避難指示区域の大涌谷で源泉清掃 箱根温泉死守へ決断
神奈川県箱根町は7日、火山活動が活発化している箱根山の大涌谷に設けた避難指示区域内への立ち入りを、温泉供給業者などに対して特別に許可した。大涌谷には箱根の宿泊施設約400軒に温泉を供給する設備があり、業者はメンテナンスを毎日行ってきたが、避難指示が出た6日のみできず、一部施設で湯量が減っていた。一方、噴火の可能性を残す中、町の旅館などには予約キャンセルが相次いでいる。
大涌谷から直線距離で約7キロにある“箱根の玄関口”の箱根湯本駅前周辺は閑散としていた。噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)に引き上げられた箱根山は、この日も火山性地震が続き、気象庁によると、午後3時までに10回を観測。駅構内にある土産店の男性店長は「ゴールデンウィークは客も売り上げも昨年より少なかった」と不安げに話した。
こうした中、箱根町は、最大の観光資源である温泉を守るべく苦渋の決断を下した。同町総務防災課が避難指示区域に指定した大涌谷の半径約300メートル内には、多数の宿泊施設へ温泉を供給する設備がある。ここからは、箱根にある約433軒の多数の施設へ源泉を通している。1930年に設立した専門業者「箱根温泉供給株式会社」は、社員が毎日欠かさず、午前と午後に施設のメンテナンスを行い、温泉が通るパイプに詰まる硫黄や湯の花のカスを除去し、湯量を調節してきた。
だが、避難指示が出された6日のみ施設に立ち入れず過去に例がないメンテナンスができない状況が発生。この影響で湯の供給を受ける「箱根温泉山荘 なかむら」によると、湯の量が一時的に減ったという。一夜明けたこの日、業者は安定供給を確保するための特別の立ち入り許可を、町に対して申請。これを受けて町は臨時の通行許可証を発行し、立ち入りを認めた。
緊急事態に備え気象庁などの協力を得て、許可を認めている時間帯は火山活動の現状をモニターでリアルタイムチェック。活発化した場合は即時の退避要請を出す態勢を敷いた。業者の社員10人が通常通り2度のメンテナンス終了後、一時的に減っていた湯量が戻ったという。町は温泉の安定供給を維持するために8日以降も同様の特別許可を出すことを決定。業者にとっては危険な状況の中での作業になるが、担当者は「やむを得ないです。今は一日も早い収束を望むしかないです」ともらした。
一方、地震の影響で、箱根にある多くの宿泊施設で予約キャンセルが相次いでいる。1878年創業の老舗「富士屋ホテル」(箱根・宮ノ下)でも6日からキャンセルが出始めた。同社総務部は「地震を心配する団体の客が目立つ。通常営業していくが、長期化しないことを願うばかりです」と話し、今後の対策は検討中とした。(江畑 康二郎、北野 新太)
◆「黒たまご」販売業者も立ち入り 〇…この日は、温泉供給業者の10人以外にも、計約50人が特別許可を受けて避難指示区域内に入った。名物の「黒たまご」を販売する「極楽茶屋」などの業者関係者らが現金や書類などを確保するために一時的に店舗などに戻ったが、8日以降は原則認められない。例外的に「箱根温泉供給」、水道事業の「箱根水道パートナーズ」、運休中の「箱根ロープウェイ」の3社のみが8日以降もメンテナンス目的の立ち入りを許可される。また、神奈川県は緊急対策会議を開き、大涌谷周辺に地震計や地熱を計測する機器の購入を急ぐとした。