最近、村上さんの御本を英訳なさっているジェイ・ルービンさんの『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』という本を興味深く拝読させていただいたのですが、そこに翻訳を進めていると「自分はオリジナルの作家(つまり村上さん)より作品を理解している!」といった瞬間が生まれるとありました。一種の狂気状態、誇大妄想とも形容しております。
そこでお伺いしたいのですが、村上さんにも翻訳作業を進めているとき「僕はフィッツジェラルドよりもフィッツジェラルドだ! チャンドラーよりもチャンドラーだ!」といった瞬間はありますか?
ご回答願えれば幸いです。
(アカヒト、男性、38歳、肉体労働)
僕の場合、そういうことはありません。ジェイはとてもロジカルな考え方をする人ですので、同じ翻訳者といっても、僕とはかなりタイプが違うと思います。僕は翻訳しながら、自分をただ無心にそのテキストを通過させていくだけです。その「無心さ」が僕はわりに好きなんです。
村上春樹拝