ソフトバンク社長 孫正義は12兆円の借金を返せるのか無理なのか
2014.06.12
世界一の借金王はさらに3兆円を借り入れ予定
5月の決算発表で営業利益1兆円をアピール。今後、契約数、利益などで世界一になることを目標に掲げた
Photo:ロイター/アフロ
〈目標は明確に口に出した方が良い。周りにコミットする事で自分を追い込んで行けるから。〉
6月1日、ソフトバンクの孫正義社長(56)はツイッターにこう書き込んだ。その3日後、孫社長の、ある「コミット」が発覚した。傘下のスプリント(米通信会社3位)を通じて、ドイツテレコムからTモバイル(同4位)を買収することを決断していたのだ。買収総額は約320億ドル(約3兆2800億円)に達する。
ソフトバンクはこの1年で、オンラインゲーム会社のガンホー、スーパーセルなどの株を買いまくり、’13年末の時点で有利子負債=借金が9兆円を超えていた。今回の買収資金をすべて借り入れや社債発行で調達すると、負債は12兆円を超える。実際、同社は5月中旬に個人向け社債で3000億円を調達している。元ソフトバンク社長室長で、孫社長をよく知る三木雄信氏が言う。
「止まることを知らないのが孫社長です。’04年、ソフトバンクが日本テレコムを買収したあとも、周囲が新たな企画や提案に対して『資金が足りないからできません』と尻込みするなか、孫社長は『それなら資金を調達すればいい』と突っ走っていました。ボーダフォン買収直後の’06年頃には『契約純増ナンバーワンを目指して勝ち癖を付けるぞ』と、このときもまったく気を抜かなかった」
孫社長が次に狙いを定めたTモバイルのジョン・レジャーCEOは、常にピンクの企業Tシャツを着てメディアに登場、ツイッターでライバルのAT&T社を批判するなど、「業界の異端児」と評判のクセ者だが、同社の過去半年間の契約純増数は米携帯1位ベライゾンを抜いた。今回買収が実現すれば、スプリント、Tモバイル、ソフトバンクの契約数の合計はベライゾンの契約数1億2130万件を超す。前出・三木氏が言う。
「孫社長は売上総額、時価総額の世界一を目指し、300年続く企業を作り上げるために何をすべきかを常に考えています。’98年、私が初めて孫社長と会ったときからそうでした。『300年続く会社はどうすればできると思う?』と聞かれ、ちょうど昆虫の多様性についての本を読んだ直後だったので『多様性ですかね』と答えたところ『その通りだ! やってやって、やりまくらなきゃダメなんだよ。たくさん種付けをしないといけないんだ』と椅子から立ち上がらんばかりの勢いでまくしたてられました」
アメリカでも稼げるのか
’06年にボーダフォンを1兆7500億円で買収し、有利子負債が計2兆4000億円に膨れ上がったときも借金が過大だとさんざん叩かれたが、’11年までに借り換えや手元資金で買収資金分を完済したという成功体験が孫社長にはある。好調企業の買収などによって、ソフトバンクの’14年度3月期の決算は営業利益が1兆円を超え、NTTドコモを抜き去った。業績拡大の勢いに乗じて、’12年秋に約1兆5000億円の借り入れをしてスプリントを買ったかと思えば、息もつかせずに今回の勝負に打って出る。
その背景には「中国のアマゾン」アリババの上場もある。14年前に約20億円で買った株が、同社の急成長で約6兆円に化けた。いざとなればこれを借金の担保にできるという計算がある。
孫社長は再び賭けに勝ち、12兆円という巨額負債を返済できるのか。
「現在の1兆円超の利益が続き、それを返済に充てていくのであれば20年弱で返済できます。しかしスプリントは’14年1〜3月期で約1億5100万ドル(約160億円)の純損失を出している。気は抜けません」(経済誌記者)
毎年1兆円ずつ返済できればいいが、スプリントを黒字化できず、さらに赤字が膨らむと、返済計画は一気に滞る。
さらに、米国進出に伴う出費もかさむ。
「スプリントとTモバイルの統合のメリットは、両社がお互いの基地局を利用できることです。ただ、相互利用のためには巨額の追加投資が必要になります。いまのところどれくらいの費用がかかるかは見えていません」(情報通信総合研究所・佐藤仁氏)
現在は好調の日本市場も、iPhoneや独自の料金制度などソフトバンクのアドバンテージが失われつつある。佐藤氏が続ける。
「孫社長が米国に集中しすぎているせいで国内が後手に回っている。NTTドコモが通話の定額制を導入し、ソフトバンクがそれに追随するなど、これまでとは逆のパターンが目立っている。端末発表会も行われなくなりました」
孫社長は様々な逆境をはねのけてきたが、今回はどうか。日米をまたにかけた挑戦が始まる。
TモバイルのレジャーCEO。AT&Tの出身で、CEO就任後、AT&Tのパーティーに潜入した変わり者だ
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