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科学者でアジア研究もしたいアメリカ人より

村上さん、はじめまして。僕は20代のアメリカ人です。長い間、僕は村上さんの著作を読んでいて、村上さんが「人生で何をするべきか」、「人生の目的は何か」という感じをとてもシンプルな言葉遣いで表現出来ることが素晴らしいと思います。それで、人生の目的ということについて質問があります。

もちろん20代は大変な変化の時期でしょうね。世界についての意見が変化し、価値観が変化し、色々な苦しい体験がたくさんあります。僕だって、最近こんな体験がたくさんあります。特に、「目的」と「天職」とは、この世界、僕の人生で本当に出来ることにどのように関しているかと取り組んでいます。

僕の職業は科学者です。子供の時からずっと科学者になりたかったです。でも、科学でない興味もたくさんあります。特に、大学時代、専門は化学とアジア研究で、大学を卒業してからフルブライト奨学金で京都に一年間住んでいた。その一年間、日本とアジア研究が僕にとってどれほど大事なのか気づきました。

この別の興味を同時に毎日の生活に統合したいです。科学の職業がたくさんあるし、科学技術の仕事は需要が大変高いです。他方では、アジア研究は職業が少なくて、需要があまり高くないです。けれども、科学と日本とは、両方も僕のアイデンティティーには大事ですよ。両方が一致する職業をずっと探していますが、日本に引っ越すのを除いてそんな仕事がなさそうです。どうやって両方を統合して充実した生活を築き上げられるのでしょうか。
(スティーベン・ブラン、男性、25歳)

そうですね。今はあまり景気がよくないので、そのような「文化研究」に関する職はかなり減っているみたいです。お金が余っているときには、そういう文化的な部門にもたくさんのお金が流れますが(バブル期がまさにそうでした)、今のように経済的にぱっとしない時期には、パイプの蛇口がかなり堅く閉められてしまいます。外国の大学における日本研究の部門は、どこもだいたい財政難にあえいでいるみたいです。

とてもきちんとした日本語の文章をお書きになりますし、あなたのような方にこそしかるべきポジションについて、日本とアメリカの架け橋になっていただきたいと、僕としても願うのですが、なかなか思うようにことが運びません。物事が良い方向に流れることを祈っております。

村上春樹拝