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「村上春樹の小説」と「ハルキスト」が嫌いです

わたしはとても村上春樹が嫌いです。いや、人間性はわからないので村上春樹が嫌いというより、村上春樹の書く小説が嫌いです。そして更に村上春樹を取り巻く「ハルキスト」といわれる連中が心底嫌いです。もしかすると村上春樹よりハルキストの方が嫌いなだけかもしれません。ハルキストとよばれる連中は、なぜ異常に村上春樹の小説を勧めてくるのでしょうか? そして「つまらない」と感想を述べると、何故虫けらを見るような目で蔑むのでしょうか。村上春樹ってそんなに偉いんですか? 村上春樹がわからない人間はどうしようもないくらい人間性が薄いのでしょうか。なにがハルキストをそうさせているのでしょうか。村上春樹が書く文章がそうさせているのでしょうか。村上春樹さんご自身は、ハルキストについてどう思われますか? ボロクソに言ってください。
(MC虫歯、男性、24歳、学生)

こんにちは。僕はまずだいいちに「ハルキスト」という呼び方が好きではありません。最初からなんだか「ちゃらい色つきフィルター」がかかっているような響きがあり、僕はその呼称は採用しておりません。僕はどちらかというと「村上主義者」という方が好きです。もちろんあなたはどっちだって同じようなものだとお考えでしょうが、いちおう僕の気持ちとしては、そういうことになります。

それから僕は他人に「この本を読みなさい」とか「この音楽を聴きなさい」とか勧めることはありませんし、ましてや「これがわからないと駄目だ」と価値観を押しつけるような趣味もありません。ですから、そういうことをするのは純正「村上主義者」とは少し違う人々であるような気もするのですが、もちろん僕はいちいち資格審査をして「村上主義者」の会員証を発行しているわけではありませんので、そのへんのことはよく把握できておりません。もしそのことであなたが不快な思いをされてきたのだとしたら、それはまことに申し訳なく思います。たしかにそういうことをされると鬱陶しいですよね。お気持ちはよくわかります。

最後に僕はハルキストなり村上主義者に取り巻かれて生きているわけではありません。宗教の教祖や、政党の党首とは違います。僕は一人でこつこつとものを書いて生活しておりまして、まわりには僕の熱心な読者はほとんどいません。うちの奥さんでさえ、「あなたの書く小説は、私のための小説とは言えない(ほかにもっと肌身に間近に感じる小説はある)」と公言しております。36年にわたる作家生活のあいだに、多くの人が失望して――しばしば捨て台詞を残して――僕から離れていきました。猫さえ去って行きました。作家というのは、わりに孤独なものなんです。読者だけが僕のささやかなよすがなのです。「ぼろくそに言ってください」ということですが、そんなわけで僕としては自分の大事な読者を(たとえいくらかの欠点は見受けられたとしても)ぼろくそに言うわけにはいきません。ご理解ください。

村上春樹拝