弁護士や大学教授が豊富な知識を駆使して、ヘイトスピーチを大所高所から批判したのとはわけが違う。素人目線で、「在日特権」というありもしない鵺(ぬえ)のような存在に果敢に挑んだ。 著者はネット右翼言説のいいかげんさは肌で理解していたという。ただし、「そんなものあるわけないだろう!」と、はじめから全否定したわけではない。一切の思い込みを排除して、丁寧な検証作業を重ねていったことを評価したい。 「三重県では在日は住民税は半額」という乱暴きわまりない情報も言下に否定するのではなく、現場に足を運んで自ら取材した。これはまさしくジャーナリストの仕事だ。現地では民団三重本部の韓久事務局長が水先案内人を務めた。 本書で取り上げた「在日特権」は1,特別永住資格2,年金問題3,通名と生活保護受給率など。当の「在特会」でさえ、いまは根拠のない偽情報と自覚してか、表だって同じ主張はしない。しかし、ネット上で繰り返し転載されてきたことで、在日同胞個人とその集団に取り返しのつかない負のイメージを形作ってきた。「嘘も十分に繰り返せば人は信じる」のだ。 増補版で加わった「在日特権のその後」では、「在日特権」デマに大型のハンマーで怒りの鉄槌をくだす。 野間易通著 河出書房新社 (1600円+税) 03(3404)1201 (2015.4.29 民団新聞) |