私の知人でジャズベーシストのジョージ・タッカーが大好きな方がおられます。調べましたが、情報が少なく全体像がつかめません。もし村上さんのご存じの事があればお教え下さい。
(たまちゃん、男性、59歳、自由業)
ジョージ・タッカー、ずいぶん渋いベーシストがお好きなんですね。彼に関する個人的情報はたしかにほとんどありません。ただレコードが墓碑銘のように残されているだけです。
僕はジョージ・タッカーというとすぐにホレス・パーランの一連のブルーノートにおけるトリオ・セッションを思い浮かべます。パーランはどちらかというと派手さのない、音のぱらぱらしたタイプの玄人好みのピアニストなんだけど、それを後ろでぐっと支えているのが、ジョージ・タッカーの超骨太のベースです。いかにも腹の据わった演奏で、「プロだなあ」とうなってしまう。最近のベーシストみたいなばりばりに派手なテクで聴かせるということもなく、終始しっかり楽器を鳴らしています。ホレス・パーラン・トリオのアルバム、“Headin’ South”(Blue Note)の『サマータイム』のアルコ・ソロなんかとても品が良くて(アルコはポール・チェンバーズよりずっとうまいと思う)、僕は好きです。その次の『ロー・ダウン』というブルーズ曲のバッキングもじんじんと痺れます。
乏しい資料を見ると、タッカーさんは1927年にフロリダで生まれ、1965年に亡くなっています。37歳で若くして亡くなっちゃったんですね。当時のジャズ・ミュージシャンの平均寿命は短かかった(麻薬のせいであることが多いですが)。この人はいろんなバンドに加わって演奏して、レコードもけっこう残しているんですが、なぜか影が薄いです。たぶん有名バンドでレギュラーのポジションを得ることが出来なかったというのがその理由だと思うんですが、それにしても共演するミュージシャンが渋すぎる。ジャキ・バイヤードだとか、テッド・カーソンだとか、ブッカー・アーヴィンだとか、ベニー・グリーンだとか、ソニー・レッドだとか、実力はあっても今ひとつ一般的人気の出ない、地味なミュージシャンばかりです。地味のきわめつけともいうべき、ヴァイブ奏者ウォルト・ディッカーソンのアルバム『トゥー・マイ・クイーン』(prestige)におけるタッカーのベースはまさに圧巻です。
そういえばカーティス・フラーの大ヒット盤『ブルースエット』のベースもこの人でした。(3/21追記:間違えました。ジョージ・タッカーが入っているのは、カーティス・フラーの『Jazz, It's Magic!』でした。)ひさしぶりにジョージ・タッカーをまとめて聴いて、堪能しました。
村上春樹拝