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奥州の鷲派記者・板垣晴朗

2015 05/08  13:07

サプライズGK六反勇治。シーズン前の「代表入り宣言」から、高橋範夫GKコーチと日々積み上げたもの

そのときどきの話題やイベントにフォーカスし、論を交わす時事蹴論。今回は5月7日に発表された日本代表の"国内組合宿"のメンバー発表に注目し、最大の驚きとなったベガルタ仙台のGK六反勇治を取り上げる。九州育ちの守護神が遠く奥州の地で積み上げたものとは?仙台の番記者・板垣晴朗が迫った。



▼まさに青天の霹靂
 5月7日、ベガルタ仙台のクラブハウス。とあるGKが「今日はゆっくり休み、また上げていきます」と帰途についてから数時間後のことだった。好きだという珈琲を飲んでひと休みでもしていたかもしれないそのころ、日本代表候補のトレーニングキャンプのメンバーに、そのGK、六反勇治が招集されたという報が飛び込んできた。

 2007年にU-20日本代表候補トレーニングキャンプのメンバーに選出されたことはあるものの、あくまで候補選手。ここでA代表候補に選出されたことを意外に思われた方も多いかもしれない。06年に熊本国府高校から当時J1だった福岡に加入してプロ生活をスタートさせ、以後14年までにリーグ戦で記録した出場試合数は、J1で19試合、J2で23試合だった。

 12年には横浜FMにプレーの場を移した六反だが、所属した3シーズンでのJ1でゴールマウスを守ったのは、わずか2試合だった。新たなるチャレンジの場を求め、六反は15年から仙台に移籍してきた。

▼積み上げた一つずつ
 開幕戦はベンチスタートだった。昨季の正GK関憲太郎や、シュミット・ダニエル、石川慧とのポジション争いを勝ち抜くための戦いからスタート。キャンプ中には自問自答しながらプレーを磨いていた。

 2月20日付けのJ論で広島の中野和也さんが「キャンプだホイ!!」を執筆していたその練習試合において、仙台は1・2セットと3・4セットでメンバーを分けていたのだが、六反は今回同じく初招集となった20歳のFW浅野拓磨の2ゴールを含む6点を奪われ、悔しい思いをしていた。

 その試合翌日の練習場で、高橋範夫GKコーチと1対1で意見を交換しながら、一つひとつのプレーを確認している六反の姿があった。練習後に高橋コーチに訊くと、こう返ってきた。

「6失点というのはチーム全体の課題であって、彼もまたほかのGKたちと同様にこのキャンプで自分を高めてくれています。ロク(六反)はきょうも一つひとつのプレーを大事にする姿勢を見せているし、この試合で結果が出なかったからといってそこで下を向かず努力しています」

 その努力を続けていたところ、開幕から少しして出番がめぐってきた。明治安田J1で2試合を消化した後に開催された、3月18日のJリーグヤマザキナビスコカップで、六反は前所属の横浜FMを相手に、仙台のゴールを守ることとなった。この試合で六反は伊藤翔のPKをストップするなど活躍し、無失点勝利に貢献した。そしてそれから4日後、リーグ戦においても仙台の最後尾に位置することとなる。

「PKは止めたけれど、それ以外は満足していません」

"仙台デビュー"の試合後も、六反は自分のプレーに満足せず、高みを目指した。J1・1stステージ第3節の湘南戦でも無失点を達成したが、後にその試合を振り返り「細かいミスもあったし、総合的にはまだ。攻撃でも、味方を前に進めるコーチングが足りなかった」と厳しく自己評価した。

 この「総合的には......」の部分が、今季の六反の台頭を語る上では欠かせない意味を持つ。

▼代表入りを宣言
 話は1月にまでさかのぼる。仙台サポーターとの初対面となった1月18日の新加入選手会見で、六反は「昨日、ホテルで『六反さんは日本語をしゃべれますか?』と聞かれたので、仙台の方にも顔と名前を覚えてもらえるように頑張ります」と挨拶して会場の笑いを誘った。自分のアピールポイントについて聞かれたときにも「朝に起きてから洗濯機を回すまでのスピード」と冗談を飛ばしつつ、その後にこう続けた。

「足元のうまさやパントキックなどいろいろあるのですが、サポーターの方が僕のことを話すときに『六反のここがいいよね』『いやいや、六反はこっちがいいよ』といっぱい特長が出てくるようになれるように頑張ります」。

 GKはシュートストップが注目されがちだ。最大の職務がゴールを守ることなのだから当たり前ではあるのだが、その前に味方と連動してシュートコースを消すポジションを取ったり、クロスを相手に触られる前に処理したりと、シュートそのものを未然に防ぐ仕事も多い。ジョークだけでなくコミュニケーション能力が高いことも加え、適確なコーチングとポジショニングで、ゴール前を固める努力も、日々彼は積み重ねている。

 代表スタッフがどの部分に注目したのかは現時点では不明だ。所属する仙台がリーグ戦で現在5連敗中と不調であり、GKだけの責任ではないとはいえ失点数も少なくない。ひとつ言えることは、六反という選手が現時点で完成されたGKだからではないということだろう。仙台に移籍したこのわずか数カ月だけを抜き出しても、総合力を高める努力を続けていることがプレーにつながり、そしてこの招集につながっているのではないか。

 なお、前述の会見で、最後に六反はこう目標を語っていた。

「個人としては代表に入ることを目指し、チームとしては優勝を目指してやらなければいけない」

 日本代表"候補"の段階であり、今後に定着して呼ばれるか、そして試合に出場できるかとなると、さらに高い壁が待っている。しかし、シーズン前に掲げた目標が決して現実離れしたものでなくなっていることも間違いない。

「まだJリーガーとしても何も成し遂げていない」という六反に届いた朗報が、彼が現在に切磋琢磨する仲間たち、そして現在不調にあえいでいる仙台にとっても復調の契機になることもまた、願いたい。

板垣 晴朗(いたがき・せいろう)

1974年1月8日山形県山形市生まれ、宮城県仙台市育ちのみちのくひとりダービー。仙台を中心にJリーグを取材し、各地の喫茶店に入り浸るJリーグ登録フリーランスライター。なでしこリーグやJFLなどのカテゴリーの場にも出没する。大学院時代までの研究テーマの関係でドイツとつながりがあるため、冬になるとブンデスリーガを求めて当地に旅に出る。フットボール関連書籍の執筆・構成にも関わり、中でも仙台の比類なきマスコット・ベガッ太さんの『いたずらっ子 ベガッ太参上』(実業之日本社)に執筆協力したことは比類なき思い出。

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これがチームの流れを変えるきっかけになれば…

2015年5月 8日 15:16

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