完全に予想できてしまうからだ。しかもその敵にあわせた装備がクエストの報酬として支給されるのだからなおさらだ。
「生き残れ」という一つのミッションと何が起こるかわからない過酷な環境は、どんなにたくさんのクエストをクリアしても味わうことのできない自分だけのストーリーも与えてくれる。結論
クエスト中心のゲームプレイは、短期的にはとっつきやすいMMORPGを生み出し、プレイヤーはあまり不自由せずに一定の満足を得ることができる。
しかし、そのクエストを全てクリアした時、あるいはする必要がなくなった時、ずっとクエスト中心だったそのツケが回ってくることになる。
このことを知ってか知らずか、数えきれないほどのクエスト中心型のMMORPGが登場し瞬く間に消えていった。あるいは瞬く間にプレイヤー数が減っていった。
おそらくクエストという仕組みそのものが悪いわけではない。
MMORPGだから、WoWは成功したからという短絡的な理由で多くの開発者がWoW方式のクエストをゲームに取り入れ、ゲームデザインをそれに合わせたことが自分で自分の首を絞めることになったのだろう。
もし新しいMMORPGやオンラインRPGをプレイして、それがクエスト中心のゲームだったらこの記事を思い出して欲しい。
そして、クエスト中心のゲームプレイでも長期的に大成功を収めることができたのなら、そのゲームのデザイナーは本当に優秀な人間だと賞賛を送るべきだろう。
しかし、そのゲームが短期的には成功したのに、長期的にはあまりうまく行かなかった、微妙な結果に終わったのなら、この記事で指摘されている項目がどれだけ当てはまっているのかを確かめてほしい。参考・引用:
Wolfshead Onlineあわせて読みたい記事:MMORPGの考え方をシングルプレイRPGにコピーするとゲームが悪くなるという話MMOにおける最悪なクエストの種類 ワースト5