職場でのセクシュアルハラスメント(セクハラ)が原因で精神的な病気になったとき、労働災害(労災)として認定されれば、休業中の給与や治療費が補償される。札幌地裁で3月、その認定をめぐって、被害を訴えた女性の主張を認めた判決が出た。認定の基準や申請について、あらためてまとめた。

 セクハラによる精神障害が労災として認定されるには、《1》対象となる精神障害を発病した《2》業務による強い心理的負荷が認められる《3》業務以外の要因で発病したとは認められない―という3点が必要だ。申請書類は会社のある地域の労働基準監督署(労基署)で入手でき、経緯を本人と会社が記入。主治医の診断書もいる。

 《2》の心理的負荷の有無はどうみればいいのか。それをまとめたのが「負荷強度」の表だ。強制わいせつ行為のほか、企業の対応などで特に問題があるときは負荷が「強」とされ、《2》の要件を満たす。それ以外のセクハラは出来事の内容や数などで「中」「弱」と分類されるが、その回数などを総合的にみて、負荷があったかどうかを判断する。

 旧労働省が1999年に示した精神障害による労災認定の判断指針では、セクハラは「対人関係のトラブル」のうちの一項目で、心理的負荷強度はひとまとめに「中」とされた。

 その後、労働者の精神疾患が多様化、複雑化したため、厚生労働省は2011年に詳細な基準を新たに定めた。このとき、セクハラについても表のように詳細な目安が示された。

 以降のセクハラ労災認定数は、12年度は全国で24件、13年度は28件(厚労省まとめ)。道内での認定は13年度は0件だったが、北海道労働局雇用均等室((電)011・709・2715)にはセクハラをめぐる相談が166件寄せられた。その半数近くが言葉によるセクハラだった。

連合にも相談続々

 連合の労働相談ダイヤル((電)0120・154・052)には道内からもセクハラの相談が寄せられる。「同僚の女性が上司に性行為を強要され、精神的なダメージを受けて出勤できなくなった」など、本人以外からの相談も多い。連合北海道の千田広次(ちだひろつぎ)組織対策局次長は「セクハラは犯罪だという認識を組織全体が共有し、被害の当事者でなくても情報提供できる仕組みづくりが大切」と言う。

 また、精神障害による労災に詳しい札幌市内の産業医は「セクハラの出来事について、被害者は客観的な証拠を残すことが重要だ」と話す。被害状況や周りに誰がいたかを日記やメモに残すほか、加害者のメールの保存、発言の録音などが有効という。眠れなかったり、気持ちが落ち込んだりするなどの症状が出たら「早めに医療機関で診てもらって」と呼びかけている。

苦しみ理解してくれた 佐藤さん訴え「就労不能」の主張認める

 セクハラによる精神障害は、2011年に厚生労働省が定めた新たな認定基準により審理が迅速化された。この流れをつくる一つの契機になったのが、元函館市在住の佐藤香(さとうかおり)さん=東京=の訴えだった。

 函館で大手通信会社の子会社に派遣社員として勤めていた佐藤さんは、派遣先の上司から2年半にわたるセクハラやパワハラを受け、適応障害などを患い、06年に退職。労災申請が却下されたため、10年にはセクハラとしては国内で初めて行政訴訟を起こし、翌年、国は労災を認めた。

 ただ、佐藤さんが通信会社を退職後、選挙事務所で3カ月働いて以降の期間は休業補償の対象として認められなかった。佐藤さんはこれを不服とし、12年に再び行政訴訟を起こした。「生活を維持するため働かねばならなかったが、選挙事務所で男性を見ると、以前の上司の言動がフラッシュバックした。不安や頭痛、パニックなどの病状は退職後に悪化し、苦しんだ」

 札幌地裁は今年3月6日、セクハラによる精神疾患のため断続的に就労不能となったという佐藤さんの主張を認め、不支給の処分取り消しを言い渡した。

 佐藤さんやその支援者は「セクハラで受けた深刻なストレスからは、簡単に回復するものではないと理解してもらえた」と判決を喜ぶ一方、「セクハラ労災の申請や認定基準について知る人はまだ少ない。対策が不可欠だ」と強調する。

 この裁判の支援や団交をしてきた北海道ウイメンズ・ユニオン((電)011・221・2180)の小山洋子(こやまようこ)書記長は「労基署や事業主はしっかり周知徹底すべきだ。多くの被害者は、健康や働く場を奪われても泣き寝入りするしかない状況。会社に相談できなければ、外部の相談機関を頼ってほしい」と呼びかける。

 また、原告代理人の1人、浅野高宏(あさのたかひろ)弁護士(札幌)は「同じ労災でも、精神疾患は目に見えるけがと違って、治ったかどうかの判断が難しい」とし、「治癒まで十分に休養できるだけの補償が、速やかになされる仕組みが必要ではないか」と指摘する。

 佐藤さんも個人加盟ができる組合「パープルユニオン」((電)03・5689・7040)を11年に東京で設立し、自身のようにセクハラやパワハラなどに悩む女性労働者の相談を受け付けている。(田辺恵)