平和な春の夜、全国放送のニュース番組に出演していた元官僚のコメンテーターが突然、「官邸の皆さんにはものすごいバッシングを受けてきました」と発言、「I am not ABE(私は安倍でない)」と書かれた紙をカメラの前で見せた。慌てた番組メーンキャスターが「あの、ちょっと待って下さい」と止める様子もそのまま放送された。今年3月、日本の民放ニュース番組で視聴率1位のテレビ朝日『報道ステーション』の生放送での出来事だ。その放送を最後に番組を降板した古賀茂明氏(59)に先月30日、インタビューした。
-紙に書かれたフレーズは何を意味しているのですか。
「今年1月の放送時に初めて言及した。(過激派組織)『イスラム国(IS)』が日本人の人質を取っていたのに、安倍晋三首相は中東を訪問し、『ISと戦う国に2億ドル(現在のレートで240億円)を支援する』と言った。事態を悪化させた決定打だった。『これは違う』と感じ、『日本人は安倍とは違う』と伝えようと考えてこのフレーズを使用した。放送後、菅義偉官房長官が記者らに「(古賀氏が)とんでもないことを言った」と述べた。テレビ朝日は慌てて私の出演を3月までにすることを決定した。静かに降板すれば、安倍政権が『思い通りになった』と喜ぶのが目に見えたので、私もメッセージを伝えようと決心した。出演前日にアイデアが思い浮かび、コンビニで300円払って紙をプリントした」
-そのことで担当プロデューサーが処分され、古賀さんと親しい朝日新聞の論説委員もコメンテーターを辞めました。
「みんな『批判すべきことはきちんと批判しよう』と意欲的に仕事をしていたのに残念だ」
-安倍政権は「産経新聞事件」と関連して韓国を批判してきました。
「2013年の対北朝鮮交渉を主導した日本の外務省幹部は、日本のメディアに対し『日本は右傾化している』と言ってひどい目に遭った。安倍首相が自らフェイスブックに長文の反論を掲載したのだ(後にメディア報道で批判を浴びて削除)。朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は誰かが自分のことを批判したからと言ってソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でいちいち反論しないではないか。安倍首相は笑顔で意味深長な言葉を口にする怖い人だ。自分が批判されると訴訟も辞さない。報道機関の社長たちを親政権派の人物ばかりにし、『一緒に食事をしよう』と頻繁に呼び出す。先日、ドイツのメディアの東京特派員が『日本に批判的な記事を書いたら日本の外務省が本社に圧力を加えてきた』と暴露した。日本のメディアをコントロールする方法でそのまま外国メディアを扱おうとして恥をかいたのだ」
-安倍政権の動きに批判的ですが。
「彼は冷戦時代のような発想を持っている(事あるごとに敵か味方かに分けるという意味)。中国と韓国を嫌っている。中国主導で創設されるアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に米国の最大の友好国・英国も入ったが、日本は入らなかった。彼は改憲を推進し、戦後70年の歴史をわずか数年で変えようとしている。これまでの日本とは全く異なる国を作る危険性がある。特別な正義感があるからではなく、一人一人が大事だと信じているから『日本市民』のため声を今後も上げ続けていく。私は安倍ではないから」