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クックパッド舘野祐一氏がマネジメントに目覚めた3冊とは?【連載:エンジニアとして錆びないために読む本】

2015/05/08公開

 

業界内で名の通ったCTO(最高技術責任者)や、CTOに就任したばかりのエンジニアに、仕事に役立つ書籍や読書体験を紹介してもらうこの連載。第2回目の今回は、日本最大の料理レシピサイトを運営するクックパッドの執行役CTO・舘野祐一氏に登場してもらう。

国内外でのM&Aや海外進出を積極的に推し進め、成長への道を走り続けているクックパッド。その躍進を技術面から支える舘野氏が選んだのは、「襟を正してマネジメントに向き合うために読む3冊」だと言う。

これらの本を選んだ理由について、舘野氏に聞いていく。

技術部長就任を機に、経営やマネジメント本を読むように

20代は技術書をよく読んでいたという舘野氏が、経営やマネジメントに関する書籍に手を伸ばすようになったのは、クックパッドで技術部長に就いたことがきっかけ。

「以前は、経営やマネジメントについて知っていることはごく限られていましたから、ある程度コストを掛けてでも、機会を見つけては貪欲に知識を吸収していました。具体的には、他社のCTOやCEOに話を聞きに行った際に勧められた本や、Amazonのレビューで高評価だった本をよく読んでいましたね」

仕事の軸足をプレーヤーからマネジャ―に移行して3年。役員になって1年2カ月が過ぎた今、舘野氏の関心事は、ノウハウを吸収する段階から精度を高める段階へと進化している。

「今意識しているのは、マネジメントの精度を高めること。技術領域については一定の自負はありますが、役員としてはまだビギナー。自分に足りない部分があるのは分かっています。とはいえ、エンジニアだったころに比べると、視野はずいぶん広がりました。仮に今、エンジニアとして現場に戻ったとしても、きっと以前より高いパフォーマンスを出せると思います。

そう感じるのは、経営陣の一員として、日々さまざまな判断を繰り返しながら、これが本当にベストな决断なのか、自問自答することが習慣になったから。だからエンジニア時代よりも判断の精度は上がっていると思えるんです」

中でも、舘野氏のマネジメント観や方法論に大きな影響を与えたのが、次の3冊である。

舘野氏が選んだ3冊

【1】『マネジメント[エッセンシャル版]―基本と原則』(ダイヤモンド社)
ピーター・F・ドラッカー 著 上田惇生訳

最初に『マネジメント』を読んだのは6~7年ほど前、初めて自分のチームを持ったことがきっかけでした。

リーダーとしての役割を果たすためには、まずマネジメントについて知らなければという使命感からチャレンジしたのですが、内容に共感することができず、1/3ほど読んだところで挫折。再読したのは、クックパッドで技術部長になったタイミングでした。

この時は、初回とは比べ物にならないくらい内容がスッと入ってきて、自分でも驚いたのをよく覚えています。おそらく、最初に読んだ当時より、エンジニアが活躍する組織づくりについて真剣に考えるようになっていたからからでしょう。

途中で投げ出してしまった本でも、読むべき時期が来れば、理解できるようになることもあるんですね。直球ど真ん中の名著を読み返す意義を初めて知りました。

【2】『機械との競争』(日経BP社)
エリク・ブリニョルフソン著 アンドリュー・マカフィー著  村井章子訳

テクノロジーの進化や徹底した効率化がもたらすのは、便利さだけではありません。

エンジニアは、自らが生み出した機械やソフトウエアの進化によって仕事を奪われ、今よりやるべきことが確実に減っていく時代が来るということに目を向けさせてくれたのが本書でした。

今から50年後、プログラマーはプログラムを書く存在ではなくなっているかもしれない。そうなった時、僕らエンジニアは何を強みにして生きるべきなのでしょうか?

今僕らは、クックパッドをアプリやWebサイトという形で表現していますが、 5年後、10年後には、まったく違う形でサービスを提供している可能性も十分ある。世の中が便利になっていく中で、エンジニアは何を考えて仕事をするべきか、発想や考えを広げるきっかけになりました。

【3】『物語 シンガポールの歴史』(中央公論新社)
岩崎育夫著

2年ほど前、あるカンファレンスに参加するためシンガポールへ行くことになった時、友人の勧めで読みました。

さほど期待せず読み始めたのですが、最近亡くなったリー・クアンユー氏の指導の下、アジアの貧しい小国家に過ぎなかったシンガポールが、1人当たりのGDPで日本を上回るほどの経済力を手に入れた経緯や、子ども時代の学力でその先の人生がある程度決まってしまう学歴社会の現実など、1つの国の成り立ちとその功罪を知り、そのダイナミックさにすっかり魅了されてしまいました。

この本で、ジョブズやベゾス、ザッカーバーグのようなIT業界の偉人伝とはまた違った観点から、経営やマネジメントのあり方を捉えられた気がします。この5年で読んだ本の中でも、飛び抜けて面白い1冊でしたね。

ドラッカーの言葉でマネジメントの本質に開眼

3冊の中で、今の舘野氏に最も強い影響を与えたと言えそうなのが、【1】に挙げたドラッカーの『マネジメント』だろう。

ここで説かれている2つの言葉が、本格的にマネジメントの道に足を踏み入れたばかりの舘野氏の胸に深く突き刺さった。

“知識とは正しく適用したとき、もっとも生産的な資源となる。逆に間違って適用したとき、もっとも高価でありながら、まったく生産的でない資源となる”(『マネジメント』P19)

“マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。しかし(中略)、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである”(『マネジメント』P130)

「1つ目の『知識』についてのドラッカーの言葉は、要素技術や技術資産をユーザーの価値になるまで高めるという、サービス提供企業に共通する永遠のテーマです。『真摯さ』についても、ユーザーに対して、サービスに対して、メンバーに対して、常に真摯に向き合うことの大切さは、マネジメントに携わり始めた僕にも実感を伴って共感できるものでした。しかしその一方で、こんな疑問も湧いてきます。果たしてこの2つの言葉を自分は真っ当にできているのか、という問いです」

経営、人事、技術、サービスなど、CTOが向き合う課題はさまざまだ。時に判断軸は錯綜し、問題は複雑化する。

最善を尽くしたと思っていても、関係者から反感を買うこともあれば、問題の本質を見誤ることもあるだろう。そんな時、ドラッカーの至言が活きてくるのだと舘野氏は言う。

「例えば経営方針を決めるというのは、先行きが見えない未来に対して、舵を切るということ。舵を切った結果が正しいかどうかは、結果が出るまで分かりません。ただそれでも、自分や他人の知識、経験を総動員して、考え抜いて決断するのが経営者の役割。それが『知識』を正しく使うということであり、物事に対して『真摯』であることなんだと思います。マネジメントを真正面から捉えたこの本から、学んだことは少なくありません」

エンジニアがマネジメントを学べる体制を確立したい

プログラマーが嫌がることの多い「マネジメント」だが、舘野氏が真摯に向き合う理由とは?

自らの成長のために読み始めた本ではあるが、その成果はエンジニアチームの強化、改善にも活かされる。特に今後は、マネジメントのノウハウや知見をエンジニアの育成にも利用する構えだ。

「技術に関しては、すでに教育の仕組みがありますし、日常的にソースコードや仕様のレビューなど最適な技術を採択していくプロセスも確立しています。しかし、マネジメントに関してはまだこれに準じるような仕組みがありません。課題に向き合った時、チーム全体で最適な方針を導き出せるよう、マネジメントを体系的に学べる環境を整備し始めています」

もちろん、エンジニア全員がマネジャーを目指す必要はないが、ことリーダーシップについては1人1人のエンジニアに持っていてほしいと舘野氏は言う。それは、10年、20年と使われるサービスを運営し続けるために、どうしても必要なことだからだ。

「永続的な成長をするためには、今ある強みや資産を大きく育てていく『守りの経営』と、技術革新のタイミングを捉えてイノベーションにチャレンジする『攻めの経営』が必要です。

例えば今、世の中ではIoT(Internet of Things)に注目が集まっていますが、現時点ではクックパッドが特別力を入れて取り組んでいる領域ではありません。しかし、もし半年後、環境が整ったと判断したら、大きく舵を切ることはあり得ること。

今はこうした判断を自分が下しているわけですが、現在クックパッドは、M&Aや海外進出、事業部の子会社化を積極的に進めているところです。これからは現場にいるメンバー自身が、マネジメント力を発揮したり、リーダーシップを執ったりしながら、これまでとはまったく違った発想を実現していける組織、環境を整えていくことが自分の役割だと思っています」

今回、舘野氏が選んだ3冊は、それぞれ想定読者もテーマの切り口も異なるゆえ、マネジメントの普遍性や多面性を理解するのにも役立つ。CTOのみならず、スペシャリストとゼネラリストの狭間で悩むエンジニアたちにとっても、貴重な情報源になってくれるはずだ。

>> 「エンジニアとして錆びないために読む本」連載一覧

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹


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