研究内容
現在の化学工業において最も重要なことは,環境に負荷を与えないプロセスであることです.例えば,エネルギーを使わない,有害物質を用いない,或いは排出しないプロセスが挙げられます.このような環境を配慮したプロセスの開発を目指し,特に,固体触媒に注目して研究を行っています.また,固体触媒で用いられる多孔体の高機能化を目指し,新規多孔体材料の開発も行っています.
1. ミクロ孔またはメソ孔を有する新規多孔体材料の開発
多孔体として有名なものにゼオライトがあります.これは,結晶構造に起因するサブナノメートル(10-10 m)サイズのミクロ孔を有しています.また,細孔径がナノメートル(10-9 m)のメソ孔を持つ材料としてSBA-15(下左図)などがあります.これらの物質は細孔を有するため,1 gあたりの表面積は数百m2から千数百m2にもなります.
岡本研究室では,新しい機能や構造を有するゼオライトやメソ多孔体を新たに開発し,様々な用途への応用研究(特に固体触媒としての利用)を行っています.
例えば,1次元細孔のみを有するSBA-15の細孔構造の3次元ネットワーク化(下中央図)を行い,細孔内での物質拡散を容易な多孔体の開発を行っています.この多孔体を触媒として用い,天然ガスからの液体燃料合成などの研究を行っています.
また,ゼオライト粒子の内部が中空であるゼオライトカプセル(下右図)の合成および利用の研究を行っています.カプセル内に触媒を内包することにより,カプセルを反応容器とみなした選択的合成反応の触媒として期待できます.さらに,薬物を内包すると,薬物用カプセルとしての利用などが期待できます.
2. 均一系触媒の固体触媒化
現在,多くの化合物の合成には,金属錯体などの均一系触媒(触媒が溶媒に溶解)が用いられています.均一系触媒は性能が高い半面,大量の溶媒を用いる,また,触媒の分離や再利用が難しいなどの問題点があります.一方,不均一系触媒である固体触媒は,触媒の分離は容易です.特に,触媒層に反応物を流通させる反応系では,触媒分離プロセスは不要になり(省エネルギー),さらに溶媒を用いないプロセスを構築できます.
一般的には,固体触媒は,均一系触媒に比べて生成物への選択性の面で劣ります.岡本研究室では,均一系と不均一系触媒の性質を併せ持った触媒の開発を行っています.金属錯体(均一系触媒)を高分子の液体に溶解させ,固体のシリカゲルの表面を覆います.得られた触媒は,固体触媒として用いることができます.例として,エチレン酸化によるアセトアルデヒド合成の模式図を下に示します.