高校で国語の教員をしています。村上さんは、文体が大事だということをいろいろなところでおっしゃっていて、僕もほんとうにそうだなと思い、生徒たちと「文体づくり」をしていけたらと考えています。とはいえ、どうしたら自分の文体をつくっていけるのか、よくわかっていません。やはり、村上さんのように翻訳をやっていくことが必要なのでしょうか。アドバイスをいただければ幸いです。
(チェーホフの机、男性、51歳)
文体は人の生き方と同じですから、急に「文体をつくりなさい」と言われてつくれるものではありません。経験を積み、知識を蓄積し、試行錯誤を経て、初めて身につくものです。でもとっかかりみたいなものは必要ですよね。まず「誰かの真似をする」ところから始められると良いと思います。もちろん真似といっても、そのままそっくりなぞるのではなく、自分の好きな文章を書く作家からヒントみたいなものをもらって、「それ風に」書くわけです。でもそういうのって、他人の服を着ているのと同じですから、どうも細かいところが身体に合いません。そういうところをちょっとずつ調整していくと、やがて自分の文体みたいなものが見えてくるはずです。だいたいの人がそうしていると思いますよ。プロの作家だって、最初は模倣から出発している人が大半のはずです。
村上春樹拝