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俺はハーレムを否定する 作者:蓮華御仏

第1話 「ハーレムチート、それはまさに夢」

「はっ、はっ、はっ」

 俺は今、学校の廊下を全力で走っていた。不要な情報を視界から排除し、ただ、速く動くことのみに特化している、俺は風となっている。

「どいてくれえぇ!」

 声を荒げ、廊下を歩く学生たちに注意を促す。人間は動く障害物だ。勝手に避けてくれるのが大半だが、時と場合によっては破壊も辞さない。

 そして、入り組んだ第3旧校舎を通り抜け、校庭に出た後、前方の安全を確保してから、一瞬だけ後ろを振り向く。

「お待ちください、レイド様!」

「レイド! 絶対逃がさないわよ!」

「……今日こそ、大人しく捕まってもらう」

 そこにいたのは、たくさんの女の子だ。
 銀髪のお姫様みたいな美少女、スレンダーでカッコいい系の美少女、黒髪で凛々しい美少女、エトセトラエトセトラ。この学園でトップ10に入る美少女が全員そこにいる。 
 それは、まさに天使の集う場、この世の聖域、アヴァロンだろう。――全員、猛スピードで移動しながら俺に攻撃を加えていなければ。

 右の頬を剣閃が掠め、左手前の大地が一瞬でひび割れ、頭の上を業火が通るこの状況で、俺はただひたすらに、10人の女の子から全力疾走で逃げていた。

 何故こうなったのか。時間は16年程遡る。





 日本の都市部に存在するとある大病院。そこで俺は死んだ。
 所謂不治の病とかいうもので、それに関してはもう思うことはない。

 病院のベッドで、家族に見守られて死んだ俺は、次の瞬間、白い空間にいた。
 目の前には、巨乳でネコミミな巫女服を着たロリっ子がいた。属性多すぎだ。
 その子は、持っている薄い紙の束をパラパラとめくり、

「えーっと、なになに。……おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」

「大いに間違っているんだけど俺が死んだのは事実だからなんか微妙に突っ込みしづらい!」

 とりあえず勇者ではない。

「ああ、すみません。どちらかというと魔法使いでしたか」

「俺はまだ17だボケ!」

 童貞か否かについての言及は避ける。

「まぁ、もう年を取ることもないのですが」

「……っつ。ああそうだよ、俺は享年17だ。んで? ここは死後の世界かなんかですか?」

 あたり一面真っ白なこの場所。目の前にいる巫女服が唯一の彩色だろうか。
 と、思っていたのだが、よくよく見てみると、ネコミミが立っている場所の奥の方に、何やらソファが見える。その隣には雑に積まれている本とゲーム機がある。何故サターン。

「いえ、わたしの部屋です」

「引きこもりの部屋か! ってよく見てみるとソファからちょうど手が届く位置に小型冷蔵庫があるじゃねえか!」

「この白い壁は一面スクリーンです」

「聞いてねえよ!」

 だからサターンがモニターに繋がれていないのか、なんて思ってないんだからね!

 突っ込み疲れで俺が息を切らしていると、呆れたような顔で幼女が声をかける。

「いい加減本題に入りましょうか」

「え、俺が悪いの?」

「はい」

 確かに突っかかったのは俺だけど、コイツの話を聞く限り釈然としない。

「面倒なのでぶっちゃけますと、あなたは異世界転生チートの権利を得ました。なので好きなチートを選んでください」

「ちょ、ちょっと待った。いきなりそんなこと言われても、訳分からないんだけど!? あとさっきの紙束持ってないじゃないか。やっぱわざとだったかコラ!」

 いきなり異世界転生チートといわれても、俺が死んだことに関して何か特別な理由があったかで、恐らく神様であろうロリっ子が特別措置として異世界に転生させてもらうことになって、その際に記憶を引き継げることはもちろん、何らかの特別なチートもゲットできる。だからそのチートを決めてさっさと転生しろってことぐらいしかわからない。

「だいたいあってます」

 ああ、よかった。
 そう思ったのも束の間、違和感に気づく。

「なあ、今さ……」

「言い忘れていましたが、この空間は思っていることが筒抜けですので、変な妄想や隠し事などは出来ませんよ」

 隠し事より変な妄想が先に来る当たりこの神も大概だが。
 それとは別に、思うところがある。この空間にそんな機能があるならば、

「ああ、納得した。……で、アンタの心の声は聞こえない仕様なのか?」

 だとしたら、不公平……ってのは少し変だが。

「いえいえ、とんでもない。わたしの話していることはすべてわたしの本心ですよ」

「むしろそっちの方が問題だよな」

「そんなわたしが大好きです」

 見た目の属性全てを打ち消すほど性格悪いぞ、このロリ巨乳。むしろもっと属性を盛らないとバランスが取れない。

「聞こえていますよ。まぁ、神なのでおおらかな心で聞き流しますが。……ところでさっきのあなたの推論、あなたは別に特別な存在ではなく、くじ引きで選ばれた結果だったという点は違いますよ」

「根に持ってんじゃねえか」

 というかくじ引きか。神様っぽいといえば神様っぽいが。

「くじ引きの大多数は工場で作られる量産品ですよ。それはさておき、いろいろ省いてさっそくチートを選んでもらいます」

 そういうと、ロリ神様はおもむろにサターンのスイッチを入れて、スクリーンにゲームの画面を映す。――いや、これはゲームの画面ではなく……、

「この中から自分の好きなものを選べってことね」

「That’s right」

「無駄に発音いいのがムカつく」

 と、スクリーンに、“スタンダード”や”魔術系”、“生産系”などといった表記があり、渡されたコントローラでカーソルを合わせると、それの詳しい説明が出てくる。

 “スタンダード”
 筋力:A/ 耐久:A / 敏捷:A/ 魔力:A / 幸運:A/ 宝具:E
 身体能力、魔力、容姿など、全体がまんべんなく強化される基本にして万能なチート。面白味のかけらもない。

 “魔術系”
  筋力:D / 耐久:C / 敏捷:B / 魔力:S / 幸運:B / 宝具:D
 魔力特化。膨大な魔力をうまれながらに持ち、さらに魔術開発のセンスにも長ける。身体能力もそれなり。特殊な魔術を体得もできる。魔法使い(笑)。

 “生産系”
  筋力:C / 耐久:C / 敏捷:D / 魔力:D / 幸運:A / 宝具:C
 生産特化。武器や防具、道具などを作ることに長け、どんな素材の加工も可能にする。また、前世の装具などもなぜか生産可能。身体能力は一般人並。つまりオタク。

「……これ作ったのオマエだろ」

「わかりますか、この有能さが」

「とりあえず最後に煽るのをやめろ。テンション下がるわ!」

「文句の多い死人ですね。早く選んでください」

 そう急かされて、俺は画面をスクロールしていく。“死に戻り”や“魔王”、“スキルスティール”など、小説なんかでよくあるチートが並ぶ中、俺は1つのチートを見つけた。

 “ハーレム”
 筋力:D / 耐久:D / 敏捷:D / 魔力:D / 幸運:A / 宝具:B
 異性に好かれること。それだけに特化した能力。特別な何かを持っているわけではないが、何故か異性に好意を抱かれる。さらに、特別な立ち位置の異性ほどその度合いは大きい。まさにエロゲーの主人公。

「おやおや、それに目を付けましたか、いやらしい」

「これ、ほんとにそのままのチートなのか? 例えばめっちゃイケメンの王子様だからモテモテとかじゃなく、よくわからないけど女の子に惚れられるってこと? 主人公補正?」

「書いてある通り、エロゲーの主人公そのものですよ。ゆずとか、アリスとか」

「俺、16で死んだからそういうゲームやったことないんだけど」

「コンシューマくらいあるでしょう。何なら今からさわりだけでもやってみます? 死後なので18禁とか関係ありませんよ」

 そういって、指さした先にあるのはサターン1台。流石の俺でもそういうゲームはPCでやるものだと知っている。つまり、プレイするとしてもコンシューマだ。……ちっ!

「聞こえてますよ」

「誠に遺憾である」

「言い方変えても意味ないですから」

 それに、と巫女神様は付け加え、サターンの画面を別のものに変える。そのゲームのタイトルは、鬼畜王。

「これ、サターンなのは見た目だけで、中身はあらゆるゲームができるように神様的改造を施しているんですよ」

 そう言って、コントローラを俺に渡す乳神様。やってみます? という質問に、俺はイエスで答えた。






 小1時間がたった後、俺は性悪神にコントローラを奪われてしまった。
 まだまだ序盤でこれから面白くなりそうだったので、そのことについて文句を言うが、

「さわりだけといいましたよ。早くチートを決めちゃってください」

 元のチート選択画面に戻されたうえで俺にコントローラをまた渡すが、俺はそれを拒否した。

「あ、もう決めたから」

「へぇ、どんなのにしたんですか? “アカシックレコード”、“不死身”、“巨大ロボ召喚”とかも面白いと思いますが……!」

 幼女神が詰め寄ってくる。巫女服の合わせ目から見える胸の谷間に目を引かれつつ、肩を掴んで一旦距離をとってから、俺が選んだチートを言う。

「ハーレムチートにした」

 ハーレムチート。
 異性に好かれるだけのチートを、俺は選んだ。それにも俺なりの理由はあるのだが、ネコミミはそれに不服のようで、明らかに不機嫌な顔をしていた。

「それ、ネタで突っ込んだ不遇チートですよ!? 特に強いわけでもないですし、そもそもチートで無双でもすれば女の子が勝手にハーレム作ってくれます!」

「いや、もっともなんだけどさぁ……」

 俺は、それがいいと思っていたのだ。
 俺が不治の病にかかったのは小さいころで、それから、人生のほとんどを病院で過ごした。そうすると、やはり人との関係は薄くなってしまうのだ。そもそも出会う機会がない。そんな中で、俺は小説やゲームや漫画などを読んで、その主人公に憧れを抱いていた。戦いやファンタジーもそうだが、それ以上に、人間関係が羨ましかった。
 主人公を中心に、女の子たちが楽しそうに暮らしている。シリアスな場面も多々あるし、戦いで辛いこともあるけれど、結局帰ってくるのは日常なのだと思う。
 だから、俺は恋愛がしたかった。病院にいる俺には無理だろう、面白い恋がしたかった。

 普通のチートを貰って無双ハーレムを作る選択肢を選ばなかったのもそれに起因する。戦いによる結果のハーレムは、なんか嫌だった。

「今思っていることは筒抜けなんだろ? なら、俺にハーレムチートをくれないか?」

「あなたのキモイ理想はわかりましたが、だからってそんな使えないチートを渡すわけには……。ほら、もっと面白くてすごいチートもありますよ。何なら2つとか選んじゃっても大丈夫です」

 先ほどと比べ、妙に必死な猫耳巫女。
 どう考えても、怪しい。

「よう、偉大なる神様? いったい何を隠しているんだよ」

「べ、別に隠し事なんて……」

 という言葉と一緒に、同じ声が頭の中に響いてくる。

『あなたの異世界での成果如何によっては、わたしの新神研修の結果が変わるのですよー』

 新神研修? と聞きなれない言葉に、俺は首をかしげる。けれど、ロリ巫女様が顔を青くしているので、聞いてみる。

「新神研修ってなによ?」

「し、知りません……!」

『新しく神になった者が受ける研修ですね。いろいろな内容があるのですが、その1つに、死んだ人間を異世界に転生させてその世話をするというものがあります』

「よくわかった。その評価を上げるために、俺に便利なチートを選ばせようとしていたのか」

「いえいえ、神として、人間の自由は尊重しています」

『That’s right』

 往生際が悪すぎる。

「観念しろ、な?」

 そう言うと、ついにネコミミロリが両手両膝を着いて項垂れる。巫女服がはだけ、体に不釣り合いな大きさの胸が零れそうになっており、いろいろやばい。

「こんなハーレム志望の頭がお花畑な人間にわたしの輝かしい未来を汚されるとは……お父さん、お母さん、わたしを許してください」

 この期に及んでまだまだ悪態をつくorz神だが、もはや俺は気にしない。勝者の余裕だ。

「諦めたか。なら早く転生してくれ。ハーレムチートで」

 地面に尻を着き、足を崩し、半泣きで俺を睨み付ける巨乳巫女だが、少しすると手元のサターンで何やら操作をし始めた。
 何をしているのかと聞くと、

「チートを付与する準備と、異世界に転生させるための設定をしています。ちょっと時間かかるので、そこに積んである漫画でも読んでいてください」

 と言われたので、大人しくダイ大でも読んでいることにした。
 読んでいる途中で、大魔導士とかでもよかったかな、と思いつつ、最終巻まで読み終わると、ちょうど向こうも作業が終わったようで、コントローラを床に置いていた。

「それじゃあ、転生を始めるので、こっちに来てください」

 そういわれた先にあるのは、さっきまでなかった謎の文様だ。これが魔法陣とかいうやつだろうか。

「正確には少し違いますが……まあ、気にしないでください。……乗りましたね? では、微調整のち、異世界に転生します」

 再度コントローラを握って何かをしているネコミミ巨乳に、俺は今更ながらな疑問をぶつける。

「あのさ、名前、なんて言うの?」

「いまさらですね」

「だから教えてはくれないって?」

「……まぁ、いいですよ」

 そう言うと、彼女は1つ咳払いをする。

「リヴィエラ。それがわたしの名前です」

「リヴィエラ……おっけ、憶えた。……んじゃ、よろしく頼むわ、リヴィエラ」

「ふぅ……まだチートを得てもいないのに、すでに女たらしのつもりですか? まんまと嵌ったようで、なんか悔しいですね」

「それほどでもないさ!」

 このむっつりなリヴィエラに、負けを認めさせたのは嬉しい。
 これで気持ちよく転生できるなと思っていると、それを祝福するかのように彼女はにこやかに笑い――、

「悔しいので、ちょいとチートに細工をしました。面白い来世をお過ごしください。――御守剣司みかみけんじ

 最後に爆弾を残した。

「このクソ神がああああぁぁぁぁぁ――――!!」

 そして、俺の体は白い光に包み込まれ、リヴィエラに伸ばした腕は空を切る。

 俺は異世界に転生した。
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