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「女性が輝く社会」に専業主婦は不要か

プレジデント社4月28日(火)9時15分
画像:「女性が輝く社会」に専業主婦は不要か
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■「初のママ役員」はなぜ炎上したのか


戦後の日本において、家事や育児、介護の多くを期待されてきたのは専業主婦だ。1978年の『厚生白書』で「同居は福祉における含み資産」とされたことからもわかるように、社会制度もそれを前提として設計されてきた。専業主婦が担ってきた日常生活、いわゆるプライベートは、市場経済のようなパブリックには直接登場しない領域である。いってみれば、現代社会は専業主婦の「見えない貢献」を前提に成り立ってきた。この事実を踏まえると、安倍晋三首相が推進している「すべての女性が輝く社会」は、専業主婦の貢献を「見えない」状態にしたまま議論が進んでいるように見える。


こうした違和感はさまざまな場所で表されている。たとえば昨年11月7日に放送されたテレビ番組『朝まで生テレビ』では「女性が輝く社会」がテーマとなった。だが、3時間の討論の中心は「女性の働き方」で、パネリストの荻上チキが自身の妻の就業形態について「専業主婦」と発言すると、ほかのパネリストがどよめく場面もあった。これに対し荻上は「ここまで働き方の話しかしていませんが、働かない女性や子どもを育てない女性、すべての女性が輝く多様性のある社会を目指す議論と考えていいのでしょうか」と問い糾し、ネットではこの姿勢に共感するという書き込みが目立った。


また今年4月には大和証券の女性役員の働き方を報じたウェブサイト『日経DUAL』の記事にも注目が集まった。取り上げられたのは大和証券で6人目の女性役員となった広報部長の白川香名さんだ。白川さんは、大和証券では初めての「子育てをしながら役員になったケース」で、見出しには「子育ても仕事も自然体で女性役員に」とあるが、記事に書かれている彼女の生活ぶりはかなりハードだ。「第1子出産後、育休を取らずに8週間で復職した」「第2子出産では妊娠8カ月まで妊娠を伏せ、予定日の1カ月前に破水した」。パブリックを優先させると、プライベートが排除されるという社会学の古典的な指摘を、白川さんがまさに体現しているように私には読める。


この記事に対して、ネットにはさまざまな反応があふれた。「自然体とは呼べない」「一歩間違えたら母子ともに危なかった」「こんなスーパーウーマンを前例とされたら後が続かない」。背後にあるのは『朝まで生テレビ』への批判と同様、日常生活を支えてきた専業主婦への評価が欠落しているという苛立ちなのではないか。


専業主婦の「見えない貢献」が政治や経済で軽視されてきたのは、専業主婦批判からも明らかだ。例えば「家にいて怠けている」「夫の稼ぎにぶらさがっているパラサイトだ」といった議論には、パブリックとプライベートは社会の両輪だという視点が欠けている。保育や育児に関する現行制度や労働環境があまりにも多くの問題を抱えることになったのは、専業主婦の「見えない貢献」に企業や行政が依存し続けた帰結である(※1)。現在の社会状況を踏まえれば、現行制度や労働環境の改善が急務である事実に疑いはない。しかしそのための方便として、パブリックがプライベートに優るとの位置付けが用いられているようにみえる。


■社会構造の問題が女性同士の「争い」に


その例のひとつが、「夫は外で働き妻は家庭を守るべきである」とする性別役割分業への賛否だ。2012年の内閣府世論調査では「夫は外、妻は家庭」を支持する者が半数を超えたが、とりわけ注目を集めたのは「賛成」とする若者の増加だった。家族社会学者の山田昌弘は、これを劣悪な経済状況にあえぐ若者の「専業主婦へのあこがれ」の表れとし、硬直化した労働環境が若者の保守化を招いているとしている。


だがこの指摘には、1980年代以降に起きた専業主婦の変容を踏まえていない点で問題がある。


彼らの親は、男女雇用機会均等法の「第一世代」であり、フルタイムでの勤務と子育ての両方を経験している。実際に若者に話を聞いてみると、彼らがイメージする「専業主婦」とは腰掛けの仕事や寿退社を経て一生を家庭で過ごす1980年代以前のライフスタイルではなく、「雇均法第一世代」の生き方、つまりフルタイムを経験した後に出産と育児で仕事を一時中断し、再び社会に戻る人生を指していることがわかる。


こうした傾向は、国立社会保障・人口問題研究所による18〜34歳を対象とした「独身者調査」の結果を見ても明らかだ。女性の回答をみると、1990年代以降、「理想とする人生」として支持を集めているのは再就職であり、専業主婦を選ぶ割合は大きく減少している。同様の傾向は男性にも見られ、人生の時期にあわせて働き方を変えながら全体としてプライベートとパブリックのいいとこ取りをはかるバランス感が若者たちの選択にあらわれている。


20代以降の若者は、日常生活を大切にしながら経済活動にコミットするという選択肢を経験的に知っていると私は見ている。若者の労働に詳しい社会学者の阿部真大は、彼らの生活感覚を「ほどほど」と表現し、地元で親や友人に囲まれながら「ほどほど」に暮らす若者は現在の社会基盤のひとつとなりつつあるとしている。「すべての女性が輝く社会」にまつわる現在の論調は、若者の先見性に対応できていない。


海外では、「ほどほど」なライフスタイルを積極的に社会に組み込む流れが既に生じている。オランダは短時間正社員制度の導入によりワークシェアリングを広げることで女性の人材活用に成果を上げている。また、米ピュー・リサーチ・センターの報告書によると、米国では1989年から2012年までの23年間で「専業主夫」の数が約2倍の200万人に急増しているという(※2)。米紙ニューヨークタイムズは彼らを「Stay-at-Home Dads」と呼び、「家にいる価値を認めよ」と連帯して主張する様子を紹介している。プライベートとパブリックを個人的努力で架橋してきた前例を元に「すべてを実現できるキャリア女性を目指せ」と迫る国内の現状は、昭和のモーレツ社員のグロテスクな進化版にみえてくる。


「ほどほど」に働いてプライベートを重視したい人は老若男女を問わず存在するはずだ。現状を打破しながら新しい社会を構想する方策を真剣に議論するのであれば、企業や政治などのパブリックの在り方を変えるという視点こそが不可欠である。それにもかかわらず、ネットでの反応に見られるように、専業主婦と働く女性を相対させる立論が後を絶たない。両者に生じている齟齬は、パブリックを優先させたためにプライベートが排除されるという、従来の社会構造の延長に生じる問題である。それを隠蔽し、女性同士のヘゲモニー争いに落とし込む視点がむしろ「保守的」で、古いのだ。


こうした古さと戦ってきたのが、白川さんを含む「雇均法第一世代」ではなかったのか。編集部を通じて大和証券に記事の反響について問い合わせたが、「特にコメントはない」(広報部)という回答だった。しかし、一部の経営者は、プライベートの充実がいい仕事の条件だと気づき、多様な働き方を認めることで企業の持続可能性を高めようとしている。一方で、安倍政権のいう「すべての女性が輝く社会」には、「女性管理職を3割に」という数値目標はあるが、環境変化に対応した具体的なモデルがみえてこない。既に走り始めている民間企業に比べ、鈍感すぎるのではないか。


※1:我が国の子育て支援に代表される家族関係社会支出の対GDP比はOECD諸国の中でも極めて低いが、その背景のひとつに福祉の担い手としての専業主婦による寄与がある。

※2:Growing Number of Stay-at-Home Dads─Pew Research Center's Social&Demographic Trends Project http://www.pewsocialtrends.org/2014/06/05/growing-number-of-dads-home-with-the-kids/


(社会学者 永田夏来=答える人)

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