京都市:「南へ」の住所表記 「下ル」嫌って「南入」?
毎日新聞 2015年05月06日 18時34分(最終更新 05月06日 18時38分)
○○通××上ル、下ル、西入(いる)、東入−−。碁盤目状の町のため全国的に珍しい表記ルールがある京都市中心部で、実は下ルの代わりに「南入」表記を使う例がある。昨秋開設した市施設も南入表記を掲げた。中学から約20年間、京都と関わりがある記者は違和感を覚えたが、そこは「100年住んで京都人」とも言われる古都。ヨソ者が知らなかった奥ゆかしい理由と伝統があった。【土本匡孝】
◇住民票では認めず
違和感の根拠を住民票からまず探った。
市地域自治推進室によると、市の住民票は原則、中心部は「通り名の組み合わせと町名」、その他地域は町名のみで表記する。通り名部分は「上ル、下ル、西入、東入」を使って補足。上ル、下ルはそれぞれ北へ、南へを意味する。例えば毎日新聞京都支局は、南北に走る「河原町通」に面しており、東西に延びる「丸太町通」よりやや北なので、「河原町通丸太町上ル」となる。
市は「転入届で南入の表示は受け付けない」とする。「住民票は証明に使われるので、歴史的背景を基に『下ル』だけに厳格化している」からだという。南入を認めてしまうと、意味さえ通れば他の書き換えも自由だと拡大解釈される恐れがあり、「証明として不適格」。一方、「住民票以外で一般的に名乗るのは自由」とする。
「南入」への違和感の根拠となりそうな府告示もある。明治22(1889)年3月28日の第24号。「諸官庁へ差出す書面の住居記載方」について書かれ、「上ル、下ル」を使うように定めている。ただしこちらも、「古すぎて今も有効かどうかは不明」(府担当者)と何とも心もとない。
◇商いに縁起かつぎ
記者が「南入」の存在を知るきっかけ、昨年11月開設の市税事務所(中京区室町通御池南入)に直接聞いてみた。同事務所は「民間ビルに入っているので、登記簿上の表記に倣っただけ」と説明。固定資産税の納税通知書が各戸に届く時期だが、市民から苦情などは無いという。
市税事務所が入るビル所有法人は約300年前創業の呉服関係。取材に「商売上『下ル』は縁起が悪い。『南入』は、先人の知恵なのだろう」と答えた。記者はホテル、業界団体施設などでも見つけたが、同じ事情とみられる。