実のところ、アメリカの大恐慌だけでなく、他の国々の不況とデフレの関連性を調べてみると、多くの経済学者の思い込みを打ち砕く驚くべき事実を知ることができます。その模範的な研究として、ここではアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人が2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?」を簡潔に紹介したいと思います。
まず、上の図は何を表しているのかというと、1929年から1934年までの世界大恐慌時における主要16カ国の平均インフレ率と実質経済成長率をプロットしたものです。この図からわかるのは、世界大恐慌時には16カ国すべてがデフレを経験しましたが、そのうち8カ国が「デフレ」と「不況」を同時に経験し、残りの8カ国はデフレだけを経験していたということです。
アトキンソンとキホーによれば、景気後退の観点から判断して、この図からは「デフレ」と「不況」に関連性があるかどうかはわからないといいます。実際に彼らだけでなく、世界大恐慌の研究者のなかには少数派ではあるものの、バーナンキの研究結果に懐疑的に見解を持つ経済学者がいますし、この関連性がどのくらい強いかという点で、認識は決して一致していません。
そこで、アトキンソンとキホーは大恐慌に関する議論を進める中で、世界経済の歴史を俯 瞰することによって、デフレと不況の関係性の有無を見出せるのではないかと考えました。このような考え方は歴史学では当たり前の手法であるのですが、当時の経済学では革新的なものであったと言えるでしょう。
彼らは、世界大恐慌時を除いた1820年~2000年の非常に長い期間において、主要17ヵ国の各5年間平均の実質経済成長率とインフレ率をプロットしました。下の図はそれを示したものですが、この図からわかるのは、全595例(大恐慌の時期の5年を除く)のうちデフレの事例は73例ありましたが、「デフレ」で「不況」の両方を経験したのはわずか8例に過ぎなかったということです。おまけに、不況の事例は29例あったものの、そのうちデフレであったのは8例しかなく、インフレであったのは21例もあったのです。
デフレの事例の89%が不況どころか経済成長していたことを発見した彼らは、「大恐慌だけに限定せずに歴史的な文脈でみると、デフレと不況に関連性があるという観念は消えてしまう」と分析しています。
大恐慌以外のその他の時代をきちんと検証すれば、デフレと不況の関連性はまったくなく、デフレ期の90%近くは好況と重なっていたことが確認できるし、むしろ、インフレと不況の関連性のほうが高いという事実も認めざるをえないのです。
しかしながら、この貴重な論文は経済学のメインフィールドで日の目を見ることはありませんでした。デフレと不況のあいだには関連性がなく、インフレと不況の関係性のほうが強いとするこの論文が注目されなかったのは、経済学の権威に黙殺されたからに他なりません。
20年くらい前の日本の歴史学界にも「たとえ間違っていても、権威ある学者が提唱する学説が尊重される」という傾向がありましたが、さすがに今ではそのようなことはないと聞いています。アメリカの主流派経済学は、学問においては非常に遅れていると言えるのではないでしょうか。
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