松山のベンチャー:ゲームでリアル農業 指令受け代行生産
毎日新聞 2015年05月08日 07時00分
◇収穫すれば利用者宅に 「都市住民巻き込み農業活性化を」
オンラインゲームの野菜づくりを実際の農場で社員が代行し、収穫すれば利用者の自宅に届く。松山市山西町の農業系ベンチャー「テレファーム」が昨年4月に始めた「遠隔農場」の会員が、北海道から沖縄まで約800人に達する人気を集めている。ユニークな取り組みの背景には、遠藤忍社長(45)の「都市の住民を巻き込んで農業を活性化させたい」との思いがある。
「数カ月に1回、カブやミブナを受け取っています」。松山市福音寺町の会社員、浜田沙耶さん(30)は、スマートフォンをタップして畑の雑草を引き抜いた。
利用者は1区画(約1平方メートル)当たり月500円の利用料と、1品種当たり500円の野菜の種をサイト上で購入する。画面上で「種まき」「水まき」をクリックすると、テレファームの社員が愛媛県内3市町の中山間地などにある計2・2ヘクタールで指令通りに動き、野菜の生育状況は逐一写真で利用者に報告される。収穫された作物は、自宅に送ってもらったり、サイト内の“八百屋”で販売したりすることができる。
サイトの肝となるプログラムは、2013年度に特許を取得、同社の「オンリーワン」技術となった。
「遠隔農場」の原点は、約15年前の体験にある。遠藤さんは当時、臨床検査技師。健康診断の巡回で同県の旧柳谷村(現久万高原町)を訪れ、独居老人との会話から中山間地の厳しい生活を垣間見た。年金から電気代などを除けば残るのは3万円ほど。肉や魚はほとんど買えず、一番近い診療所までは車で約20分。お金がないのでタクシーも呼べない……。
02年に退職し医薬品販売の仕事に就いたが「地方の衰退を食い止めたい」との思いが消えなかった。08年、同県内子町の農地を借りて農業を始め、傍らで「遠隔農場」のシステム構築と試験運用を続けた。ヒントにしたのが米国の地域支援型農業。農家が会員を募り、会員の要望に沿った作物を育てる一種の契約栽培だ。農家は安定した収入が得られ、会員は「顔が見える」作物を受け取れる。遠隔農場はこの発展形。事業を軌道に乗せるため、会員を1500人に増やすことが当面の目標だ。
遠藤さんはさらに、ネット上で不特定多数から資金を集める「クラウドファンディング」による耕作放棄地の再生にも取り組み、「ネットの力で日本の農業を変えたい」と意気込んでいる。【伝田賢史】